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妹・私のざつだん日誌  作者: 夏夜やもり
第一章 朝焼けメダリオン
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第7話

「そんでさ、びやだるさんとはりがねさんって、どれくらいお話しできたの?」


 コーヒーを軽く一口頂き、妹が聞いた。


「うーん。何回かは話せたと思うなあ? お二人が来たときには、家族で一階の喫茶店行って、おやつとかお話とかしてたみたいだけどね...」

「何の話してたんだろう?」

「さあ? でも私、びやだるさんとはりがねさんの事いろいろ聞いてたんだよ」


 私は少し記憶を辿ってみると、少しずつ紐解かれるように蘇る。


「へえ、どんな」

「例えば、びやだるさんの職業とかね」

「何してる人だったの?」

「小物の細工職人さんだって。野太くて金だわしみたいな毛のついた指なのに、ちっちゃい細工が得意だっていうんだよ」

「へえ? って、じゃあこれ作ったのも?」


 妹がメダリオンを揺らす。色々と複雑なデザインで丸っこくて所々色が違ってて、まあ何というか緻密なものだった。


「お守りなんだってね、これ」

「すっごいね。手が掛かってるんじゃない?」

「愛する天使様のためならって事みたいだね」

「今の持ち主悪魔じゃん」

「な、何を言ってるんだろうね。私ってば世のため人の為に働いてるのに!」

「今欲しいものは?」

「土地と金塊、時間と宝石」

「俗物じゃん。びやだるさんもさぞ悲しんでるだろうね」

「ぐぬぬ」

「んで、それからどしたの?」

「うー、まあ、そうだなあ、あいつが言い出したんだよ」


 少しテンション下げられているが、私は話を続けた。




**―――――

 たしかその日は、眠れなくて酷い顔をしていた筈だ。しかし、うすぼんやりした頭で浮かんだ言葉をあいつが取り違え、そのやりとりから私は聞いた。


「びやだるさんてなにしてるの?」


 あいつは少し首をひねってから言う。


「あんな、おとんは職人なんよ」


 私の顔色にはまるで気にせず、けらけらと話し出す。


「んでな、その才能に惚れ込んだのがおかんやねん」


 うんそうなんだろうなあと二人を思い浮かべつつ、私は水を向けた筈だ。


「プロポーズはどっちからしたの?」

「おとんや!」

「はじめて会ったのは?」

「えとな、えっとな」


 聞く事によると、はりがねさんとびやだるさんが出会ったのは、桜が特盛の道だと言っていた。


「特盛?」

「そや。特盛の桜やった」

「むー想像できない」

「みしてもらったんやけど、道にな、桜が山になってたってたわ」

「ふむふむ」


 本人の言説なので、実際はどうか解らないのだが、まあ、信じよう。その特盛桜の石畳を歩いている途中、その人を見つけた瞬間に雷に打たれたらしい。

 たぶん、びやだるさんが。そういえば聞いてなかったけど、まあ、そういう事にしよう。はりがねさんはものすごい美人さんだからね。初対面で『何をどう間違ったのっ!?』と思ったのは内緒なのだ。


「あんな、二人が出会って初めに思ったのは、あのお腹に何センチ顔うずめられるかなー? やったんて」

「ふむふ...ん?」


 んんっ!? あれ? これ、興味津々だったのははりがねさんだったりする?


「でな、声をかけたんや」

「何て?」

「うちと茶ぁしばきにいかへん? って」

「ちゃ? しばく? 何それ? というか、え?」


 あっれー? 今思い出して、疑問出てきた。はりがねさんってば実は活発だった? え、え? いや、とても物静かで、えっと、美人さんで、姿勢なんかも定規が背中に入っているかみたいな人で、ええ?




