第三十八話 マントーンの町の戦い
ロートゥン空襲より数十分後。
アリタイ帝国領側から天高くに立ち上る狼煙と共に、風に乗り聞こえてきた角笛の音色は、マントーンの町からも確認できた。
同時に、地を覆い尽くさんばかりの、歩兵や騎兵、弓兵に銃士、更には馬に牽引された半カノン砲や牽引式バリスタ。
更に、玉葱を彷彿とさせる両肩のデザインに、三本指のマニュピュレーター、全体的にどっしりとした機影は、カルヴァドともアーパシュとも違った印象を受ける、全高三メートルを誇る鋼鉄の巨人。
この機体こそ、アリタイ帝国製のAG、その名を"ラッポチ"。前記の二機種と比べると機動力に難があるも、見た目の通り防御力では優れているAGである。
それが十数機、周囲の軍勢と共に、重厚な足音を立てて、一路マントーンの町を目指して進軍している。
この時点で、第一爆撃竜騎士団のロゲールア飛行場への未帰還の一報は、まだアリタイ帝国軍上層部には届いていなかったが。
アリタイ帝国軍は、当初の侵攻作戦に従い、侵攻の為に用意した兵員総数四十万を誇る陸軍の西方軍集団、そこから六万もの兵員を擁する前衛軍の軍勢をマントーンの町へと進軍させた。
そしてそんな軍勢の上空には、空軍のワイバーン・エリート四十騎程が、進軍の様子を見守っていた。
一方、マントーン国境警備隊の司令部は、この事態に騒然となる。
隊長のフロラン大佐は、表情にこそ現さなかったものの、その内には焦燥感が渦巻いていた。
マントーン国境警備隊には、近年の国境での緊張状態に伴い増員され、一万程の兵員を擁している他。
半カノン砲やカルヴァド数機が配備され、また常駐の竜騎士隊としてワイバーン三十騎等。それなりの戦力を保有していた。
だが、軍事学の攻撃三倍の法則に照らし合わせれば、前衛軍六万という数は三倍どころか六倍。もはや、圧倒的というべき戦力差であった。
(情報では、まだ侵攻開始までは数日の猶予があった筈だが……。昨日の軍事演習が裏目に出たというのか……)
アリタイ帝国が開戦を思いとどまる所か、逆に開戦を繰り上げてきた事に、フロラン大佐は目を閉じると、静かに悔しさを滲ませるように拳を握り締めた。
だが、もはや起こってしまった事は変えられない。ならば、今はこの事態に対して最善を尽くす。と気持ちを切り替えると、目をカっと見開き、声を張り始める。
「住民の避難は?」
「は! アリタイ帝国侵攻の知らせを聞き、漸く最後の一団が避難用のトラックへの乗車を開始しました!」
マントーンの町では、昨日の軍事演習の際の安全確保、という名目で、実際にはアリタイ帝国との開戦を想定して、数日前から町の住民の疎開が開始されていた。
しかしながら、一部は愛する故郷の町を離れたくないと拒んでいた為、疎開する様に説得を続けていたのだが。
ここに来て漸く、その一部の住民達も応じ、住民全員の避難の目途が立ったのだ。
「南東管区司令部への援軍要請はどうなっている?」
「は! それが……。ロートゥンの軍港、及び市街地に対する、アリタイ帝国軍の竜騎士隊による攻撃が行われたようで、更なる攻撃に備え、スジュレフ駐留の車輛部隊はロートゥンに向かったと」
「っ! 馬鹿な!? 一体どうやって!?」
「それが、情報によれば、沿岸沿いからではなく、マレ海を横断してきたと」
「何という事だ……。では、ヨ―リンにいる空軍の飛行機械部隊は!?」
「そちらも、ロートゥンへの対応を行った為、燃料や弾薬の補給を行ってからとなり、しばらく時間がかかるとの事です」
「くそ!」
部下からの報告を聞き、フロラン大佐は堪らず近くの壁に拳を叩きつけた。
当初の想定では、帝国との開戦に際してマントーンの町の防衛には、駐留しているマントーン国境警備隊の他、昨日の軍事演習に参加したアリガ王国陸軍の車輛部隊も参加する事となっていた。
