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第四十四話 進撃の砲音

 マントーンの町での奪還戦から二日後。

 アリタイ帝国のカステル・サント・アンジェロ城内にある会議室では、奪還戦の結果報告を受けて、軍上層部による緊急の対策会議が行われていた。


「……、では、これより会議を開催する」

「……」

「……」


 司会進行役のロトエ国防参謀長が会議の開催を宣言するも、出席者達の表情は、皆一様に暗く。

 会議室内には、陰鬱な雰囲気が漂っていた。


「その前に質問が、ロトエ国防参謀長。ドゥーチェのお姿がお見えになられませんが?」

「あぁ……。ドゥーチェは、体調がすぐれない為、止む無く欠席されている」


 出席者の一人が質問した様に、本来であればこの会議には、軍の最高司令官であるムリーニ大元帥も出席する筈であった。

 所が、悪夢のような報告をまたお酒の力で忘れようとした為か、体調を崩してしまい、欠席する事になってしまった。


「では改めて。先ずは、現在の戦況を再確認する」


 最も、ロトエ国防参謀長についても、心身ともに相当疲労がたまっている様で、開戦前の自信に満ち溢れていた彼の面影はなかった。


「我が帝国軍は、日時こそ五日ほど繰り上がったものの、先ず当初の計画通り、空軍の第一爆撃竜騎士団がアリガ王国の軍港であるロートゥンへの奇襲攻撃の為出撃。一方同日、陸軍の西方軍集団、その前衛軍六万がマントーンの町を制圧すべく進軍を開始した」


 一拍間を置き、ロトエ国防参謀長は更に言葉を続けた。


「だが、第一爆撃竜騎士団はロートゥンへの攻撃こそ成功させたものの、その被害は当初想定していたものよりも遥かに小さく、逆に第一爆撃竜騎士団は全滅。西方軍集団前衛軍については、町こそ制圧に成功したものの、予想以上の、特に上空援護として同行していたワイバーン・エリート四十騎を失うという手痛い被害を受けた」

「……」

「その後、開戦繰り上げの混乱で事後通達となってしまったが、アリガ王国に対して宣戦を布告。この時、かの国、ヤマト皇国がアリガ王国との同盟規定に従い参戦を表明した」

「今思えば、この時にでも気付けてればな……」

「おほん! その後、再びロートゥンへの攻撃、及び未だ健在な王国海軍マレ海艦隊を撃破すべく、海軍の無敵艦隊が出撃。……だがその結果は、諸君も知っての通り、艦隊は六割もの損害を受けて敗走し、援護に駆け付けたワイバーン三百騎も全滅した」


 一旦ロトエ国防参謀長がそこで間を置く。

 すると、改めて告げられた事実を聞き、出席者達の表情は更に沈んでいく。


 誰もが、第一報を聞いた時は、そのあまりに荒唐無稽な内容に懐疑的になった。

 だが、その後にもたらされる続報を知り、それらが事実であると認めざるを得なくなっていった。


「そして二日前。マントーンの町にて野営していた西方軍集団が、翼に四つの羽根車を持った巨大なドラゴンの如くワイバーンからの攻撃を受け、甚大な被害を受けた後、ヤマト皇国軍の部隊の攻撃を受け、ミハセギ将軍を含め、約三七万もの兵員を失い壊滅した」

「……」

「そして、国境を越えて生き残った兵達の報告や、これまで収集した情報を精査した結果。開戦以来、我が帝国軍に多大な被害を与えていたものの正体が、ヤマト皇国が有する兵器の数々であると、判明した」


 よどんだ空気が更によどみ、会場内の空気が更に重みを増していく。


「あ、あの報告を、ヤマト皇国の兵器の存在を知ったあの報告を受けた時に、開戦を思いとどまるべきだったんだ! 我が軍のワイバーンよりも強力なワイバーン、城をそのまま浮かべた船、AGよりも強力な、地を這う鋼鉄の兵器。そんなものを使徒する連中に、勝てる筈なんてない!!」


