14.供え物
読みに来ていただきありがとうございます。
閻魔様へのお供え物って何だっけ?
それでは、ごゆっくりどうぞ。
「私にできるのは、封じることだけ」
夢野の呪符と呪文は、一時的に奴らを封じることはできても、元の人に戻せるわけでも、命を絶って、次の世へ導けるわけでもないようだ。
もしも、呪符がはがれてしまうようなことがあれば、奴らは、ふたたび動き出すことになるだろう。
先ほどから、まずそうにカフェオレをチビチビとやっていたエン魔が、突然、オレをにらみつける。
「それもこれも、みんなソースケが悪いんだからね!」
オレは、エン魔から視線をはずし、コーヒーカップに目を落とす。
「で、いったいこれは、どうゆうことになってんの?」
エン魔の視線を無視して、コーヒーを一口。
――うーん。夢野ブレンド、最高……。
夢野は、いつもオレの好みに合わせて、コーヒーの濃さ、砂糖、フレッシュの量を加減してくれていた。
インスタントとはいえ、夢野のひと手間が光る、俺にとっては最高の一品なのだ。
そんなオレの心を、読み取ったかどうかはわからないが、エン魔の怒りが、みるみる高まるのがわかる。
「ソー、スー、ケー。ほんと、いいかげんにして!」
まくしたてるように続けるエン魔。
「わたしは、冥界の王にして死者の生前の罪を裁く神、閻魔よ。もっと、畏れ、崇め奉りなさい。」
――だー、かー、らー、それは何度も聞いたって……。
目を細めて、ぶ然とするオレ。
「えっ! エン魔って、あの閻魔大王のこと?」
きょとんとする夢野。
エン魔は、カフェオレのカップをテーブルに叩き付けると、なおも続ける。
「こんな泥水じゃなく、もっとちゃんとした貢ぎ物を供え、捧げ、献上しなさい」
夢野は、しばらくポカンとしていたが、ニコッと表情をくずす。
「エン魔ちゃんは、何が好きなの?」
プルプルと頬を引きつらせるエン魔。
「エ、エン魔ちゃん言うな! 閻魔大王様! 百万歩ゆずって閻魔様!」
「ん?」
夢野が、無垢な笑みを浮かべながら、エン魔を見つめる。
エン魔がたじろぎながら、少しシドロモドロになる。
――夢野の笑顔には、不思議な力がある。
そう思うのは、オレだけだろうか?
「うっ、うんっ、まあ、た、たとえば、こ、こんにゃくとか……」
つぶやくようにボソボソと小声になるエン魔。
「こんにゃくかー」
少し考え込む夢野だったが、何かひらめいたのか瞳を輝かせる。
「ちょっと、待っててね!」
夢野は、シェルターの重い扉を開くと、外へ駆け出して行ってしまった。
こんな状況下で、不用意に外へ出ていくのは、勘弁してほしいところだが、予想に反して、すぐさま無事に帰ってきた。
どうやら上のコンビニに、何かを取りに行ってきただけのようだった。
手にしてきたのは、こんにゃくゼリー。
袋に一二個ほど入った、一口サイズでハート型のアレだ。
夢野が、その袋から一つを、容器のフタを開け、食べやすいようにして、エン魔に差し出す。
「あーん」
恐る恐る顔を近づけ、チュルッと口に含むエン魔。
「どーぉ?」
期待の表情で見つめる夢野。
目をパチクリとさせるエン魔。
「!!」
目をカッと見開き、とろけるように頬を緩める。
「こんな美味なこんにゃくがあるなんて、人間界もまだ、すてたもんじゃないねっ」
先ほどまでのイライラはどこへ行ったのか、かなりご機嫌なエン魔。
「ご褒美に、託宣をあげる。心して聞きなさい」
そして、エン魔は、この異常事態のわけを、語り始めたのだった。
閻魔様へのお供え物は、こんにゃく。
裏表がないことから、清い心を表すとか。
次回、エン魔の託宣?です。
お楽しみに!!
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