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妹・私のざつだん日誌  作者: 夏夜やもり
第一章 朝焼けメダリオン
12/23

第12話

 その日、お日様は出ていなかったが暖かくて体調も良い。何となくであるが、時間の流れがゆっくりに感じられている。そろそろ点滴がおわりそうであり、私はナースコールを押した。それに合わせるように、あいつが声を掛けてくる。


「なあ、ちょっとええ?」

「なあに?」

「あんな、この前な、下で変な階段見つけたんよ」


 突然の発言に、少し考え返事を返す。


「んー? どこのこと?」

「1階なんやけどな、薄暗くてな、他より廊下が狭くてな、何かありそうなんや」

「いいね、いってみよっか」


 そりゃ楽しそうだと安請け合い。当時から私は、フットワークの軽さが利点であり欠点でもあった。




**―――――

「今とあんまり変わってないわね...」


 妹が、唇尖らせ割り込んできた。ちょっと棘がありませんか?


「まあ、三つ子の魂百までかな? 私、思いついたらすぐ行動だからね」

「今では体も元気だからさ、ちょっと考えてほしいわ」

「んー? 考えてるよ?」

「でも、手を出しての仕方ないのばっか選ぶじゃん。だれだっけあの人、こまったさんの手伝いとか面倒とか、見なくても良いじゃん」


 こまったさんは、困った人である。何というか、ほとんど関わり合いなかったんだけど、軽い気持ちでサポートしちゃって、それが結構大変で、さらにイライラする場面もあって、つい妹にこぼしてしまったのだ。これは、面白おかしくできなかった私が悪いんだろうな。


「...あれは、まあ変な言い方しちゃったからだけどさ、終わった事だよ?」


 妹の言う通り、現在においても私は軽挙妄動の失敗はある。

 しかし、豊富な経験を元に復帰する事も可能であって、その引き出しは百を超えていると友人知人の間で噂になっている。たまに話すエピソードにも、そういった事も含めることが多い。


「あのね、人一倍迷惑掛けてきたから、面倒も見ないとなのだよ」

「あら、人に迷惑、どんだけかけてきたの?」

「それは、まあ、その...」

「感覚で動きすぎだわ」


 さらに冷静に切り捨てられてしまった...。


「なくしたものは多いし、得られるものは少ないんでしょ?」


 うん。その通りだ。けどそのセリフ、私が前にした自嘲だよね、妹さん?


「人生たのしけりゃ良いんじゃないかな?」

「むう」


 私は人に迷惑を掛けてきているし、それ以上の面倒を被ってきている。ただね、私は楽しかったと言う経験は人一倍持っているから勘弁してほしいのだよ。小さいころから旺盛(おうせい)だった好奇心と行動力は変わらないし、動きが止まった時が、たぶん私の最後なのだ。諦めて付き合ってくれている人は、結構多いのだよ。


「話が、途中で止まっちゃったね」

「あ、そうね。つい、遮っちゃったわ」


 少し考える。このまま話を続けても、やはり聞きにくいんじゃないかな? そう思って私は言った。


「あのね、良い事もあるんだよ?」

「どんな?」

「こうして話題なってるでしょ」

「あら、それもそうかもね」


 そんなやりとりの後に、二人そろってケーキを一口いただく。それが二人とも綺麗にそろっていたのでついついふき出してしまった。


「ふふっ、じゃ、続き聞かせてよ」

「うふふっ、おっけー、点滴を抜いてもらった後の事だけどね」

「うんうん」




**―――――

「なあ、ふっちょさんいった?」

「うん。点滴もってってくれたよ」


 終わった点滴を外してもらい、ふっちょさんの動向を観察。一応大丈夫のようだ。


「おし、じゃあ行ってみようか」

「あいあい」


 私たちはあいつの案内で噂の通路へ向かって病院内を進む。ごしょごしょと耳打ちしながら、忍者をよそおい隠れている的な...今思えばめちゃくちゃ目立つ姿で、あいつの言う狭い通路にたどり着いた。


「ここやの廊下から行くんや」

「...確かに怪しい」


 その通路は古くさい扉付きではあるが解放されていて、一階ではあるが大人二人が通れるくらいの狭い渡り廊下の様な構造だった。普段、多くの人が利用する来訪者向けの広い廊下に慣れていた私たちは、ここが異質であると()()()()()。曇り空も手伝って、私たちは一様に不気味さを感じている。


「で、階段は?」

「こっちや」


 皆、扉をくぐり慎重に進んでいく。何が起こるかという恐怖感とそれを打ち崩す好奇心で、歩みを進める。足音が、普段よりも響き伝わっている。何でこんな廊下があるのだろう? それぞれが疑問を抱いていた。狭く、薄暗く、圧迫感さえある。ぽつりと言った。


「へんな匂い...」


 錯覚なのか? 緊張からの過敏になっていたからか、嗅覚が異様さを深め、何か感じ取っている。


「せやろ?」


 あいつが応える。若干だが足取りが重くなっている気がする。私の耳の奥もなにか圧迫感があり、キーンと鳴っていた。一歩ごとに、自分たちの足音が大きく響いている。窓の狭い、部屋の無い、薄暗い通路。


