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第十九話 護衛依頼 中編

 一行が、エチワポの街を目指してロマンサの街を出発してから二日目。

 ここまで、先行する偵察隊からも特に警報を告げる連絡もなく、木々の影から強襲を仕掛けられる事もなく、穏やかな道のりが続いていたが。

 この日の午後、昼食を終えて二日目の到着予定地点までの道のりを目指していた矢先。

 本隊の先頭を進んでいたニ式1/4tトラックから、モンスターの発見を告げる一方が発せられる。


「二時の方向! 距離二百! 森林の影よりゴブリン型の魔物が多数出現!」

「ブルドッグ各隊は迎撃準備! ただし戦車隊は命令あるまで待機! 三式各車は前衛に展開して防壁を形成!」


 後部座席に設けられた無線機を使い、ブルドッグの各部隊に指示を飛ばす九十九。

 程なく、指示に従い前衛に展開した三式半装軌装甲兵車一型に取り付けられたブ式7.7mm重機関銃 M1919やブ式12.7mm重機関銃 M2。更には降車して展開した海兵達の構えた銃器が、射撃開始の号令と共に火を噴き始める。


 前方から降り注ぐ弾丸の嵐に、森林の影から姿を現したゴブリンの群れは次々と蜂の巣だらけの骸と化していく。

 更に追い打ちをかけるかのように、八九式重擲弾筒や軽迫撃砲による砲撃も加わり、ゴブリンの群れは一方的に数を減らされていく。

 それでも、一矢報いようと弾丸や砲撃の雨を掻い潜り、矢を放ち投石を開始する。

 しかし、それらは無情にも、防壁として展開していた三式半装軌装甲兵車一型の装甲を叩き、空しく音を立てて地面に落ちるのであった。


 やがて、最早勝てぬと悟り、生き残ったゴブリン達が敗走を初め、戦闘も終了かと思われたその矢先。

 敗走したゴブリン達と入れ替わりになるように、森林から新たな影が姿を現す。


 それは、以前にも遭遇した事のあるモンスター、アーブル・ゴーレムであった。

 以前とは異なりその数は三体と少ないものの、それでもゴブリンよりも強敵である事に違いはなかった。


「バズーカ! 射撃用意! 弾種焼夷弾!」


 刹那、号令と共に細長い筒状のものを肩に担いだ海兵が数名、前に出るや膝をつく。

 すると、弾薬手と思しき海兵達が、一様にその細長い筒状のものにロケット弾らしき弾薬を装填していく。


「装填よし!」

「後方確認よし!」

「射撃準備完了!」


 そして、弾薬手が退避し、射撃準備が完了する旨が筒状のものを担いだ海兵達から告げられると、次の瞬間、射撃開始の号令が告げられる。

 刹那、発射口から耳を劈く発射音と共に後方から眩いばかりの発射炎を噴き出すと、装填されたロケット弾が目にも留まらぬ速さで、標的となった三体のアーブル・ゴーレムへと飛来する。


 一瞬の後、その巨体にロケット弾が弾着するや否や、爆発と共にアーブル・ゴーレムの巨体を燃え盛る炎が覆い始めた。

 見た目通り炎を弱点とするアーブル・ゴーレムは、何とか炎を消そうともがき苦しみながらも抵抗を試みるも、自身の巨体を媒介にさらに勢いの増した炎を消す事は叶わず。

 やがて、三体のアーブル・ゴーレムは、炭化層した巨大な骸と化すのであった。


 そして、三体のアーブル・ゴーレムを倒した下手人、その海兵達が担いでいた筒状のものの正体は、大和皇国軍が運用している対戦車兵器の一種。

 その名を、"60mmロケット発射筒 M9A1"。バズーカの愛称でも知られる、アメリカ合衆国が開発した携帯式対戦車ロケット弾発射器であるM9A1 2.36インチ(60mm)対戦車ロケット発射器をモデルとした兵器である。

 因みに、モデルとなったM9A1が空挺部隊用に二分割可能となっているのと同様、60mmロケット発射筒 M9A1も二分割が可能となっている。

 閑話休題。





 こうして、姿を現したモンスター達を撃退したブルドッグは、暫し警戒を続けた後、安全が確保されたと判断すると、臨戦態勢を解除し、再び元の配置に戻っていく。

 一方、自身の荷馬車の御者台から戦闘の一部始終を観戦していたブローは、彼らの戦闘能力の高さに、最早言葉が出ない様子であった。


「俺は、夢でも見てるのか……」


 そして、何とか感想を絞り出すブロー。

 ゴブリンのような下級のモンスターなら、例え数が多くても手練れの冒険者ならば容易く撃退は可能だ。

 だがアーブル・ゴーレム、それも三体となると、容易いことではない。炎が弱点とはいえ、一撃で倒せる程の強力な炎属性の魔法は魔導師ならば誰でも扱えるものでもないし、何より、魔力の消費も鑑みれば三体同時に相手にできるものでもない。

