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ジムナスティックス  作者: ときわ
3/11

憂鬱な寿里

 (憂鬱な寿里)


「何故、何故、どうしてかしら?私のシューズが……」

寿里は先日買ったばかりの自分のシューズが汚れて形が崩れて無残な様子になっているのを見て両手で取り上げた。


誰かしら……? 私のシューズを踏みつけて放り出したのは、寿里は言葉が出ないくらい驚いた。


寿里にはショックで何がどうなっているのか理解できていないまま、踏みつけられたシューズを持って訪ねて回った


「ねえ、こんなになってしまったのだけど……だれか知らない?分からないのよ」

まず、佳織や亜紀やそのあたりの部員に聞くが、皆、無視状態で着替えている。

「何で黙っているの?あなた達知っているのでしょう?おかしいわよ!」


寿里はあまりの悔しさに突然泣き出した!


「何よ、私たちの精にしないでよ!」

「そうよそうよ、自分が大切なものだったら持って帰ればいいのよ!見せつけるようにするから犬でも入ったのじゃないの?」

「犬?犬はこんなことしないわ……」

「じゃあ、私たちがしたっていうの?どこに証拠があるの?」佳織が詰め寄ってきた。

寿里は何も言えなかった。

寿里は泣きながら部室を出て行った。


中学部体育館と高等部体育館の間の休憩用に使っている古い長テーブルと長椅子がある。幸い誰も居ない。寿里はテーブルに座ると同時に顔を伏せて思いきり泣いた。

今までにこんなに泣いたことは無いくらい泣いた。


「寿里どうしたんだ」聞きなれた声がした。


人は何処でもいるものだ

通りがかった幼馴染の隈隼人と、その友達の細木と月野の3人だった。


隈隼人は高等部2年で次年度の生徒会長選挙に当選したばかりである。運動も勉強も両立してできるし、自信を持って行動できるから、生徒会長選挙ではずば抜けての一位当選であったらしい。寿里は中学部だから高等部のことはあまりわからないが、校庭の掲示板などで何となくわかっている。隈隼人は生徒会の引き継ぎでその仲間と帰る途中だった。


隈隼人のことを云うならば……


寿里にとって、隈隼人は家も近所で(竹馬の友)と云う方が合っているのかも知れない。

元は農家というのも同じ境遇、学園の敷地は隈の家と寿里の家の敷地がほとんどで、その畑では芋ほりを良くして遊んでいた。

隈は小さい時から神童と云われていた。男の子でありながら音楽は小太鼓からフルートからピアノまで上手で、高等部に入ってからは器械体操もしていた。寿里にとっては、小さい時から、近所の何でもできる憧れのお兄さんでもあった。


寿里がシューズのいきさつを話すと隈は軽くいなすように云った。

「なーんだ、そんなことか!しかし悪いふざけだなあ……」


他の二人細木と月野も「そうだ、何てことだ!」隈以上に憤っていたようだ。

そして、隈は寿里の持っていたシューズを「ちょっとそれかして」と云って、自分のスマホで「一応この事実証拠は残しておこう……」と、何気なく撮っていた。


「寿里、気にするな……ほっとけ!知らん顔しておけば……反対に無視するのだよ!寿里だったらできると思うよ!」

隈隼人が寿里の肩を軽くたたいて慰めてくれた。

そして、「寿里はガキん時は凄く強かったんだから……俺なんか追いかけられていたんだから……、シューズなんてしばらくは必要ないよ!素足が鍛えるのにいいのだよ!」とも言ってくれた。


「しかし、多くのイジメは靴から始まるのだからな!気を付けないとな」

細木が呟いた。

すぐ、月野が「そうか、それは云えるな! 恋愛も靴箱から始まるし…正反対だけど……これって笑えない冗談かな?」照れて云った。


一緒にいた細木と月野も同調するように優しい笑顔でいろいろ気を遣いながら話もしてくれた。気を使って慰めてくれたのだろう。


寿里はしばらくして落ち着いてきたのか、何でもなかったように体育館に行って練習に入った。

一つ一つ基本に忠実に、をモットーとする寿里の練習は念が入っていた……!


体育館の隅っこにマットを敷いて、前転、交点、開脚、倒立にミックスさせたマット上の柔軟練習を丁寧に何回も繰り返していた。

寿里の気持ちは負けん気の方が勝っていた。


その寿里を遠巻きに見ている佳織達がいたが、その反対側には中間綾がやはり寿里を見ていた。


佳織、亜紀、優奈の3人は、あんなに泣いて外に飛び出して行った寿里が何事もなかったように帰って来て、また練習しているのをみて、ますます憎しみが増してきて、ひそひそ話はもっぱら寿里のことであった。


「どう?あの態度、何なのかしらね!まだへこたれないのかしら?」

「そうね……気の強い寿里があんなに泣いたのに……」

「今に見ていなさいよ!」





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