第八話 奏爽律(4)
7日後。マンションの下に、爺さんがいた。
俺はリュックを背負って、その後ろには父親も母親もいた。
「爺さん。決めたよ。俺、ボディガードになる」
「ありがとうございます」
「ちょ!辞めてくれ!」
爺さんはその綺麗なスーツの膝に汚れがつくことなど、全く気にせず、土下座している。
「貴方は小姫様にとって必要な存在なのです。これ以上の感謝はありません。頭が上がりません。足を向けて眠れません」
「やめてください」
父親が執事に語りかける。
顔を上げた執事は涙を流していた。
「ご両親の御二方・・・本当に感謝いたします。また後ほど、事務の者から連絡致します」
執事の感謝っぷりに若干引いている2人。
ハイヤーがやってくる。
俺は振り向いた。
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
「約束覚えてる?」
「うん。盆と正月、帰ってくるって話だろ」
「うん」
俺はハイヤーに向かって歩き出す。
父親の左手と、母親の右手が、俺のリュックを叩いた。
ー行ってこい。
そう聞こえた。
ー
「爺さん、どこへ?」
「まずはボディガード研修センターへ向かいます」
「え?」
ボディガード研修センター?そんなのあるの?
てか、鹿美華家行かねーのかよ。
「律様は、まずそこで基本中の基本を学んで貰います。小姫様の護衛はそれからです」
「そ、そうなの?」
「律様は、我々にとっては非常に都合の良い存在なのです」
「都合の良い?」
「小姫様は、普通に生きる事を望まれております。学校に通うこと、それも小姫様の願いなのです。律様は同学年」
「つまり」
「そうです。律様には、小姫様の学校生活を守る、ボディガードとして、任務していただきます」
「へ、へぇ〜」
流れ行く街の景色。
ボディガード研修センターがどこにあるのか分からないけど、しばらくはこの街に戻れない、そんな気がしていた。
「なぁ、爺さん。ボディガード研修センターってどこにあるの?」
「北国です」
「え?」
ブォオオオオオン!!!!
知らぬ間に飛行機に乗り、俺は大きな空港で海鮮丼を食べ、またハイヤーで移動していた。
「なんか、退屈しねーよ、アンタらといると」
「それは褒め言葉ですか?」
「もちろん」
「律様。ここから先は厳しい道のりとなります」
「え?」
「ボディガード研修センターは生ぬるいものではありません。律様の特異な体質についても、トップシークレット。センターの人間は何も知りません」
「そうなの?」
「さ、到着しました」
うう、寒い。さすが北国。
こうして、俺のボディガード研修が始まる。