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第十四話 会談再び

 シャーロン伯爵の館の応接室へと再び主要な面々が集まると、モンスター騒ぎで一時中断していた会談が再開される。


「この度は、ロマンサの街をモンスターの脅威から救っていただき、一度ならず二度も、我々の為に尽力してくれた貴方方には、本当に感謝の念に堪えない!」


 アポロ王子は再開一番、九十九達に対して感謝の言葉を告げると、深々と頭を下げた。

 そして、それを終えると、早速本題へと移る。


「さて、我々にとってかけがえのない恩人である貴方方は、ペルルの話によれば、我がアリガ王国と友好な関係。即ち、我が国との国交の締結、ひいては同盟関係の締結をお望みとの事だが?」

「はい、その通りです」

「そうか、では……。と、二つ返事で承諾するとは、そちらも思ってはいまい。ニシキベ殿、貴方のお立場ならば、政治がどういうものか、それ位は理解しているのだろう?」

「勿論です。では、そのご説明は、こちらの大村外交官がご説明いたします」


 と、九十九は不意に外交使節団の方へと視線を向ける。

 すると、一人の外交官、黒いスーツに身を包んだ大村と呼ばれた外交官が一歩前に出て、軽く一礼する。


 そして、説明を任せられた大村は、咳払いをすると、ゆっくりと説明を始める。


「では、ご説明させていただきます。我が大和皇国は、アリガ王国との国交の開始にあたりまして、資源の融通をお願いしたいと考えております」


 資源、その単語が飛び出した刹那、フレグル外務大臣の表情に緊張が走る。

 一体何を欲するのか、魔石か、或いは鉱物資源か、はたまたAG関連の技術か。

 候補となる物が頭の中で浮かんでは消え浮かんでは消え、それを繰り返すに伴い、フレグル外務大臣の顔も徐々に強張っていく。


「主な品目に関しましては、資料をもとに後に詳細をご説明したいと思いますが。一例を挙げさせていただきますと、"石炭"や"石油"等になります」


 だが、大村の口から放たれた言葉に、フレグル外務大臣は肩透かしを食らう。

 その為、説明に割り込もうとして発した声は、何とも素っ頓狂な声となってしまった。


「ま、待ってくだされ!」

「はい、何でしょうか?」

「その、セキタンやらセキユというものは、聞き馴染みのないものなのじゃが……」


 フレグル外務大臣の言葉に、一瞬大村や九十九達が目を見開くも。

 直ぐに表情を元に戻すと、慌てずに返事を返し始める。


「でしたら、見本をご用意しておりますので、一度ご覧ください」


 すると大村は、同じ外交使節団の外交官が持っていたアタッシュケースを受け取ると、それをテーブルの上に置き開けると、その中に入っているものをアポロ王子達に提示する。

 アタッシュケースの中には、黒い液体の入った小瓶と、黒い鉱石が入っていた。


「こちらの黒い鉱石が石炭で、こちらの小瓶に入っているのが石油になります」


 大村の説明を聞きながら、アポロ王子達はまじまじと石炭と石油の見本を観察する。

 そして、許可を得て、フレグル外務大臣は石炭と石油入りの小瓶を手に取ると、更に詳しく観察を始めた。


「んー、この鉱物……。はて、何処かで。それにこっちの黒い液体も、見覚えがあるような、ないような」

「本当ですか!?」


 フレグル外務大臣の漏らした言葉に、顔色が明るくなる大村や九十九達。

 そんな彼らを他所に、フレグル外務大臣は自身の記憶を辿ると、程なく、思い出したように声をあげた。


「そうじゃ、思い出した! 確かここより南の方にあるルヴ―セという地域で、このセキタンやセキユのようなものが取れた筈じゃ。確か、地元の者達はこれらを"鉄の出来損ない"だとか"悪魔の血"だとか言って、取れても直ぐに捨てていた筈じゃ」


 そしてフレグル外務大臣の言葉を聞き、大村や九十九達は安堵の表情を浮かべる。

 そんな彼らの様子を目にし、フレグル外務大臣は駆け引きに打って出る。


「しかしながら、困りましたなぁ。先ほども言ったように、これらは地元では資源として認識されておりません。故に、これらを採取する為の設備も、輸出の為の運搬ルートも、何も整備されてはおりません」


 伊達に外務大臣という肩書を有している訳ではない。

 フレグル外務大臣は、わざとらしく輸出する為の準備が全く整っていない事を強調すると、大村の反応を窺う。


 輸出の為の準備を整える為の援助、或いは、それに匹敵する別の援助を引き出す。

 フレグル外務大臣はそんな腹積もりであった。


 すると、大村は不意に九十九の方に視線を向けるや、視線で何かをやり取りし始める。

 程なく、再びフレグル外務大臣の方へと視線を戻すと、再び口を開き始めた。


「では、大和皇国は、アリガ王国国内の資源開発に対する援助。並びに、アリガ王国国内のインフラ整備に関しましても援助を行う事をお約束いたします。それから……」

「な! なんじゃと!?」


 大村の口から出た言葉に、フレグル外務大臣は効き終える間もなく、堪らず驚きの声を漏らす。


「もしも必要とありましたら、大和皇国は、アリガ王国に対して兵器の供与の準備も御座います。勿論、使用に関する指導等も行います。ただ、現行品ではなく、旧式のものとはなりますが」


