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第四十五話 リポナより愛をこめて

 アリペインの町が大和皇国軍によって制圧されてから四日後。

 大和皇国軍は、その進軍速度を落とす事なく、東へ向けて進軍を続け。

 道中にあった幾つかの小さな町と、それを守護していた守備隊をほぼ無血で制圧してゆき。

 現在、ヴァノジェの西、約十キロメートルの場所にまで接近し、部隊を展開させていた。


 これに対して、帝国軍の北部軍集団は、可能な限りの兵力をヴァノジェへと集結させ、同都市防衛の構えを見せ。

 また増援として北部へと送られる中部及び南部からの増援も、間に合わせるかのように、機動力のある騎兵を中心に、移動を急ぐのであった。



 こうした北部の慌ただしさに対し、ヴァノジェから約五九〇キロメートルほど離れた、半島南部にある都市、その名をリポナ。

 中部の首都ロマーン、北部のノーミラに次ぐ帝国第三の都市にして、南部を代表する港湾・工業都市。

 アリタイ半島西部に広がるマレ海の一部海域、マレ・アレニチ海に面した同都市は、北部の混乱に対して、今が戦時中である事を忘れているかの如く、穏やかで、平時と同じような雰囲気が漂っていた。


 港を行き交う人々も、井戸端会議に精を出す女性達も、通りの端で遊ぶ子供達も、商売や仕事に汗かく男性達も。

 リポナの人々には、戦火に怯える様子等は微塵も感じられなかった。


 そんなリポナの港に、一隻のキャラック船が停泊を果たすと、船の船員たちが木箱や樽など、積み荷を荷揚げし始める。


「ふぅ……、漸く到着か……」


 その様子を横目に、タラップを使い船から降りてきたのは、その装いから旅人、或いは行商人と思しき、二十代ぐらいの人間の男性。

 男性は、漸く窮屈な船内から解放された事を喜ぶかのように体を伸ばすと、不意に港の様子を観察し始める。


「しかし、暢気なものだな」


 時折、入念に観察するかのような鋭い視線を放ちながら、男性は暫く観察を続ける。

 程なく、満足したのか、男性は観察を終えると、港からリポナの中心部へと向かうべく、移動を開始した。


 それから十数分後。

 中心部へと足を運んだ男性は、観光名所となっている大聖堂や、アリタイ統一運動以前に存在していた国家の王宮などには目もくれず。

 帝国内において、公共交通機関の一つとして知られている馬車の一種、駅馬車と呼ばれる長距離馬車の乗り場、ステーションと呼ばれている施設へと足を運んだ。


 その足で、施設の一角にある乗車券販売窓口の前までやって来た男性は、窓口の傍に貼られている時刻表を確認する。

 そして、目的の場所へと向かう便が夕方にある事を確認すると、その便の乗車券を買うべく、窓口の担当者に声をかけた。


「すいません、夕方の、ロマーン行きの便の乗車券を買いたいんですが?」

「それでよ、その時の姿がまた滑稽で……。やべ、思い出したらまた笑いが、ははは! っははは!」


 だが、窓口の担当者である若い人間の男性は、奥にいる同僚との会話に夢中で、男性の事に全く気付いていない。

 刹那、小さくため息を漏らした男性は、今度は少しばかり大きな声で、再び担当者に声をかけた。


「あの、すいません!」

「でよ──。っと、はいはい! あぁ、お客さん、ようこそ」

「今日の夕方の、ロマーン行きの便の乗車券を買いたいんですが?」

「あぁ……。お客さん、悪いけどその便は今出ないんだよ」


 真面目な接客態度、とは思えない担当者の態度に、少しむっとしつつも、男性は理由を尋ねる。


「出ないって、どういう事です?」

「あれ、もしかしてお客さん、知らないの?」

「ここには、ついさっき船で来たばかりなんです」

「あー、成程」


 男性の話を聞き、納得したような様子を見せた担当者は、男性に説明を始めた。


「これならお客さんも知ってると思うけど、今帝国が、アリガ王国と、ヤマト皇国ってあの霧の海域に存在してたとか言う妙な国と北部で戦争しているのは知ってるだろ?」

「えぇ、それなら知ってます」

「で、そのお陰で帝国軍は馬が足りなくなったらしく、その不足を埋めるために、駅馬車で使用していた馬の多くが徴発令を受けて軍に持っていかれた訳。それで今は、便数を減らして運行しているって訳さ」

