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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その23

 安定なもえちゃんのお腹時計が、お昼を催促したので食事タイムとなりました。

 いつもより、遅い時間になっていた。

 巧君と司君が手作りしてくれたクッキーを食べていたから、もう少し後かなと思っていたけど。

 もえちゃんのお腹は、待ってくれなかった。


「あぅ」

「大変だ。もえのお腹が鳴っちゃった」

「実は、ぼくもお腹が鳴りそうだよ」


 優しい巧君は、自分も空いたと訴えてくれる。

 なぎ君はもえちゃんのお腹をナデナデしている。


「あらあら。では、ご飯にしましょうね」


 ホスト役の我が母が、如才なく手配を促す。

 飲食スペースに、人数分の椅子が配されていく。

 きちんと、お子様用の椅子もある。

 なぎともえを座らせて、配膳を待った。

 私達の周囲には篠宮家の皆さんが席に着いていた。

 正面には篠宮の義両親と義祖母さん。

 久しぶりにテーブルを同じくして、なぎともえはにこにこ笑顔でいる。


「ばぁばちょ、いっちょ」

「あい、じぃじちょ、いっちょ」

「「ひぃばぁばも、いっちょ」」

「ばぁばも、なぎ君ともえちゃん。巧君や司君と一緒で嬉しいわ」

「二人が引っ越してしまって、寂しくなってなぁ。庭で駆け回る元気な声を、ついつい探してしまうよ」


 義両親の溢した言葉に、眉根が下がる。

 悪習に捕らわれず、双子ちゃんを可愛がってくれていたからね。

 和威さんの転勤がなかったら、あのままお山で成長していただろうし。

 ただ、それだと煩い分家が実力行使して双子ちゃんを排除しようとしていたらしく、なぎともえの運命も変わっていたと思う。

 お山で大怪我していたら、彩月さんの懸命な応急手当があっても、間に合わなかった恐れもあっただろう。

 集落の医療設備だと、複雑な手術何て無理だったしね。

 時間との戦いに負けていただろうな。

 幸いにも、医療設備が整った東京といった場所で、朝霧のお祖母様の助力を受けれたから助かった。

 居場所に拘っていたらと思うと、肝が冷える。

 あの時に、和威さんの意見に従って良かった。


「お山には、すぐに遊びに行けないのが難点よね」

「新幹線で行っても、最寄駅からの移動距離も長いからなぁ。なかなか、自分達だけで行けないのが難点だよね」

「そうだなぁ。静馬位の歳にならないと子供達だけで遊びに行けさせられないな」


 梨香ちゃんと静馬君は、二人だけでお山に遊びにきたことがある。

 どちらも、高校生になってからだけど。

 まあね。

 新幹線からの在来線への乗換え、最寄駅からの移動距離も含めると、とても子供だけでは移動させられない。

 私が婚約したのは和威さんが大学生時代で、顔合わせにお山に来たのだけどね。

 移動距離が長かった。

 おかげで、緊張感続かなくなったから、いい思い出になったけど。

 山奥だと聞いていたのに、本当に山奥に連れていかれて呆気に取られたよ。

 それで、和威さんは実家に連絡し忘れていたから、迎えを出したのに、都会のお嬢さんを歩き回させるなとお義母さんに怒られたんだよね。

 疲労で聞き流していた私を、お義母さんと千尋お義姉さんに浴室に追いやられてマッサージ受けるとは思いもしなかった。

 挨拶に来て、いの一番にお風呂とマッサージ。

 爆睡しました。

 気持ち良かったです。

 そして、翌朝へこむ私がいた。

 やらかした。

 嘆いていたら、馬鹿息子がごめんなさいと、謝罪されましたよ。

 いや、謝罪するの、こちらだから。

 謝罪合戦になる私達を他所に、和威さんは何処吹く風の体で飄々としていた。

 お義母さんに拳骨を食らわされていたが。

 まあ、かなり不便な場所に篠宮本家はあるわけだ。

 小学生を、気楽に行かせる訳にはいかない。


「そうなのよねぇ。なぎ君ともえちゃんを幼稚園に通わそうにも近場にないし。小学校も閉校になっちゃって、山道を延々と歩かせなくてはならなくなったから、何時かは都会に引っ越しさせようとしていたのだけどね」

