続・空人
人気のない森をひたすら進む。
確か噂では此処らにある。
…
あった。研究所が———
俺は…いや、名乗るほどのもんじゃねぇな。
ただのオカルト好きの男だ。
酒場でこんな話があったから此の研究所に来た。
✽
「なぁ、こんな話知ってるか?
人体実験をしていた研究所の話」
同じ仕事仲間のアミが言う。
「研究所ぉ?あれは都市伝説だ。
国の調査団が探しても見つからなかっただろ?」
ウイスキーを一口飲んでから言うボン。
「そうだけどさぁ…。本当に存在すんだよ。
こっから20キロ先離れたとこに"シニストの森"が
あるだろ?そこにあんだよ」
アミは酔ってんのか続けて大声で言う。
「あの…元兵士のじいさん居るだろ?
顔…口元にキズがあるじいさん」
「嗚呼…レステじいさんか。あの人に教えて
もらったのか?」
そう俺が聞くとアミは酒で赤くなった顔で
大きくゆっくり頷いた。
「そう。レステのじいさんだ。確かにあるって。
でも、絶対に行くなって」
「行くな…?何か危ねえ兵器でもあんのか?」
先程まで黙って飲んでたボンが聞く。
「いや…ある意味兵器だとか…実験体が…とか」
「兎に角、危ねえのがあるんだな」
俺はそう思い、アミに言った。
「それでさ、俺は思った。其処の研究資料をさ、
持ってきたらかなりの金になるよな」
とつまみのチーズを食べ、アミは言った。
「俺は行かねぇよ。妹が居るからな」
「俺も行けねぇ。嫁さんの腹ん中に赤ん坊が居んだ」
とアミとボンは口々言う。
「じゃあ、俺が行くよ。俺には嫁も子供も居ねぇし、
妹は居るが旦那が居るから大丈夫だ」
酔っているからか俺はそんなことを口にする。
「なら、お前絶対資料持って帰れよ?
売れたらその金で1杯やろうぜ」
とアミが言う。
「そうだな。1杯やろうぜ」
✽
まぁ、こんな感じで俺は研究所に居る。
確か……此処が入口だな。
少し年数が経ってるからかすんなり入れた。
研究所の入口付近には無数の白骨死体が
転がっていた。
いや、転がってはいるが通路の端に寄せられてる。
此処は軽く2年くらい誰も来たことがないはず
なのに、何故かつい最近まで人が通ったような———
…嫌なことを考えるのはやめよう。
兎に角、研究資料集めだ。
此処は…監視室みたいだ。
テレビよりも少しデカイ画面がある。
電源を押しても反応は無い。壊れてるみたいだ。
近くに資料を纏めたファイルを見つけた。
其れを手に取って開く。
✽
19XX年○月✗日
変化無。食欲有。
記憶力はかなり良い。
19XX年○月✗日
変化無。食欲有。
興味のあるもの︰本
S4389に関する資料対策済。
19XX年○月✗日
変化△。食欲有。
両親について聞いてきた。
自分に関するものに関心がある模様。
警戒せよ。
あとのは汚れで見えねぇ。
どうも此処は本当に人体実験をしていたらしい。
他にも資料があるか探してみるか。
…あの2mくらいの棚にありそうだな。
少し高いが登れば取れる。
そう思い、下から二番目の棚の下板を踏み台にして、
一番上の棚にあるファイルを手を伸ばす———が、
「あ、ギャァァァァァ!」
踏み台にしていた棚の下板が折れ、
棚が倒れて俺も其れに押されて倒れた。
「い、っ…」
尻もちをついただけみたいだから良かった。
取りたかったファイルも取れたし、まぁ良い。
〈カツン…〉
何か、人の足音みたいな音がした。
一旦ファイルを床に置き、音の発生源であろう
場所に行った。
周りを警戒し乍、音の発生源であろう場所に
たどり着いた。其処には、人間等は居なかった。
———何かある。
近づいて拾い上げると其れは何かのカギだった。
俺の人差し指ぐらいの長さの金メッキのカギ。
カギのナンバーが書いてある部分には水色の小さな石が
嵌め込んであった。
それにしても、こんなとこにカギが落ちている
のはヘンだ。
音がしたとこにカギがあるなんて。
何処ぞの大家作家の通俗小説みたいじゃないか。
やはり、此処には何かが居るのだろうか。
そう考え、俺はカギをズボンのポケットに仕舞い、
先程居た部屋に戻り、資料を持ってきた大きめの軍の
リュックに入れた。
✽
監視室を出、大きな部屋にたどり着いた。
大きな扉があり、大人一人がかろうじて通れるぐらい
しか開いてなかった。
其処を通り抜け、中をよく見た。
居住空間?みたいな場所だった。
椅子とテーブル、キッチンに本棚、ベッドもある。
此処は、俺が先程行った二つの部屋とは明らかに
違ったことがあった。
"テーブルや椅子等の家具が綺麗なんだ"
キッチンにはミートソースがついた皿があった。
おそらく食べ終わってから少ししか
経っていないみたいだ。
ベッドも本も全く埃を被っていない。
…此処にはやはり何か人が居る。
もしかしたら…いや、そんなはずはない。
きっと山賊か何かだ。きっとそうだ。
冷や汗を流しながら必死に自分に言い聞かせた。
ふと本棚に目をやると引き出しがあった。
その引き出しには鍵穴があった。
引き出しの取っ手には通路に落ちていたカギと同じ
水色の石が嵌め込んであった。
あくまで俺の予想だが、この中には多分、
重要書類とかが入ってるだろう。
そう思い、何故か震えた手つきで鍵穴にカギを
差し込み、引き出しを開けた。
中には日記?があった。
ただの日記かと気を落としたが、一応見てやろうと
いう気になり、日記を開いた。
今日、初めて料理をしてみた。
なかなか上手にできなくて、少しこがした。
食べれなくはないけど、トリステスさんのより
美味しくない。
…別にあんな人思い出さなくてよいか。
くさってきた死体のニオイがすごい。
扉が壊れてるから閉められない。かなりつらい。
今日で11才みたい。
まだまだ子供だけど、もっと力をつけて
ちゃんと大人になる。
…最近、消されていた記憶がよみがえってきた。
幼い頃に消した両親。歩兵時代。指揮官時代。
敗戦して、やられた裁判…
すべて思い出してきた。
いつか、フクシュウしたい。
日記は此処までみたいだ。
11歳の子供。あの同盟国の話…。
此処の実験体は11歳の子供、
しかも一人で拠点を2ヶ所陥落させた
あの"ガヴラス・エクションシーア"だった。
それにしても…あのガヴラス・エクションシーアを
使うなんて…我が祖国、グローワルエールも
中々やるな。
と謎の感心をしていたら、首に激しい痛みが
一瞬走った。
そして、目線が下に急降下していった。
——何があった?
目の前には、俺の……体がある。
首を…切られたのか?
俺の目の前に小さな子供の足が見えた。
そして、緑色の目で俺の顔を覗いた。
もしかして、あの——————。
✽
「レステおじーちゃん、如何したの?
壁に貼ってある紙なんか見て。
早くオレンジ買いに行こーよ」
「嗚呼、何でもないよ。スィンケールス。
…………………………忠告を聞かなかったか…」
行方不明
ブラーヴ・アルエ 21歳
身長︰172cm 生年月日︰4月14日
情報があったら、下町二丁目のフラーへ
空人の続編書きました。
また今回も作中で人を殺めました…。