なぜ?ブジュエリ……?
(何故?ブジュリ……?)
「おねがいしまーす!」
一斉に大きな声でのお互いに挨拶。先輩に対して頭を下げ、声を出している。
2年生先輩と一緒になっての練習メニューである。
先輩が声を出している。
「並足でリズムを忘れないように!1234、1234、1234、」
ボールを持って動かして歩くのは大変である。二拍子、三拍子、四拍子、小走り、それぞれに使い分けて何回も何回も繰り返し、単調であるが皆が揃うまでには、相当の訓練が必要である。
さらに動きは大きくなる。
「はい、左右に体の上を移動させま~す」
「次は上に……思いっきり上に真っ直ぐよ!ハッイ!もう一度」
「しっかりキャッチ! ボールは常に自分の体に持ってくるの!」
「ボールは転がすのではないの!体をはうように一体となるのよ!」
二年生の先輩も真剣になってタンバリンたたいて大きな声で指令を飛ばしている。
まず、このような積み重ねの練習が新体操の基本でもある。
練習が終わって部室に入ると我儘が出る。特に寿里に一物もっている三人にしてみると部室は、寿里に意見する格好の場所でもある。
二年生先輩たちが居ないのを見計らって、佳織がこれはとばかり寿里に向かって
「寿里、云っとくけど、一人だけ上手になろうと思っているんじゃない?皆に合わせないとダメよ」
「あら、一生懸命になって何が悪いの?そんなこと聞いたことが無いわ」
寿里も負けずに応えた。すると
「新体操と云うのは皆がそろわないとダメでしょうが」
言いだしっぺの佳織が正当論をかざすように云うと、寿里が言い返した。
「それはネ、皆が一生懸命になって揃うことでしょう!何もしないで、練習もしないで揃うことなんてないと思うけど?」
すると、優奈がいつものカラかい気分で
「良く云うわ! ブジュリのクセに!」
「何ですって!」と
、寿里がキッとなって優奈にせまった。ちょっとタジロいた優奈は
「不細工だから、ブジュリよ、寿里のアダナよ、私たちの中でそう呼ぶようになったの!
知らなかったでしょ!私たちは揃っている顔なの、何か文句ある?」
驚いた寿里は少し考えて、ここは、多少我慢のしどころと思った。
「そう、優奈、何でも言ったらア……あなた達にお任せよ!私は何言われても何されても構わないわよ」
三人の中で、少しだけ賢く立ち回る亜紀は、寿里がこれ以上取り合わないことを知ってか
「さあ、帰りましょう……寿里とは合わないようだから……」佳織と優奈を促した。
帰宅した寿里は、早速、いつものように、鏡に写った自分の顔を、しみじみ眺めた。
そして、独り言を云ってみた!
{私の顔、愛する寿里の顔は、少し色黒で、丸い形で、その中に低い鼻があるだけではないか!そういえば、存在感のない唇が鬼門かな?女優さんはみんな唇の形が良いもんなあ~それに比べ、私の顔の眺めは、漫画に出てくるアンパンマンみたいかな?}
「もういいでしょう!寿里」
いつの間にか、母親の静子が部屋に入ってきた。
「ああ、驚いた!へへへ……私の今の声、聞こえてた?」
「いいえ!小さい声だもん、聞こえるはずないじゃない。何かあったの?」
静子には、本当は少しだが聞こえていた。
「私のあだ名付いているの!{ブジュリ}だって」
「何よ、その{ブジュリ}ってのは?」
「不細工な寿里ってこと!」
「まあ、何てこと云うのだろうネ、ちょっとひどい言い方ネ!」
「でも、仕方ないのよ、笑ってスルーすることに決めたの!うふふ、あはは」
「偉い!さすが私の寿里だわ、仕方ないもんね!私の子供だからうふふ、あはは」
静子は寿里の顔を撫でながら
「寿里、笑い顔とっても良いわよ、そうだ、この笑顔でいきなさいよ。笑顔は何よりも強みよ……だから、笑顔の寿里、{エジュリ}になってみたら?」
「エジュリって?」
「偉い寿里ってことよ!」
静子は励ましと共に知恵も与えたようだ。