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廃墟の国  作者: 慧眼スイッチ
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第一話

なし。

「これ、ですか?」

彼女は一瞬なんの事か分からなかったのか、キョトンとした顔を浮かべ、少ししてからようやく、俺が指したのが自分の背中の銃だと気づいたようだった。

「そうそれ。あんたみたいな歳の人がそんなもん持ってるってことは、この辺物騒なんでしょ?一人はちょっと心細いってわけ」

目の前の少女は、本来なら銃なんて無骨な物とは無縁であるべき歳に見える。少なくとも高三の俺と同じ位で、それよりも十歳上、なんてことは無いはずだ。

「なるほど。確かにそうですね。それではこれは置いてゆきましょう」

彼女はどう考えても胡散臭い俺の言葉を疑いもせずに、俺のもたれ掛かる岩に背負っていた銃を立てかけた。

「それでは、待っていてくださいね」

そう言うと、彼女はどこかへと歩き出した。

「……お嬢さん。見ず知らずのやつに簡単に武器を渡したりしたらダメだよ。危ないからね」

俺はそう呟いて銃を掴み、引き金に手をかけた。狙うまでもない。ターゲットはすぐそこだから。

そして俺は、人生で初めて引き金を引き銃を撃った。

「……生きてんじゃん」

次に俺の目が覚めたのは、質素な小部屋の中でだった。

「すぅ……」

俺の寝床は砂と岩石から、硬く無骨なベッドにクラスアップしていた。そして傍では先程の少女が、穏やかな寝息を立てていた。

「……だから、知らない奴を家に入れるなっつーの。この世の中そんなに優しくないだろ」

俺の住んでいた世界だって、この行為は不用心と言われても仕方の無いものだろう。ましてや、昼間っからうら若き少女が大口径ライフルを背負って歩いているような世界である。殺されてしまっても、あるいはそれ以上のことをされてしまっても文句は言えないだろう。

「さて、現状を確認するか……」

俺の寝ている小部屋には、俺が寝ているベット、質素な円形のサイドテーブル、古ぼけた一人用ソファ、そして窓とドアがひとつずつ。窓にはカーテンがしてあり、部屋にも鍵が掛かっている。床は頑丈なのが取り柄です、と言った感じの板張り。どうやらここは室内でも靴を履く文化圏らしい。

次に俺の格好だ。先程まで着ていた血塗れの白シャツと濃紺のジーンズとは異なり、上下ともゴワゴワした綿か何かの寝巻きのような服に替えられている。確認したら下着はそのまんまだったので少し安心した。

そして最後。

「ここは何処で、俺はなぜ生きている?」

俺は、少なくとも二回は死んでいるはずだ。一回目はあの地獄の中で。二回目は、自らの放った凶弾で。

それにこの光景。先程俺が倒れていたのは、砂漠のような砂埃まう荒野だったが、ここは違う。近くからは水の音が聞こえるし、荒野ではあれほど荒れ狂っていた風もパタリとやんでいる。

「……異世界、転生?」

ライトノベル好きの友人の話した中にそんなストーリーの小説があった。彼曰く、何らかの要因で死んだ主人公が別の世界へと渡り、第二の生を謳歌する。たしかそんな筋の小説だったはずだ。その小説と同じようなことが起こったのだろうか?それとも、古典SF、『火星の女王』のように、別の惑星に飛ばされたのだろうか?あちらの主人公は死んではいなかったが、とある事情で火星へと送られていた筈だ。

「……ん?なんだ、これ」

今の今まで気が付かなかったが、右の拳の中に、何か握られている。気づいた俺は、手を開きそれを取り出した。

「……『空の上より。愛を込めて』。」

その紙には、それだけが書かれていた。

なんの、メッセージだろう。少なくとも、俺に心当たりはない。考えられる可能性は大きく二つ。一つは目の前で眠る彼女。彼女が何らかの意図を持って俺の手の中にこの紙切れを掴ませた。もう一つの可能性は……。

「いや、無いな」

「あら、目を、覚まされたのですね。大丈夫ですか?うなされてしまいましたか?」

俺の呟きを聞いたのか、ベットサイドの彼女がソファから身を起こした。

「いや、なんでもないさ」

俺は、真っ二つになったはずの腹から消え去った傷跡のことを考えながら、彼女にそう答えた。

静読ありがとうございます。

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