第七話 奏爽律(3)
それから4日が経った。俺は何故か母親と会話せずに、毎日を過ごした。
「知ってるか?」
また茂木が現れる。
「知ってるよ。コヒメの転校の事だろ?」
小姫はあの日以来、学校には姿を現していない。というかこの街から去ったのだろう。
追われてる身って大変だな。そんな事を思う。それでも学生でいたいのか?あの女は。不思議なやつだ。
「ところで来週のテストどうよ」
「何もしてねーよ」
「つーかお前、返事返せよ」
「スマホ無くした」
「マジ?」
「マジ」
はぁ、こんなしょーもねー奴とダラダラ会話して、テスト受けて、模試とかの判定に一喜一憂して知らぬ間に大学受けて。
俺みたいな奴はきっと滑り止めに合格してさ、適当な会社に就職するんだろうな。
って、昨日まで思っていた。
「なぁ、茂木。ボディガードってどう思う?」
「楽そう」
「なんだよそれ」
「だって平和じゃないかこの世の中」
「まぁ、たしかに・・・」
何も知らない奴とは、もう話は合わないな。
俺は茂木を撒いて、帰ることにした。
ー
「ただいま」
父親はまだ帰っていなくて、母親がひとりだけ。夕飯を作っていた。
聞こえているのか、聞こえていないのか、俺を無視する母親。親失格だろこんなもん。
「・・・昨日ほど」
コンロの火を止めて、母親が俺に向かって話かけてきた。
「昨日ほど、アンタが男に生まれてきた事に、後悔した日は無い」
「は?」
「私はね、息子なんてもんはとっとと家を出て、嫁見つけて家建てれば良いと思ってた」
え?なになに?一人語り始まっちゃってるんだけど!!!
「今はそういう時代じゃないのかもしれないけど、男ってそういうもんでしょ?」
「え、なに、急に?」
「アンタが生まれた時、アンタを一番愛してるのは私だった。でも、考えてみれば私が一番愛してるのはお父さんなの。アンタは二番目」
「は、はぁ・・・」
「アンタが一番に愛して、愛される人が見つかったのね?」
ちょ!ちょっと待て!!!
話が曲がってる!父親は母親にどんな話をしたんだ!?
「守りたい女の子が、いるんでしょ?」
その問いかけに、俺は・・・
「うん」
首を縦に振るしか無かった。
「盆と正月は絶対に帰ってくる事。それだけ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、お母さん!」
「時代錯誤で構わない。女を守るのは男よ」
や、やべぇ!母親もなんか変なゾーン入ってるぞ!
でも俺は震えていた。身震い。武者震い。
「おう」
それだけ言って、部屋に戻った。