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妹・私のざつだん日誌  作者: 夏夜やもり
第一章 朝焼けメダリオン
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第6話

「うちのおかんは、はりがねやねん」


 あやつが言った。


「あと、おとんはびやだるや」


 はりがねさんとびやだるさんとな!? 嬉々として私に伝える姿から、良い人たちなんだろうな...実際に合ってみたいな...なんて思っていたし、その機会があるのか疑問に思うが、私は少し首をかしげる。


「はりがねとか、びやだるって...何?」

「しらへん」


 今であれば想像が出来るだろう。しかし当時の私はあやつのイントネーションからか、違う印象を受け取ってしまった。はりがね? 張り紙みたいな感じかな? びやだる? 美ヤダル...何か違うな...うん? つまり、当時の私は何を言ってるのか解らなかった。


「むむぅ、宇宙人じゃないよね?」


 あやつは少し眉を曲げる。


「宇宙人ちゃう。あんな、おかんが自分でいうたんや。うちはりがねやねんって。おとんを呼ぶときもな、びやだるさん! はよしいやって感じや」

「ほー?」


 わかったような顔をして頷くのだが、私は頭の中がグルグルしていた。はりがねとびやだるというの人物の想像図が浮かばずに、ずっと疑問符を浮かべていたのだ。




**―――――

 軽く息を吐いて妹がつぶやく。


「はりがねとびやだるって、すっごい特徴的よね」

「うん。当時聞いた時には発想できなかったんだよ。で、そのあだ名は多分、はりがねさんが伝えたんだと思う」

「たぶんそうだろうね」

「でね、実際会った事のある私は、はりがねさんを渾名付けの師匠だと思っているよ」

「それは、迷惑な出会いだったのね...」

「失敬な!」

「いっっつも意味わかんない、ひどい渾名つけまくってるじゃん?たとえば、自転車」

「あかふくさん?」

「...黒いじゃない。赤どこから来たの?」

「だって、赤い服を着てたんだよ?」

「貰った時に、洗濯もの絡まっただけじゃん...もう、いいわよ」


 少しこめかみを押さえてから、妹はカップを傾ける。


「まあ、二人とも合ってみたいけど、びやだるさんはしっかり見てみたいわね」

「そう? でもやっぱり、びやだるって感じだよ。一説にはあのお腹には、夢が詰まっているらしい」

「ふふっ、ほんとう?」

「あやつが言ってたんだってば」

「はりがねさんの受け売りかしらん? あ、どっちが北欧生まれ?」

「びやだるさんだね」

「ふむふむ」


 妹は一人にこにこしながら、メモ用紙にイラストを書き出す。


「びやだるさんはこんなイメージかな、んんーはりがねさんは...」

「めちゃ美人で和服似合いそう。着てたのは洋服だったけどね」

「あ、洋服か、まあいっか...」


 私の補足を受けて、妹は筆を加速させた。


「うおっ、二人とも似てる」


 細い線で書かれたなぜか和服美人で狐顔のはりがねさんと、樽状の体にだんごっ鼻、赤味を刺させる手の込み具合でまあ、記憶の中のお二人そのまんまだ。


「そう?あたしの創造力すごいでしょう」

「私の話術がインスピレーションを与えたって事で喜んでおくよ」

「もう...いちいち引っかかるわねぇ」

「まあ、初めて会った時、はりがねさんの声は聴けなかったんだけどね」

「え? なんで?」

「聞こえなかったんだよ。びやだるさんが早口でさ、でも何言ってるかわかんなかったんだけど...」

「声が小さかったの?」

「私の語学力が残念だったのと、声が大きかったの。びやだるさんは結構感激屋さんなのだろうなって思ったよ。出会いの衝撃もあったんだけどね」


 妹は首を傾げる。


「何があったのよ」

「えっと、二人ともとっても家族思いだったんだけど、はりがねさんは隠してる人で、びやだるさんは表に出す人って事なんだけどさ...」

「ふむ...」




**―――――

 その日、病室内にノックの音が響き渡り、大音量で扉が開く。その先に表れたのは家族の見舞いに来訪した二人であった。外見は言葉の通りである。びやだるさんが、何言ってるか解らなかったが大声であやつへ駆け寄ってチューとかしていた。


『おーわれらが可愛い天使だか? 小悪魔だか? やっと、やっとだ! やぁぁぁっと、くだらないいくつかのゴミを片付けてきたぞ! あいしてるぜぇ!!』(いろんな情報から補完した私のアテレコ)


 そんな感じを動作加えて言ってたなぁ。後ろに控えためちゃめちゃ綺麗なはりがねさんが、うやうやしくもものすごく整った姿勢で周りに一礼していた。私は両のまなこを丸くしている。何事かまくしたてるように、しかも大声でしゃべっているびやだるさんに、廊下の向こうからも注目されている様だ。


「あ、あんな、おとんとおかんやねん」


 スキンシップを終えたあやつは少し顔を赤くしながら私に声をかける。と、びやだるさんがつぶらな瞳でこっちを見た。その視線を受けてあいつが私を紹介すると、とても感激した様によくわかんない言葉をしゃべってから私を抱きしめた。


「うわわっ!?」


 顔の方に胸毛、頭に腕毛がざらざら当たって、ちょっと独特なにおいがした。あとお腹に結構めり込んでいた。相変わらずはりがねさんはぺこぺこしている気配がした。


「は、え?えっと...」


 びやだるさんのお腹に埋め込まれた私の周りでは、何か話しているらしい。どうやらびやだるさんを注意したり放す様に促したりしているみたいだ。しかし、びやだるさんは止まらない。私はお腹に埋まってて、何言ってるのか聞こえない。さんざんぎゅーってされた後、開放された私は少し目を回した風になっていた。その方をあいつがぽんぽんとしてからベッドから降りる。


「ごめんな、ちょっといってくるわ!」


 私から引きはがされたびやだるさんはとても楽しそうな赤ら顔で、ウインクして手を振る。


「ちゃお!」


 その言葉は印象的だった。




**―――――

「...というわけで、お隣さんは家族で出て行き、夕暮れになるまで帰ってこなかったよ」

「初対面で凄かったのねえ」

「あの衝撃は台風一過というべきなのかな?一人残された私は、暫くぼーっとしてたみたい」

「はりがねさんは本当に何も言わなかったの?」


 私はカップに口をつけて、しばし考える。何か、言っていたような気もする。記憶をたどれば、上品な関西なまりっぽかった筈だよな?でも、初対面の日にはずっと申し訳なさそうにしていたような覚えがある。


「うーん、初めて会った日は...たぶん、印象に残ってないから、うーん」

「それくらい、びやだるさんが圧倒的だったのね」

「うん。そうだね」


 目を輝かせて妹が、さらに聞いてきた。


「でもさでもさ、お隣さんって、バイリンガルだったの?」

「そうだったと思う。何か、こっちとあっちを行き来しているらしいよ」

「ふーん、若いのにすごいねえ」

「まあ慣れてたんだと思うよ。あと、やってたスポーツもなんか、結構すごかったらしいからね。家族総出で応援してたみたい」

「あれ、でも入院したのよね?なんか病気なのかな?」


 私は顎に指当て考え答えた。


「検査入院だった筈だよ。何の検査なんだろう?」

「あたしが解るわけないじゃない」

「まあ、ねえ。私も知らないからなあ」


 すこし、声のトーンを下げ、私はケーキの欠片を口に運んだ。



                            つづく

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