第四十六話 強くなりたい(3)
暗くなった空間。
もうこのまま寝ようかな、そんな事を思って、うとうとしていた時。
優花里が口を開いた。
「私には兄が2人いる」
「へぇ」
「ひとりは小早川製薬の上席まで上り詰めた。もうひとりは・・・研究開発部のトップであり、鹿美華家の暗躍班として活動している」
「・・・スパイって事?」
「そう」
優花里も言わばスパイだ。
スパイだった、と言う方が正しいか。
「兄貴も、私と同じようなやり口で小姫ちゃんを狙っているはず」
「小姫の身体の秘密を知ろうとしてるって事・・・?」
「うん。詳しいやり方や目的は分からない・・・けど・・・」
俺の言葉を待たずに、優花里は言う。
「小姫ちゃんの居場所を漏らしてるのは、兄貴だと思う」
「え?」
この前の一件も?
永遠乃芽衣じゃないのか?
「芽衣ちんの事、悪いけど疑った。でも、芽衣ちんは性格的に、私と同じ。きっと友達は裏切らない」
「それじゃあ理由に欠けるよ」
「暗躍班は私たちの知らないタイミングで、小姫ちゃんの周りに探りを入れてる。それはつまり、小姫ちゃんの位置も把握出来るって事」
「まぁ、たしかに・・・」
優花里には言えないが、以前、鹿美華家4番目の家を襲撃された事があった。
考えてみれば、その時は永遠乃芽衣は関係なかったし、フェイクにフェイクを重ねてたどり着いたあの場所を特定出来るのは、たしかに内部の人間である可能性は高い。
「兄貴は敵に小姫ちゃんの位置を教えて、この前みたいに自分の手柄を取ったりしてる。何が理由でどうしたいのかは分からない。だってあの日だって、そのまま裏切って小姫ちゃんを攫う事も出来たはず」
「うん・・・」
「私ね、小早川家の出来損ないなの」
前にも言ってたな・・・そんな事。
「アタマも悪くて、小さい頃から兄貴達に、親達にバカにされて、だから、見返したいのよ。そう思って、殴り込むようにここに来た」
あの日、ほんとに殴り込むように優花里は鹿美華研修センターにやってきた。そこまで、どういう道のりや心情を経たのかは、そこまでは俺には分からないし、想像力もない。
「あの時は、小姫ちゃんの秘密を暴いて、認めてもらおう、って思ったけど、今は違う。小姫ちゃんを守り抜いて、兄貴を追放させる」
「うん」
「その為に・・・強くなりたい」
「優花里、珍しく意見が合うね」
「呼び捨てすんじゃねーよ童貞」