「それじゃ、次にロマーン行きの便が出発するのは、いつなんですか?」

「えっと確か……。あぁ、明日の昼だな」


 担当者の言葉を聞き、男性は、その顔に焦りの色を滲ませた。


 彼の目的地は、実はロマーンではなく、そこから更に北。

 そう、今まさに戦場と化している半島北部であった。

 そして、出来れば一分一秒でも早く、半島北部へと足を運びたい、そう思っていた。


 だが現在、民間船は半島北部の港に入港する事が禁止された為、海路は使えない。

 そこで、陸路を使い半島北部を目指そうと目論んでいたが、まさかの一日足止め。


 とはいえ、他に手段もなく、男性は明日の昼に出る駅馬車の乗車券を購入すると、窓口を後にした。


「くそ、ここまで来て……」


 悔しさを漏らしながら、ステーションを出た男性は、兎に角明日の昼までの時間つぶしと、今晩の宿探しを始める。

 先ずは飲食店で腹ごしらえを済ませると、時間つぶしにリポナ各所をぶらぶらと散策していく。



 と、その道中、男性は通りの脇に停めている、一台の荷馬車に目が留まった。


「(自前の馬があればなぁ……)、ん?」


 荷馬車を羨ましそうに目にしながら、通り過ぎようとした時であった。

 男性はふと、ある事に気がつくと、すかさず駆け寄り声をかけた。


「あの、手伝いましょうか?」

「え? おぉ、すまねぇな、兄ちゃん」


 男性が目にしたのは、恰幅の良い男性が、重たそうに木箱を荷馬車の荷車へと運んでいる様子であった。

 木箱の中には野菜や果物が大量に入っており、しかも、数も五つほど残っていたが、男性はてきぱきとした動きで、五つの木箱を荷馬車の荷車へと積み込んでいった。


「いや~、助かったよ、兄ちゃん。本当に、ありがとうな」

「いえ、これ位」

「そうだ、お礼に──」


 と、恰幅の良い男性がお礼の話をしようとした刹那。

 近くの商店から、恰幅の良い男性の事を呼ぶ、子供の声が聞こえてきた。


「あー、パパ、通りすがりの人に押し付けて、自分だけ楽してる!」

「な! ち、違うぞ! パパだって、ちゃんと働いてたんだ!!」


 そこには、十歳ほどの女の子と、その母親と思しき女性。

 そして、商人と思しき男性とその妻らしき女性の四人の姿があった。


「通りすがりのお兄ちゃん、ごめんね、無礼なパパで」

「こら、何誤解してるんだ! これはこの兄ちゃんが自分から手伝いましょうかって言ってきたんだぞ」

「え? そうなの?」

「えぇ、そうです」

「そうだったんだ。勘違いして、ごめんなさい。それから、手伝ってくれてありがとう、通りすがりのお兄ちゃん!」

「おい、俺には謝罪の言葉は無しか!?」


 こうして、一笑い起きた所で、商人と思しき男性が話を切り出す。


「手伝ってくれてありがとう。俺からも、礼を言わせてくれ」

「いえ、これ位。……あの、所で」

「ん? 何かな?」

「この荷馬車は、何方の所有物なんでしょうか?」

「俺のだが……」

「実は、ロマーンに知人がいて、一刻も早く彼のもとに行きたいんです。もしロマーンへ行くのならば、乗せていってはもらえないでしょうか?」


 突然の申し出に、商人の男性は少々困った表情を見せる。

 因みに、男性がロマーンに知人がいるというのは、実は真っ赤な嘘である。


「できれば乗せていってあげたいんだが。実は、俺達はそのロマーンからこのリポナへとやって来てね。リポナへは、移動の際の水や食料を調達する為に立ち寄っただけで、これから更に南へと下る予定なんだ」

