第五話 奏爽律(1)
「奏爽律って言います」
ソウソウ、リツ。それが俺の名前だ。
ヘリで飛ぶ事1時間近く経ち、そこからまたハイヤーで移動し、今度は流通のトラックに乗せられて移動する。小姫父曰く、絶対に住所はバレてはならないということだ。ちなみに有事の時の為に家は8つあり、住み分けているらしい。
そういう訳で宅配便のトラックで、俺たちは鹿美華家へと到着した。ここがどこなのか、俺には全く分からなかった。普通の住宅街の、少し広めの3階建ての家である。てっきり洋館みたいなのをイメージしたのだが、それだとすぐにバレそうだ。
すぐに居間に通される。立派な暖炉と大きな時計がある。もう既にわかってはいたけれど、金持ちの家だ。こりゃ・・・
ふかふかのソファに座り、俺と小姫と小姫父と、そしてティーポットを持ちながら現れた小姫母。
「あーら、奏爽律くんって言うの?名前もまぁまぁ男前ね」
にっこりしながら、小姫母が俺に答えた。小姫に似て綺麗な人だ。
「俺はそうは思わんがな」父の表情は硬い。
「父さん、コイツをボディガードにしようと思って」
というか小姫ちゃん、俺の扱い酷くない?
「こんなヤツにボディガードなんぞ務まるのか・・・?」
やはり父は怖い。
「でも、私に触れられる以上、さっきみたいなことがあった時、いないと困る」
「そうね〜。律くんはどうなの?」
「俺は・・・親に聞いてみねーと分かんねーす」
「ま、確かにそうだな。君は未成年だ」
「ただ・・・俺にしかできないのであれば、やるしかないって気持ちは強い」
「前向きに検討してくれるのね」
「ええ・・・でも、親が理解してくれるかどうか・・・」
突如現れる人生の選択は、それはそれで困る。
俺は毎日だらだら過ごして、テキトーに受験勉強して、テキトーに大学行って、就職する予定だった。
突然ボディガードになれって言われてもピンと来ない。何故なら俺、運動神経もないし・・・
「ところで・・・ここはどこで、どうやって帰れば良いんですか?スマホ落としちゃって・・・」
「この場所は教えられない。君が裏切る可能性もあるからね」
「えっ。はぁ・・・」
「大丈夫よ。帰りの便は手配するから」
「ありがとうございます」
ってか、何気にスマホ落としたのショックデけぇ〜。今頃海の藻屑になってるのか?
とりあえず家に帰って、今日あった事説明して、なんとかしないとなぁ。
つーかボディガードって言われても無理臭くね?命張れるかっていうと難しいよなぁ。
そういうわけで、知らぬ間に俺は自分の家の前についていた。執事の爺さんに言われる。
「7日後。私はここに現れます。その時までにご返事を・・・」
そう言って、爺さんは俺に大きめの封筒を渡してきた。分厚い文書が入ってる。
「これは?」
「ボディガードとしての、報酬や条件が書かれているものです。ご両親に読ませて下さい」
「分かった」
「これは私個人の願いとなりますが・・・どうか小姫様のために、ボディガードを引き受けて貰えませんか?」
「うん。考えてはみるけど」
そう言って俺は、マンションの中に入っていく。俺の姿が消えるまで、執事は立ったままだった。