所が、マントーンとロートゥンの中間に位置するスジュレフ、同地に駐留していたその車輛部隊は、帝国が侵攻開始を繰り上げた事により、侵攻開始前にマントーンの町への移動を完了させる事が出来ず。
それどころか、一足先にロートゥン空襲が行われ、王国側は帝国軍によるロートゥン上陸を警戒し、車輛部隊は急遽ロートゥンへと派遣されてしまった。
一応、ジュレフには従来型の部隊も駐留してはいたものの、車輛部隊と比べると移動速度が遅く、援軍としてはとても間に合いそうになかった。
また、大和皇国の陸上部隊も、侵攻開始前に王国南東部への移動を計画していた為に、現状では駆け付ける事は叶わない。
唯一間に合いそうなヨ―リン空軍基地も、出撃可能な全機がロートゥン空襲へと駆け付けた為、間に合うかどうかは不透明であった。
「……仕方がない。現有の戦力で残った住民の避難が完了するまでの時間を稼ぐ。避難作業を急ぐように伝えてくれ」
「は!」
「それから、マリユス少尉をここへ」
フロラン大佐は現在の戦力で何とか対処する事を決意すると、直ぐに部下に指示を出す。
程なく、司令部内に、九八式軍衣や九〇式鉄帽等の被服装備を身にまとい、少尉の階級章を付けた、一人の若い男性軍人が現れる。
「お呼びでしょうか、フロラン大佐」
「マリユス少尉。既に知っての通り、アリタイ帝国の大軍勢がこの町に迫っている。だが、避難作業が完了するまでには、今しばらくの時間が必要だ。そこで、少しでも時間を稼ぐべく、少尉達護衛小隊の力も貸して欲しい」
マリユス少尉と呼ばれた陸軍少尉が指揮する小隊は、マントーン国境警備隊に所属する部隊ではなかった。
彼らは、マントーンの町の住民達が町から避難する際に輸送を行う輸送隊の護衛として随伴していた部隊であった。
その為、フロラン大佐の指揮下にはなかったのだが、マリユス少尉は二つ返事でフロラン大佐の指揮下に一時的に加わる事を了承すると、直ちに小隊所属の各分隊が各々の配置についていく。
やがて、地平線の彼方より、前衛軍六万もの大軍勢が姿を現す。
その圧倒的な威容を誇示するかの如く、威風堂々たる進軍の姿を、物見塔から双眼鏡を使って目にしたフロラン大佐は、一瞬その姿に圧倒され息を呑む。
しかし、直ぐに気持ちを引き締め直すと、直ちに竜騎士隊に出撃の合図を出す。
マントーンの町の戦いは、先ず空から始まった。
マントーン国境警備隊所属のワイバーン三十騎は、直ぐにマントーンの町から上空へと舞い上がると、編隊を整えて、前衛軍の上空へと向かう。
対して、帝国空軍のワイバーン・エリート四十騎も、みすみす制空権を国境警備隊に明け渡すつもりはなく、ワイバーン三十騎の迎撃に打って出る。
そして、両軍のワイバーンが、空中で互いの翼を交え始める。
数で言えば帝国空軍の方に優位があったが、国境警備隊の竜騎士達は、技量ならば自分達の方に優位があると考えていた。
だが、彼らが対峙したのは従来の種ではなく、品種改良の種であるワイバーン・エリート。
日ごろの訓練で磨かれた技量を遺憾なく発揮し奮闘し、ワイバーン・エリートを五騎程墜としたが。その代償として、国境警備隊所属のワイバーン三十騎は、全て空に散った。
「あれが、ワイバーン・エリートの力か!」
空戦の結果を目にし、フロラン大佐は奥歯を噛みしめながら、物見塔の欄干に拳を打ち付けた。
事前にワイバーン・エリートの諸元等の情報は知ってはいたが、心のどこかで、その数値が誇張されたものではないかと思い込んでいた。
所が、今回の空戦の結果を目にし、それが誇張などではない事を、フロラン大佐は強烈に痛感させられた。
こうして、当初の想定よりも早く空戦の結果が出た所で、フロラン大佐は悔しさを噛みしめながら物見塔を後にする。
何故なら、前衛軍から鳴り響く角笛と太鼓の音色に乗って、陸戦の開始が差し迫っていたからだ。
指揮所へと戻ったフロラン大佐は、部下から、戦列歩兵を最前列に、その後ろを革製の鎧を着込み槍を装備した歩兵の戦列を始め、全身鎧と盾で完全武装した重装歩兵や弓兵、そして戦闘魔導師や砲兵に騎兵、更にはラッポチ。と、前衛軍六万の各兵科が陣形を組んで行進を続けているとの報告を受ける。
