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第二十五話 野望の終焉

 ノルカーンの廃墟での戦闘終了から数時間後。

 ロマンサ統合基地の一角に設けられた部屋の中、タイユー将軍の私兵の現場指揮官を務めていた男性は、対面に座る女性、真鍋大尉の視線を受けていた。


「本当に、素直に話せば、部下や自分の命は保証してくれるんだろうな!?」

「えぇ、勿論。そちらが素直な態度を見せてくれるのなら、こちらもそれ相応の態度をもってお応えします」


 すると男性は、ゆっくりと、真鍋大尉の欲する情報を語り始めた。

 どうやら、タイユー将軍の私兵とはいえ。その実態は元傭兵や冒険者崩れ、更にはゴロツキ等を金でかき集め結成されたらしく、何かあれば簡単に切り捨てられるような都合のいい存在との事。

 そんな都合のいい存在であると認識していながらも、タイユー将軍の私兵として雇われ続けたのは、素直に従っている間は、タイユー将軍の庇護を受けて、紛いなりにも安定した収入を得られるからであった。

 その中でこの男性は、元傭兵団の団長を務めていた経歴から、現場指揮官として任命され、今回同じく捕まった部下達は、傭兵団時代からの部下との事。


 そして、そんな男性が自身と付き合いの長い部下達の命の保証と引き換えに語った情報の中身は、今回の襲撃計画の真相の他、これまで自身が関わった、タイユー将軍の裏の顔を示した悪事の数々であった。


 タイユー将軍は、私腹を肥やす為に様々な不正行為を働いていた様で。

 中でも、国防副大臣という地位を利用し、書類上は用途廃棄とした王国軍の兵器を他国に横流ししており、その際の運搬役を、男性達私兵が担っていたとの事。

 これまで横流ししてきた兵器等は、剣や鎧等を始め、大砲やAG、更には竜の息吹と多種にわたり、かなりの額がタイユー将軍の懐に収まったとの事。


「自分が知ってるのは、これ位だ……」

「素直に協力していただき感謝します。では、貴方方には、今後必要な手続きを経て、大和皇国本国の捕虜収容所に移送される事になります」


 捕虜収容所、その単語が真鍋大尉の口から零れた刹那、男性の表情が強張る。

 元傭兵として戦場に身を置いた事もある男性は、捕虜となった者の末路がどのようなものかを知り得ていた。

 貴族のように地位のある者ならば、捕虜となっても身代金を支払われ釈放される。だが、自身の様な立場の人間に、そのように身代金を支払ってもらえる当てなどある筈もなく。

 そうなれば、多くは殺されるか、奴隷として酷使される運命にある。


 命の保証がなされたとはいえ、この先に待つ地獄で、果たしてどれだけ生きながらえることが出来るか。

 自身と部下達との未来を想像し、男性が曇った表情を浮かべていると、不意に真鍋大尉が声をかける。


「ご安心ください。我が大和皇国は、捕虜の取り扱いに関しては、人道的待遇を厳守しています。ですから、ご想像されているような非人道的な扱いは、一切いたしません」


 と、微笑んだ真鍋大尉の顔を目にし、男性は一瞬その美しさに心を許してしまいそうになるも、はっと我に返ると気持ちを引き締める。

 思い返せば、女性の笑顔に心を許し、結果的に痛い目に合った事が何度あったの事か。

 故に、もう同じ轍は踏まんとばかりに、真鍋大尉の言葉を疑っていた男性であったが。後に、実際に部下共々、大和皇国本国の捕虜収容所へと降り立った男性は、そこで真鍋大尉の言葉が嘘偽りのないものと分かる事になるのだが、それはまた別のお話。





 翌日。

 現場指揮官の男性が語った話の内容をまとめた報告書に目を通した九十九は、今回の偽依頼事件の黒幕が、やはり読み通りタイユー将軍である事を確認すると共に、気になる箇所を見つけた。


