討伐転生生贄の反術
目覚めると、警報の鐘が鳴り響いていた。
寝起きにこれだと、やれやれだなと、上体を起こして、枕元においていた、水晶板に触れた。
どうしたと、連絡をいれると同時に扉が開いて、ぬっと巨体が姿を現す、獅子の顔と前足に、山羊の体と後ろ足、蛇の尾を持ったキマイラだ。
「どうした、キマイラほどの上級肉球持ちが、でてくるとは、何か緊急の事態か?」
しかし、器用に前足の肉球をつかって扉をあけて、部屋にはいってきた、キマイラは、落ち着いた様子で同じように扉を閉めて、話し出した。
「いえ、大丈夫ですにゃ、魔王様、とりあえずは緊急で無くなったようで助かりましたにゃ、実は、限定討伐転生のポータルが開いていることが判明しましたにゃ。しかもよりによって魔王討伐をセットしている悪質なやつですにゃ」
それを聞いて納得する魔王だったが、やはりいつもの台詞を忘れない。
「魔王ではなく、なんか角がある人だ、それで、ポータルの座標はどうなっている。まさか魔素認証の追従タイプか?」
それを聞かれると思っていた、キマイラは残念そうに頷いた。
「なんと、我が世界に手引きしたものがいると、しかも魔素認証となると、聖王国側では入手しづらい技術・・・」
次の言葉を飲み込んで、口にだせないまま時間が経った、すっと角がある人が、まさに自らの角に手をかけて、それに気づいたキマイラが止める間もなく角をへし折った。
「この角を使って、反術を仕掛けよ、報償術式を組み込んで、疑似記憶で転生先で討伐した結果を持ち帰ったと認識させよ。この世界の平和と、他者の思惑に巻き込まれた転生者のせめてもの成功体験として、故郷に帰ってからの新たな勇者活動の糧になると思えば安いものよ」
なんか角がある人の片方の角を差し出されて、うやうやしくそれを受け取ったキマイラが、つづけて答えた。
「もったいなきお言葉、確実に反術を成功させてみせますにゃ。それと、裏切りものの調査は既に指示しておりますので、そう遠くない時期にご報告できるかと存じますにゃ」
「うむ、すまんなつらい決断を、角のことはそんなに気にするな、またすぐ生えてくる、今はこれぐらいしか有効利用もなかろうしな」
話を終えて、キマイラが部屋を恭しく退室した後、支度して部屋をでようとしたところ、再び警報が鳴り響いた。
「どうした、今度は何だ?そろそろ警報の種類を変えないといけないな、聞かないと分からないのでは心構えができぬ」
どうやら女神側からコンタクトをとってきたそうだ、鏡の準備はできているので、後は、なんか角がある人待ちのようだ。
「やはり、今日も忙しいな、日課の目視点検もできないとはな」
中央謁見室に早足で入室すると、既に、女神の姿が写っており、今日は酒は飲んでいないようだ。
さっそく、ボリュームのある胸元も露わな薄い布をまとった女神が話し出した、酔ってないときに静かにしていれば、それなりに威厳と美貌があるのが残念だ。
「あらら、角ぴーおそいし、なんか角が片方欠けてない?」
緊張感の無いしゃべり方にがっくりくるがそれには皆もう慣れてしまっていた。角のことは触れずに、早速本題にはいるように促した。
「そうそう、前から言ってたあれなんだけどぉ、やっぱり断れないみたいでぇ、限定空間でいいらしいし、接続しちゃってもいいかなぁ」
はっきりしない説明だが、内容はこうだ、神同士のノルマというか貸し借りの解決のために、お互いの世界を最低限接続する必要が発生したようだ。今回のケースであれば、次のような解決策になる。なんか角のある人がそれを受けて話だした。
「限定空間でよいのだな、それならば、無限ダンジョンのベヒーモスボス管理地を解放しよう、そこに限定転生者を接続すればよい。その間は、こちらの世界からも隔離するので、目的達成までは自由にすればいい」
手順はカーバンクルとベヒーモスに対応させるので、あとは直接、相手の神と交渉すれば問題ないとすると、早々に女神がじゃあ、あとはよろしくと接続を切っていった。
ふっーと一息ついて、椅子に座った、角がある人は、やけにこのところ、譲歩案件が多いなと不審に思った。
「たしか、他世界との交渉は、奴に任せていたような」
きな臭い話になってきたなと思いながら、もう一度、キマイラと話をする必要があるなと、重い腰をあげて起きあがった。
「まあ、大丈夫だ、うまくやれている、現地勇者が育つまでの辛抱さ」
勇者パーティにひっそりと参加しているワーキャットの今晩の報告会を楽しみにもう一踏ん張り頑張ろうかと歩み出した角がある人だった。
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