 堰を切ったように、出席者の一人が声を震わせながら叫んだ。


「そもそも、ドゥーチェがあの土地に拘りさえしなければ、今頃こうして怯えずに済んでたはずだ!」

「貴様!! ドゥーチェに対して何たる物言いだ!」

「だがそうじゃないか! あの土地に、アリガ王国に攻撃さえしなければ、ヤマト皇国と戦う事はなかった! 帝国が滅亡の危機に直面する事もなかった!」

「貴様!! 何だその言い草は!! 我が帝国軍はまだ全滅した訳ではないぞ!!」

「これまで被害を受けた戦力は何れも、侵攻作戦の為に揃えた精鋭です! それですら敵わなかったというのに、残りの戦力でどうやって挽回するおつもりで!?」

「そうだ、もう駄目だ、おしまいだぁ……」

「今ならまだ間に合う! 向こうの条件を飲んで停戦すべきだ!」

「そうだ、そうしよう!!」


 やがて、堰を切った出席者の恐怖が伝染したのか、出席者の数人が口々に悲観的な言葉を口にし始める。

 だが、そんな出席者達を、継戦派である出席者達は、彼らを会議室から追い出すのであった。


 こうして、再び会議室内に静寂が戻った所で、ロトエ国防参謀長が再び話を始めた。


「さて、戦況を鑑みるに、ヤマト皇国及びアリガ王国が帝国に逆侵攻してくる可能性が高く、早急に本土の防衛体制を再考しなければならない。そこで、皆の意見を聞きたいと思う」


 刹那、一人の出席者が挙手すると、自らの考えを述べ始めた。


「現在、王国との国境にほど近い"アリペイン"の町において、西方軍集団の増援として準備していた十万の兵力が駐留しています。同兵員を、そのまま陸軍の北部軍集団に組み入れ、防衛戦力を整えます! 如何に摩訶不思議な兵器を使用しようとも、国内ならば地の利は我らにありますので、国境を越えてきた敵軍は、このロマーンに辿り着く事無く、瞬く間に尻尾を巻いて出ていくでしょう!」


 自信ありげに意見を述べた出席者に対し、ロトエ国防参謀長は不安を覚えない事はなかったが、彼の意見を参考に、国境方面の防衛戦力を整える事を決定する。


「それから、我が軍のワイバーン・ボンバーと同様の用途に使用していると思しき巨大なワイバーンの侵入に対し、北部一帯の監視体制を強化すべく、北部担当の空軍部隊には、監視体制を二十四時間の交代制にするべきかと」

「ふむ。そうだな、そうしよう」

「また、万が一に備えて、南部軍集団から北部軍集団へ、ある程度の兵力を増援として送るべきかと」


 最後の意見には、アリタイ半島南部の防衛戦力の低下が懸念され、即決こそしなかったものの。

 後に、敵が半島南部より攻めてくる可能性は低いと判断し、南部軍集団から、増援として兵力の抽出が行われる事となった。


 こうして、半島北部における防衛体制を強化し、敵の侵攻を防いで膠着状態を作り出し、何とか時間を稼いでいる間に、打開案を打ち出す。

 そんな思惑をもって、その後も会議は続けられたが。

 この会議の一週間後、軍上層部は大和皇国の力を、文字通り兵士達の血をもって味わう事となった。





 まず最初に悲鳴の如く報告が発信されたのは、ノリトの近郊に存在していた、帝国空軍のノリト飛行場からであった。

 夜明けと共に、護衛の戦闘機群に護られながら、西北西の空より飛来した第二〇爆撃飛行隊。

 迎撃に上がった帝国のワイバーンを、護衛の戦闘機たちに対処させながら、ノリトの上空を悠然と飛行した二式飛行艇四ニ型の編隊は、ノリト飛行場上空へと到達すると、機内に内包していた爆弾を投下し始める。