「ワイバーン・エリートは動く気配がないんだな?」
「は! 敵ワイバーンは上空を旋回するのみで地上に向けて攻撃を行う素振りを見せておりません」
制空権を見事に奪い、もはや勝った気でいるかの如く帝国軍の動きを聞き、フロラン大佐は一瞬、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、ならば油断している帝国軍の連中の度肝を、一発抜いてやるとするか。……マリユス少尉!」
「は!」
「既に準備は出来ているな?」
「勿論です。いつでも撃てます!」
「なら、一発度肝を抜く奴を頼むぞ!」
「は!!」
そして、同じく指揮所にいたマリユス少尉は、無線機を使い、とある分隊に攻撃命令を出す。
その分隊は、マントーンの町を囲む城壁の上、六万もの大軍勢がよく見える位置に配置していた。
「構え!」
分隊長の声と共に、射手を務める兵士達は片膝をつくと、手にした筒状の物体。
そう、八九式重擲弾筒を構えると、引き金に手をかける。
彼らこそ、小隊の火力支援の要である擲弾筒分隊であった。因みに同分隊には、合計で三門の八九式重擲弾筒が配備されている。
「撃てぇっ!!」
そして、分隊長の号令と共に射手が引き金を引くと、砲本体から専用の50mm砲弾が発射され、山なりの弾道を描きながら、前衛軍六万の陣形内に飛来する。
「ん?」
「何だ?」
「おい、誰かの腹の音か?」
「ははははっ!!」
聞いた事もない奇妙な飛来音に、前衛軍の兵達が冗談交じりに軽口を放った、刹那。
突如、砲兵部隊の方から耳をつんざく炸裂音が響き渡ると共に、三つの爆発が生じた。
「な、何だ!?」
「おい、砲兵の誰かがぶっ飛ばしたか!?」
その突然の出来事に、行進が一時止まり、周囲の兵達は黒煙の立ち上る砲兵部隊の方を詮索するように見つめ始める。
爆心地と思しき周辺には、爆発の衝撃で車輪が壊れ走行不可能になった半カノン砲や、地面に倒れたまま動かない、或いは痛みでもだえ苦しむ砲兵達の、悲惨な光景が広がっていた。
砲兵の誰かが誤って砲弾に引火でもさせたのかと、この出来事が事故なのかと思った、刹那。
マントーンの町の城壁方向から射撃音らしき音が聞こえたと共に、程なく先ほど聞いた奇妙な飛来音が再び響き渡る。
そして、次の瞬間。
今度は戦闘魔導師の部隊から、三つの爆発が生じた。
「こ、攻撃だぁーっ!! 王国軍からの攻撃だぁぁっ!!」
ここに至り、前衛軍は漸く先程の爆発が、王国側からの攻撃であるとの認識に至った。
「馬鹿な! 城壁からここまで、六百メートル以上はあるぞ!?」
だが、それは同時に、前衛軍の兵達にとっては信じられない事でもあった。
射点と思しき城壁から、攻撃地点である場所までは六百メートル以上は離れている。
これは砲兵部隊が有している半カノン砲の有効射程を、百メートル以上上回るものであった。
勿論、最大射程となると同等の距離を飛ばす事は可能ではあるが。弾着時の様子から、あれは目標に命中させ、弾着時に最大効果を発揮する、有効射程内での射撃である可能性が高かった。
そして、その事実が、前衛軍の兵達を浮足立たせた。
「し、新兵器だ! 王国軍の新兵器!」
「いや、あれはきっと新しい魔法の一種だ!」
「だが魔力反応は確認されていないぞ!」
「こ、こっちはまだ射点にすら到達してないのに……」
「このままじゃなぶり殺しだ!」
動揺が広がるのに、そう時間はかからなかった。
兵達の間に動揺が広がっていると感じ取った前衛軍の指揮官は、直ちに動揺の鎮静化を図るべく各隊長に指示を出すと共に、上空のワイバーン・エリートにも、魔石通信機を使い元凶である謎の兵器の始末を指示する。
そして、五騎程のワイバーン・エリートが城壁へと飛来する様子を見て、前衛軍の指揮官が一安心した、次の瞬間。