 所が、そんなアーブル・ゴーレム三体を、ブルドッグは魔法を使う事無く、あっさりと倒してしまった。

 しかも、それでいてなお、まだ余力を残しているようにも見える。


 ロマンサの街で耳にしたブルドッグ、もとい大和皇国の話。

 ドラゴンを圧倒的に少ない犠牲で倒した。ブローは心のどこかで、所詮尾鰭がついたものではないかと疑っていたが、今回の戦闘を実際に目にし、あれは紛れもない真実だったのだと思い知らされた。


「てい!」

「いでででっ! オイ、アミン! 何しやがる!」


 刹那、突然ブローの肩に乗っていたアミンが、ブローの髭を引っ張る。

 その痛みに、堪らずブローは声をあげる。


「だって、たいちょーが夢でも見てるのかって言うから、夢じゃないよって教えてあげようと思って」

「あのなぁ、だったら他にも方法はあるだろ」

「うぅ、ごめんなさい」

「今度からは気を付けてくれよ」

「はーい」


 こうして、アミンとのやり取りを終えたブローは、再び考えに耽り始める。

 そして、導き出した結論は、ブルドッグ、もとい大和皇国に対しては、下手に怒りを買わない事が賢明。というものであった。


「……ま、下手に怒らせなきゃ、これ程心強い護衛はいねぇしな」


 と、独り言ちて締めた所で、一輌のニ式1/4tトラックがブローの荷馬車に近づいてくる。


「安全を確認できましたので、移動を再開しましょう」

「了解だ。それにしても、強いな、あんた方は! これなら、エチワポの街まで安心していられるってもんだ!」

「それはよかった」


 ニ式1/4tトラックに乗車している九十九と言葉を交わしたブローは、移動を再開させるべく、号令を飛ばす。

 すると、列の後方から、一人の行商人が駆け足で近づいてくるのが見えた。


「はぁ、はぁ。た、隊長、ちょっと待ってください!」

「ん? どうした?」

「そ、それが……」


 肩で息をする仲間の行商人曰く、先ほどの戦闘の際、自身の荷馬車の馬が銃声に驚いてパニックを起こし暴れてしまい。

 その後、何とか落ち着かせたものの、パニックを起こして暴れた際に荷車の車軸が壊れて走行不能になったとの事。


「おい、何でそんな簡単に車軸が壊れるんだ」

「じ、実は……、ガタが来てたのは分かってたんだが、まだいけるだろうと思って、その……」

「馬鹿野郎! 荷車は俺達行商人にとって大事な商売道具! 商売道具はいつでもいい状態にしておけって、口酸っぱく言ってるだろうが!」

「す、すいません!」


 涙目になった仲間の行商人に説教を行ったブローは、直後にため息を漏らす。


「だが、もう起っちまったものはしょうがねぇ。よし、お前の荷車に積んでた荷物を、他の連中の荷馬車に分散させる。一台分なら、分散させれば何とかなるだろ」


 そして、打開策を口にすると、直ちに実行するように他の行商人たちに指示を飛ばし始める。

 すると、その様子に気がついたのか、九十九の乗ったニ式1/4tトラックが、再びブローの荷馬車に近づいてくる。


「どうかしたんですか?」

「あぁ、ちょっと荷馬車が一台、荷車の車軸が壊れて動けなくなってな。それで今、動けなくなった奴が運んでた荷物を、他の荷馬車に分散させて積み込もうとしている所だ」


 ブローの説明を聞き状況を理解した九十九は、ブローに提案を持ちかける。


「では、その荷物、自分達のトラックでお運びしましょうか? 幸い、トラックにはまだ余裕もありますし」

「有難い申し出だが、俺達にも行商人としてのプライドがある。自分達の扱う荷物は、自分達で何とかしたいんだ。分かってくれ」


 ブローの言葉を聞き、九十九はこのまま引き下がる、かと思われたが。

 暫し考えた後、九十九は再び口を開き始めた。


「では、その車軸の壊れた荷車を、自分達が修理させていただく、というのはどうでしょうか?」

「修理って、ここは近くに街や村もない、街道のど真ん中だぞ?」


 簡単な修理ならば野外であっても行える事は、ブローも承知していた。

 だが、壊れた車軸を修理する程の大掛かりなものは、材料や道具の整った街などでないと出来ない筈。

 しかし、ブルドッグは、大和皇国は先ほどの戦闘を見ても分かる通り、自身の常識では測れない力を持っている。


 であれば、九十九の言う事も、口から出まかせなどではないのだろう。

 そして、そんな彼らの実力の一端、更に垣間見たい。そんな衝動がブローの中で沸き起こる。


「よし分かった。それじゃ、そのお手並み、拝見させてもらおうじゃねぇか!」


 こうして急遽、車軸の壊れた荷車の修理が決定されるのであった。



 先ずは、牽引役の馬を馬を外し、車軸の壊れた荷車から載せていた荷物を一旦地面に置き、空の状態にしてから修理が開始された。


「では、お願いします」

「おう、お任せください!」


 所有者の行商人のみならず、他の行商人たちも見物する中、ブルドッグの縁の下の力持ち、後方支援部隊の一つである車輛整備隊の隊長は、九十九の期待に応えるべく早速部下と共に作業に取り掛かる。


