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第四十八話 邂逅

 南エウローパ戦役から二か月強。

 未だに戦火の爪痕が残っている、特にマントーンの町周辺を除き、アリガ王国国内は、すっかり以前の平穏を取り戻していた。

 また、戦火に巻き込まれる事のなかった南東部を除く諸地域では、緒戦の頃こそ一時中断されたものの、戦況が優位に進められていくと、次第に鉄道や道路整備などの工事が再開されている。

 その為、戦火に晒され破壊されるどころか、開発の継続により、逆に目を見張る程の変貌を遂げていた。


 その内の一つである、ロマンサの街。

 かつて石畳で舗装されていた街中の道路は、今やアスファルトによって滑らかな道路となり。街中には、幾つか鉄筋コンクリート製の建造物が見られ。

 またかつて多くの帆船が停泊していた港は、今や工事によって拡張され、大和皇国の貨物船も停泊している他。

 従来の帆船に混じり、大和皇国が代理店を通じて販売を行っている、汽帆船。

 ララ・クローン号・改に搭載していた装技研式蒸気機関を、小型化し整備性の向上を図ると同時に、出力性能を低下させたデチューン仕様のものを搭載した船舶の姿も見られる。


 まさに、ロマンサの街はアリガ王国内の大和皇国との玄関口として、見事な発展と変貌を遂げたロマンサの街。


 そんな街中で、変わる事無く営業を続けるギルドは、今日も今日とて、冒険者達の賑やかな笑い声に包まれていた。


「おぉ、ブルドッグの! 今日も自慢の兵器で、モンスターの群れをぶっ飛ばしたんだってな!」

「ヒューッ、流石はブルドッグ様様だ」

「でも、ブルドッグがいるなら、もうこの国には俺達は必要ねぇんじゃねぇか?」

「いえ、こうして自分達が大群との戦いに専念できるのも、日頃皆さんが細やかで丁寧に仕事をこなしてくれているお陰です」

「かーっ! 嬉しい事言ってくれるねぇ!!」

「そうだ、そんな皆さんに、今日は日頃の感謝を込めて、一杯奢らせてください」

「おいおいおい! そんな気前の良い事までしてくれるのかよ! こりゃもう惚れるしかねぇなオイ!」

「バカ! 彼にはヒルデがいるだろ」

「そうだった、はははっ!!」

「では、失礼します」

「おう、またな!」


 すっかり顔馴染みとなった冒険者達との会話を終えると、九十九は近くにいたギルド職員に彼らの分の酒を注文し終えると、奥にある受付窓口へと足を運んだ。


「お帰りなさい、ニシキベさん。それにヒルデちゃんも」

「ただいま戻りました」

「ただいま、プリシラさん」


 いつもの笑顔で出迎えたプリシラに、九十九と、同行していたヒルデが返事を返す。


「それじゃ、手続するからちょっと待っててね」


 そして、慣れた手つきで依頼の完了手続きを行い、報酬金を手渡すと、プリシラは嬉しそうな顔を浮かべながら、話を始めた。


「それにしても、ヒルデちゃんもすっかり、その恰好が板についてきたわね~」

「ふぇ!? そ、そう、ですか?」

「えぇ、とっても素敵よ、ヒルデちゃん」

「あ、ありがとうございます……」


 予期せず褒められ、頬を赤く染めるヒルデ。

 その様子を、九十九も嬉しそうに眺めていた。


 現在のヒルデの装いは、以前愛用していた鎧ではなく、九十九と同じグレーの軍服であった。

 そして、その両肩に装着されている肩章には、"中尉"の階級である事を示す二つの桜星のマークが輝いている。


 告白のあの日以降、ヒルデは再びブルドッグのサブリーダーに復帰したのだが。

 その際、ヒルデ本人が、ブルドッグのみならず、更に九十九の役に立ちたいとの意見を述べ。加えて、九十九も、そんな彼女の気持ちを無下にしたくないとの意向を示したため。

 関係各所との協議の結果、ヒルデに大和皇国国籍を与え、必要な教育を受けた後、海兵少尉として海兵隊の一員として任官され。

