二十八話
「素直に食料を渡さないならこの二人を殺すぞ」
槍を向けてきた兵士のうちの1人がそう言って脅しをかけてくる。
ヒイロからすればそれは脅しにも何にもならないが少女の方は脅えてしまっている。
「お待ちくだされ。お出ししたいのは山々ですが本当に食料がないのです」
堆肥で土壌改善をはじめたがそれは一部であるし結果が出るのはまだまだ先だ。
村人が食べるだけでカツカツであり他にまわす余裕などあろうはずもない。
今も村人の多くは危険を承知で森の恵みに頼っているような状態なのだ。
「無理を言っているのはわかっている。しかし、領主様の命令だ」
兵士達も無茶を言っているのはわかっているようだ。
しかし、上からの命令を無視できないのだろう。
ここで兵士を倒すのは簡単だ。
でもそれをすればさらなる難事が村に襲いかかるだろう。
せっかく支援をしている村なのだこのまま見捨てるのは忍びない。
「村長、よろしければ私に任せてもらえませんか?」
「錬金術師様。恩のある貴方を売るような真似はできませぬ」
村長はそう言ってくれているがここは任せてほしいと思う。
「お前、この村の者じゃないのか?」
「ええ。流れの錬金術師でしてヒイロと言います」
免状を出しながら名乗る。
「1級の錬金術師・・・」
免状を見た兵士は固まっている。
基本的に1級の錬金術師は誰かのお抱えだ。
フリーの1級の錬金術師に会う可能性などほとんどない。
「あぁ。安心してください。誰かに仕えていたりとかはないので」
それを聞いて兵士は安堵する。
誰かのお抱え錬金術師であった場合それを口実に何を言われるかわからない。
「私が同行しますのでそれで矛を収めてください」
これで彼等は任務である食料は手に入れられなかったが貴重な錬金術師を連れて帰ったということで面目が立つだろう。
少女に背負っていた枯れ枝を渡す。
「お兄ちゃん」
少女は心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫。すぐにまた会えるよ」
そう言って頭を撫でる。
「ほんとに?」
「うん。約束だよ」
ヒイロはおまじないとして指切りを少女とかわす。
ヒイロは領主のお抱え錬金術師になるつもりなどない。
自由を奪われるぐらいなら脅しをかけるつもりですらある。
こうしてヒイロは兵士達に囲まれながらウィンドルの街を訪れることとなった。
ヒイロとしては領主が聞き分けのいい人であることを願うばかりだ。