「竜の息吹……」


 それは、タイユー将軍が横流ししていた品の中に、竜の息吹が含まれていた事だ。

 九十九は直ぐに忍に連絡を入れると、直ぐにこのタイユー将軍の兵器等の横流しに関する決定的な証拠を集めるべく指示を出す。



 そして、更に翌日。

 王都リパの繁華街、今日も多くの人々が行き交う繁華街の中を歩いていた、タイユー将軍の私兵の管理職を務める痩せ型の男性は、ふとすれ違った人物と肩がぶつかってしまう。


「あぁ、失礼」


 男性は肩をぶつけた人物に軽く謝罪すると、その場を後にしようとするが、肩がぶつかった人物はそれで納得しない様子で、男性に噛みつく。

 すると、男性は面倒はこれで解決するに限ると、肩がぶつかった人物にそっと金貨を数枚手渡すも、相手側はそれでもなお納得せずに、男性を人目の少ない細い路地へと移動させる。


「何だ貴様! これでもまだ足りないと言うのか!?」


 人目が少ないとあって、男性は堪らず声を荒らげる。

 すると、先ほどまで噛みついていた相手が、不気味に大人しく、落ち着いた声で語り始める。


「タイユー将軍の裏事業の管理を務める、ギヨームだな」

「っ! き、貴様、な、何者だ!?」


 見ず知らずの筈の人間に、自身の名前のみならず公に出来ない職務の事を告げられ、ギヨームは咄嗟に身の危険を感じ、目の前の人物の視界から一刻も早く逃げるべく、後退りを始める。

 が、不意に背後に別の気配を感じ取った、次の瞬間。突如背後から何者かに襲い掛かられると、抵抗する間もなく口元に何かを抑えつけられ。程なく、ギヨームは意識を手放してしまう。