「ここや」


 通路の端は明るいドアに続いているのだが、その手前の角をあいつが指さす。暗い下り階段である。下には非常出口の明かりだけなのだ。


「...あやしい」

「やろ?」

「どうしようか?」

「...行くか?」


 怖い。はっきり言って降りたくない。しかし、何があるのかは気になる。状況次第であるが私は、どちらを取るべきかを迷った時、心のつかえが軽い方を選ぶ傾向にあった。


「いってみよう」

「...大丈夫かな?」

「まあ、行きたい人だけでいいよ」

「......行く」


 小さな会議の後...全員が下る事と決まり、先ほどよりも慎重に階段を降りる。ああいう時って何で物音が大きく聞こえるのだろうか?自分の足音に怯えながら私たちは階段を下りていき、突き当りに扉を見つけたのだ。


「なんや? この扉?」


 重たい鉄の扉である。ドアノブを回してみるが、ガチャガチャ言うだけで開かない。


「カギ掛かってるね」

「おま、躊躇ちゅうちょなしに確かめるんやな!?」

「ん? だって、気になるでしょう?」

「ん、まあ、な」

「どうしよっか?」


 暫く考えている。戻るという結論しかないのだが、何とか開かないだろうか?という好奇心も残っている。


「...まあ、カギがなきゃなあ?」

「ふっちょさんに聞いてみる?」

「怒られるわ!」

「なんで?」

「え?いや、カギ掛かっとったら普通入ったらあかん場所やろ?」


 等とやっていると、何かが聞こえた。


「っ!何この音?」

「へ?」


 それは、足音だった。硬い靴音が大きく響く。どうも大柄な人で革靴の音に思えるが、今まで私たちが慎重に進んできた廊下を普通に歩いている様だ。


「...どうしよっか?」


 音がだんだん大きくなってきている。こちらへ近づいている様に思える。


「こっち来とるんかな?」

「ここ...隠れる場所、無いよね」


 なぜ隠れると発想になったか、当時の自分に聞いてみたいのだが、結果は変わらないだろう。なんとなく悪い予感がしたのだ。


「あんな、いざって時には時間稼ぐわ。皆、こっそりぬけだすんやで!」


 おーかっこいい。でもその役目は渡すべきでない気がした。


「なにいってるの! 足止めは言い出しっぺの私に任せて、皆は先に行って!」

「先も後も行き止まりや!」


 かつんっ!ひときわ大きな足音が、階段の上でとまった。もしかして、下りてくる!?


「くるっ!?」


 こつこつこつと、駆け足で階段を下りてくる。暗い扉をがちゃがちゃしているのだが、開く様子がない。階段へ逃がれる事も出来ない。

 黒い大きな影が表れた!


「ひゃっ!?」

「わわっ!?」

「きゃっ!」


 皆がそれぞれ悲鳴を上げた時、その大柄な影から声が掛かった。


「誰がいるのかな?」


 それは、白衣のお兄さんだった。今まで見た事の無い人だけど、この病院の関係者であると解る。


「んー? 君たち、何をしてるのかな?」


 のんびりとした響き、どうやら私たちを逃がそうと隙を伺っているあいつを手で制し、私は言った。


「えっとね探検。行き止まりだったみたい」


 当時の私は平均より結構小さく、学年より小さくみられる。何も解らないお子さんを装って、切り抜けようと頑張ってみる。


「ふむ。元気な患者さんだな。でもここは入っちゃダメだよ」

「うん、解った。何があるの?」

「...まあ、ここは患者さんは入れない事になっているんだ」


 言葉をにごすお兄さん。


「変な研究してるの?」

「んんー!? うちで変な研究とかはしないと思うし、そんな施設はないよ。さあ、戻りなさい」


 あまり語りたくない様で、少しだけ急かすよう解散を促す。


「うん。行こう」

「せやな」


 こうして、今日の私たちの探検はおしまいとなり、病室へ戻る事となった。




**―――――

「むう、何か、すっきりしないね」


 開口一番、妹の予想された言葉に私はすました顔でコーヒーカップを傾ける。


「そう?」

「あ、お代わりいるかな?」


 ケーキはまだ残っているのだが、カップは空に近い。喉を(うる)おそうと飲みすぎたきもする。少し考え私は答えた。


「ああ、お願いできるかな?」

「あいあい」


 何が嬉しいのか、妹はカップ二つをもって台所へかけていく。少し私も記憶の整理をしようと目をつぶった。この話に続きはある。単純に失敗談だし、楽しくない記憶も伴っているのだ。


「~♪」


 かなり独特なリズムと音域での鼻歌が聞こえてきた。まあ良いかなぁ?と思って目を開く。


「はいどうぞ」

「ありがとね」


 結構熱いコーヒーカップを受けとって、私は言った。


「すっきりしないあの探検話には、続きがあるんだよ」

「おー、また何やらかしたの?」

「まあ、本筋と大分それるけど良い?」

「うん。面白ければ良いじゃない」

「夕飯の支度遅れるよ」

「昨日の残りあるじゃない。あれと一品だけでいいや」

「そう? まあ、いっか」

「んでんで?」

「その日は、特に何もなかったんだけどね。2~3日後の話だよ」


 そう、病室に帰ってもその日はお咎めはなく、みんなでドキドキしたねーなんて言いながら終わったのだ。だが、それから何日かした夕食後、あいつが言い出したのだ。



                            つづく

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