**―――――

 妹が、目を丸くして声を上げた。


「えっとさ、聞いた感じだと、はりがねさんから誘った感じだけど...」

「う、うん。思い出してみたら、衝撃の事実だったような、えっと、たぶんはりがねさんかびやだるさんが、多くの事をはしょって説明したんだと思うよ。私は」


 つられて私もうろたえる。記憶の中の言葉だから、正確ではないのだが、ちゃんと思い出してみるとあれ? と思わずにいられない。


「でもさ、こんなお腹にはどこまでうずめられるかやってみたいよね」

「うーん、まあ、私は初対面でうずめられたからなぁ」

「ねねね、ねえねえ、どうだった? どうだったの?」

「ぷよんぷよんだけど奥がちょっと硬かった。あと、変わった臭いがした」

「ほほおー、ほーほー」


 あれ? 妹もはりがねさんと似たような趣味なのかな?ちょっと、認識を改めながら、思い出話を続ける。




**―――――

「んでんで、出会ってそれから、どうなったの?」

「でー、旅行行った時におとんがな」


 話が一気に飛んだな。いや、たしかそうだ。当時も心の中で突っ込んでいた気がする。


「どこに行ったの?」

「え? っと、確か海でな、遠くの岩に夕日が下りるとローソクに火をつけるように見えるとかの場所やって」

「なあに、それ?」

「そんな景色だったらしいわ」

「むむ、ろうそくみたいな岩なのかな」

「うん。で、二人で堪能したあとにな、この景色は一瞬で終わる一つの思い出だけど、君が隣にいる事で僕の一生の思い出になっているんだ。それに、あの日君がつけた僕の心の火は日々燃え上がって、あの一瞬で消える大岩よりも輝かしく、赤々と一生消えないだろう。結婚してほしい...て風や」

「ほ、ほほー」


 多分何度も何度も聞かされたのであろう言葉だとおもう。すらすらと出てきて、あいつもちょっとだけ赤くなっている。つい、私は当然のことを聞いた。


「答えはなんて?」

「おかんな、『はい』っていったんやって。その時心に火が付いたんやって」


 ひゅーひゅーとでもいうべきだったろうか? あいつはにっこにこしながら語っている。


「大きくなったら見に行きたいわ」

「そりゃ、行ったらいいんじゃない?」


 私の気のない返答に、かまうことなくあいつは続ける。


「なな、退院したら下見に行かへん? ちょっと興味あるんよ」


 ん? そこって近くなのかいな? そんな事を思いながらも、私は答える。


「やだ」

「なんでや!」

「私、海苦手。溺れるから」


 名誉(めいよ)にかかわるため、海で溺れて助けてもらった2回の出来事は言わない。


「そっちかー」

「ちなみに、山も断る。山は危険がてんこ盛り」


 ちなみに口には出さないが、山へ出かけて吊り橋から落ちそうになった思い出は、3回程度で済んでいる。


「なんっ!? じゃあ何処ならええねん?」

「さあ?まあノリで断わった感あるから仕方ないね」

「んじゃ、まあ、またノリの良い時に頼んでみるわ」


 いやいや、それって、私にとってはその度に断わってほしいと言ってるようなもんなのだが、まあ、言わずが花である。


「考えとくね」

「いまいやらしい笑い方してへんか?」

「ふっふっふ、大丈夫だよー、ツクッテルダケダヨー」

「あーもう、約束やで」

「考えておく」




**―――――

「何で断わっちゃうかな?」

「いや、ノリって重要なのだよ?この時の答えのせいで、あいつのお願いや! は、概ね断る流れになったんだからね」

「ひっど!」


 まあ、口には出さんが本気の時にはちゃんと考えたりもしただろう。たぶん...? いや、やっぱりノリとか気分で断わるかな?


「ん? でも、なんでご両親の出会いになったんだっけ?」

「え、私が尋ねたからだよ?」

「んー? それ聞きたかったの?」

「いやいや、何してる人なの? って聞いたんだよ」

「あれ? じゃあ、何で二人の出会いとプロポーズの話になってんの?」

「さあ?あいつが言いたかったんじゃない?」

「ふむう、そういうもんかな?」

「まあ、そういうやつだったよ」


 妹が首をひねる中、私は椅子に体を預けて上を見た。そう。向こうから色々と話しだすやつだったなと思う。



                            つづく

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