「よし、確保完了。後はこいつを、基地まで運ぶだけだ」


 一方、ギヨームの素性を知る謎の人物は、事前に用意していた麻袋の中に、意識を失ったギヨームの体を入れて、それを担いで再び大通りへと繰り出し歩いていくと。

 程なく、行商人を装った仲間と思しき人物の荷馬車に、ギヨームの入った麻袋を置くと、暫し自然な会話を交わした後、出発した荷馬車を見送るのであった。



 それから数時間後。

 漸く意識を取り戻したギヨームが目にしたのは、見た事のない材質で出来た質素な部屋と、いつの間にか手足が椅子に縛られ、身動きが取れなくなった自身の状況であった。


 一通り周囲を見渡し、状況を確認した刹那、ふと眩いばかりの光がギヨームの顔を照らし、堪らず彼は目を細める。

 すると、そんな光の発生源である置き型照明を手にした人物、ぼんやりとした輪郭から女性と推測される、が足音を鳴らしながらギヨームへと近づく。


「目が覚めましたか?」

「き、貴様ら! い、一体何者だ!? 誰の差し金でこんな……」


 と、その時、顔を照らしていた置き型照明の光が外され。程なく、視界を正常に取り戻すと、女性の詳細な姿が目に入る。


「っ! き、貴様! その格好……、まさか、ヤマト皇国の!?」

「ご名答」

「だ、だが何故だ!? 何故貴様らは私の素性を……」

「貴方の事をよく知る人物から、貴方に関する情報を色々と教えていただきましたので」


 女性の返答に、ギヨームは即座に該当しそうな人物を導き出す。

 だが、導き出したその答えに、ギヨームは疑問符を浮かべる。何故なら、その人物は、既に二日ほど前にノルカーンの廃墟で死亡したと思われていたからだ。


 廃墟とはいえ、まだ多くが朽ち果てる事もなく元の形状を維持していたノルカーンの廃墟は、二日ほど前、その殆どを文字通りの瓦礫の山と化してしまった。

 そして、その瓦礫の下に、密命を受け罠を仕掛けていたものの、あっさりと返り討ちに遭い、その人物は部下共々瓦礫の下に埋まった、とばかりに思っていた。


 所が、他に該当しそうな人物も見当たらず。もし女性の話が本当ならば、該当の人物は、今も生きている事になる。


「馬鹿な!? 奴は貴様らに返り討ちに遭い、死んだのではなかったのか!?」


 すると女性は、言葉を返さぬ代わりに、意味深な笑みを浮かべる。


(く、ぬかった! あれ程熾烈な攻撃を受けたのでは生きてはいまいと、軽率な判断を行うべきではなかった! こんな事ならば、せめて奴の死体だけでも確認しておけば……)


 と、ギヨームは自身の判断ミスを後悔するが、最早それは遅すぎるものであった。

 そんなギヨームを他所に、女性は近くの机に置き型照明を置くと、話を続けた。


「さて、ギヨームさん。貴方には今、二つの選択肢が用意されています。一つは、私達に素直に協力していただく選択肢。そしてもう一つは、タイユー将軍への忠義を尽くし、黙秘を続ける選択肢。……最も、私は、素直な男性の方が好みですけど」

「ふん、それは色仕掛けのつもりか? 生憎と、そんな安っぽい色仕掛けに乗る程浅はかな男ではないぞ」


 ギヨームの言葉に、女性はピクリと眉を動かすと、更に話を続けた。


「それはつまり、後者の選択肢を選ぶという事ですか?」

「私の素性を知っているのなら、最早私がその選択以外選ぶ事がないことは分かっている筈だ」

「確かに、貴方はタイユー将軍の裏事業、兵器の横流しの管理等を担っていた。故に、王国政府に身柄を引き渡せば、厳刑は免れないでしょう。……ですが、もし私達に素直に協力して下さるのならば、それを免れる事が出来ます」

「何だ? まさか、私を匿ってくれるというのか!?」

「生憎と、そこまでは出来ません。ですが、王国政府に対して、協力していただいた見返りに、寛大な処置を行ってもらえるよう、取り計らう事は出来ます」


 刹那、ギヨームの心が揺れ動く。

 進むも地獄退くも地獄と思われていたが、黙秘を続けるよりも、協力すれば、少しは明るい未来が待っている。


 暫し考えた後、やがてギヨームは、ゆっくりと口を開き、語り始めた。


「分かった、協力する。だから、見返りの件、よろしく頼む!」

「勿論」


 こうしてギヨームは、これまで自身が管理してきた兵器の横流しに関する情報を洗いざらい白状し。

 更には、横流しの際につけていた帳簿等、タイユー将軍の不正を証明する証拠となる書類の隠し場所も白状するのであった。





 それから三日後。

 九十九は、執務室にてギヨームの証言した内容を記した報告書と共に、忍が証言をもとに入手した、帳簿等の書類に目を通していた。


「やっぱり、あの海賊たちが入手した竜の息吹の出所はここだったか……」


 以前、ヒルデ達の乗る調査船団を襲撃した海賊団が所有していた魔石、竜の息吹。

 本来厳重に管理され海賊団が容易に入手などできない筈のこの魔石、その入手経路については、引き続き調査が行われていたが、今回、思わぬところで調査は一気に進展する事となった。


 しかも、ギヨームの証言と帳簿によれば、タイユー将軍は海賊団から相応の金銭を受け取った見返りに、その他にも大砲やマスケット銃、更には用途廃棄と偽り軍艦まで供与していた。


「まさかここまでとは……」


 タイユー将軍の不正行為の実態を知った九十九は、その見事なまでの不誠実ぶりに、怒りを通り越して呆れる他なかった。


「さて、と」


 そして、一通り目を通し終えた九十九は、執務室を後にすると、とある人物に合うべくその人物がいる場所に向かうのであった。



 更に翌日。

 九十九は、アタッシュケースと茶封筒を手に、シャーロン伯爵の館に足を運んでいた。

 そして、応接室に足を踏み入れた九十九を待っていたのは、館の主であるシャーロン伯爵の他。アポロ王子にフレグル外務大臣、更には燕尾服型のジャケットに白のキュロットという服装を身に纏った、獅子部族の血を引く獣人の男性という顔ぶれであった。