「時期が思っていたより早くて、じぃじは寂しいよ」

「ありゃ。学校無くなったんだ」

「木造の建物だから、老朽化でね。一部が崩れてしまって危険だから、更地になったよ」

「でも、隆臣が残したベンチは役場に移動になったわよ。貴方、小学生時代から日曜大工が大好きだったわねぇ」


 ほんの僅かな間に、見慣れた建物が無くなっていた。

 お山の集落には、小学校と中学校が併合した建物があった。

 全校生徒が十人に満たない学校だったからか、運動会は集落の住人が混ざって盛り上げていた。

 なぎともえも乳児期からハイハイで、参加していた。

 双子で競うのもなんだったけど、衆人観衆の中、マイペースに進むなぎと、必死に私を追うもえ。

 何故か、最後は仲良くゴールしていた。

 楽しい記憶が残っている。

 篠宮家の兄弟もそうだろうな。

 朗らかに思い出を語るお義母さんに、お義兄さん達。

 時折、和威さんも会話に混ざる。

 少しだけ、メランコリーな気分になった。


「失礼致します。お待たせ致しました」


 給仕のスタッフが食事を配膳してくる。

 双子ちゃんにはお子様プレートで、大人組にはコース料理が運ばれてくる。

 巧君と司君も、立派にコース料理組。

 小さめなお皿に同じ料理が載っている。


「はんばぁぐ?」

「おにきゅ?」


 さぁ食べようとしていたなぎともえの、動きが止まった。

 お子様プレートには、美味しそうなハンバーグが鎮座している。

 抜け目ない母が手配したなら、なぎがお肉が駄目なのは分かっている筈だよね。


「なぁくん。おにきゅ、めめよ。ちゃべちゃ、めめにゃにょ。ぽんぽん、いちゃいいちゃい、にゃっちゃうにょ」

「もぅたん。よちよちよ」


 もえちゃんが過剰に反応する。

 給仕のスタッフの裾を握り、懸命に訴えていた。

 ああ、なぎ君が意地悪されたと思ったのかな。

 頬を膨らませて、お怒りな様子だ。

 対して、なぎ君は平常心で宥めている。


「ご安心ください。こちらの、ハンバーグはお肉を使ってはいません。お豆腐のハンバーグです」

「おちょうふ?」

「はい。なぎ様が食べてもお腹が痛くならない食材を使用しております」


 あら。

 丁寧に教えてくれるスタッフさんだと見てれば、副支配人さんだったよ。

 目線を合わせて、にこやかな笑顔で説明をしてくれる。

 ひとつひとつの食材を、分かりやすく丁寧に。

 なぎに配慮された料理だった。


「めんしゃい。もぅたん、まちぎゃいちゃ」

「いいえ。始めに、説明をしないでいた私が悪いのです。もえ様はなぎ様を心配なされたのです。お優しいお気持ちを大切になさってくださいませ」

「……あいあちょう、ぎょじゃぁましゅ」

「もえ。ちゃんと、ごめんなさいもありがとうも言えたな。パパ、感心したぞ」

「ママも。もえちゃんを、誉めてあげたいな」


 間違いに落ち込むもえちゃんを、和威さんと誉めてあげないと。

 もえちゃんはなぎ君の為に、怒った。

 まだ、消化不良を起こすなぎの体調を見かねて、意見した。

 だからね。

 ママもパパも、もえちゃんを叱ったりはしないよ。

 逆に、誉めてあげる。

 それだけ、良いことをしたんだよ。


「ママぁ~。パパぁ~」

「泣かなくてもいいの。もえちゃんは、なぎ君を思って言ったのだから。お料理を運んできてくれたおじ様も、怒ってはいないでしょ。だから、安心していいの」

「そうだ。何にも、不安に思わなくていい。もえはお腹が空いているだろう。一杯食べて、元気な姿を見せてあげような」

