第四十九話 強くなりたい(6)
ザッ・・・
しばらくすると、外から音が聞こえる。
間違いない。ガンマンきよしが屋上から降りてきた。
俺は息を潜め、ガンマンきよしが建物の中に来ることを期待したが・・・
考えてみれば来るわけもない。
入り口に仕掛けてあったチープな紐の罠を避けて、建物の裏に回り込む。建物の角から顔を出すと・・・
後ろ姿のガンマンきよしがいた。
小さな物音が上空から聞こえる。
優花里が手を振っていた。
作戦は単純だ。
同じタイミングで、屋上と地上から、きよしを狙う。
屋上の優花里が姿を現し、きよしに意識をさせ・・・
俺と同じタイミングで銃を撃つのだ。
俺たちは、嫌でも息があっていた。
同時になる銃声。
いわば屋上の優花里の攻撃はフェイクなのだ。
音は1つで、弾が2つ飛ぶ。そういうやり方。
屋上の優花里の銃弾が先に放たれる。
それは地上のガンマンきよしを目掛けているが、彼はそれをすぐに避けた。そして向きを変えた時、銃口を向けた俺に気付く。
その時、ガンマンきよしは両手を上げた。
参考、のポーズ。
俺は咄嗟にその銃口を違う方向へ向ける。実弾だった!これ!!!!
バン!!!!
その時、目の前にガンマンきよしがいて、俺のアゴ目掛けて飛び膝蹴りアッパー。
ー
目が覚めると、ふたりが立っていた。
「お、俺は・・・」
「お前のせいで負けたんだよクソ童貞」
優花里は苛立っている。パンツが見えていた。
「同時に銃を違う場所から撃つ・・・悪くない戦法だった」
ガンマンきよしはカウボーイハットを被り直している。
「奏爽律くん。君が原因で僕を取り損ねたんだ」
「ごめん・・・優花里」
「どうして、負けたと思う?」
問いかけるガンマンきよし。
「先生が・・・手を挙げて、油断しました。勝ったと思って・・・」
「いいや、違うね。君は僕が手をあげなくても、僕を撃たなかった。いや、撃てなかった」
ー〝優しい事は、強さには繋がらない。そして、君には覚悟が足りない〟ー
修行に来たはずなのに。身体は強くなったはずなのに。
また心を抉られた。
その言葉が何度もリフレインする、帰りの飛行機。
隣の席の優花里は不機嫌なままだ。
「お前、最近ムカつくんだよ」
優花里がボソっと言う。
「ごめん」
「男の癖に、この私の魅力に気付かねえし」
え?今それ?
「いや十分優花里は魅力的だ」
「黙れ童貞。ムカつくのはそれじゃない。どんなに練習を重ねたって、私は同じ練習を積んだ男には勝てない。身体の構造上、そうなってる」
男勝りな優花里が、性差を口に出してくるのは意外だった。その驚きと、それでいて弱い自分に言葉が出ない。
「今、なんて返したらいいか迷ってんだろ」
優花里に見透かされていた。
「うん」
「お前が弱い原因のひとつは童貞だ」
「はぁっ!?」
「私がオスとしての本能を引き出す」
「何言ってんだおま」
そういって、優花里がキスをしてきた。
「お家帰ったらどうする?」
近距離で、顔を近づけ、少し寄り目になってる優花里が難問を突き付けてきた。
「からかうなよ」
強くなりたい、けど・・・
それとこれとは違うはずだ。




