16.惜別
読みに来ていただきありがとうございます。
夢野が思わぬことを言い出します。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
出発まで、あと五日。
第六天魔の暗冥門へ向けて出発の準備をしていると、突然、夢野が硬い表情で、こんなことを告げてきた。
「センパイ、私、渡良世さんといっしょに暮らすことになったの」
渡良世といえば、オレが生きていたときの会社の同僚で、真面目だけが取り柄だったオレとは違って、要領のいい出世コースまっしぐらなヤツだ。
夢野とも、たいへん仲が良く、付き合っているのではないかとのうわさも飛び交っていたほどだ。
夢野が渡良世といっしょに暮らすと言い出したとして、決しておかしな話でもない。
ただ、オレが無性にショックなだけだ。
そういえば、オレが寝ている間に――悪霊であるオレは、寝る必要もないので、単に目をつむって、考え事をしていただけなのだが、秘かにシェルターを抜け出しているようだった。
もしかしたら、渡良世と会っていたのかもしれない。
外は危険だとも思ったが、過剰に束縛するのもどうかと思い、様子を見ていたのだった。
「でも、出発までは、センパイのお手伝いをするね!」
オレは、食料や医薬品、防寒具やテントなどの野営のための道具、その他必要と思える備品を、様々な所からかき集めていた。
食料は、このシェルターや上のコンビニにも、ある程度はある。
廃墟となった街には、あらゆるものが散乱したり、崩れた建物にうずまったりしているが、要領を得れば、大抵のものは、なんでも対価なしで手に入った。
しかし、それもこれも、夢野がいっしょに行くということが前提であって、そもそも、オレとエン魔は、まったく食べなくても死ぬことはない。
というか、すでに死んでいる。
てなわけで、夢野には言ってはいないが、準備など、まったく必要がないのだ。
それでもオレは、夢野との残された日々を、夢野といっしょに過ごすため、もはや必要ないと思われる品々を夢野と共に準備することにした。
その間、エン魔は、こんにゃくゼリーを頬張りながら、冷ややかな視線をオレたちに向けていたことは言うまでもない。
しかし、夢野は出発の日が近づくにつれて、徐々に元気を失っていっているようだった。
夢野に聞いてみると、「ぜんぜん、だいじょーV」とピースサインの夢野だったが、どう見てもカラ元気としか思えない。
――まさか、本当は、渡良世のところになど行きたくはないのでは……。
いや、それは、オレの希望的な考えだろう。
そもそも、オレと一緒に、何が待ち受けているのかわからない第六天魔の暗冥門に向かって旅するよりも、渡良世と安全な場所で暮らせるのなら、そのほうが幸せとも思える。
出発前夜、再会を約束して、三人でコーヒーを飲んだ。
酒で乾杯でも良かったのだろうが、オレはあえて夢野のコーヒーを選んだ。
夢野のブレンドしたインスタントコーヒーは、やはり最高にうまかった。
エン魔は、カフェオレにこんにゃくゼリーを投入するという暴挙に出ていたが、果たしておいしいのだろうか。
「明日は、センパイの背中が見えなくなるまで見送るからね!」
夢野は、出発を見送ると言っていたにもかかわらず、その夜、こっそりと出て行ってしまった。
面と向かっての別れは、やっぱりつらいと思ったのかもしれない。
かく言うオレも、ご多分にもれず寝てはいなかったのだが、気付かれないように、ただ夢野の背中を無言で見送ることが精いっぱいで、止めることも別れを告げることもできはしなかった。
夢野を止めればいいのに、聡亮は、悪霊になってもノミの心臓。
あっ、心臓ないか。
次回、やっぱり夢野が気になります。
お楽しみに!!
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