「よぉ、待ってたぞニシキベ殿」

「お待たせいたしました。アポロ王子殿下、フレグル外務大臣。この度は急な呼び出しに応えていただき、ありがとうございます」

「何やら王国にとっての一大事とか、そうと聞かされては、応えぬわけにはいかないさ」


 実は前日、九十九は今回突き止めたタイユー将軍の不正行為の証拠を見せるべく、シャーロン伯爵を通じてアポロ王子達に連絡を入れていたのだ。

 そして、王城ではタイユー将軍の間者が聞き耳を立てていないとも限らないので、こうして安全が確認されているシャーロン伯爵の館に、わざわざご足労頂いたのだ。


「そうだ、ニシキベ殿に紹介しておこう。我が王国の国防大臣を務めている、エクレール将軍だ」


 挨拶もそこそこに、アポロ王子は今回同行させていた獣人の男性、タイユー将軍の上司である、国防大臣を務めるエクレール将軍を九十九に紹介する。

 紹介されたエクレール将軍は、一歩前に出ると、改めて自己紹介を行いながら手を差し出す。


「国防大臣のエクレール将軍だ。会えて光栄だよ、ニシキベ将軍」

「こちらこそ、エクレール将軍閣下」


 そして、九十九はエクレール将軍の差し出した手に応える様に握手を交わす。


「ニシキベ将軍の話は王子や、そこにいる弟からも聞いている」

「弟?」

「あー、言ってなかったが、エクレール将軍は俺の兄貴なんだよ」

「という事は、ロマンサの街のギルドのギルドマスターであるロクザンさんも」

「勿論、私の弟だ」


 単にシャーロン伯爵と同じ獅子部族の血を引く獣人男性と思っていたが、まさか血のつながった兄弟という事実に、九十九は少々面を食らった。

 そして、改めて観察すると、確かにシャーロン伯爵やロクザンに似ていると感じるのであった。


「さぁ、挨拶も済んだ所で、ニシキベ殿。今回我々に伝えたい事とやらを教えてくれませんか?」

「分かりました」


 フレグル外務大臣の言葉に、各々が椅子に腰を下ろすと、九十九は早速、タイユー将軍の不正行為の証拠を提示するべく、先ず茶封筒を開封すると、そこから数枚のモノクロ写真を取り出した。