「……そう、だったんですが」


 だが、商人の男性から出た言葉は、男性の期待を裏切るものであった。


「力になれなくて、本当に済まない」

「いえ、そんな。こちらこそ、無理を言ってすいませんでした」

「そうだ。ロマーンへ乗せていってはあげられないが、助けてくれたお礼に、これを受け取ってほしい」


 商人の男性が差し出したのは、一枚の銀貨であった。


「そ、そんな! 受け取れませんよ!」

「何言ってんだよ、兄ちゃん。俺を助けてくれたんだ、受け取ってくれ」

「そうそう、だらしのないパパに代わって木箱を積んでくれたんだから、受け取って、通りすがりのお兄ちゃん!」

「皆さんもそう言ってますから、是非」

「しかし……。あ、そうだ」


 見返りを求めた訳ではなかったので、男性がこの展開に困惑していると、ふと、ある事を思いつき。

 背負っていたリュックから羽ペンと木製の画板、それに紙を取り出すと、ある提案を持ちかけた。


「皆さんの写生画を一枚描かせてはもらえませんか? 銀貨は、そのお代と言う事で」

「成程。分かりました」


 そして、荷馬車を背に並んだ二組の家族の姿を、男性は羽ペンを使い、画板の紙に目にも留まらぬ速さで描いていく。


「はい。出来ました」

「おぉ、すげぇ……」

「すごーい! すごーい!!」


 あっという間に完成したその速さもさることながら、完成した写生画の出来栄えの良さに、二組の家族は皆感激した様子であった。


「兄ちゃん、あんた"魔導画家"だったのか!?」

「えぇ、まだまだ修行の身ですけれども」

「いやいや、謙遜するなよ兄ちゃん! あんたスゲーよ。よし、これはもう我が家の家宝だな!」


 魔導画家、それは魔法を使用して絵画を制作する者の総称である。


「素晴らしい写生画をありがとう。では、これはお代だ、受け取ってくれ」

「ありがとうございます」


 こうして、写生画の代金として銀貨を受け取った男性は、羽ペンや画板をリュックに戻すと、ふたたび散策を再開するべくその場を後にしようとする。


「あ! そういや兄ちゃんの名前、聞いてなかった! 兄ちゃん! あんた名前は!?」

「ジェイムズと言います」

「そうか。縁があったら、また会おうな、ジェイムズの兄ちゃん!」


 そして、二組の家族に見送られながら、ジェイムズと名乗った男性は、その場を後にするのであった。



 それから、リポナを散策する事で時間をつぶしたジェイムズは、今晩お世話になる宿を探し始める。

 臨時収入もさることながら、旅費に関しては少々多めに支給されていた為、多少等級の高い宿屋も利用する事は可能であった。

 しかし、結局ジェイムズは手ごろな宿屋にお世話になると、明日に備えて床に就いた。





 翌日。

 日の出と共に目を覚ましたジェイムズは、手早く支度を済ませると、引き払い手続きを終えて、宿屋を後に、次いで近くの飲食店で朝食を済ませる。

 だが、朝食を終えても、まだ昼の便の出発までは時間があるので、時間をつぶすべく、移動を開始した。


 こうしてジェイムズが足を運んだのは、リポナの傍に位置している小高い丘の上。

 丁度、リポナの港を一望できる場所であった。


 今日も絶好の快晴の下、水面には漁船やキャラック船等が、出港や入港の為に航跡を描き。