 次の瞬間、ノリト飛行場は次々に降り注ぐ爆弾を受けて、瞬く間にその姿を燃え盛る炎と濛々と立ち上る黒煙の中に消した。


 程なく、目的を果たし終えた第二〇爆撃飛行隊と護衛の戦闘機群は、翼を翻し、西北西の空へと消えていった。



 同じ頃、アリペインの町の近郊でも、死と破壊の音色が奏でられていた。

 最も、こちらは主に砲撃や銃声によるものであるが。


「ぁぁぁっ!!」


 砲兵部隊の只中に幾つもの爆発が生じ、半カノン砲や砲兵達を吹き飛ばす。

 多くの砲兵は吹き飛ばされた後、二度と起き上がる事はなかったが、幸運にも起き上がった砲兵達も、その衣服をボロボロにし、体の各所を自らの血で染め上げていた。


「進めぇーっ!!」

「うわぁぁぁっ!!!」

「ちくしょーっ!!」


 一方、射点へ辿り着くべく、恐怖を打ち消すかのように声を張り上げながら、大地を駆ける戦列歩兵の銃士達。

 だが、そんな彼らに対し、無情な銃弾の嵐が降り注ぐ。


 戦車の同軸機銃、車輛搭載の重機関銃、更には皇国陸軍歩兵達が手にした銃器の数々。

 総数は少ないというのに、繰り出されるその圧倒的な弾幕を前に、戦列歩兵の銃士達は次々と大地に倒れていく。

 また、歩兵や銃士よりも機動力に劣る重装歩兵達も、その強固な盾と鎧で銃弾の嵐を防ぎつつ前進を試みたものの、降り注いだ銃弾は容易く盾や鎧を貫通し、目論見とは裏腹に、一人また一人と落語していくのであった。


 一方、そんな機動力のない味方の兵科を援護するべく、騎兵部隊がその機動力を用いて、大和皇国陸軍部隊の側面や背後に回り込み、強襲を試みる。

 だが、そんな騎兵部隊にも、無情な銃弾の嵐が襲い掛かった。

 即座に身を隠す事の出来ない騎兵達は、相棒の軍馬共々火箭に貫かれると、大地に倒れていく。


 更に、追い打ちとばかりに迫撃砲や歩兵砲。また戦車や、八輪式の偵察戦闘車。

 お椀をひっくり返したような砲塔に75mm戦車砲を搭載し、前後対称の車体、八つのタイヤを有する、その名を"四四式偵察戦闘車"。

 地球においてフランスが開発・製造、さらに複数の国にも輸出された偵察戦闘車、EBR装甲車をモデルとした偵察戦闘車だ。

 オリジナル同様、前後に運転席を持ち、後部操縦手は無線手を兼任している。その他NBC防御能力や水上航行能力がないのもオリジナルと同様だ。

 ただ、オリジナルでは中央の二輪がタイヤではなくスパイク付きの鉄輪であり、必要に応じて四輪式と八輪式を使い分ける事が出来たが。

 四四式偵察戦闘車では、全てがタイヤとなっている為、使い分けは出来ない。また、同車の派生型として、兵員室を設け、車体中央部にブ式7.7mm重機関銃 M1919を装備した銃塔を設けた装甲兵員輸送車型も存在する。


 それら車輛の主砲による砲撃を受け、相棒の軍馬ごと吹き飛ばされる。


「中隊、行くぞ!! 我々の打撃力をもって、この状況を打破する!」

「おぉぉっ!!」

「うぉぉぉっ!!」


 一方、そんな銃弾の嵐の中を、地響きを発しながら駆け抜ける、十二機の巨人の姿があった。

 アリタイ帝国のAG、ラッポチ十二機からなる中隊は、味方の被害を他所に、敵部隊に接近するべくひたすらにその足を動かし続ける。

 通常ならば、その巨体は遠目からでも目に付くところであるが、幸い今回は、敵の砲撃により、周囲には土煙や黒煙が舞い上がっており、それらを利用して、中隊は敵部隊の側面へと接近しつつあった。


 しかし、煙の切れ目で発見されたのか、銃弾の嵐が中隊を襲った。

 だが、飛来した銃弾は、アニデルサ島で採掘される良質なミスリルを贅沢に使用したラッポチの装甲に弾かれ、機体の周囲に火花を咲かせるだけであった。


「見ろ! このラッポチの防御力の前には、奴らの銃器等豆鉄砲だ!」

「おおおっ!」

「いくぞぉぉっ!!」


 中隊長の声に、部下達は士気を最高潮にまで高めたのか、雄たけびを上げる。

 そして、誰もが、自分達が英雄として凱旋を果たす。そんな未来を脳裏に思い描いた。


 しかし、そんな彼らの未来を打ち砕く死神が、上空より姿を現す。


「何だ?」

「ち、中隊長!? 敵のワイバーンがこちらに突撃してきます!」

「な、何だよあれ!? 翼が、上下反転しているのか!?」


 翼が上下反転していると形容されたそれは、逆ガル翼の事で。

 そんな特徴的な主翼を有した航空機は、大和皇国でも数えるほどしかいない。


「ん? 翼から何かが──」


 そして、その特徴的な逆ガル翼の翼下に搭載していた細長い棒状のものが、轟音と共に放たれた次の瞬間。

 突如、操縦していた機体を衝撃が襲ったかと思うと、操縦者である操縦兵の意識は、永遠の闇の中へと葬り去られた。


「ひ! な、何だ!? 一体何が起こったんだ!!?」


 最後尾に位置していた為、難を逃れたラッポチの操縦兵は、今し方目の前で起こった事が理解できなかった。

 突如、轟音と共に細長い棒状のものが飛来すると、弾着と共にそれらは爆発を起こし、上官や同僚のラッポチを、ただの鉄塊へと変貌させた。


 その正体は、四四式戦闘爆撃機二型の翼下に搭載していた空対地墳進弾(ロケット弾)