「先ずはこちらをご覧ください」

「これは、似顔絵の一種か?」

「いえ、これは写真という。カメラと呼ばれる機械を使い、人が目にした物などを、白黒ですが可能な限り再現したものになります」

「ひゃー、そいつはスゲェ!」

「本当に、ヤマト皇国の技術力は目を見張るものばかりだ。所でニシキベ殿、これは……帳簿?」

「はい。そして、こちらの写真が、記載されている内容を拡大して写した写真になります」

「……な! これは、王国軍の装備品の数々ではないか!?」


 エクレール将軍が驚嘆の声を上げたの皮切りに、他の面々も驚きの表情を浮かべる。


「この帳簿は、タイユー将軍が行っている王国軍の装備品の横流し、その記録を示したものです」

「っ!? それは本当なのか、ニシキベ殿!?」

「残念ながら本当です」

「な、何と!? タイユー将軍がその様な!?」

「野郎、やっぱり悪どい事やってやがったな」

「むぅ……、以前より、副大臣にはよからぬ事をしているとの噂が流れてはいたが、まさかこれ程とは……」


 更に九十九は、タイユー将軍が偽の依頼でブルドッグをおびき寄せ待ち伏せを行った事や。以前依頼の最中ブルドッグを襲った謎のAG、ことアーパシュを密造していた事実。

 更には、アリガ王国との接触の切っ掛けとなった、調査船団の海賊団襲撃の遠因となった海賊団への竜の息吹供与の事実なども、アポロ王子達に告げる。


「……まさか、国防副大臣の職に就くタイユー将軍がその様な不正行為を働いていたとは」


 あまりの事に、頭を抱えるアポロ王子を他所に、シャーロン伯爵が声を上げた。


「ここまで証拠が揃ってるんなら、兄貴! 早速あの腰巾着野郎をしょっぴいてくれよ!」

「そう急くな。……確かに、これだけでもかなりのものだが、ニシキベ将軍、この不正行為にタイユー将軍が関与していると決定づける証拠はあるかね?」

「分かりました。では、こちらをお聞きください」


 すると九十九はアタッシュケースをテーブルの上に置くと、中に入っている機械を操作する。

 直後、機械からギヨームの声が流れ始める。


「な、何だこれは!?」

「こちらはテープレコーダーという音を記憶する機械です」

「うぉぉ! すげぇ!」

「伝え聞いている以上に、ヤマト皇国の技術は凄いものだ。……所でニシキベ将軍。この声の主は?」

「彼はギヨームと言って、タイユー将軍の横流し等の管理を行っていた人物です。そして、この録音音声は、彼が自身も関与していたタイユー将軍の不正行為に関して自白した際の音声となります」

「成程。確かに、これは決定的な証拠だな」

「因みに、彼はタイユー将軍の不正行為を自白する交換条件として、自身の量刑について寛大な処置を希望しています」

「という事は、この者の身柄は、今はニシキベ殿が?」

「はい。勿論、しかるべきタイミングで身柄は引き渡します」

「そうか、分かった。この者の量刑については、配慮しよう」


 それから暫くギヨームの自白した音声に耳を傾け、やがてそれを聞き終えると、エクレール将軍が口火を切った。


「王子。先ずは、部下であるタイユー将軍の不正行為を見抜けなかった事、お詫びを。……そして、今すぐ、タイユー将軍逮捕のご許可を!」

「そうだぜ王子! 今すぐ野郎をしょっぴこうぜ」

「アポロ王子、将軍や伯爵の言う通り。向こうが自身の不正行為に儂らが気がついたと悟り逃亡する前に、ご決断を」


 三人の言葉を黙って聞いていたアポロ王子は、やがて、何かを決心した様に口を開いた。


「分かった。今すぐタイユー将軍の身柄を拘束せよ!」


 アポロ王子の力強い命令に、エクレール将軍は頷くや、急いで出発の準備を整えるべく一番に応接室を後にする。

 一方、アポロ王子は、続けて九十九に声をかけた。


「ニシキベ殿! 今回のタイユー将軍の逮捕、どうかニシキベ殿も同行してはくれないか?」

「え? 自分が、ですか!?」

「あぁ。逮捕の決め手となった証拠は、全てニシキベ殿が揃えてくれたもの。だから、ニシキベ殿には逮捕の瞬間まで見届けてほしいんだ」

「分かりました。では、同行します。……あ、ですが、車輛を使って押しかけては、タイユー将軍に感づかれてしまうのでは?」

「それなら心配ない。爺、まだ"ゴンドラ"には余裕はあった筈だな?」

「はい。ニシキベ殿お一人ぐらいなら、大丈夫です」

「という事だ」

「分かりました。では、先に基地に一報を入れておきます」


 こうして、急遽アポロ王子たちに同行する事になった九十九は、先ず移動の足として使ったニ式1/4tトラックに積んでいる無線機を使い、ロマンサ統合基地の天笠少将に同行の件を伝える。

