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ジムナスティックス  作者: ときわ
2/11

新体操へ

(新体操へ)


寿里は美しいのが好きであった。美しくあれば何でも好きなタイプで寿里の心をつかんで離さないのは云うまでもない。


新入生歓迎の時の部活動紹介時の新体操の演技を見て(これだ!)と、心地よいリズミカルな音楽にのった美しい動きを見て虜になり入部した。


いよいよあのリズミカルな美しい動きの憧れの新体操ができるのである。心はウキウキはずんでいた。もうすでに寿里の前身は未来に稼働していた。


寿里は張り切って体育館に行った。


体育館はムンムンした活気がいっぱい漂っていた。

交差するような人の動き、それに伴った声の飛び交い、色々な方角から聞こえる音があった。

今日は体操部が体育館を半分使って良い日である。

やはり、リズムと動きの魅力にある新体操は人気の部であるようだったが、新入生は寿里を入れて4名だった。案外少ないと感じた。

寿里が広い体育館を見まわして目的の同じグループ友達を探す為に、見回すのに少しの時間があった。

その時、中で同じ学年で一番可愛くて人気のある、佳織と亜紀が楽しそうに話しているのが目に入る。

寿里は何だか、溺れた自分がやっと助けのボートに近づいて行くような気持ちになった。安堵したように近づいて行くと、グループの皆が急に笑いを止めて「あら、寿里も体操部に入ったの?大丈夫」と佳織が言葉を発した。

「うん、佳織、大丈夫って何がなの?」

「ああ、何でもない・・・・ただ、聞いただけよ」

皆が興味げに二人の会話を聞いている。

「ふうん、私、何もないけど・・・言いかけたのなら言ったら?」と、勝気な寿里は同じ友達言葉で云った。

「何よ、心配してあげているのに、新体操は全体がそろうことが求められているの!……

だから、置いてきぼりにならないでね!と、云っただけよ!ねえ~みんな向こうに行こう」

同じ友達を促して寿里から離れた体育館の離れた所に行った。

寿里も仕方なく後をついて行った。寿里は何の事か分からずにいた。

「ねえ、佳織、私の事心配してくれたって、何のこと?」

すると、優奈がくるっと振り向いて寿里の真ん前に立ちはだかるようにして、寿里の顔を指さし「顔、の事よ!」

「顔?」と、おうむ返しに云ってから、寿里はだまってしまった。

(そうか、皆は私のこの不細工な顔が気に入らないから除け者にするのだ)と、強く感じた。


その時、小さい手打ち太鼓を(ババンババン)とバチで打ちならしながら、華やかさがひときわ目立つ、スタイルの良い、新体操部顧問の中間綾がやって来た。


太鼓の音と共に、全員の部員が足音を立てずに小走りで集まってくる。上級生は全員つま先立ちで一斉に「お願いします」と大きな声でアイサツした。1年生4人もそれに見習った。

 顧問の中間綾は透き通るような声で云った。


「今日から1年生も練習に加わりますが、顧問の中間綾です。宜しくネ。最初は上級生が指導しますが、努力しない人は退部と云うことになります!・・・・」等々、歯切れの良い口調で念を押した。

それからすぐ練習に入った。


「はーい、歩いて・・・・」と大きな声で「背筋を伸ばして・・・はーい、もう少し軽く中心を固定して・・・肩を揺らさないで・・・」


中間綾先生の最初の指導で上級生の後を動いたが、みんな緊張していた。30分程度の動きだったが新一年生はヘトヘトになった。


それから後の練習は自然と先輩である2年生に見習った。新1年生は最初、上級生の見学と軽い基本の動きを繰り返しやる事である。

見学中も、つま先立ちの姿勢のまま見学するのだと、上級生から指導された。

足のかかとを思い切りあげてのつま先立ち・・・・顧問の先生や上級生の話を聞く時は常に、つま先立ちであった。

寿里は自然と背筋が伸びるのが分かった。

3か月もすると1年生も随分余裕が出てきた。秋の中体連大会に向けて練習が厳しくなった。


今年の団体種目はボールとのことで3年生から1年生までボールの練習で華やかである。

Ⅰ年生の4人は少し違うメニューで行われてから、たまに2年生先輩が指導に当たる時もあるし、合同練習に交る時もあるし、


今日はキャプテンのあゆみの指導である。スラリ伸びた体は、足先から頭まで一直線の姿勢が何とも美しい。


大き目のタンバリンを持って「はい、いいですか、私の声とリズムに乗って動いて!最初

場所は自分の周りで考えてその場でボール扱いです」


ボールに慣れる練習では身体全体でボールの感覚を味わう。

頭の上から足先の部分までボールを這わせるように転がして何回も何回も繰り返す。上半身、背中、下半身、腕、頭と移動無で柔軟性を聞かせて何通りも動きができるようにする。


次の動作は少し移動してボールを最高に上に跳ね上げる。床に伏せてボールを頭の先から足元に持ってくる。これは難しい。どんな体系でも自由であるがそれが個々の基本動作の訓練である。


キャプテンのあゆみが寿里に声をかけた。

「寿里、体が柔らかく良く動くじゃないの、立派よ!次ぎに開脚してボールを頂点まで上げてみて…心配しなくていいわよ!思い切って!」


寿里が戸惑っていると、容赦なくアユミの声が飛んできた!