聞いた事のない連続した射撃音が響き渡ると、先程の空戦では圧倒的な姿を見せていた五騎のワイバーン・エリートが、次々と鮮血を放ちながら、地に墜ちていった。
それは、擲弾筒分隊と共に城壁上に配置されていた、機関銃分隊の装備した九六式軽機関銃の仕業であった。
だが、九六式軽機関銃の仕業であると知る由もない前衛軍の兵達には、その光景が更なる動揺を誘った。
「臆するな!! 我らはアリタイ帝国陸軍が誇る猛将、"ミハセギ将軍"の指揮する西方軍集団だ!! 西方軍集団には臆病者などおらぬ!! 進め!! 前進だ!!」
だが、前衛軍の指揮官の大音声が響くと共に、陣形の後方に位置していたラッポチ数機が、その手に装備していた巨大なメイスを地面に叩きつけ、地響きを湧き起こす。
刹那、止まっていた行進が再開される。
それは、前衛軍の指揮官の言葉を聞き、動揺を克服したからではなく。前衛軍の指揮官の言葉と共に、ラッポチ数機の先ほどの行動を見て、兵達が理解したからであった。
ラッポチ達が、"督戦"の任を帯びたという事。
王国軍と戦って死ぬ恐怖と、命令を無視してラッポチの手にした巨大なメイスで叩き殺される恐怖。
前衛軍の兵達は両方の恐怖を天秤にかけ、そして、最終的には後者の恐怖が勝ったのであった。
前衛軍が行進を再開すると共に、上空のワイバーン・エリートも、再び城壁上へと攻撃を仕掛ける。
しかも今度は、残る三十騎全騎でだ。
これで、城壁上にいた見慣れない格好の兵士達を始末できる。
ワイバーン・エリートを率いる部隊長はそう確信した。
だが、次の瞬間。奇妙な音が聞こえると共に、先ほどとは比較にならない重低音の連続した射撃音が響き渡ると、前方を飛んでいたワイバーン・エリート数騎が血しぶきと共に地面へと墜ちた。
「な! 何だ!?」
次の瞬間、自分達の頭上を横切り交差するように、鋼鉄の怪鳥達が姿を現した。
それは、三式艦上戦闘機二機と零式艦上戦闘機三二型二機の計四機の戦闘機であった。
「あれは!? 偵察隊の報告にあった奇妙なワイバーン!」
軍事演習を偵察していた偵察隊からの報告を読んでいた部隊長は、二機種の戦闘機を前にして、同じ空を飛ぶ者同士、一戦交えてみたいと闘志に火が付いたのだろうか。
攻撃目標を、擲弾筒分隊から四機の戦闘機へと変更すると、空中戦を挑み始めた。
一方、戦闘機四機だけとはいえ、航空戦力の援軍を得た国境警備隊は、行進を続ける前衛軍へ向けて、更なる攻撃を開始していた。
有効射程でも半カノン砲の有効射程に匹敵する射程を誇る三八式歩兵銃、同小銃を装備した護衛小隊は歩兵分隊からの銃撃に、最前列を務めていた戦列歩兵の銃士達はたちまち恐怖状態へと陥った。
それもそうだろう。彼らが装備しているマスケット銃の平均的な有効射程は百メートル前後、ところが、発火炎から弾着地点まで、四倍以上もの距離が離れている。
勿論、ただ飛ばすだけならばマスケット銃でも可能だが、歩兵分隊からの銃撃は、確実に命中弾を放っているのだ。
自分達の常識ではまだ射程外の筈が、今回はもはや射程内に入ってしまっている。
性能の違い過ぎる装備を手にした相手を前に、銃士達は射点へとたどり着くまでに撃たれるのではないか、その恐怖にかられ。
気づけば、遂に隊列を乱して我先にと逃げる銃士が現れ始めた。
それに気付いた下士官や隊長等が、手にしたフリントロック式拳銃やサーベルで敵前逃亡を図った銃士を始末し、残った銃士達に隊列を整えて前進を続けるように怒気をはらんだ声で厳命を下していく。
その厳命に銃士達は再び隊列を戻すと、行進を再開していく、自身が撃たれませんようにと祈りながら。
一方、戦列歩兵以外の隊も、最前列ではなくとも攻撃にさらされていた。
砲兵隊や戦闘魔導師部隊は、その射程の長さと威力から、八九式重擲弾筒による砲撃にさらされ。
機を見て突撃を仕掛ける筈の騎兵たちも、九六式軽機関銃の銃撃により次々と倒されていく。