 空には、海鳥が気持ちよさそうに群れを成して飛行し。

 まさに、平和な港の風景が、そこには広がっていた。


 そんな風景をスケッチするかのように、ジェイムズは羽ペンや画板等を取り出すと、魔法を使わずにのんびりと風景画のスケッチを始めた。


「……にしても、本当に緊張感がないな、ここの連中は」


 羽ペンを持つ手を動かしながら、ジェイムズはそんな感想を零す。

 彼の視線の先にあったのは、民間が利用している港の区画ではなく、帝国海軍のマレ・アレニチ海防衛艦隊の根拠地として利用されている、軍港区画の風景。

 マルタ・ボーロ級戦列艦等の軍艦が、岸壁に停泊している他。

 その甲板上では、見張りの水兵達が談笑に興じていた。


「ま、北部の前線から大分離れているからな。仕方ないと言えば、仕方がないか」


 こうして、独り言ちながらもスケッチを描き進め、描き始めてから三十分ほどが経過した頃だろうか。

 ふと、何かを感じ取ったジェイムズは、手を止めると、西に広がるマレ・アレニチ海の方へと視線を向けた。


 穏やかなマレ・アレニチ海と快晴の空が美しいコントラストを描く風景が、視界一面に広がり、まるで心が洗われるようだ。


「ん?」


 だが不意に、そんな風景の一角に現れた、幾つもの黒点に気がつき、ジェイムズはその黒点の正体を確かめるべく目を凝らし始める。

 快晴の空に突如として現れた黒点は、編隊を組んで飛行している。


「海鳥? いや、帝国軍のワイバーンか?」


 だが、徐々に黒点がその輪郭を現してくると、ジェイムズは違和感を感じ始める。

 やがてその違和感の正体が、海鳥にしろワイバーンにしろ、羽ばたいている筈の翼が羽ばたいておらず、真っ直ぐに伸ばしたままだと気がつく。

 しかも、一部はまるで上下が反転しているかのように折れ曲がっていた。


 と、海風にのって奇妙な重低音が聞こえ始めた。


「この音、まさか!?」


 既視感を覚えるその音を聞いた瞬間、ジェイムズは更に目を凝らした。

 すると、更に細部を確認できるほどにまで近づいていた黒点の正体を目にし、ジェイムズは反射的に新たな紙を用意し、羽ペンを動かし始めた。


(航空機! しかも翼が一枚だけと言う事は、単葉機か!?)


 それが生物ではなく、人工的に作られた機械の翼であると理解しているジェイムズは、航空機の胴体に描かれた赤い丸を目にし、口角を吊り上げた。


(まさか、こんな所で出会えるとは、ツイてるぞ)


 一心不乱に、魔法を使用しながら飛行する航空機の写生画を描いていくジェイムズ。


 そんな彼の存在を知ってか知らずか、赤い丸の描かれた航空機の群れは、リポナの港。その軍港区画へと襲来する。

 先ず突っ込んでいったのは、奇妙に折れ曲がった翼をもつ、四四式戦闘爆撃機一型。

 岸壁に停泊していた戦列艦群に狙いを定めた鋼鉄の怪鳥達は、翼下に搭載した四四式空対地墳進弾を発射し、直ぐに機首を引き上げる。


 直後、閃光と轟音と共に、停泊していた戦列艦群が、巨大な火柱と黒煙を上げ始めた。

 さらにその後、追い打ちとばかりに、二式艦上爆撃機三三型による爆撃が実行され、岸壁一帯は炎と黒煙に包まれた。


(凄い、凄いぞ……)