「声は!」体育館に響くような大きな声で云われた。

「ハイ!」寿里が慌ててすぐに大きな声で応えた。


寿里は5,6歩助走して開脚してそれと同時にボールを上にあげた。それには動きも多様で跳躍力が一番、要求された


「そうそう、寿里、すごくいい感じよ!じゃあ、皆も一緒にやってみて!そこにいる3人も一緒に動きなさい」

 また、あゆみの声が飛び交ってきた。


タンバリンのリズムは大きく小さく、波打つように、さざ波かと思えば、時には岩にぶつかるように変化していた。

 

後の佳織、亜紀、優奈もいっしょに動くがなかなか寿里のようには跳躍も開脚も出来ない。


「みんな準備運動不足、柔軟運動不足よ!マットの上で開脚運動して柔軟性をつけないとね!寿里を見習いなさい」と、注意された。


佳織、亜紀、優奈は「ハイ!」と云ったが、その内面はしぶしぶだったようである。


練習が終わった後の体育館の掃除後始末は1年生の仕事。上級生は自分の道具だけを持って立ち去る。


寿里は当たり前であるので率先してやっている。

「寿里、何も一人でそんなにやらなくてもいいのに・・・」と、佳織がからかうように言う。

「・・・少しでも早く帰ろうと思ってネ!」

「そう、そんなら早くして帰りなさいよ……私たちゆっくりするから……」

「うん・・・・先に帰るネ、もう掃除おわったから・・・」寿里は先に帰った。

寿里は、練習の前に優奈から云われた言葉で、自分の顔のことで皆が嫌っているのかと思うと、情けなく何か腑に落ちない感じがして、悶々としていた。


佳織、亜紀、優奈の3人は寿里に顔の事を云ったら黙ってしまったので勝った気分になり、益々団結心が出来たのか?ウフフ、アハハと笑い飛ばした。


佳織がすぐに「なによ、寿里は少し跳躍が出来て足が上がるからと云っていい気になっているのだわ……亜紀たちどう思っているの!」

「そうそう、確かに、キャプテンに開脚ができるなどと褒められたりしたから調子良くなっていると思う。でも、大丈夫よ!佳織は顔が良いから負けないわよ!」

優奈も「そうそう、そうよ!そうよ!」と周りの者が亜紀に同調して皆で手をたたいて佳織を慰めている。

「バカにされているみたい!・・・何とかならないかな?」と、佳織が呟いた。

「ちょっとからかってやろう」優奈が調子に乗ってきた。


皆だまった。考えることになるが・・・・そのまま、部室に入ると、優奈が

「ねえ、見て!この靴入れの寿里のシューズ新しいのだけど、私たちも買っていないのに、もう揃えているわ・・・」

皆、寿里のシューズを羨望の目で撫でまわしながら見ていた。すごいすごい私も早く買わなきゃならないわ、と誰かが云うと、うんうんと納得のようにそれぞれ考えていた。


「寿里の家、ものすごくお金持ちでしょう・・・学校に寄付する位だから!」

「悔しいわね、何もかも寿里は恵まれているのだから・・・」


羨望は嫉妬に代わるものである。

「ねえ・・・寿里をどう思う?私たちとどこかが違うのよね。」

「そうね、それはさっきも思いっきり云ったように顔が違うわ・・・とっても不細工よ・・・・」

「不細工すぎるし気が強いし、バカ真面目で、話に乗ってこないのよ」

「そうそう、色は黒いし、背はバカでかいし、新体操は皆とそろわないと可笑しいものね

開脚ボール投げが一人だけ出来ても・・・・そろわないとネ・・・・」


アハハハハハと皆が笑い転げる。

そして、佳織が優奈の持っていた寿里の新しいシューズを取り上げて出入り口の土間に投げてしまった。

皆がそのシューズめがけてそれぞれ交代に何回も踏みつけた。それはみんな同じように狂ったように行動を共にした。しばらくシューズ目掛けて踏んだり蹴ったり投げ飛ばしたりした。放心状態になるまでやった。

「さあ、帰ろう、」と言ってみんなは悪びれもせず帰って行った。

新しかったシューズは黒ずんでくたびれて無残なまま放られた格好になった。


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