群転移狂乱の反術
ゆっくりと進みながら、ひとつひとつ立ち止まり指を指して対象をみつめて確認し、顔の横まで手をあげて、唱える。
「人型転生なし、ヨシッ!」
「スライム型転生なし、ヨシッ!」
「動物型転生なし、ヨシッ!」
「機動兵器チェック、ヨシッ!」
廊下にならんだ、丸い水晶の中にたまった魔素が一定数を超えていないか、日課となった、目視点検を実行しながら、中央謁見室へと向かう。
実は、目で見なくても警戒値を超えれば警報音が鳴る仕組みなので、必要ない行為なのだが、精神の安定のためなのか思わず確認せずにはいられない。
黒いマントをなびかせながら、落ち着いた雰囲気の中央謁見室へ入室してすぐに、額に緑の宝石輝かせながら若干発光している毛皮をゆらして、魔水晶猫が報告のために近づいてきた。
「魔王さま、報告がありますがよろしいかニャ」
手近な椅子に腰をかけながら、魔王がうなづくが定番の台詞は忘れない。
「魔王ではない、なんか角がある人だ、そろそろ危険な頻度になってきているから、間違わないように気を付けてな、どうした異常値でもでたか」
カーバンクルは気を付けますと、うなずいた後、報告をはじめる。
「各地の地殻変動を調べている装置で、大きく2つの異変を検知しておりますにゃ、どうやら、過去の戦場となっている場所の魔素を利用した、空間転移が例の世界から行われようとしているようですにゃ。もう1つは、聖王国の同盟国に属していない、新興国にて、集団転生にて勇者を大量生産しようとしている動きがありますにゃ」
その報告を聞いて、なんか角がある人が答えた。
「うむ、よく未然に検知してくれた、まずはそなたの働きに感謝したい、素晴らしい肉球だ。さて、空間転移の件だが、これはやっかいだな、例の世界ということは何万人もの廃人の思念を集めて、仮想世界の終わりの事象を転化して強制転送してくる術式だったな・・・」
少しの間、悩んでいたような角がある人だったが、観念したのか、懐から、鍵を取り出して、カーバンクルに渡した。
「もったいないが、異相世界を消費しよう、魔力的発展が望まれない世界だが、十分な受け皿にはなろう、打ち込まれている転移アンカーを移してそちらの空間に誘い込んで、目的を果たして帰ってもらうとしよう。ただ、継続監視になるかもしれんから、宝物庫内常時監視だ、棚に厳重に設置するようにな」
もう1件については、苦虫を噛み潰したような顔を見せながら吐き捨てるように指示をした。
「まだ、転生勇者に頼ろうとするような、他力本願な文化が存在するのか、どこの国だ。なぜ現地勇者育成に力をいれない?神の使いと魔法武具などは望みに応じて勇者候補にひっそりと渡しているだろう」
いらいらする気持ちがおさえられずに、目の中に炎を燃やすような、表情をみせる角がある人の手をなだめるように肉球でそっと触れながらカーバンクルが答えた。
「商業国のカルアンですにゃ、もちろん勇者候補もいるのですが、手っ取り早く、聖王国並の力を手に入れたいようで、禁術である勇者転生を企んでいるようですにゃ」
やはりなという、表情で、対抗策を指示する。
「儀式にあわせてカルアン国全域にランダム転送をかけろ、すこし酷だが、国内から転生者もどきを転移させる、記憶認知を停止させてしばらくの間は、自分が転生したと思いこませるのだ、あと、集団の規模を事前に調べて、念には念をいれて、学生制服を着せて転移だ、デザインだけのダミーの奴だ。本物は技術革命が起きるかもしれないため持ち出しは引き続き禁止だ」
了解しましたと告げたあと、カーバンクルは、肉球を握りしめガッツポーズをして、ケットシーと拳をくっつけて危機を未然に防げた喜びを示した。
その他も一通りの報告を受けたあと、壁際においてある、魔素瓶の不足がないか、目視点検したあと、武器庫へ向かった。
重厚な鉄の扉に取り付けられたドワーフの繊細な彫金がなされた取っ手を引いて開けると。数々の武具が棚に順番に設置されていた。
剣の棚、斧の棚、杖、防具などいろいろある中で、紋章の棚という数少ない棚の近くで足をとめた。
ひとつ、ひとつ手にとって、いとおしそうに目を通す。
複雑な形にちりばめられた魔力を秘めた宝石の数々を組み込んだ首飾りや、指輪など、それぞれに羊皮紙が括り付けられており名前ようなものが書かれている。
これらは、現在、各国で育成中の現地勇者達に、ひっそりと贈られる予定のものだ。そっと元の場所に戻しながら。めずらしく心ここにあらずという表情で角がある人が呟いた。
「まだまだ先になろうが、修練を積んだ現地勇者たちが、力をあわせて、我を討伐に来るときが待ち遠しい、そのときまでは、転生者は絶対阻止だ、残された大事なこの世界を守ってみせよう。我が命と勇者の力で、結界を完成するそのときまで」
武器庫の扉を閉めて、居室に戻ろうとしたところ、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。すぐに先ほど閉めた武器庫にはいり、近くの水晶板に手を触れて語りかける。
「どうした、転生者か!」
なんか角がある人の戦いはまだまだつづく。
読んで頂きましてありがとうございます。それもありかなって温かい目で読んでいただけると幸いです。