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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その28

 寝起きで機嫌がやや悪いなぎともえのご機嫌取りに、お義母さんやお義姉さん方がジュースや果物を差し出してくれた。

 しかし、一向に私から離れないもえちゃんだった。

 なぎ君が大好物のいちごをあーんと口元にもっていくけど、いやいやと首を振る。

 次第に、なぎ君も眉を八の字にして、涙目になってしまった。


「あらあら、もえちゃんはイヤイヤ期がきたのかしら。それとも、夢見が悪かったのかしら」


 ソファに座り直した私の膝にもえちゃんを、右となりになぎ君を座らせて宥めるも効果がみられない。

 いつもなら、なぎ君のおおらかさに助けられて、いやいやもすぐに治まるのになぁ。

 慣れない場所でねんねして、起きたらママがいなかった。

 置いていかれたと、不安が募ってしまったのかな。

 でも、子守りにワンコもいたし、司朗君や珠洲ちゃんも側にいたのだけど。

 大丈夫と大人が思う以上に、双子ちゃんは寂しく不安に感じてしまうのだろうか。

 それとも、巫女の先見が発動していたりして。

 お義母さん方がいるから内緒にしているだけで、本当は聞いてあげた方が良いのかな。

 別段、お義母さん方に知られても困らないしね。

 未来が見えるからと言って、悪事を働く為人(ひととなり)をされていないし、気味が悪いと嫌悪される性格をされていないし。

 お義母さんなら、あら便利ねで済ませてしまいそうである。


「もえちゃん。何か恐い夢でもみちゃった?」

「……あにょね。ママぎゃ、いにゃきゅにゃっちゃうにょ。パパも、なぁくんも、いにゃい。もぅたん、ひちょり。いやぁよ」

「なぁくん。もぅたん、ひちょりに、しにゃいもん。ずっちょ、いっちょだもん」


 もえちゃんの告白に敏感に反応したのはなぎ君だ。

 前世の記憶を引き摺り、独りぼっちには過剰に対処をするんだよね。

 私にしがみつくもえちゃんの横から抱き付いて、よしよしとほっぺを撫でる。

 事情を知らない人が見れば仲良し双子ちゃんと言われるだろうが、抱え込んでいる記憶が苛んでいて異質に思えてしまう。


「大丈夫。パパは今はお出掛けしていないけど、ママもパパもなぎ君ももえちゃんを独りにはしないからね。安心していいの」

「パパ、おぢぇきゃけ? おうち、きゃえっちぇくう?」

「そうよ。パパのにぃにと一緒にお呼ばれして、お出掛けしたの。そうだ、巧にぃにと司にぃにも、静馬にぃにも梨香ねぇねも、まだホテルにいるから遊んで貰おうか」

「「あい。あしょぶ」」


 わふっ。


 自分も忘れないでと、ワンコが自己主張する。

 気付いた双子ちゃんは、


「わんわも、いっちょ」

「あい。ろぅくん、いちも、いっちょ、いい?」

「良いですよ。いちも、なぎ様ともえ様と一緒に遊びたいのを我慢していたんですよ」


 司朗君に尋ねていた。

 いちは、遊べると尻尾が盛んに振られている。

 野山を駆け回るのも大好きだけど、なぎともえと一緒に遊ぶのも大好きなんだよね。

 おままごとの遊びでも、嫌がらず付き合ってくれていて、面倒見のよいワンコで大助かりしている。

 お山にいた頃はおままごと遊びでも、DVDを視聴しているときも傍らに寄り添い、東京に越してきてからは珠洲ちゃんが子守りを担いお役御免かなと思いきや、遊びに加わっていたりする。