「よし! 先ずはバラすぞ」

「「うっす!!」」


 一式作業服に作業帽を被った車輛整備隊の隊員達は、慣れた動作で荷車をジャッキで持ち上げると、直ちに車輪と壊れた車軸を工具を使って取り外すと、巻き尺を使って何やら寸法を測り始める。

 そして、寸法を測り終え、隊長に測った寸法を伝えると、隊長は暫し唸った後、新たな指示を出す。


「トラックに積んであるY・ジープの予備部品とタイヤを持ってこい!」

「「うっす!!」」


 指示を受け、車輛整備隊の隊員達は整備に必要な部品などを載せたトラックへと向かうと、程なく、各々隊長の指示通りに、予備のタイヤや部品などをもって戻ってくる。

 そして、隊長の指示のもと、隊員達は工具を使ってそれらを組み立て、新たな足回りとなる車軸とタイヤ、更にはおまけにブレーキまで作り、それらを車体に取り付けていく。

 程なく、全ての工程が終了し、車軸の壊れた荷車は、車輛整備隊の手によって修理、否、魔改造され蘇ったのであった。


 単に修理するだけと思っていたら、まさかここまで魔改造してしまうとは思ってもいなかった九十九。

 だが、任務を全うした表情を浮かべる車輛整備隊の面々を目にし、九十九は彼らの気持ちを慮り、これで良かったのだと納得するのであった。


「な、何だか修理って言うよりも、改造されたって感じに見えるんだが?」

「あ、あはは……」


 とはいえ、ブローの突っ込みには、苦笑いを浮かべる九十九であった。


「と、兎に角、先ずは乗り心地の方変わりないかどうかご確認をお願いします」


 そして、これ以上突っ込まれないように無理やり話を進める九十九。

 少々腑に落ちないブローを他所に、荷車の持ち主である行商人は、魔改造された荷車に牽引役の馬を再びつなげると、早速試運転を開始する。


「お? おぉ、す、凄い! 何て凄い乗り心地だ!」


 すると、街道をそれて未整地を進んでも以前のように車体がガタガタと揺れる事もなく、快適な乗り心地を発揮する魔改造荷車に絶賛の声をあげる。

 その様子を見ていた他の行商人達も、その乗り心地を体験したくなったのか、次々と駆け寄ると荷台に乗り込み、同じく絶賛の言葉を口々にする。


「おぉ、こりゃスゲェ!!」


 そして、気がつけばブローも荷台に乗り込み、その乗り心地の素晴らしさに感動と絶賛の声を漏らすのであった。



 こうして試運転を終え、下ろしていた荷物の積み込みが完了し準備が整い出発するかと思いきや。

 九十九の周囲に他の行商人達が殺到していた。

 理由は、自分の荷車にも、同様の改造を施して欲しいとお願いする為だ。


「さ、流石に他の荷車にも施す程の余裕は……」

「ならエチワポの街に着いてからでも構わねぇ!」

「そうだ、頼むよ!」

「頼む!」

「えっと……」


 九十九が返答に困っていると、ブローが声をあげた。


「お前ら! 寄ってたかって、ニシキベさんが困ってるだろうが!」


 ブローの一言に、九十九を囲んでいた行商人達が、申し訳なさそうに引き下がっていく。


「で、物は相談なんだが、幾ら位なら同じ改造を施してくれるんだ?」

「「隊長ーっ!!」」


 しかし、その隙に九十九に改造の相談を持ち掛けるブローに、行商人達は一斉に突っ込みを入れるのであった。

 そして程なく、ポルトト隊の面々が落ち着きを取り戻した所で、九十九は改めて、同様の改造は施せない旨を伝えると、更に話を続けた。


「ですが、今後の状況次第では、皆さんの手にも同様の、いえ、更に高性能な荷車を手に入れられるかもしれません」

「それは、どういう事だ?」

「大和皇国とアリガ王国の間で正式に国交が締結し、交易が開始されれば、大和皇国からアリガ王国に、あのような荷車が輸出し、王国内の市場に流れる。という事です」


 刹那、行商人達から歓喜の声が漏れる。


「それだけではありません。荷車以外にも、皆さんの日々の生活をより豊かに、そして便利にしてくれる品々も、普及していくと思います」

「そりゃ凄い」

「ですが。それには何れも、大和皇国とアリガ王国の間で、正式に国交が締結している事が絶対条件です。勿論、自分達もその実現に向けて努力は行っていますが、やはり、一番の近道は、王国に住まう国民である皆様の気持ち、と自分は考えています」


 すると、九十九の言葉を聞き、行商人達が口々に、一日も早い国交の締結を目指すべく、出来る範囲で協力しようとする意志を示す。


「ねぇにしきべー、もし国交が締結したら、あの卵焼きっていう料理、お家でも食べれるようになる?」

「勿論」

「ならアタシも、頑張って協力するー!」


 この瞬間、九十九はこれが国交締結へ向けて大きく前進する為の原動力になる、そう確信するのであった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。


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