 それを終えると、再び館に戻り、準備の整ったアポロ王子たちと共に、館の庭へと移動する。


「っ! こ、これは!?」

「これは"ワイバーン・キャリッジ"。文字通り、馬の代わりにワイバーン四頭でゴンドラと呼ばれる車体を吊り下げて移動する乗り物だ!」

「凄い……」

「と言っても、誰でも使える訳ではないがな。何せ、馬よりも維持費のかかるワイバーンを使用しているので、王国内では専ら、王族や高位の者など、限られた一部のものしか使用していない」


 アポロ王子の説明に耳を傾けながら、九十九は庭に停まっていたワイバーン・キャリッジと呼ばれる乗り物を観察する。

 鞍のつけられた四頭のワイバーンと、丈夫そうなロープで繋がれた装飾の施された馬車の車体。なお、車体の下部は、馬車の様な車輪ではなく、ヘリコプター等に見られるスキッド、と呼ばれるソリのような形状をした簡素な脚が設けられていた。


 そんなワイバーン・キャリッジに、アポロ王子達と共に乗り込んだ九十九。

 程なくゴンドラが揺れ、体に浮遊感を感じる。

 窓の外を見てみれば、見送るシャーロン伯爵と館が、眼下で徐々に小さくなっていく。


 こうして、護衛の竜騎士隊と共に、九十九を乗せたワイバーン・キャリッジは、一路大空を進み、王都リパを目指した。





 三時間後。

 タイユー将軍は、自身の執務室にて、今後の行動計画について頭を悩ませていた。

 六日前、偽の依頼でノルカーンの廃墟にブルドッグをおびき寄せ、待ち伏せた私兵達に襲わせ手痛いダメージを負わせる。という計画は、見事に返り討ちに遭って失敗し、多数の私兵を失ったばかりか。

 その翌日には、計画の失敗の責任を負わされると思ってか(実際には九十九の指示で秘密裏に捉えられたのだが)、ギヨームが忽然と姿を消したので、私兵の再編成も遅々として進まないばかりか、横流しなどの裏事業の進捗にも支障が生じていた。