 一瞬にして地獄と化した軍港区画。

 その経緯を、ジェイムズは次々と精巧な写生画として描いていく。


 そして、また一枚描き終え、新たな紙を用意しようとした、その時であった。


「っ!」


 不意に殺気を感じ取ったジェイムズは、ふと振り返ると上空を見上げた。

 するとそこには、自身に機首を向け、その凶悪な六門の12.7mm機銃が狙いを定めている、一機の四四式戦闘爆撃機一型の姿があった。


 まるで時間の流れが緩やかになったかのように感じつつ、ジェイムズは射線から逃れるべく、反射的に横に飛び込む。

 刹那、連続した射撃音と共に、先ほどまでジェイムズが立っていた位置に火箭が降り注ぎ、周囲に土埃を舞わせた。


 機銃掃射を終えた四四式戦闘爆撃機一型は、一度距離をとる。

 一方、寸での所で死神の鎌を躱したジェイムズは、先ほどの機体が再び機銃掃射を行ってくるだろうと考え、地面を這うように近くの茂みへと身を隠す。

 

 その後、再び四四式戦闘爆撃機一型が飛来したものの、ジェイムズの姿を見失ったのか、機銃掃射はせずに、程なく軍港区画上空へと飛び去っていった。


(ふぅ、何とか助かったか……)


 死の運命から間一髪逃れられ、安堵すると共に、噴き出した汗をぬぐうジェイムズ。

 そして、呼吸を整え終えた彼は、戦況の観察を続けるべく、リュックから望遠鏡を取り出すと、それを使用して再び観察を始める。



 二式艦上爆撃機三三型の群れは、爆撃を終えると早々に西の空へと引き上げていったが、四四式戦闘爆撃機一型の群れは、まるで何かの到着を待ち望んでいるかの如く、軍港上空を旋回している。

 やがて、西に広がる水平線上に、それは姿を現した。


「あれは、まさか戦艦か!?」


 望遠鏡を使い、水平線上に姿を現したものを目にして、ジェイムズは驚愕の表情を浮かべる。

 現れたのは、城の如く巨大な二隻の船を含む、数十隻にもなる艦隊の姿であった。


 その中でもジェイムズが特に目を奪われたのが、巨大な二隻の船。

 戦艦葛城と戦艦比叡の威容。


(何て巨大な艦上構造物だ。それに、背負式配置のあの主砲、海軍の最新鋭艦と同クラスか? いや、向こうの、あの三基も配置している方は、更に巨大か? く、せめて一発でも撃ってくれればな……)


 だが、ジェイムズの願いも空しく、二隻は主砲を放つ様子はなく、周囲の艦艇を見守る様に鎮座している。


 一方、そんな二隻の戦艦に見守られた艦艇の数々。

 地球において、第二次世界大戦中にアメリカ海軍が建造し、戦後に日本を含め多数の友好国に供与された、LST-1級戦車揚陸艦をモデルに。

 主機の変更により、オリジナルよりも二ノット程早い、最大速力一三ノットとなった、"特一号型大型揚陸艦"。

 更に、特一号型中型揚陸艦や上陸用舟艇等が、リポナの港のほど近くにある海岸を目指して、波を蹴立てていく。


(あの海岸に上陸する気だな。だが、上陸戦は、上陸する瞬間が最も無防備になる……)


 やがて、先頭集団が海岸の目と鼻の先にまで接近し、いよいよその瞬間が訪れる。


(ん? あの上陸艇、座礁覚悟で海岸に突っ込む気か!?)


 海兵達を載せた小型船が、速度を落とす事なく海岸に突っ込み、船体を乗り上げさせた。と思った、次の瞬間。

 何とその小型船は、そのまま何事のないかのように、海岸を移動し始めた。

 よく見れば、小型船の両弦には履帯らしきものが存在している。

 そう、それは上陸用舟艇ではなく、三式水陸両用装軌車であった。


(馬鹿な!? 砂の上を動いて……。いや、水陸両用の車輛か! なんてことだ、我が国でも研究が行われているが、まだ研究レベルの品物。それを、かの国はもう実用化のレベルにまで達しているのか!?)