 そして、中尉に昇進と共に、九十九の専属の副官という役職を与えられるに至った。


 因みに、専属副官としてのヒルデの職務については、九十九のスケジュールの管理や来客対応、休憩の際等のお茶出し等の他。

 体力や感覚の維持の為の訓練に付き合う等。基本的には、九十九の職務に同行して行われる。


 なお、副官としての能力に関しては、概ね問題のないヒルデであるが。

 先任である伊藤大将曰く、まだまだお茶の淹れ方に関しては改善の余地あり、との事。

 もっとも、九十九曰く、それは伊藤大将本人の基準で、九十九としては十分に及第点らしいのだが。

 ヒルデは、伊藤大将指導の下、お茶の淹れ方のみならず、料理や掃除、更に着付け等々。まるで花嫁修業の様な修業に励んでいた。

 閑話休題。


「所でプリシラさん。何だか最近、王国南西部での魔物の活動が以前よりも活発になってきている気がするんですが、何か知っていますか?」

「実は、今調査している所なんだけどね。ギルドマスター曰く、"亜空間型のダンジョン"が出来たかもしれないって……」

「亜空間型のダンジョン?」

「えぇ! プリシラさん、それ本当なの!?」


 ダンジョンと言う単語を聞き、今一つピンと来ていない九十九に対し、ヒルデはその単語の意味を理解しているらしく、深刻な表情を浮かべている。


「ヒルデ、亜空間型のダンジョンって言うのは?」

「あ、そういえばツクモは、まだダンジョンについて知らなかったのよね」


 ヒルデ曰く、ここで言われたダンジョンとは、地球においてゲームなどでもよく用いられる、神秘に満ち金銀財宝が眠り、同時にモンスターが闊歩する危険な領域とほぼ同じで。

 この異世界では、主に"迷宮型"と"亜空間型"の二種類が存在しているという。


 先ず迷宮型と呼ばれるダンジョンは、文字通り内部が迷宮のように入り組んでいて、尚且つ侵入者迎撃用の罠が設置されている。

 ただし、内部に生息しているモンスターは比較的小型で、強力なものは少ない為。規模によっては、ダンジョン攻略初心者の冒険者等でも簡単に制圧し、攻略する事の出来るものが多い。

 だが、それに比例するように、内部の財宝の質や量も、比較的安価な事が多いとの事。


 一方亜空間型と呼ばれるダンジョンは、その入り口自体が亜空間ゲートとなっており、内部はダンジョン毎に様々で、平原や砂漠など、文字通り外とは異なる空間が広がっている。

 また、侵入者迎撃用の罠こそ設置されていないものの、内部にはモンスターが数多く生息しており、中には、ドラゴンクラスの強力なモンスターも生息している。

 その為、攻略には実力と数を備えた複数のクランを投入する事が必須となるが、その分、内部の財宝の質や量は、苦労に見合う以上のものが多いとの事。


 なお、この様なダンジョンの発生メカニズムに関しては、長年研究が行われているものの、依然として解明には至っていないらしい。

 だが、頻度で言えば、亜空間型は迷宮型よりも発生の頻度が少ないとの事。


「成程。……所で、亜空間型のダンジョンが出来た事と、魔物の活動が活発になっている事と、どんな関係性が?」


 曰く、亜空間型のダンジョンでは、稀に流出現象と呼ばれる現象が発生する場合がある。

 それは、ダンジョン内部に生息しているモンスターが、何らかの要因で爆発的に数が増えた為、食料などを求めてダンジョンの外に出てくる現象との事。


 この現象発生の有無に関しては、目安として、本来生息してない筈の地域で固有のモンスターが目撃されたり、または確認されている以上の生息数が短期的に確認される等がある。


「季節的な要因で、他の地域からモンスターが移動してくる事もあるから、一概に判断は出来ないけど。もし、流出現象が起こっている亜空間型のダンジョンが出来ているとしたら、早く対処しないと大変な事になるわ」