「くそ! 何故だ!? なぜこうも上手くいかん!」


 ここ最近、物事が思い通りに全くもって進まない現状に、タイユー将軍は苛立ちを募らせる。


「それもこれも! あの小僧のせいだ!!」


 そして、その怒りの矛先を九十九に向けると、タイユー将軍は更に怒りをぶちまけるのであった。

 やがて、怒りをぶちまけ、少しは怒りの沸点を下回った所で、不意に誰かが執務室の扉を叩いた。


「っち、こんな時に一体誰だ。……鍵はかかっとらん! 入れ!」


 舌打ちしながら入室を許可すると、扉が開き、入室してきた人物の顔を目にし、タイユー将軍の顔から一気に血の気が引いた。


「あ、アポロ王子!? そ、それに、エクレール将軍!?」


 入室してきたのは誰であろう、アポロ王子にエクレール将軍という、自身の上司である人物二人。


「っ!? きさ──、に、ニシキベ将軍、何故こちらに!?」


 更には、今し方怒りの矛先を向けていた九十九まで姿を現し、タイユー将軍はなんとか冷静さを装うも、内心はかなり狼狽するのであった。


「ほほ、本日は一体、珍しいお顔ぶれで……。な、何用で?」

「タイユー将軍。本題の前に、貴官に問いたい事がある。貴官の、祖国に対する忠誠心は誠のものか!?」

「エクレール将軍、何を仰います。私は、王国軍の門をくぐって以来、長年祖国であるアリガ王国の為に尽くしております!」

「そうか。……では本題だ。タイユー将軍、先ずはこれを見たまえ」

「はて、なんですかな?」


 エクレール将軍からモノクロ写真を受け取ったタイユー将軍は、初めて見るモノクロ写真に驚きつつも、そこに写し出されていたものに目を通す。


「ん~、これは何かの帳簿ですな。……、っ!?」


 そして、何やら見覚えのある品名や数量等々を目にし、タイユー将軍はそれが、自身が行ってきた横流しの帳簿である事に気がつく。


「その帳簿に、見覚えがあるだろう、タイユー将軍?」

「な、何を、仰って……」

「将軍!! 貴官も王国軍人の一員ならば、潔く自らの罪を認めてはどうか!!」

「わ、私が一体、何の罪を犯したと!?」

「他国のみならず、海賊などにも兵器の横流しを行い。更には秘密裏にAGを製造する等。貴官の犯してきた罪は、既に私達も知る所なのだぞ!」

「っ! お、お待ちくださいエクレール将軍! わ、私は……」


 冷や汗を流しながら、タイユー将軍は何とか弁明を試みるも、刹那。

 不意に、タイユー将軍にとって聞き覚えのある人物の声、ギヨームの声が響き渡った。


「な!? ギヨーム!?」


 だが、室内を見渡しても、彼の姿は見えない。しかし、声は確実に聞こえてくる。

 声の発生源を辿ると、そこには、アタッシュケースのテープレコーダーを操作した九十九の姿があった。


「こ、小僧! 貴様!!」

「タイユー将軍閣下。お聞きの通り、貴方が行ってきた数々の不正行為は彼の勇気ある行動によって、既に白日の下に晒されました。タイユー将軍閣下、見苦しい言い訳は止めて、最後は軍人らしく、潔く行動してください!」

「こ、このガキっ!!」


 と、再びタイユー将軍の沸点が突破直前まで上昇した刹那。

 アポロ王子が口を開いた。


「タイユー将軍! 将軍には、現時点をもって国防副大臣としての職を解き、国家反逆の罪でその身柄を拘束させてもらう!」

「っ、く、くそ……」

「衛兵!!」


 アポロ王子の声に、執務室に数人の衛兵が姿を現す。

 一方、タイユー将軍は遂に観念したのか、項垂れている。


 だが、執務机によりアポロ王子達からは死角となっているその手元は、何やらよからぬ動きを見せていた。


「こ、このぉーーっ!!」


 勢いよく立ち上がったタイユー将軍のその手には、いつの間にかフリントロック式拳銃が握られていた。

 破れかぶれになったのか、タイユー将軍はそのフリントロック式拳銃の銃口をアポロ王子に向け、引き金を引こうとした。


 刹那、室内に、一発の銃声が響き渡る。


「がーっ!!」


 そして、続いて聞こえてきたのは、タイユー将軍の悲鳴であった。

 見れば、フリントロック式拳銃を持っていた手からは鮮血が流れ、タイユー将軍はその痛みに、堪らず顔を歪める。


「こ、このガキィィィィッ!!」


 刹那、タイユー将軍は、その手にした11.4mm自動拳銃 M1911で自身の手を撃ち抜いた下手人、九十九を、痛みを忘れたかの如く、鬼気迫る様子で見つめた。


「貴様さえ、貴様らさえ現れなければぁっ!!」

「衛兵、早く取り押さえろ!」

「は!!」

「がぁぁ! 放せ! 放せぇぇっ!!」


 衛兵に身柄を拘束され、連行されるタイユー将軍。


「お怪我はありませんか、王子」

「あぁ、大丈夫だ」


 一方、身を挺して守ろうとしたエクレール将軍に、アポロ王子は怪我一つない事を告げると、命の恩人である九十九に感謝の言葉を述べ始める。


「これで助けられるのは三度目だな。本当に、ありがとう」

「いえ、お怪我が無くてなによりです。それよりも」

「あぁ、分かっている。エクレール将軍、直ちに残りの関係者、並びに密造AGの製造工場の確保を急ぐぞ!」

「は! 了解しました!」


 その後、残りの関係者、並びに王都南東部に設けていたアーパシュの密造工場も次々と確保され。

 失脚したタイユー将軍の野望は、この日をもって完全に潰える事となった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。


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