プロローグ とある戦場の風景
地球とは異なる惑星のとある平原、風に揺られ草がなびく音が一帯に響き渡る。
天高く昇った太陽から光が降り注ぎ、青々と生い茂る平原を色鮮やかに輝かせる。
そんな平原を、幾多もの足音を立てながら、幾多もの足が草草を踏み、進んでいく。
その正体は、地球においては空想の生物とされている生物の数々。
緑の肌を持ち、人間の子供のような背丈に凶暴な顔つき、そして尖った耳を持つ、ゴブリンと呼ばれる生物。
ゴブリンと同じ背丈に、犬のような容姿を持った、コボルトと呼ばれる生物。
更に、緑の肌を持ち、成人した人間と同じ背丈にブタにも似た顔つきをした、オークと呼ばれる生物。
それら地球では見られない生物達は、その手にこん棒や剣など、その容姿に違わぬ武器を持ち。
その体にはお手製感溢れる防具などを装備している。
まさにモンスターの軍勢と言わんばかりのその集団は、悠然とした様子で一心に平原を突き進んでいた。
「?」
だが不意に、進行を続けていたとあるゴブリンが、周囲のモンスター達が発する足音とは異なる物音に気がつき、足を止めた。
が、後ろを歩く別のゴブリンに怒られ、直ぐに歩みを再開する。
しかし、どうしても謎の物音が気になり、ゴブリンは歩みながら空を見上げた。
目にしたのは、広がる青に真っ白な雲が美しいコントラストを描く快晴な空の景色。
眩いばかりに光り輝く太陽が、自分達の事を祝福しているかとも思った刹那、ふと、太陽に小さな黒い影のようなものがある事に気がついた。
太陽光に耐え切れず不意に視線を逸らし、再び黒い影の正体を確かめようと太陽を見た時。
ゴブリンは、違和感を覚えた。
先ほど見た時は小さな点のような筈だったものが、今は先ほどよりも大きくなっていたからだ。
太陽光に耐え、目を細めて徐々に大きくなっていく黒い影を凝視していると、ゴブリンはやがて、黒い影の輪郭を捉えた。
それはまるで、ワイバーンと呼ばれる飛行生物が翼を広げ地上の獲物を捕食するような輪郭であった。
だが、それがワイバーンとは異なる存在であると、ゴブリンは直後に思い知らされる。
不意に謎の輪郭は、腹に抱えていた謎の物体をゴブリン達目掛けて切り離した。
切り離された謎の物体は、奇妙な音を立てながらゴブリン達目掛けてぐんぐんと近づくと、やがて鈍い音を立てて行く末を見つめていたゴブリンの近くに落ちた。
刹那、眩いばかりの閃光が現れたかと思えば、次の瞬間には身を焦がす炎と鉄をも粉砕する衝撃波が辺り一面を襲い、ゴブリンを含め範囲内にいたモンスター達は瞬く間にその命を刈り取られた。
ゴブリンは知る由もなかったが、同じ現象は集団の複数で発生し、範囲内にいたモンスター達の命を刈り取り、その魂の行く末を示すかのように、天高く濛々と立ち上る黒煙を発生させていた。
突然の攻撃と思しき爆発に、生き残ったモンスター達は浮足立つ。
奇妙な音と主に空から現れた謎の物体、モンスター達にとっては知る由もない"九九式艦上爆撃機"と呼ばれる機械の翼をもつそれは、搭載していた二五〇キロ爆弾を投下し終えると、まるで何かを待っているかのように上空を旋回し始める。
程なく、先ほどの爆弾とは異なる物音が周囲に響き渡ると。
刹那、突如火山が噴火したかの如く爆発が生じ、炎と衝撃波が周囲のモンスターを襲う。
しかもそれは一度ならず、二度、三度と続き、爆撃を生き残ったモンスター達の命を刈り取る。
姿もなく、何処からともなく攻撃されるこの摩訶不思議な光景に、生き残った一部のモンスターは自らの命を守るべく逃走を図る。
