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向日葵の夢

作者: 朝永有

 両手を伸ばした。手を振った。

 掴むものなんてないのに。

 でも、そうしなくてはいけないと体が察したのだろう。

 ただ、そんな察したからって何かが好転するわけではない。

 太陽の光はどんどんと遠ざかり、昇っていく泡は小さくそして見えなくなっていった。


 目を覚ますと、向日葵がたくさん咲いている丘で仰向けに寝ていた。

 誇らしげに咲いているその姿はとても美しかった。

 どうしてここにいるのだろうか……確か……俺は……

「あら? 目を覚ましたのね」

 いきなり女性の顔が俺の目の前に現れた。

「うお!?」

 俺は驚いた勢いで立ち上がると、彼女は俺よりも身長が低く年齢が下だということが分かった。

「どうしたの? そんなに驚いて」

「いやいや! いきなり人の顔が出てきたらこうもなるさ!」

 少女はうふふと笑った。向日葵によく似たその髪が、上下に軽く揺れる。

「君はここのことを知っているのかい?」

「ええ、もちろん」

「なら、教えてくれ。どうして俺はここにいるんだ?」

「えー。どうしよっかなー」

 少女は人差し指を顎に当てて、俺を試すかのよう目線を外した。

「俺はこんなところにいるはずじゃなかったんだ!」

「じゃあ、教えて」

「な、何をだ?」

「あなたが来るべき場所のこと」

「お、俺が来るべき場所……?」

「そう。きっとあなたなら分かるはずよ」

 その微笑む表情があることを思い出した。

「確か、空港にいたんだ。君みたいな女の子と笑顔で握手したのを思い出した」

「握手をしたの?」

「そうだ。向日葵柄の洋服がとても似合う可愛い子だったよ。しかし、なぜ握手をしたんだろう?」

「あなたからしたの?」

「いいや、向こうから寄ってきて……ああ、そうだ! 俺はサッカー選手だったんだ!」

「それで握手をしたのね」

「ああ。海外のチームに戻ろうとしていたんだ」

 少女は軽く頷いて、今度は俺の目をじーっと見てきた。気恥ずかしい。

「それで飛行機に乗って、窓から外を見ていたんだ」

「何か見ていたの?」

「いや、なんとなくだ」

「そこで何か起きなかった?」

「何か……」

 そこで俺はハッとした。手足が軽く震え始めた。

「き、緊急の放送が流れ始めたんだ! 『エンジンにトラブルを確認!』そんなアナウンスだったはずだ!」

 俺は少女の返答を待たずに話を続けていた。

「そこからはみなパニックだった。CAの話しなんて誰も聞かずに、怒声と悲鳴が入り混じっていた。中には暴れだしているやつもいた。」

「あなたはどうしたの?」

「何も覚えていない」

「じゃあ、そこからは私が教えてあげる」

 少女は笑った。だけどこれまでとは明らかに雰囲気が違った。

「あなたは私を庇ってくれたの」

「な、何だって?」

「暴れだしたやつがいた、と言っていたでしょ? あれ、襲われていたのは私なんだ」

 俺は呆然としていた。

「そこにあなたが現れて助けてくれた。そして間もなく……飛行機は沈没した」

 少女は話を続ける。

「準備なんて何もしていなかった。けど、とっさにあなたは私を抱きかかえてくれた。その温もりはこれからも忘れない」

「これからも忘れない……?」

「ええ、だからあなたに一言お礼が言いたかったの」

「それはどういう……」

「ごめんなさい、もう時間が……」



 俺が目を覚ますと、白い蛍光灯が力強く光っていた。

 看護師がその様子を見て慌しく病室を出て行った。

 今の夢を俺はどう理解すればいいのだろうか。

 チラッと横を見ると、向日葵が力強く花瓶の中で咲いていた。

 少女が言いたかったこと。これから俺がしなくてはいけないこと。

 それを今伝えられている気がした。

読んでいただき、ありがとうございました。

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