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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その21

 果敢に炭酸飲料に挑戦したもえちゃん。

 口に含んだ瞬間に、お目目が見開いて頬を膨らませた。

 飲み込めなかったんだな。

 慌てず空のコップを口元にもっていき、行儀が悪いけど吐き出させた。


「もえ、大丈夫?」

「うー。おくち、へんにゃにょ、しゅう」

「最初は、炭酸に慣れないと変な感じしちゃうよね」

「もぅたん、よちよち」


 巧君と司君が心配して見守っていてくれていた。

 なぎ君ももえちゃんの頭を撫でたりしている。

 少しの差なのに先輩ぶる姿は微笑ましい。


「ははは、なぎともえには炭酸は早すぎたな」

「はい、林檎のジュースで口直ししてね」

「あいあちょ、ねぇね」


 静馬君に笑われ、梨香ちゃんからジュースを貰う。

 なぎ君もお相伴に預かり、ジュースを一気のみしていく。

 そんなに、喉が渇いていたのか。

 気をつけるべきだった。

 反省する。


「ママ。にぃにちょ、ねぇねちょ、ぷえじぇんちょ、いい?」

「あい。もぅたんも、ぷえじぇんちょ、あけう」

「いいわよ」

「「やっちゃあ」」


 落ち着く間もなく、双子ちゃんは次の目標にまっしぐらですなぁ。

 にぃに、ねぇねを急かしてプレゼントボックスに、走っていく。

 周りの大人達は先程の私のように微笑んで、談笑を止めて見つめていた。

 未だに、下っ端構成員姿の兄達と女王様な真雪ちゃんが浮いているのだけど。

 着替えないのか?

