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第五十話 バイタルサイン

 早朝にロマンサ統合基地を出発したブルドッグの車列は、道中事情を知らぬアリガ王国の国民達の視線を受けながらも、順調に移動を続け。

 出発から十時間の後、一行は、今回突入する事になるダンジョンの入り口の前へと到着を果たす。


 林の中に突如として現れた開けた草地。

 その只中に、人工的な構造物、石造りの巨大な門が不自然に建てられていた。


「よぉ、あんたらがブルドッグか?」

「はい、そうです」

「俺は、このダンジョンの入り口周辺のモンスターの排除と、あんたらの到着までの間確保を任されていた、クラン、フェール・コレールのリーダー、カージミルだ」

「はじめまして。自分は、ブルドッグのリーダーを務めさせていただきます、錦辺 九十九です!」


 そんな石造りの巨大な門の周辺に野宿していた冒険者と思しき一団の中から、カージミルと名乗った、鎧を着込んだ壮年の男性が到着したブルドッグの車列へと近づく。

 それに対応する為降車した九十九は、礼儀として自らの自己紹介を行い、カージミルとの握手を交わし終えると、早速彼から目新しい情報がないかどうかを確かめる。


「俺達がここに到着してからもう一日ほど経過するが、この入り口を通って出てきた奴は、モンスター以外まだいねぇな」

「そうですか、ありがとうございます」


 だが残念ながら、目新しい情報を得る事は出来なかった。

 しかし、直ぐに気持ちを切り替えると、九十九は各部隊にダンジョン内部への突入に向けての準備を指示。

 それに応える様に、四四式戦車運搬車で運搬されていた四四式中戦車五型や五式重戦車。更には、ダンジョン内の環境を鑑み用意された、特三式内火艇や三式水陸両用装軌車等の積み下ろし作業が開始される。


 そんな作業の様子を、カージミルをはじめとしたフェール・コレール所属の冒険者達は、呆然とした表情で眺めているのであった。



 程なく作業が終了し、ダンジョンの入り口の前に、五式重戦車を先頭に、装甲車輛の隊列が形成される。

 いつでも眼前の入り口へと突入できる態勢である事を示すかのように、各車のエンジンが低い唸りを上げている。


「戦車隊! 突入開始!」


 刹那、無線を通じて九十九の号令が伝えられると、ディーゼルエンジンが唸りを上げると共に、鋼鉄の凶獣がその巨体を前進させる。


「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみじゃない」

「楽しんでるのは車長だけだと思いますが?」

「そういうあんたこそ、武者震いが隠しきれていないわよ」

「ありゃ、バレてましたか?」


 突入の一番槍を務める五式重戦車の車内。

 車長の三春中尉と砲手を務める乗員は、緊張するどころか楽しみで仕方のない会話を交わし終えると、いよいよ目と鼻の先にまで来た入り口を前に、互いに気持ちを引き締める。


「二号車、三号車! 行くぞ!」


 そして、三春中尉が指揮する戦車小隊が入り口を潜った、刹那。

 眩いばかりの光が、潜望鏡等を介して車内に溢れる。


 だが、それも一瞬の内に収まり。

 光が収まった所で潜望鏡を覗き込むと、そこに広がっていたのは、先ほどまでとは異なる、地平線まで広がる広大な平原であった。


「これがダンジョンか……。本当に、不思議な場所ね」


 小さく感想を零しつつも、潜望鏡を使い周辺にモンスター等の敵影がいない事を確認する三春中尉。

 程なく、突入した三春中尉の戦車小隊に続くように、四四式中戦車五型や特三式内火艇等の後続車輛が次々と姿を現し、周囲に展開していく。


「こちら三号車! 二時の方向、距離三千! こちらに接近する複数の影を確認! あれは……巨大なダンゴムシです!」

「こちら一号車、巨大なダンゴムシだと?」

「はい、間違いありません。あの姿はどう見ても巨大なダンゴムシです」


 大和列島やアリガ王国内で遭遇した事のない種と思しきモンスターの登場に、改めてダンジョンとは摩訶不思議な場所であると再認識する三春中尉。

 だが、すぐさま頭を、接近する巨大なダンゴムシと形容されたモンスターへの対処に切り替えると、無線を切り替え、咽喉マイクに向けて指示を飛ばし始める。


「ワラビより各隊へ、二時の方向、距離三千に敵性生物を確認、直ちに迎撃に移行せよ」


 刹那、ヘッドセットから聞こえてくる各部隊からの応答の声に満足しつつ、三春中尉の戦車小隊も、他の部隊と足並みを揃える様に展開すると、その強力な三式八糎戦車砲の砲口を、近づきつつある脅威に向ける。


「車長、弾種はどうします!?

