第三十六話 ハイスコア・ゲーム(5)
「もう、言える事はない。刺したいなら刺せ」
俺は目の前の刃物に、臆さなかった。
理由は3つある。
ひとつは、優花里が仮に俺を殺しても、優花里は間違いなく鹿美華家に消されるであろうという事。
ふたつめは優花里自身がおそらく俺を殺す勇気がないという事。
みっつめは、小姫の為なら容易に命を張れる、という事。
「言わなきゃ刺す」
「お前さ、小姫の敵なのか?」
「そうだったよ」
だった?
「私は小早川製薬って製薬会社の社長の娘の出来損ないさ。語れば長くなるけど・・・とにかく小姫ちゃんがその界隈で狙われている事は有名。その身体に何か秘密があるのは知ってる。私はその謎を解いて、名誉を手にするつもりだったの」
「優花里。俺たちを騙してたのか」
「最初はね」
「最初は?」
「私は、小姫ちゃんと友達になっちゃったんだよ。友達になった以上、もう裏切れない」
な、なんだよそれ!
お前、情に熱いな。
「さすが情熱女」
「私も小姫ちゃんをしっかりと守るし、友達でいたい。だから情報が欲しい」
「それでずっと・・・ちょっとずつ、色仕掛けしてきたのか」
俺に恋をしてるように見せかけたり、性的な事をさせる条件で秘密を暴こうとしたり・・・
こいつ、やり手だな。
「それは違う。私は律が好き」
人類史上初かもしれない。
マウントを取られ、刃物を向けられたボディーガード女子高生に告白された。
優花里の事は何となくわかった。
でも、俺は小姫の事は言えない。
この会話すら、演技の可能性もある。
それに俺は小姫を守るって決めたから。
「俺が隠してる事。それは、俺が小姫を好きって事」
ふたつあった秘密のひとつを答える。
「なにそれ。予想してた通りじゃん。最悪」
優花里の目から流れ出した涙が俺の顔に落ちる。
キスと同じ温度。体温。
「ごめん」
「なんで謝るのよ、ムカつく。小姫ちゃんの身体の謎も分からないから、更にムカつく」
「小姫は、いつも狙われているのか?」
「そうよ。その詳細は知らないけど、その身体を捉え、調査する事、それが今のこの業界で勝ちを握る事とされているの」
「業界で、勝ちを握る・・・」
「新薬の開発・・・それが全て」
だから皆んな躍起になってるんだ。
「おかしいよ」
「分かってるわよ。分かってきたから、それに小姫ちゃんと友達になったから・・・私は小姫ちゃんを守る方向にシフトしたの」
「優花里・・・信じていいのか?」
「それはこれからの行動で示す」
「俺はお前の生い立ちや、今までの事、知らない。でも、話をしてくれてありがとう」
「小早川製薬は敵に回す。私は私の生き方で進む。小姫ちゃんを守る」
「うん」
「でもあなたの事は諦めない」
「えっ?」
「しょうもない色仕掛けは辞めた。私は律に振り向いてもらうために頑張る」
な、なにこれ。
「うん。頑張ろう」
それしか言えなかった。




