秋の新人戦
(秋の新人戦)
三年生の試合が終わると、今度はいよいよ二年生が中心になって一年生との合同メンバーが編成され地区の新人戦が行われるので、本格的練習が始まった。
二年生は三名しかいないので、当然一年生から起用される。
実技に対して二年生は全員充実している。一年生は寿里の技が目立っているが、他の三人は誰をとってもほぼ同じで少し心もとないと感じている。
団体では交代で誰が出ても出来るようにしなければならないから、全員選手である。
体育館での全体練習が始まった。
寿里がマイボールを弾ませようとすると、何故かいつものように弾まない!
(どうしたのだろう)と思い何回も試みるが(いつもと違う)上にあげてみると上がらないし、床にブウァンドする時には(ドタブワン)という不気味な音がする。
「ババーン」中間綾の手持ち太鼓が威勢良く響く。
「お願いします!」つま先立ち直立での部員の声が聞こえる。
太鼓の音に合わせて、一斉に皆動き出す。
ボールを床に弾ませて一回転して開脚して片手で受け取る動作。
寿里のボールは弾まない。開脚も出来ないし低くバウンドして横にそれる。
「寿里、どうしたの?」大きな声で中間綾の叱責の声が飛んできた。
「ボールの空気圧が無いのです。パンクしているようです」
中間綾が太鼓のバチを止めて
「そんなこと今まで一度もないわよ!前もって道具の点検はするものよ!」
「はい、すみません!」
寿里は大きな声で誤った。
佳織、亜紀、優奈の三人は顔を見合わせた。その顔は何か物有り気だった。
明日が地区の大会である。(どうしょう)寿里は困った。
その時、中間綾監督が寿里の近くにボールを持って来て、寿里に投げてわたした。
寿里キャッチ
「寿里らしくないわネ! 貸してごらん、あら、ピンか何かで刺しているわネ これは問題だ!誰か故意に悪さしたのネ、注意しないとネ、これも競技のうちよ!」
「すみません、不注意で……今後気を付けます」
「明日は大会でしょ、代替えでボールの色が違うけど、まあ、それもいいでしょ……出る時は交代で使えば良いのよ!」
部室に二年生と一年生が集まっている。
新キャプテンは二年生の倫子である。
倫子はテキパキと云った。みんな、ちょっと聞いて、
「綾先生から、明日の出場者誰にするか皆で決めるようにとの事です。二年生は四名だから全員出場。後、一年生から交代にでも出してください。後宜しくネ」
二年生が帰った後
「ブジュリはボールが違うから見間違うといけないから辞退して!」
優奈が強く云った。
「どうなの?ブジュリ」佳織もせまった。
「ブジュリ、ブジュリ、ブジュリ」と、三人で調子を上げて言い合った。
寿里は今にも泣きそうになったが、我慢した。
そして、思いっきりの笑顔になって、寿里が言い放った。
「ええ、分かったわ! 私、明日出ないから安心して!」
「ほんと! 交代があっても出たらダメよ!分かった!」
「分かったわよ! その代り、ボールにピンを刺したヤツを探してくれる?」
寿里は全然期待していないが、わざと難題を与えた。すると、佳織が
「誰かしらね~、それは難しいかもしれないわよ!!」
「そうよ、そうよ」後の二人が同調した。
「なぜ?解らないのかしらね、あなた達が知らないなんて、よく云えるわネ
それと、変な当り前だけど、アダナの{ブジュリ}って云うの、これから先は{ユジュリ}に直してくれない!」
{ユジュリ}の意味が分からず、三人は黙ったまま間が悪そうにも見えた。
寿里は、(笑顔、笑顔)と思ってにっこり三人を見た。
新体操の地区大会は 我が「太陽学園」の中学部、高等部の体育館で実施された。
本競技会場は、少し広くて、観覧席のある高等部の体育館で行われることになった。
中学部の体育館は練習会場になり、主に他校からの選手の練習会場になった。
競技前の二年生とのメンバー確認では、寿里自身がマイボールの破損で今回は不出場を申し出た。
先日の三人との関り合いで、結局、秋の新人戦では寿里が正メンバーから外された格好になった。それは、寿里の意地の譲歩とも言える。
いよいよ競技が始まる。どこの学校の選手も、それぞれ体にマッチした、レオタード姿に身を包むといっぱしの選手気取りになっていた。
音楽に合わせ、リズムカルな動きでボールと一致してくると、益々華やかな美しさがある。
寿里はその美しさに憧れて新体操に入部したのだが……最初の競技に出られないことは、これほどの悲哀を感じたのは初めてである。
結局、太陽学園中等部新体操部の演技は思ってたより点数が出なかった。
やはり、ボール交換では一年生の三人のミスが目立っていた。
結果は11校中8位であった。
二年生は何となく浮かない顔であった。
一年生の三人組は、レオタードを付けていると選手気分になるのだろうか?あまり落ち込んだ様子も無く、「また、来年頑張ろうネ!」とお互いに励まし合っている姿に違和感を感じた寿里だった。
そのような寿里は皆の競技をサイドから見ているだけだったし、終わったら笑顔で拍手などして皆を迎える役回りである。器具道具の整理などして、辛いけど、その場をしのいだ。
「寿里、出ないのか?」
いつの間にか隈隼人が寿里の隣に来ていた。
高等部の体操部だろうか?体操着での二人も隣にいて、ピョコンと頭を下げた。
「高等部の器械体操部員だよ。寿里の晴れ姿を観ようとさそって、張り切って来てみたんだけど、残念だったよ!」
「うん、いろいろあって……」
寿里は泣き出しそうになるのをやっと我慢して、笑顔を向けた。
「ふーん、そうだろうな! しかし、運動神経抜群の寿里が出ないのは可笑しいよ!」
「だって、事情があるって云ったでしょ!」
「そうかな! だったら、終わったら僕んちの家に寄んなよ!」
「うん、分かった!何時になるか分からないけど……寄ってみる、」