だが、流石に護衛小隊一個分の火力だけでは、行進速度を遅らせる事には成功しても、六万もの数を押し返すには弾薬が圧倒的に足りない。
やがて、国境警備隊の指揮所に、各分隊から弾薬が枯渇寸前との一報が入る。
しかし、もたらされたのは悪い知らせばかりではなかった。漸く、最後の住民の一団が、全員避難用に用意された輸送隊のトラックへの乗車を完了したという一報も、同時に舞い込んできた。
「よし。……これより国境警備隊はマントーンの町を放棄し、輸送隊と共にスジュレフへと撤退する!」
フロラン大佐の出した新たな命令に、指揮所内にいた者達から驚愕の声が零れる。
町が生まれ故郷であったり、古参故に長らく住まい愛着を持っている者達の悔しそうな表情を目にしたフロラン大佐は、そんな彼らに語り掛けるかのように語り始める。
「皆の悔しい気持ちは、よく分かる。だが、現有の戦力では町を守る事は難しい。だから、だからこそ、再び戦力を整えて町を取り戻すその日の為に、今は一時の悔しさに塗れるとしても、生き残る事を優先してほしい!」
フロラン大佐の言葉に、皆納得したように頷くと、再び戻ってくるその日の為、表情を引き締めると、生き残るべく行動を開始した。
「上空の飛行機械部隊はまだ健在か!?」
「は! まだ全機健在です!」
「なら、撤退する旨を伝えて、撤退の際の支援を要請しろ!」
「了解!!」
「マリユス少尉の護衛小隊以外の各部隊に厳令、撤退の妨げになる装備は全て廃棄する! 直ちに準備にかかれ!」
「カルヴァドも、ですか」
「……、そうだ! ヤマト皇国より供与された装備以外、装備は全て廃棄だ!」
「は! 了解!」
「機密性の高い書類等も燃やすのを忘れるな! 急げ! 時間がないぞ!」
こうして撤退の準備が大急ぎで行われ、やがて、マントーン国境警備隊の大半の兵士はその身一つで、輸送隊のトラックや馬に乗り込み、更には徒歩で、撤退を開始。
その一方、攻撃の勢いがなくなり、漸く安堵した前衛軍の兵達を他所に、指揮官は町の様子に違和感を感じ、固く閉ざされた城門を突破するべくラッポチの突撃を指示。
その指示に従い、ラッポチ数機が城門へと向かった、刹那。
上空より、三式艦上戦闘機二機がラッポチ達目掛けて機首を向けて迫ると、機首の20mm機銃が火を噴き、20mm弾を受けた二機のラッポチが大地に倒れる。
その様子を目にし驚愕する前衛軍の兵や指揮官。
ドラゴン並みの戦闘力を騎士一人に付与すべく開発されたAGは、倒す為には同じくAGを用意するか、数百人単位の兵力を用意する必要がある。
所が、三式艦上戦闘機は機首の20mm機銃の一撃で、ラッポチを屠ってみせた。
その様子は、前衛軍の兵達にとっては、それはまるで最強の飛行生物というべきドラゴンの一撃にも感じられた。
しかも、気付けば上空のワイバーン・エリートが何処にも見当たらない事も相まって、兵達を再び浮足立たせるには、十二分すぎる衝撃であった。
指揮官が命令し、牽引式バリスタが迎撃を試みるものの、ワイバーン・エリート以上の速度で上空を我が物顔で飛び回る三式艦上戦闘機に狙いを定められず。
しかも、狙いを定めている隙に、零式艦上戦闘機三二型の機銃掃射を受ける等。
前衛軍は四機の戦闘機に撹乱され。
その隙に、国境警備隊と輸送隊は、前衛軍の追撃が及ばぬであろう安全圏まで撤退を終え。その報告を受けて、四機の戦闘機も北西の空へと飛び去っていくのであった。
その後、前衛軍は無人と化したマントーンの町を制圧する事に成功するも。
各兵科、及び空軍のワイバーン・エリート四十騎が全滅する等。当初想定していた以上の損害を出すという結果を伴うものであった。
この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
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