「成程」

「幸い、ニシキベさん達のクランは、もう既にBランクなので、ダンジョンの攻略にも参加は可能よ」

「ダンジョンの攻略にも、参加条件があったんですね」

「えぇ、冒険者自身の安全の為に、迷宮型の攻略はDランクから。そして、亜空間型はCランクから参加が可能なの」


 南エウローパ戦役中は活動を休止していたが、それ以外では、活動を続けていたブルドッグ。

 その甲斐あってか、既にクランの等級はBランクにまで上昇し、九十九達所属する海兵達の等級も、Bランクにまで上昇していた。


「とはいえ、先ずはダンジョンの場所を特定しないと、攻略の依頼は出せないから、今は、頭の片隅にでも置いておいてね」

「プリシラさん、ダンジョンを発見したら、直ぐに連絡してね! すぐに駆け付けるから! ね、ツクモ」

「うん、勿論」

「うふふ、頼りにしてるわね」


 こうして、プリシラとの会話を終えて、二人はギルドを後にするべく入口の方へと向けて足を向けた。

 その直後、ふと、入り口から、新たな人影が入り口を潜る姿が目に入る。





 新たに入り口を潜ってきたのは、とても実戦を考慮したとは思えぬ、煌びやかな装飾の施された鎧に真紅のマントを身にまとった、青い髪を持つ青年。

 そんな青年に引き連れられるように、屈強な体に鎧を着込んだ者や、魔導師らしき杖を持ちローブを着込んだ者など。

 おそらくクランと思しき一団であった。


 そんな一団がギルド内に姿を現すと、先ほどまで笑い声をあげていた冒険者達が一転。

 途端に押し黙ると、一団、特に先頭を歩く青年の視線を避けるかのように背を向け始めた。


「おやおや、馬鹿みたいに騒ぎ立てているかと思えば、何とも静かじゃないか。……しかし、これはこれで、何とも辛気臭い事この上ないな」


 そんな冒険者達の様子を一見した青年は、見下すような物言いを口にすると、そのまま奥にある受付窓口へと足を向ける。

 と、その時。青年は九十九とヒルデの存在に気がつき、二人に声をかけた。


「おやおや、誰かと思えば、ヒルデ・ヴァルミオンじゃないか。それに、その隣の君は、確かヤマト皇国の将軍だったね」


 愛想よく笑みを浮かべる九十九に対し、ヒルデは、何処か嫌悪感を隠しきれない様子であった。


「はじめまして、自分は、大和皇国海兵隊の総司令官、並びにクラン・ブルドッグのリーダーを務めています、錦辺 九十九と申します」

「へぇ、"平民"出身の将軍にしては、分をわきまえてるじゃないか」


 身分を強調する青年の言葉に、九十九は顔色を変える事はない。


「ま、自己紹介されたのなら、こちらも名乗らないとね。僕は、かの有名なリュモーン将軍の子、フェルナン・リュモーン! Aランクの冒険者にして、偉大なるクラン、"グラン・ソヴァール"を率いるリーダーだ!」


 真紅のマントを靡かせ、お決まりの如く決めポーズを行う、フェルナンと名乗った青年。


「僕のこの名、しかと脳裏に焼き付けておいてくれよ。では、失礼する!」


 そして、自己紹介を終えたフェルナンは、グラン・ソヴァール所属の者達を引き連れ、奥にある受付窓口へと姿を消した。

 すると、見計らったように、押し黙っていた冒険者達が再び話を再開し始める。


 と同時に、押し黙っていたヒルデも、小さなため息と共に口を開いた。


「はぁ……、まさかアイツに出会うなんて」

「ヒルデ、さっきのフェルナンさんとは知り合いなのか?」

「アイツにさん付けなんてしなくてもいいわよ、アイツはそんなによくできた人間じゃないから」

「え?」

「アイツはね、確かにAランクではあるけど、それはアイツの実力でも何でもなく、アイツの親のお陰なの。ツクモも知ってるでしょ、リュモーン将軍の事は」

「確か、王国陸軍の北東管区の司令官、だよね」


 ヒルデ曰く、リュモーン家は王国内でも有名な軍人の家系で、代々多くの将軍を輩出し、王国軍の一員として王国を支えてきた。

 当然、現当主であるリュモーン将軍を始め、フェルナンの兄達も、全員王国軍の軍人として各々の職務に励んでいる。


 しかし、末っ子であるフェルナンは、軍に入隊する事無く、冒険者の道を選び。

 父親であるリュモーン将軍も、末っ子故にフェルナンを溺愛しており、彼の意見を尊重し、冒険者になる事を許可した他。

 リュモーン将軍は自らの伝手を使い、フェルナンの為にカルヴァドを一機、調達し与えた他。グラン・ソヴァールのメンバーである面々も、息子の為に用意したとの事。


「しかもアイツは、親が用意してくれたカルヴァドを使ってるのに、上位のモンスターとの戦いは他のメンバーに丸投げして、自分は安全な場所で見守って、相手が弱った所でトドメを刺すだけ。にもかかわらず、さも自分の手柄のように語る。最低な奴なのよ」

「そうなんだ」

「それに、アイツは自分が貴族だからって、貴族以外の者に対しては、見下した態度を取る事が多いから、他の冒険者達から嫌われてるの。最も、当人はあまり気にしている様子はないみたいだけど」

「成程。それでさっき、急に静かに」


 フェルナンの人となりをヒルデから聞いた九十九は、先ほどの冒険者達の行動に納得する。


「アイツの話はここまでにしましょう。そうだツクモ、気分直しに、美味しいムニエルのお店に行きましょう! 勿論、ツクモのおごりでね」

「あはは……、了解」


 ちゃっかり奢ってほしいとのおねだりをするヒルデに、苦笑いを浮かべつつも、彼女と共にギルドを後にした九十九は、その足で街中にある飲食店へと向かうのであった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして引き続き、本作をご愛読いただければ幸いです。


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