「榴弾でいく」

「案外、異世界産のダンゴムシは、殻がドラゴンの鱗並に硬いかもしれませんが?」

「もし榴弾で効果が薄いなら、直ぐに徹甲弾に切り替えるまでよ」

「了解!」


 程なく、装填手から装填完了の声が発せられる中。

 三春中尉は潜望鏡越しに、人の背丈を優に超えた巨体と、黒光りする殻、頭部の一対の触角に複数の脚を動かしながら草原を駆ける、巨大なダンゴムシの姿をしたモンスターの群れを目にし、少々嫌悪感を滲ませた。


「対敵距離千五百! 照準、よし! 射撃準備よし!」」

「撃てぇ!」

「撃て!」


 直後、命令が復唱されると同時に、車内に轟音と言うべき発砲音と共に、激しい振動が響き渡る。

 勿論、周囲に響き渡った轟音は、それ一つだけではなかった。


 三春中尉の乗る五式重戦車の両側に展開した二号車と三号車。

 更には、その両側に展開している、他の部隊の四四式中戦車五型や特三式内火艇の主砲も咆哮をあげ、一帯に見事な発砲炎の花畑を作り出す。


 直後、巨大なダンゴムシの姿をしたモンスターの群れに、爆炎と衝撃波が襲い掛かる。

 硬く黒光りするその殻を、飛来した砲弾が易々と貫き、その巨体の中で内部の火薬を炸裂させると、放出されるそのエネルギーと共に、その巨体を四散させていく。

 一射目を運良く残った個体も、続けて放たれた二射目によって、一足先に自由となった仲間の後を追う様に、その無残な骸を平原に晒すのであった。


 なお、特三式内火艇の主砲である47mm戦車砲は、弾種にもよるが、距離千五百で約四五ミリの貫徹力を有しており。

 今回、同距離で巨大なダンゴムシの殻を容易く貫いた事から、同モンスターは、以前今回の距離よりも近距離であるにも拘らず有効弾を与えられなかったドラゴン、同モンスター程の防御力を有していない事が推測できた。


 後に、同モンスターがアーマーウードと呼ばれる中級のモンスターであると、ヒルデの説明で判明し。

 更に、その名の通りに巨体に纏っていた殻は、調査の結果7.7mm弾でも貫通させる事が可能であると判明した。

 閑話休題。


「周辺に敵性生物の影は認められず」

「よし、とりあえず警戒を維持しつつ、本隊に入り口周辺の安全を確保したと連絡」


 こうして、ダンジョン側の入り口周辺を確保したとの報告を受けて、王国側で待機していた本隊も、ダンジョン内部へと進入を開始するのであった。





 無事にダンジョンの内部へと進入を果たした本隊は、工兵部隊の手により、入り口を中心として、その周囲に、個人用の蛸壺(たこつぼ)と呼ばれるものから、戦車用のものまで、周囲を囲うように塹壕を造り上げる。

 更にその内側に、野営用の天幕や物資の保管所、更には監視塔や、対空並びに砲兵用の陣地の整備の他。唯一、塹壕の外側に、簡易の飛行場が急ピッチで建設されていく。


 そして、工兵達の奮闘の甲斐もあり。

 ダンジョンの外同様に、ダンジョン内にも夜の闇が訪れる前に、何とかダンジョン内での活動拠点となる野営陣地の構築を完了させるのであった。


「事前の情報によれば、要救助者達はこの入り口から北西の方角、十数キロの地点で魔物の群れに追われたそうだ」

「となると、航空機による捜索は、北西の方角を中心に行いますか?」

「いや、その後、他の方角へと移動していないとも限らないから、北西の他、北部と西部の方角にも一応飛ばす事にする」


 司令部用の天幕の中、九十九やヒルデをはじめとした、ブルドッグの主だった幹部たちが、明日から開始される救助対象たちの捜索活動について会議を開いていた。

 その会議の中で、事前に得た情報を頼りに、救助対象たちがいるであろう方角に対して、分解しダンジョン内に運搬した九八式直接協同偵察機を使用しての空からの捜索が決定し。

