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「気まぐれ」という建て前の破格サービスをはじめる

 広場にはゴードンらが整理した2つの列があり、周囲には野次馬が集まりつつあった。

 どこかで話を聞きつけて真偽を確かめにきたのか、それとも偶然に出くわして興味をもったのか。とにかく、彼らが町中にこれからやろうとしていることを町中に広めてくれるだろう。


 「いいか、もう一度だけ説明するから、後から来た奴がいたら教えてやってくれ。俺らだけじゃ手が足りねぇからな!まず、未成年者は親が一緒にいようが、いなかろうが、無料だ。成人してる奴らは、金が払える奴は一律1000ルーク。だが、それが無理なら採ってきた野菜でもいいし、森で拾ってきた薪でもいい。気持ちがこもっていりゃそれでいい。だからって、金を払える奴が誤魔化すのは無しだぜ!金が払えない奴に文句を言うのもなしだ!あくまでも嬢ちゃんの気まぐれでやることだからな。いいか!」


「おい、一体何が始まるっていうんだ?」

「薬師ギルドと揉めたりしねぇのかな」

「本当に効果があるんだろうねぇ、子供がやるっていうし怪しくないかい?」


 周囲からは様々な声が上がっているが、ゴードンも私も動じない。予想の範囲だからだ。


「おっと、大事なことを言い忘れてたな。薬師ギルドとは話がついているから問題はねぇ。そんなことよりも大事なのは、先に並んだ順にやっていくが、それとは別に重傷者は優先だからな!覚えておけよ!」


 騒々しい声が漂う中、早速、片方の列の先頭にいる子供のところに進む。

 

「こんにちは。痛いところとかあったら教えてくれるかな?」


その男の子は左手が倍くらいに腫れあがっていて、そこが患部だということは一瞬でわかるが、あえて問いかける。


「そんなの見ればわかるでしょ!治してくれるって聞いたから連れてきたのに詐欺なんじゃないなら、早く治しなさいよ!」


 隣にいた母親らしき女性が怒鳴りたてるのをうっとうしいと思いながらも、ここは我慢だと言い聞かせる。


「回復魔法は、適当に使えば適当な効果しか現れません。ちゃんと治すためには、症状を正確に把握することが大切なんです。今は黙ってみていてください」


そこで男の子に改めて向き合う。


「手が痛いのはよくわかるよ。でも、他に何か気になることとか、痛い場所があったら教えて。その方が早く治るよ」

「うん…なんか体に力が入らなくて、あと、これ見ても気持ち悪いって言わない?」


 そういうと、服をまくり上げて左手の脇の下を見せた。

 脇の下がぷっくりと膨れている。これは…リンパが腫れているんだ。ただの打撲じゃないな。どこかに傷があって雑菌が入り込んでいる可能性がある。力が入らないと言っているのは発熱のせいかもしれない。


 医療に従事した経験はないけど、46年も生きていればこれくらいの知識はあった。

 左手を丹念に調べると、指の付け根に傷口があった。腫れているせいで隠れていたのだ。そこから腕、脇の下、首筋にも手を触れてみる。首のリンパは腫れていない。どうやら脇の下で菌は止められたようだった。


 確認すべきことはわかったので、【回復魔法】(ヒール)回復魔法を発動させる。手の腫れを引かせ、なかに入り込んだ菌を壊滅させるイメージを脇の下まで伸ばす。傷口をふさぐのも忘れない。


残念ながらいまのレベルでは熱を引かせたり、完治させるまでには至らなかった。それでも、腫れはほとんど引いている。


「あっ、痛くない、痛くないよ!」


喜ぶ子供をよそに、脇の下の腫れや左手の状態をもう一度確認する。


「症状はかなり楽になったはずです。でも、熱も残っているし、まだ完全には治りきってない。今日はたっぷり寝かせて、来れるなら明日同じ時間にもう一度来てください。ヒールをかけなくても治るけど、まだ心配ですから」


 効果を目の当たりにした母親は納得したらしく、さっきは悪かったと謝罪の言葉を述べて帰って行った。脇の下のリンパが腫れるという症状をみたことのない母親は、何か悪い病気にでも罹ってしまったのではないかと気が気ではなかったそうだ。

 子供が治ったことで動揺が収まると、礼儀のきちんとしたよい母親だった。我が子を抱きしめ、涙を流しながら帰って行った。

 もちろん、お代はもらっていない。


「本当に治ったな」

「ガキは無料ってのも本当なんだな」

「1000ルークってのもガセじゃなさそうだな」」

「なぁ。ヒールって1回であそこまで回復するものだったか?」


 うんうん、いい反応だ。


「おい、こうしちゃいられねぇ。嬢ちゃんの気まぐれが続いているうちに知り合いを片っ端から治してもらうぜ!」

「うちのダンナもみてもらわなきゃ!」


 野次馬のなかからそんな声が上がると、一気に「俺も」「私も」と並びだそうとしたり、知り合いを呼びに行こうとしたりと、軽いパニック状態になってしまう。

 まずい、ゴードンに、と思った次の瞬間には、事前に打ち合わせしていた通りに手伝いに来てくれた衛兵が動き出す。


「おい!こら!慌てんな!一気に大勢押し寄せても嬢ちゃんの体がもたねぇぞ!今日から5日間は毎日同じ時間にやるから、おめぇらもちっとは考えて動きやがれ!」

「いいですかー。寝たきりで動けないような病人を知っている人はこちらに並んで教えてください!別口でお受けしますよ!」


 いつのまにか百人規模に膨れ上がっていた野次馬も落ち着きを取り戻すが、寝たきりの病人の情報をまとめる係りの衛兵の前には、かなりの人数が集まっていた。自らがヒールを受けるために、新たに列に並ぶ人もそれなりにいる。

 ゴードン達と予想していた以上に、この町には治療を求める人がいたようだ。

 どう頑張れば今日のノルマがこなせるのだろうか……予想外の事態に軽いめまいを覚えた。


本日中にもう1話投稿の予定です。


作中、主人公が医療行為のようなことをしましたが、私自身の経験を基にしています。

原因に多少の違いはありますが、ほぼ実体験そのままです。

この時は病院に行くまでの気力がわかず、睡眠と自宅にあった栄養ドリンクで脇の下のリンパの腫れが引くまでを乗り切りました。

医療関係者様からみると正しい記述ではないかもしれませんが、あくまでもフィクションということでご理解ください。


なお、「正しくはこうするべきだ」「異世界ならこんな症状もあるのでは?」など、アドバイスやヒントがあればメッセージで送ってくださると大変嬉しいです(メッセージは他の内容でも嬉しいです!)。

今後の執筆に活かしたいと思います。

それではよろしくお願いします。

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