「もぅたん。あいあちょう、ね。なぁくん、うれちいよ」

「あい」


 頬を撫でたり、肩を撫でたり、思い思いにもえちゃんを労る。

 涙を含んだ瞳で、もえちゃんは大きく頷いた。

 それをみやる篠宮家の皆さんが、ほっとため息を揃って吐き出す。


「もえは、ご飯が大好きだもんね。冷めたら可哀想だから、温かいうちに食べよう」

「うん。ぼくも、もえが元気に食べるの見ると、ほんわかになるよ」

「皆でご飯を食べるのは、久しぶりだから楽しいね」

「お祖父ちゃん達には悪いけど。なぎともえが都内に引っ越してきてきてくれて、気軽に会える距離にいるのは嬉しいわ」

「姉さんは自重しようよ。今だって、部屋になぎともえ用の服が貯まってきてるんだから」

「だって、創作意欲が湧き出すのだもん」

「学校の課題を終わらせようよ」


 静馬君と梨香ちゃんが笑いの種を撒いてくれる。

 二人も仲良し姉弟だ。

 篠宮家はあまり兄弟喧嘩の話題はないなぁ。

 うちは、言いたい放題言いまくりの仲だったから新鮮だ。

 それが、ストレス発散になっていた。


「ほら、あーん」

「あい、あーん」

「ママ、なぁくんも」

「はい、あーん」

「あーん」


 雛鳥よろしくお口をあける双子ちゃんに、ハンバーグの一欠片を入れてあげる。

 もぐもぐしてから、ごっくん。

 満面の笑みで、互いの顔を見合わせる。


「おいちぃね」

「あい、おいちぃ」


 器用に子供用フォークを使って、食事をしてくれる。

 たまに、プチトマトがお皿に転がり、手を添えて突き刺す。

 小さなお口をあけて、かじりつく。

 トマトの汁が溢れるか気になるも、上手に食べている。

 私が注意しなくても、綺麗な作法で食べてくれるから、安心して私も食べていられる。

 食事で遊ぶのはしないので、お利口さんである。

 自分達が怒られるのが嫌なのではなく、私や和威さんが注意されるのを見たくはないらしい。

 パパママ思いの、優しい子達だ。

 気付いたら、充分に甘やかして誉めていた。


「ママぁ~」

「琴子さん、もえちゃんが」


 食事を進めて話しに弾んでいたら、もえちゃんから注意が逸れていた。

 慌ててみやると、もえちゃんが舟を漕いでいた。

 あらら。

 お腹が満たされてきたら、睡魔が襲ってきたな。

 随分とはしゃいでいたから、疲れたのかも。

 フォークを握り締め、睡魔に抗い食事をしようとするもえちゃんに、和んできた。

 がくんと、落ちる頭を支えて、抱き寄せた。


「もえちゃん、ねんねしようね」

「う~。ぎょはん。まぢゃ、あしょぶ」

「じゃあ。あーん」

「……あーん」


 ニンジンのグラッセをお口に運ぶも、言うだけで食べようとはしない。

 ハンバーグも粗方食べているから、お腹は一杯かな。

 パンも頬張っていたし、今日はよく食べたね。


「琴子、まだ食事が途中だろ。換わるぞ」

「もぅたん、ねんね?」

「そう、ねんね。なぎ君は、眠たくはない?」

「なぁくん、なぁい」


 早食いな和威さんは食事を終えていた。

 それでいて、作法は悪くないので、何時食べ終わったのか疑問に思う時がある。

 時間に終われる仕事をしているせいなのか、元々の性質なのか。

 なぎともえが受け継いでいないといいなぁ。

 もえちゃんを渡して、こっそり悩む私である。



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