 同時に、地上からも、四四式偵察戦闘車等の車輛を用いての捜索も、並行して行われる事が決定した。



 翌日。

 簡素な格納庫内で組み立てられた数機の九八式直接協同偵察機が、整備隊の隊員達の手によって格納庫内から運び出されると、平原にその姿を現す。

 程なく、各々の機に操縦士たちが乗り込むと、搭載された空冷エンジンが唸りを上げ、二枚のプロペラを回転させ始めた。


 そして、特に整地する必要もなく、一帯全てが滑走路の様な平原の中を、数機の九八式直接協同偵察機が滑走を始め。

 程なく、危なげなく離陸を終えた数機の九八式直接協同偵察機は、各々が事前に振り分けられ、担当する事となった空域へと飛び去って行った。

 それに続くように、車輛部隊もエンジン音を響かせながら、野営陣地を後にすると、一路北西の方角を目指して移動を開始した。



 陸空の捜索隊が出発し、それを見送りながら、一分一秒でも早く救助対象発見の一報が届く事を願う九十九。

 見送りを終えた彼は、ヒルデを引き連れて、陣地の一角にあるとある格納庫へと足を運んだ。


 格納庫内では車輛の整備が行われており、鉄やオイルの臭いが少々鼻を突く。

 そんな格納庫内の一角に、一際巨大な車体に、多数の砲塔を有した、異彩を放つ超巨大戦車が鎮座していた。


今畑(いまはた)少佐、機動火点の組み立ての方は順調ですか?」

「錦辺総司令。はい、組み立ては順調に進んでおります」


 そんな超巨大戦車の傍らに立ち、組み立て作業の指揮を取っていた、丸眼鏡をかけた作業服姿の壮年の男性。

 今畑少佐と呼ばれた、機動火点の整備部隊の隊長を務める男性は、作業の進捗状況を説明していく。


「この調子なら、午後からの試運転に十分間に合います」

「分かった」


 九十九は今畑少佐から作業の進捗状況について説明を受ける一方。

 同行していたヒルデは、初めて見る機動火点の姿に、開いた口が塞がらない様子であった。


「ね、ねぇ、ツクモ。これも、戦車、なの?」

「分類上、はね」


 そして、その圧巻の姿に唖然とするヒルデに、九十九は機動火点の概要を説明し始める。


 機動火点、通称"弁慶号"と呼ばれる超巨大戦車は、地球において大日本帝国陸軍が一輌だけ試作したオイ車と呼ばれる、予定重量一五〇トンにもなる超巨大戦車をモデルにした試作兵器である。

 全長十メートル、全幅四・二メートルを誇る巨大な車体に、それを移動させるための走行装置は、巨大な転輪と大型履板で構成される巨大な履帯。

 そしてその車体も、一般的な戦車とは異なり、"中甲板"と呼ばれる甲板上に、特三式内火艇と同様の47mm戦車砲を搭載した副砲塔が二つ、並んで備えられている。

 更にその後方には、中甲板よりも一段高い"上甲板"と呼ばれる甲板が存在し、そこには、十糎加農砲の砲身を備えた、巨大な主砲塔が鎮座しており。

 更にその砲塔の上部には、対空用に連装式のブ式12.7mm重機関銃 M2を擁する銃塔が備えられており、その全高は四メートルにもなる。

 そして、そんな主砲塔より一段低い車体後部には、総重量一二〇トンにもなる同車を、最高速度二二キロで動かす為の強力なエンジンが二基、冷却器に覆われる様に備えられた機関室が存在している。


 車内は、人が立って歩けるほど広々としており。更に車体前方の操縦室、中央部の戦闘室、後方の機関室の間には、それぞれ一五ミリの鋼板隔壁で仕切りがなされており。

 また、主砲である十糎加農砲には半自動装填装置が装備され、手動での装填よりも素早い発射速度を実現している。


 まさに、機動火点の名に恥じる事のない、超巨大戦車であった。


「ねぇ、ツクモ」

「ん?」

「ヤマト皇国が、凄い技術力を有しているのは理解してるつもりだけど。それを活かす方向性が、時折間違えている様な気がするのは、気のせいなのかしら?」

「……はは、そ、そうかな」


 説明を聞き終えたヒルデがぽつりと零した、核心をつくその一言に。

 九十九は、苦笑いを浮かべ、誤魔化すのであった。


 因みに、その後野営陣地の近くで行われた弁慶号の試運転に立ち会った九十九とヒルデは、その小山の如く巨体が草原を駆る様を目にし、互いに感嘆の声を漏らすのであった。



 その後も、職務をこなしつつ救助対象発見の一報が届くのを待っていた九十九であったが。

 結局その日、陸空の捜索隊による捜索において、救助対象発見の一報がもたらされる事はなかった。


 唯一の成果らしきものと言えば、野営陣地から約四十キロメートル地点を境にして、北西の方角には荒地が、東の方角には鬱蒼とした森が広がっている。

 と言う、このダンジョン内の特異な環境が判明した事ぐらいだろう。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして引き続き、本作をご愛読いただければ幸いです。


感想やレビュー、評価にブックマーク等。いただけますと幸いに存じます。

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[気になる点]  そういえば、列強は何ヵ国あるんだ? [一言]  他にも、転移国家あったら良いのにな。技術は1980年代相当の国家希望。
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