 初対面時には珠洲ちゃんを警戒していたワンコも、珠洲ちゃんが邪険に扱わないのでなついてきている。

 でもまだ、珠洲ちゃんがなぎともえに対して危害を加えないか見定めていたりする。

 良く見ているなと彩月さんと世間話していたら、司朗君はなぎともえの関心がいちから奪われるのではないか心配していたらしい。

 なぎともえ会いたさに、ハンガーストライキしたいちの前科がある。

 環境の変化についていけるか、ストレスで病気にならないか気掛かりでいたそうな。

 まあ、それは杞憂に終わり、珠洲ちゃんは必ず遊びにワンコを加わらせる。

 そうした珠洲ちゃんの努力もあり、相変わらず双子ちゃんとワンコの仲は良好である。

 機嫌が持ち直したもえちゃんと不安が一掃したなぎ君の顔を一舐めして、くるりと翻して先導役をするワンコ。

 苦笑気味に扉を開けた司朗君と、手を繋いでワンコの後を歩きだしたなぎともえをエレベーターホールで待つ珠洲ちゃん。

 なぎともえが泣き出さないで安堵したお義母さんやとお義姉さん方も、笑顔になって見送ってくれた。

 お義母さんと佳子お義姉さんはまだお話を続けるみたい。

 まあ、長男の嫁(千尋お義姉さん)が入院しているので、次男の嫁(佳子お義姉さん)が篠宮本家の采配を振る役割りをしないとならないからだろう。

 お義母さんと当主の嫁が家内の采配をする役割りは、多岐に亘る。

 若輩者の私が見ているだけでも、大変なのが理解できた。

 育児に専念していた私にも役割りがあったのだけど、家内での仕事は万能家人の彩月さんに任せてしまって恐縮していた。

 禁忌の双子を産んだ役立たず、だなんて言われて当然だった。

 まあ、言った当人はお義母さんや康治お義兄さんから、本家立入り禁止を言い渡されたおちがついた。

 多分、佳子お義姉さんは千尋お義姉さんが退院するまでは、お山に常駐するだろう。

 梨香ちゃんも静馬君も高校生であるし、次男家にも専属の家人がいるので、不自由はないかと思う。

 何かあれば、緒方家からも人手はだしそうであるしね。

 最終的には、朝霧家からも支援をしたらよい。

 お祖父様は、篠宮家を近い親族と位置付けている。

 お金の出し惜しみしないで、下手したらいつの間にか支援されていた、とかになりそうである。

 梨香ちゃんが切望していたミシンを簡単に購入した件もあって、確実にそうなりそうなのがお祖父様の悪い癖だ。

 適当な言い訳考えて、庇護下に置く。

 お祖父様の弟家族が事件に巻き込まれてしまってから、身内に対する過保護に磨きがかかっているからなぁ。

 あまり、反論できないのが痛い。


「何か、心配事?」

「いえいえ。千尋お義姉さんのお見舞いに行く時期をどうしようかと」

「そうよね。佳子お義姉さんがお山に行かれると思うし、私達も年末年始帰省していいのか旦那様に要相談しないとね」


 恵美お義姉さんと二人して、思案する。

 昨年度の年末年始は雪が沢山降り、麓に通じる山路が不通になってしまい、陸の孤島と化した。

 そのせいで、帰省していた雅博さんも悠斗さんも、予定通りに自宅に帰れなくなってしまっていた。

 仕事始めに間にあわなかった経緯がある。

 悠斗さんは半ば営業だから穴埋めはできたけど、雅博さんは日にちが伸びる度に掛かってくる電話対応に苦心していた。

 もうこれ以上は欠勤出来ないと、徒歩で山路を降っていかれた。

 和威さんによるとロッククライミングの経験がないと、地元人でも危ない路を降る箇所がある。

 普通に車道を歩いて降ったと勘違いしていた私に、初夏に案内されて驚いたものだ。

 山路ではなく、獣道だった。

 触りの部分しか歩かされてなかったけども、経験がないと無理なのは理解した。

 和威さんと峰君はなぎともえを背負って楽に歩いていたのに、身軽な私が一番へたっていた。

 体力の差に、地味に落ち込んだ。

 その件があったから、お山の集落にヘリコプターが配備された訳である。

 今年度の年末年始は、ヘリコプターのお陰で楽ができそうであるも、篠宮家だけが利用するのではないから、予定はたてとかないとね。

 ブッキングしたら、待ち時間が大変だ。

 まてよ。

 我が家の双子ちゃんを、ヘリコプター乗せれるのか?