 更に特三式内火艇も海岸に上陸し、一帯の制圧を完了させると、後続の揚陸艦や上陸用舟艇等から、次々と戦車や装甲車輛、更に海兵達が上陸を行っていく。


(あの変わった船首の形状は、上陸に適した形状の為か……。それにしても、前輪はタイヤなのに後輪は履帯か、奇妙な車輛だな)


 派生型を含め、三式半装軌装甲兵車のその独特の外見に、ジェイムズは疑問符を浮かべる。


(っ! あれがかの国の戦車なのか! 我が国の"ウィリー・Mk.IV"よりも小型に見えるが、あの砲塔に備えられているのは主砲か!?)


 だが、そんな疑問符も、三式半装軌装甲兵車に混じって姿を現した、戦車の姿を目にした瞬間に、あっという間に吹き飛んでしまう。


 六角形の様な車体には、三五トン重量を最大四〇キロメートル毎時で動かす強力なディーゼルエンジンを搭載し。

 バランスをとる様に後部が出っ張った砲塔、そしてそこから伸びるのは、マズルブレーキを備えた長く強力な75mm戦車砲。

 地球において、最強のシャーマンと呼ばれた、イスラエルがアメリカのM4中戦車を独自改良して生まれたM50戦車、通称スーパーシャーマンをモデルとする、大和皇国陸軍及び海兵隊の主力中戦車。

 オリジナル同様に多数の派生型を有する、"四四式中戦車五型"。

 それが、ジェイムズが目にした戦車の正体であった。


(な! なんて速さで動く戦車なんだ。……っ!! ま、まさかあれも戦車なのか!? 先程の戦車よりも強力そうだが)


 自身が知る戦車よりも、軽快な動きを見せる四四式中戦車五型に驚いていると、不意に五式重戦車が姿を現し、ジェイムズは更に目を見開いた。


(一体、それぞれどのような性能を有しているのか、気にはなるが……。あ、くそ! 黒煙で見えないじゃないか!)


 そんな二種類の戦車を含む、今回強襲上陸を果たした大和皇国海兵隊の第二海兵師団は、軍港区画に隣接する帝国陸軍の駐屯地へと攻撃を開始した。

 まさに、性能を探る事の出来る絶好の機会、かと思ったのも束の間。


 そこは丁度、ジェイムズのいる小高い丘からは、軍港区画を挟んでその奥に見える位置に当たる。

 その為、軍港区画で濛々と上がっている黒煙によって、肝心の戦闘の様子は妨げられてしまった。


 響き渡る砲撃音や銃声等、戦闘が行われている様が、耳を通して感じられるものの。

 その様子を目に出来ない、そんなもどかしさを、ジェイムズは感じずにはいられなかった。





 それから三時間程の後、鳴り響いていた爆発音や銃声等、戦闘の音が鳴り止み、上空を旋回していた四四式戦闘爆撃機一型の群れも西の空へと姿を消した頃。

 茂みから立ち上がり、衣服についた草や泥などを軽く払い落とすと、ジェイムズは満足げな表情を浮かべた。


 手にした紙の束には、先ほどの戦闘で活躍した大和皇国軍の兵器の数々の写生画が描かれている。


「できれば、戦闘の様子を見て、性能の大雑把な割り出しも行いたかったが……。ま、これでも、上は満足するだろう」


 そして、それら紙の束や羽ペン等の画材をリュックに戻すと、ジェイムズは深く息を吸い込み、深呼吸を行う。


「よし、それじゃ、これらの情報を無事に持ち帰る為にも、いっちょ走りますか」


 気合を入れ直したジェイムズは、リポナを陥落させた第二海兵師団に見つからないように、その場を後にするのであった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして引き続き、本作をご愛読いただければ幸いです。


感想やレビュー、評価にブックマーク等。いただけますと幸いに存じます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イケメン諜報員か。 既に島国では飛行機も鉄船も実用化されているとは、強敵だ。
[一言] ジェイムズという魔導画家……ぃったいどこの国の間者なんだ……。 今までの敵は、ワイバーンやマスケット銃、人型機械など、古かったり、ファンタジーなものでしたけど。これからは現代地球的な機械兵器…
2021/02/05 19:03 退会済み
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