ロミーとの出会い
「こんなところで何してるの?」
少女はそう言いながらも私の手元にまだのこっているふかし芋に目が釘付けになっていた。
―――――ぎゅるるるるるぅ
響く音は、どう考えても目の前の少女から発せられているが、当の本人は全く気にしていないようだ。日常的になっているの、か?
「もしかして、あなたも孤児?あ、でもお金があるなら違うのかな?」
少女はあくまでもこちらを気にかけていて、自分の空腹は思考の外にあるようだ。とにかく、ここでは他の子に気づかれる可能性があるので、移動した方がいいだろう。
「ギルドまで一緒に行ってもいい?」
少女が向かおうとしていたギルドに意識を向かわせて、子供達から離れることに成功した。
少女の名前はロミー、13歳で、実質的な孤児のリーダーだった。あの廃屋は何人か前のリーダーの時から住み着いていて、冒険者となった子供が町を出る際にリーダーを交代して幼い孤児を守っているという。
だから私のことも保護対象者として仲間に入れるべきかが気になっていたようだ。
仲間に入るかの返事はうやむやにして、歩きながら残っていたふかし芋をロミーに食べさせる。自分はいらない、自分より幼い私が食べるべきだと頑なに拒否していたが、満腹で後は捨てるしかないと言ったらようやく食べてくれた。
そして、同じく冒険者であることを利用して、どのくらい稼げているのかを聞き出す。西門の外にある森は比較的安全で、スライム狩りがしやすいのだそうだ。その代わりライバルも多い。まともな仕事にありつけない大人もスライムを狩るからだ。
だから、スライム狩りと平行して木の実を採ったり、薬草を採取してわずかながら現金を得ている。運が良ければ2000ルーク、運が悪ければ500ルーク程度の稼ぎになるという。
ロミーは淡々と述べていたが、そんな額じゃ他の子を養うなんて到底無理だ。だからくず野菜を貰っていたのかと、理解する。今も屋台や飲食店を歩き回ってくず野菜を集めている仲間もいるそうだ。
「何かスキルを持っている子はいないの?」
素朴な疑問だった。何か秀でた才能があれば、もう少し楽に稼げるのではないかと思ったのだ。孤児は15人ほどいるそうだから、一人くらいは有能なスキルを持っていてもおかしくはない。
「スキルを判別してもらうには隣町までいかなくちゃ無理でしょ!?それにはお金がかかるし、お金が稼げる子はみんなこの町を出て行くの。ここじゃ貧乏から抜け出せないからって」
散策してみたけれど、この町は、そこまで錆びれてないし、そこまで貧乏でもない。この町から出て行くのは、現状を打破する力を持っていないからだ。よその土地ならどうにかなるのでは、と夢を見るのだろう。
でも世間は甘くない。どこの土地に行っても同じだ。他所で結婚し子供を産むまではいいが、結局は育てることができずにこの町に子供を捨ててゆくのだ。
実際、捨てられた記憶のある孤児もいるそうだし、この町の出身者が我が子を門の前に置いていく姿を町の人が見ている。
その全部がこの町の孤児だったのではないだろうが、他所の街で成功したということはないのだろう。余裕のある生活ができるようになっていれば、仲間であり家族でもあるロミー達に何かしら助けの手を伸ばさずにはいられないだろうから。
とにかく、ストリートチルドレンが助け合って生きているこの町なら大丈夫だろうと、子供を捨ててゆく。しかしこの町に孤児院があるわけではない。身勝手な大人に変わって子供を育てているのも、同じく何の後ろ盾も、術も、余裕もない子供なのだ。
ギルドに着いたところでロミーと別れ、これからのことを考える。
いくつかの計画と、その実現に必要なものを整理する。
まず情報収集をすることにした。ギルドにある書物や、職員、依頼表、街中の様子など、とにかく今できることを駆け足でこなしてゆく。計画の達成に不可欠と思われる人物がいれば、名前と顔をしっかりとインプットし、さりげなく自分の印象も残すようにする。
あとはゴードン達をどう巻き込むかだが、この計画がこの町で通用するかの確認もしなければ。相談という形で話してみようか。きっと役立つ意見を言ってくれるはずだ。