 高所恐怖症なもえちゃんが、おとなしく乗ってはいられない。

 となると、車での移動しかない。

 自己都合の気象操作はご法度であるから、お天気を願うしかないなぁ。


「今年はヘリコプターでの移動手段があると聞いたけど。天気が崩れたら飛ばせないとも聞いたから、少し不安があるのよねぇ」

「ですが、篠宮のお義父さんが資金を出して、悪天候でも飛ばせる大型のヘリコプターを買ってしまいました。定員数は一家族余裕で乗れます。お義父さんに言わせると、安全な路を整備するよりかは、安価だそうです」

「そうね。お山にトンネル通すよりかは、安価よね。私にはどちらも、高価だと思うけど」


 自費で私道を整備するよりかは安価であるとの

 弁。

 維持費もお義父さん持ちである。

 市の病院に運ぶ手段として、大活躍していた。

 まさか、軍用のヘリコプターを買うとは誰も予想してなかった。

 おまけに、康治お義兄さんとヘリコプターの教習に通い免許を取得するとは、またもや誰も予想してなかった。

 私達が東京に越してくる時は、運良くヘリコプターのメンテナンスでもえちゃんを乗せる余地がなかったのである。

 きっと、乗せていたら始終泣き通しだっただろう。

 難なく、予測がつく。

 飛行機と違い、安全ベルトが外せないから、抱っこして宥めることも出来ないと思う。

 薬で眠らせるぐらいなら、休息の融通が効く車での移動をする。

 朝霧家所有の車が双子ちゃん対策にテレビを設置したのを聞いて、和威さんは自家用車にも設置するか悩んでいる。

 DVD内蔵のテレビのパンフレットを取り寄せていた。

 それを聞いたお祖父様が、新車を用意しそうになって、お祖母様に叱られていた。

 お祖父様。

 こうみえて、和威さんは高給取りです。

 ローン組まずに、新車は買えるから。

 準備しないで、欲しい。


「実はお盆に帰省した日に、お義母さんが今年の年末年始は東京で過ごしたらと、言われたのよ」

「そうでしたか。あっ、でも引っ越しの前日に武藤の両親と過ごしたらと言われてました」

「なぎ君ともえちゃんがまだ幼くて、長距離の移動を危惧していたから、言い出せなかったらしいわよ。琴子さんのご両親を招きたかったようだけど、あの親族がいるから呼べないと嘆いていたそうよ」


 お宮参りを媛神様の社で行った時は、武藤の両親が私達の離れで宿泊していた。

 御披露目も、極親しい親族しか招かないでいてくれた。

 それでも、祝いの席を設けない嫁だと苦情は上がっていた。

 面とではなく、遠回しに嫌味たらたらで噂を広げていた親族は、お義母さんの逆鱗に触れて釈明に負われる羽目に。

 そして、原因になった私が益々嫌われていく悪循環に。

 堂堂巡りで、下手な手が打てなくなった。

 幸いにも、敵視は私に対してなので、なぎともえに危害は加えられてはなかった。

 せいぜいが、遠回しな悪口だ。

 言われた双子ちゃんは、遠回しの意味が理解できないでいたから、きょとんとしていた。

 まあ、仲良く出来ない人とは認識して、自分から近付きはしないでいたが。

 武藤の父も歓迎されていないのはわかったらしく、呼ばれてないのに遊びには行けないと言っていた。

 初孫の御祝いは、専らビデオメッセージでの視聴ばかりで、和威さんが申し訳ないと謝罪していた。

 そうか、今回の年末年始は東京で過ごすのか。

 朝霧のお祖父様が、はりきって準備しそうな気がする。

 程ほどを学んで欲しいなぁ。

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