だが、背を向けるそれらに対し、今だ戦意を保ち続けているモンスターが怒鳴り声をあげ、制止させるべく動く。
爆撃前までの悠然さはなく、まさに混乱の極みにある集団。
そんな彼らの前に、新たな脅威が迫りつつあった。
未だ九九式艦上爆撃機が上空を旋回しているが、気付けば謎の音と共に何処からか攻撃されなくなった、と気づいたその時。
地平線から、土埃を巻き上げながら何かが猛スピードで近づいてくるのに気がつく。
それは聞いた事もない音を立て、見た事もない鋼鉄の鎧を全身に纏い、大砲と思しき兵器の砲口をモンスター達に向けていた。
モンスター達には知る由もない謎の物体の名は、"九七式中戦車"と呼ばれる鋼鉄の軍馬。
九七式中戦車の群れは、程なくほぼ一列に急停止すると、主砲の57mm戦車砲を発砲し始める。
砲口が火を噴きだしたコンマ数秒後、それまでの爆発に比べると控えめながら爆発が生じ、生き残ったモンスター達を吹き飛ばし、命を刈り取っていく。
ここに至り、遂に我先にと積極的に逃走を図る一団と、圧倒的不利な状況にもかかわらず勇猛果敢に挑みかかる一団とに、モンスターの集団が別れる。
が、それぞれの一団に待っていたのは、無情な死の運命であった。
逃走を図った一団には、逃がさんとばかりに、上空を旋回していた九九式艦上爆撃機達が再び牙をむいた。
無防備な背中を向けるモンスター達目掛けて機首を向けると、機首に装備している二門の7.7mm機銃が火を噴く。
上空から降り注ぐ7.7mm弾を受け、一体、また一体と草原に倒れるモンスター達。
仲間の死を横目に、必死に森へと逃れようと走るコボルト、だが、そんなコボルトの背後上空から、悪魔の音が近づいてくる。
刹那、断続的に鳴り響く発砲音と共に、また一つ、草原にコボルトの骸が横たわった。
一方、九七式中戦車の群れに戦いを挑んだ一団は。
砲撃の嵐の中を駆けながら、何とか一矢報いるべく接近を試みていた。
そして、奇跡的に砲撃の嵐を掻い潜れた、と思った刹那。
車体前面に備えられた九七式車載重機関銃が甲高い音を立てながら火を噴き始めた。
暴風の如く襲い掛かる7.7mm弾を防ぐ術を持たないモンスター達は、何が起こったのかを理解する前にこと切れ、魂の抜けたその骸を、自らの血で染めた草原にまき散らすのであった。
それから暫くした後、草原に、再び静寂が舞い戻る。
だが、そこに広がった風景は、血に染められた草原にモンスター達の大量の骸、そして、立ち上る黒煙と、下手人である九七式中戦車の群れ。
それはまさしく、戦場の風景そのものであった。
「司令! 魔物の殲滅を確認いたしました!」
「そうですか、ご苦労様」
「は!」
そんな風景を目にしながら佇む、グレーの軍服姿の一人の青年。
青年は報告を行った、部下と思しき同じくグレーの軍服姿の男性の背中を見送ると、再び視線を眼前に広がる惨状へと戻す。
風を伝って硝煙と血、更には肉の焼ける臭い等、まさに戦場の臭いが鼻を突く。
「……はぁ」
そして、青年は一息吐くと、思い詰めた表情と共に言葉を零し始めた。
「何でこうなったんだろうな」
青年の言葉に応えるように、ひとすじの風が戦場と化した草原に吹いた。
小解説コーナー
九九式艦上爆撃機。日本海軍の艦上急降下爆撃機で、降着装置が固定式、でもそこが可愛い。
九七式中戦車。日本陸軍の主力中戦車で、みんな大好きチハたん。リベットたくさん。
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