隈隼人の助言
(隈隼人の助言)
寿里は隈隼人に云われたのが気になっていた。他の部員とあまり顔を合わせるのも嫌、
特に三人組と会うのは何故だか嫌な気がしたので、さっさと家路についた。
秋の日は驚くほど沈むのが速い。帰り道は歩いているといつもは気にしていない辺りの景色が自分の近くで鮮明にして観えるようだ。
夕焼けが美しい。こんなに夕焼け空を見上げるのは久しぶりだと思った。
隈隼人の大きな農家風の家の近くに来るといつものように漂うキンモクセイの甘い香りがする。
ショパンの月光が聞こえる。隼人兄ちゃんが弾いていることは分かっている。隼人兄ちゃんは月光が好きであるし、寿里も、あのオーソドックスな曲が何とも言えないほど好きである。
隈隼人の家の中は、知り尽くしているので、ピアノの部屋に入ってしばらく聞いていた。
本当に隼人兄ちゃんは、何でもできる秀才なのだ。そのような秀才を幼馴染として、兄のように慕うことができるのは何と幸せなんだろう……と、初めて考えることができた
隼人の話と云うのは、今日の地区大会に寿里が出ていないのを不思議に思ってのこと、
だった。隼人は開口一番に
「寿里はあれ以来、いじめられているんだろう?」
「うん、でも私負けないから……」
「それは分かるよ!寿里が強いことも、正義感があることも、だけど今から何年も一緒にしなければならないのだよ!」
「…………」
「それで、兄ちゃん考えたのだけどネ、寿里だったら一人でもできるから、今のうちに
器械体操をやってみないか?」
「エッ、寿里が?一人で?」
「そう、一人で…、高等部の男子がしている所で練習できるようにするから、最初は大変かもしれないが寿里だったらできるよ!」
寿里はしばらく考えていた。隼人も考えていた。
「やってみようかしら?」
「良し!決まった!悪くならないように学校にも、中等部、高等部、の先生にも頼みまくってみるよ。勿論、器械体操部員にもお願いするよ。きっと、快く迎えてくれると思うよ!
寿里、心配しなくていいからな」
「うん、有難う……実を云うと部活の三人がどうしても中間外れにしたいみたいで、少し嫌気が出ていて、どうしようか?と考えていたの」
「そんなことだろうと思っていたよ!寿里の性格わかっているもの……」
「ありがとう、宜しくお願いします」
二学期の終わり、地区大会や文化祭、が終わると二学期末テストになる。
テストの成績は、中学生になっていつも、寿里が一番で、佳織が二番だが、今回佳織は随分順番を落としたらしい。国語での百人一首をやる気がなかったからと、強気で云っていた。
「やっぱりネ、小西先生はテストに出すっていったでしょう、佳織」
「亜紀、良いのよ!どうせ、寿里にはかなわないこと分かっているわ!その代り、部活の新体操は負けないわよ!」
それを聞いていた寿里が笑顔で
「みんな、安心して、私、あなた達には新体操では勝てないから、隣の高等部を借りて、一人で器械体操をすることにしたの!」
みんな、唖然として、寿里の側に集まってきた。
「どうして?どうしてなの!私たちが意地悪したから?」
優奈が一番先に言った。
「ううん、私には新体操が合わないみたいなのよ!」
「あら、そんなことないわ、補欠が、いや、代わりがいなくなるじゃないの!」
今度は佳織が言った。すると、佳織が
「男子と一緒にするの?」
「そう、最初は床運動だけするの、新体操より一人で出来るから気が楽よ」
「やるわねえ、寿里は、できるかしら? 先生には許可もらったの?」
「勿論……」