 そして、続いて出た言葉に、フレグル外務大臣はもはや言葉も出ない程驚いた、という様子であった。

 何故なら、自身が予想していたよりも遥かに良い条件を提示したからだ。


 特に、兵器の供与に関しては予想もしていなかった為、完全なるサプライズと言ってよかった。

 現行の、先ほど目にした数々の兵器ではないにしろ、あの兵器の性能を鑑みるに、旧式とはいえアリガ王国の基準で言えば最新鋭の国産兵器を凌駕する性能を持っている事は、容易に想像できた。


「むぅ、ここまでの条件の出してくるとは……」


 最早断る理由が見つからない程の好条件には、フレグル外務大臣も二つ返事で受け入れたくなる。

 だが、最終的な判断はフレグル外務大臣自身にない。

 そこで、フレグル外務大臣はその最終的な判断を下せる立場にある人物、アポロ王子の方へと視線を向ける。


 するとアポロ王子は、顎に手を当てながら、暫し思考を巡らせる。

 そして程なく、自らが下した決断を語り始めた。


「この件、王都リパに戻って前向きに協議したいと思う」


 刹那、九十九達のみならず、ペルル王女の表情もぱっと明るくなる。


「ただし、貴方達も妹から聞いているとは思うが、一応表向きには、この国の最終決定権は我が父であるルイス国王にある。だから確約はできないが。……父上もその様な条件ならば、首を横には振るまい」


 そして、アポロ王子は椅子から立ち上がると、九十九に対して手を差し出す。

 すると九十九も、それに応えるように立ち上がると、アポロ王子の差し出した手をしっかりと握り返す。


「ニシキベ殿、今後とも、末永く善き付き合いを、よろしく頼む!」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 そして、お互いに笑みを浮かべながら、二人は硬い握手を交わすのであった。



 その後、必要な資料を手渡し、更に王都リパで行われる関係各所との協議の結果を一週間後に報告、更に詰めの調整の為の協議をシャーロン伯爵の館で行う事など。

 今後の予定を確認し終えた所で、会談は終了となった。





 こうして好感触で会談を終えた九十九は、とりあえず初めての会談が好感触で終わった事に安堵すると、協議の結果が判明するまでの間、どの様に過ごすべきかを考え始める。

 先ずは、当分の滞在場所についてだ。

 まだ国交が成立していない以上、活動拠点となる基地の建設などは行えない。となると、当分は沖合に停泊している艦隊で過ごす事になりそうだ。


 そう考えていた矢先、意外な人物から助け舟が出される事となった。


「なぁ、ニシキベ殿。あんた達、暫くの間はこの街(ロマンサの街)に滞在するんだろ?」

「そうしたいのは山々ですが、自分達がいると街の方々にも少なからずご迷惑でしょうし。それに、まだ正式な国交が締結されていない以上、王国の領内に他国の軍が滞在しているのは色々と問題が。ですので、暫くは沖合に停泊している艦隊に滞在しようかと」

「街の連中は、特に迷惑と思わねぇと思うが。まぁ、後者は確かに言われてみればな……」


 と、九十九に声をかけたシャーロン伯爵は、不意に妙案を思いついたのか、声をあげた。


「そうだ! なら、こういうのはどうだ!」

「何か良案でも?」

「簡単に言うとだな、あんた達がギルドに冒険者として登録するんだ、それで、あんた達の軍隊を冒険者クランとする」


 何故そこで冒険者としてギルドに登録するのか不思議で仕方がない、と言わんばかりの九十九を他所に、シャーロン伯爵は更に説明を続ける。


「実は、冒険者は自分達の活動拠点を持つことが出来るんだが、単独や少人数なら、街中の空き家などを買い取って使えるが、大人数となるとなかなか場所がない。だから少々危険だが、街の外などに自分達で活動拠点を整備する事がある。で、その際の許可なんだが、王国政府に申請する必要はない。申請の可否は、その整備予定地となっている土地の領主、即ち、今回の場合は、この俺の許可さえあればオーケーってな具合なのさ」


 そこまで説明を聞いて漸く、九十九はシャーロン伯爵の意図を理解する。

 と同時に、その大胆さに内心感心するのであった。


「丁度、あんた達の増援がやって来た方角にある海岸一帯は俺の領地だし、特に開発の予定もないから好きに使ってくれ!」

「仮に文句を言われても、自分達は冒険者で押し通す、ですね」

「そう言うこった。それに、あのセンシャとかいう乗り物も、自前の馬車だ何だと押し通しちまえば、万が一の場合でも動きやすくて都合がいいだろ、ははは!」

「シャーロン伯爵、何故そこまで自分達に便宜を?」

「助けてもらった恩を返すのは当然だろ?」


 白い歯を見せながら笑顔を浮かべるシャーロン伯爵。

 それにつられるように、九十九も笑みを浮かべるのであった。

この度は、ご愛読いただき、本当にありがとうございます。

そして今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。


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