 地球においてアメリカ軍が開発・運用した|高速航空ロケット《High Velocity Aircraft Rocket》、頭文字をとってHVARをモデルとした、四四式空対地墳進弾(ロケット弾)

 同弾を使用しての対地攻撃によるものであった。


 だが、空対地墳進弾なるものを知らない操縦兵は、目の前で起こった理解を越えた出来事に恐怖すると、その手に装備していた巨大なメイスを捨てると、一目散に逃走を始めた。

 しかし、非情なプロペラ音が背後に響き渡った、次の瞬間。

 重低音と共に火箭が降り注ぐと、20mm弾がラッポチの巨体を背中から貫き。程なく、その巨体を金属音と共に大地に横たえさせた。


「は! この烈風の力、見たか、ロボット野郎!!」


 こうして、ラッポチ十二機を瞬く間に葬った四四式戦闘爆撃機二型の群れ。

 それを指揮する菅大尉は、吐き捨てるように言葉を零す。


「しかし、近接航空支援だけじゃつまらないな……。オレ達とやり合おうって気概のあるワイバーンはいないのか!?」

「隊長、ブリーフィングを聞いてなかったんですか? 今頃空軍の爆撃団がノリト近郊にある飛行場を爆撃している頃ですから、敵ワイバーン部隊の増援はないかと……」

「なにぃっ!?」


 副隊長からの説明に、菅大尉は納得いかない旨を口にするも、副隊長に諭され、渋々納得するのであった。



 町の近郊で行われた、その様な戦場の様子を、町の周囲に設けられた城壁の上から望遠鏡を用いて眺めていた人物がいた。

 初老の人間の男性で、その名をアメデオ将軍と呼ばれる、アリタイ帝国陸軍の将軍の一人にして、今し方皇国軍と対峙している帝国陸軍の司令官である。


 斥候からの報告で、進軍してくる皇国軍の兵力が、自身の隷下にある十二万に及ぶ兵力よりも少ない事を知り、将軍は隷下の兵力に戦闘配置を命令した。

 だが、地平線上に皇国軍が姿を現したと共に奇妙な音が聞こえ、次の瞬間、展開していた隷下の部隊が、次々と謎の爆発に巻き込まれ始め。

 その光景に呆然となった将軍の理解が追い付かない内に戦闘が開始され、その後の展開は、上記の様に一方的な様相を呈していた。


「空軍への連絡は、まだつながらんのか!」

「さ、先ほどから、何度も連絡しているのですが。ノリト飛行場からの応答は依然として……」

「く!」


 参謀からの報告を聞き、アメデオ将軍は悔しさを滲ませながら胸壁を掴んだ。

 戦闘配置を命令する一方で、将軍はノリト飛行場の空軍部隊に対して支援の要請を行おうとした。

 だが、ノリト飛行場からの応答はなく、その後も継続的に連絡を取ろうと試みていたが、やはり応答はなかった。


「将軍、いかがなさいますか……」


 最も、空軍部隊の支援を得られたとしても、果たして戦局に影響を与えたかは分からない。

 何故なら、上空には四四式戦闘爆撃機二型の群れが旋回し、仮にそれを突破したとしても、漸く射点に到達した部隊から放たれた、弓やマスケット銃の弾丸を弾き返す戦車の堅牢な防御力。そして、半カノン砲よりも連射力があり、威力も高い、轟音と共に部隊を吹き飛ばす主砲の攻撃力。

 更には、敵陣から絶える事無く降り注ぐ弾幕。


 最早、この圧倒的な力を前にしては、空軍部隊の支援等、焼け石に水となる事は、火を見るよりも明らかであった。


「予備兵力を、投入なさいますか?」


 そして、町中に予備兵力として七千程の兵力を待機させてはいたが、十一万もの兵力で敵わなかった相手に、たったの七千程で打破できる筈もなく。

 考えた末、アメデオ将軍は決断を下した。


「町中には、まだ避難していない住民が多くいる。このまま徹底抗戦を行っては、彼らまで戦闘に巻き込まれる。……残存する全部隊に連絡、直ちに戦闘を停止し、武装を解除せよ。遺憾ながら、敵に投降する」

