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コバエ

作者: 空銭

 コバエを潰した。手のひらを開くと、両の手のひらにひとつづつの黒点ができている。それは蝿と言うより鈴虫を小さく、灰色にしたようだ。コバエとは「ホント」の名前なんだろうか。「ホント」とはなんなんだろうか。

 私は洗面所へ行き、水でそれを流す。濡れた手を拭いて見ると、もうコバエのいたことはわからなくなっている。黒点はなくなっている。

 私の部屋は、廊下を挟んで薄暗い中庭に面している。以前はなにかの木が植わっていたが、毎年毛虫が湧くからか全て切られた。一時は更地になったが、誰も手を入れないうちに雑草が生えた。虫もまた湧いただろう。

 また潰す。こんどは少し違う虫だった。羽蟻だろうか、違うだろうか。まだ完全に死んでいるわけではないようで、足や羽をざわざわと動かしている。こいつには意識があるのだろうか感情があるのだろうか。

 私はティッシュペーパーを一枚抜き取りそれを丸めた。中は見ない。

 またコバエ。しかし今度は手をすり抜けたのか死骸はそこにはない。柏手の音だけ。少し宙に目を泳がせるが、コバエの姿はない。また私の前に現れるのだろうか。

 一体彼らは何なんだ。なんで俺がいるこの部屋にいるんだ。どうやって入り込んだんだ。奴らは何をしているんだ。繁殖か? 摂食か? 俺は奴らのことを何も知らないけれど、俺の部屋にはいらない存在だから潰す。不快で、見苦しいから潰す。なんでなんだ。俺はお前らを潰すんだぞ。こっそり入り込んだときのように出ていってくれないか。

 俺はコバエと暮らしている。

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