「は! 了解しました」


 町中にいたのは予備兵力だけではなかった。

 逆侵攻の可能性を考慮し、進軍の予測経路上にある村や町では、住民の避難が行われていた。

 だが、皇国側の進軍速度は帝国側の想定以上であり、その為、まだ町の住民の避難は三割ほどしか完了しておらず。未だ、七割もの住民が町に残っていた。


 こうした住民の存在や、これ以上の兵達の無益な犠牲を鑑み、アメデオ将軍は投降の選択を選んだのであった。


 この後、魔石通信機を通じて残存していた全部隊に命令が伝えられると、各部隊は戦闘を停止。

 白旗を掲げ、次々と武装を解除すると、皇国陸軍の歩兵達に捕虜として捕らえられていった。


 今回の戦闘において帝国軍側は再びの大敗を喫し、約九万もの兵力が犠牲となった。

 ただ前回と異なり、指揮系統が機能していた為、約三万程の兵達が、捕虜の身ながらも生き残る事が出来た。


 因みに、この戦闘での大和皇国側の被害は、数十人の死傷者というものであった。





 その日の夕刻。

 ノリト飛行場が爆撃を受けて破壊された事や、アリペインの町が大和皇国軍に制圧され、同地域に展開していたアメデオ将軍隷下の兵力が戦闘に敗北した情報が帝国軍上層部へと舞い込む。

 すると、カステル・サント・アンジェロ城内は、まさに蜂の巣をつついたような様相に変貌した。


「どうなってるんだ!? もうアリペインの町が制圧されただと! 早い、早すぎる!?」

「アメデオ将軍隷下には、合計で十二万程の兵力があった筈だ。それがたった一回の会戦で六割も失うなど……」

「それよりも、敵の進軍速度が速すぎる! このままでは、"ヴァノジェ"やラ・アチぺス等、北アリタイの主要な都市を失うぞ! こうなれば、南部のみならず、中部からも兵力を送るべきだ!」

「ちょっと待て! 北西部防空の要であるノリト飛行場が破壊されたんだ、防空監視体制に穴があいたんだぞ!」

「まだ北部の防空体制が壊滅した訳ではないだろ? まだ"ノーミラ"の飛行場は健在だ、あいた穴はノーミラでカバーすればいい」

「例の大型ワイバーンがノーミラの飛行場まで爆撃しに来たらどうする!? 今回と同じことをまたやられるぞ!」

「では他にどう対処しろと言うんだ! 飛来するかどうかも分からない敵よりも、既に侵攻してきた敵への対処を最優先とするべきだ!」


 普段ならば、夕食の席に座り談笑でも交えながら夕食を楽しんでいたであろう軍上層部の面々。

 しかし今回は、作戦会議の席に座りながら、怒号を交えて、進軍してきた大和皇国軍への対処に頭を悩ませていた。


 なお、ヴァノジェとはアリタイ半島北西部にある港湾都市の一つで、帝国内でも屈指の貿易港でもある。

 当然、同都市を大和皇国側に制圧されれば、帝国にとっては大打撃となるのは必須だ。

 更に、そこから七五キロメートルの程の距離にアチぺスが存在している。

 また、ノーミラとは、北アリタイにある都市で、帝国内でも首都ロマーンと並ぶほど、帝国を代表する都市の一つである。


 そして、これらの都市は、いわば帝国における産業や経済にとっても極めて重要な都市であり。

 これらの都市を失う事は、防衛の観点からも、国家運営の観点からも、絶対に回避すべき事であった。


「ロトエ国防参謀長、最早猶予はありません。北部防衛の為、中部や南部からの速やかな兵力の移動をご決断ください」

「……、よし、分かった」


 懸念はあるものの、差し迫った脅威に対処するべく、帝国軍は北部軍集団に対して、中部及び南部軍集団から、中部は四割、南部からは約六割もの兵力を増援として送られる事となった。

 だが、この時ロトエ国防参謀長が懸念した半島南部の防衛戦力の低下は、後に現実のものとなるのだが。

 この時はまだ、知る由もなかった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして引き続き、本作をご愛読いただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帝国が可愛そう。 これならチハたん装備ですらオーバーキルだったんじゃない?
[気になる点]  地図がないから位置関係が良くわからん。
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