 真雪ちゃんは暖房が効いているとはいえ、寒くないのだろうか。

 うん。

 自分が寒くなると、火傷痕が疼いてくるだけに気になった。


「ママあ~」

「はあく、はあく」

「パパも~」

「ご指名だぞ」

「和威さんもね」


 にぃにとねぇねに囲まれても、私達を呼ぶなぎともえに思わず笑い出す。

 呼ばれたから仕方がないとばかりに、輪の中に入っていく。

 相変わらず、双子ちゃんは豪快に包装紙を破っていた。

 どこで、ついた癖だろう。

 双子ちゃんの前で、ぞんざいに扱った様子はみせていないのだけどなぁ。


「にゃにきゃにゃ、にゃにきゃにゃ」

「しゃんちゃしゃん、にゃにきゃにゃ」

「なぎともえは、サンタに何が欲しいってお手紙を書いたの?」

「「しゃんりんちゃ」」

「三輪車か。行動派の二人にはぴったりなプレゼントだな」

「りぃねぇねちょ、しぃにぃには、なぁに?」

「ねぇねは最新式のミシンが欲しいから、お金をください、よ」

「にぃにも品物より、お金だね」

「僕は、サッカー用のスニーカー。靴だよ」

「ぼくは、野球のグローブ」


 高校生組はお金か。

 それはそうだよね。

 この年代になると、資金が幾らあっても足りないだろうし。

 梨香ちゃんがミシンそのものではなく、購入資金の援助を頼んだのは、かなりのお値段がする物だからかな。

 ちょくちょく、双子ちゃんの服や小物を作って贈ってくれているから、援助をしてあげたい。

 和威さんに、それとなく相談してみよう。

 そういえば、母から篠宮の子供達には、プレゼント贈るから準備しなくていいと言われていた。

 新婚時代は子供達に誕生日とクリスマスに、プレゼント贈って随分と恐縮されたっけ。

 我が家に双子ちゃんが産まれて、贈った金額の倍になってお祝いが届いたのはよい思い出である。

 ついつい、胡桃ちゃん家を基準にしていたから、和威さんに相談してなくて愚痴を溢された。

 和威さんは、その辺りは無頓着だったしね。

 二十歳の成人の祝いに、株と資産を譲渡されていたのに、催促されたらお小遣いあげたりしていたそうな。

 後、お年玉も。

 お義兄さん方に、学生があげる金額ではないと怒られたそうだけど。

 お年玉で、充分だからと言われていたそうな。

 だからか、誕生日にプレゼント贈る意識がなかった。

 付き合っている私にはくれたけどね。

 自分の家族と身内は違うのか。

 どうも、その差が分からない。


「あら? ええ⁉」

「なんで、これがあるんだ?」

「なぎともえのじゃ、なさそうだね」

「これ、梨香ちゃん用かなぁ」


 物思いに耽っていたら、プレゼントを開けていた面々から驚愕の声があがった。

 一番大きいプレゼントをなぎともえが、二人ががりで開けていたら思ってもいない品物が出ていた。

 ミシン。

 紛れもなく、梨香ちゃん用と思わしきミシンだ。


「しかも、姉さんが欲しがっていたミシンの品番だよ」

「ええ。私、家族にしか話してないのに。静馬、貴方誰かに話した?」

「まさか。あっ、でも。父さん付きの吉高さんには、話した気がする。それだって、品番は言ってない」

「静馬お兄ちゃん。これ、何かのチケットみたい」

「うわ。これ、行きたかった演劇会のプレミアムチケット。それも、VIP席だ」

「こっちは、Jリーガーのサイン入りスパイクシューズだった」

「これは、プロ野球選手のサイン入りグローブね。どうみても、私達向きのプレゼントよ」


 恐るべし、情報収集能力。

 プレゼントを用意したのは我が母である。

 篠宮家の子供達が欲したであろう品物を用意していたとは。

 いや、この場合は朝霧家の財力か。

 事件に巻き込んだお詫びも兼ねて、用意したに違いない。

 だけど、困らせるのは本末転倒である。

 和威さんも気付いて、眉を潜めている。

 母よ。

 やり過ぎだ。


「琴子さん」

「琴ちゃん、どうしよう」

「うん。出来るなら、プレゼントは受け取ってくれるかな。用意した母には、お小言は言っておきます」

「あのね、嬉しくない訳ではないの。でも、あまりにもタイミングが良すぎるプレゼントに驚いてしまって」


 梨香ちゃんの言葉に、小学生組が頷く。

 不思議そうに見上げるなぎともえを、静馬君が頬を撫でる。

 その気持ち、分かるわ。

 親しい身内にしか話してない内容を、叔父の結婚相手の身内が的確に用意してしまう。

 一歩間違うと、個人情報の漏洩で、お付きの家人を解雇しなくてはならなくなる。

 家長のお許しがあれば、いいのだけど。


「多分だが。兄貴達も、了解しているんではないかな。でないと、これは納得いかない案件だろう」

「そうよね。母が押しきったと思うのよ。まあ、朝霧のお祖父様の意向もあるのだろうけど。今回限りにさせるから、なぎ君とともえちゃんをかわりなく可愛がってあげてね」


 気味悪く思い、距離を開けられたりしたら、なぎともえが泣くよね。

 ねぇねとにぃに、大好きだし。


「そんなの、当然だよ。なぎともえは、大事な従兄弟だもん」

「お祖母ちゃんやお祖父ちゃんには、悪いけど。近くに引っ越してきてくれて、うれしいよ」

「うん。これ位で、嫌いにならないよ」

「仲良しだもんね」

「「ねー」」


 巧君と司君にぎゅっと抱き付かれるなぎともえ。

 にぱっと笑い、抱き付き返す。

 可愛いなぁ。

 きゃらきゃら、笑い声があがる。

 固い表情をしていた梨香ちゃんも、和んだ様子で力が抜けた。


「おっ。可愛い子ちゃん達、何が楽しいんだ?」

「あっ、臣叔父さん」

「「おーくん」」

「あはは、なぎともえ。元気になったなぁ」


 遅れていた隆臣さんが、いつのまにやら登場していた。

 双子ちゃんは、隆臣さんの足に抱き付く。

 兄弟の中では、隆臣さんが一番和威さんに似ている。

 そして、隆臣さんも愛嬌ある性格で双子ちゃんをよく構ってくれている。

 伯父さんというより、遊んでくれる相手と認識してやいないだろうか。


「うりゃ。なぎは軽くなったが、ご飯は残さず食べているかなぁ」

「あい。おしゃきゃにゃちょ、おにきゅは、しぇんしぇい、ちゃべちゃ、めめよっちぇ」

「あらら。そうか、食べたら駄目か。でも、お野菜も好き嫌いなく食べてるなら、大丈夫かな」

「にぎゃいにょ、ちゃべえうもん」

「もぅたんも、ぎゃんばっちぇ、ちゃべえうもん」

「そうか、二人ともお利口さんだな。にぃにの巧と司は、トマトは食べれるようになったか?」

「うん。食べれるようになったよ」

「ぼくは、まだ苦手」


 司君は脹れっ面で、申告する。

 生で食べるトマトに、苦手意識が抜けないようだ。

 あのジュルっとした部分が駄目かな。

 私も、幼い頃は苦手だった。

 その割りに、トマトピューレは平気だったから、味が駄目ではなかった。

 母が苦心して食べさせてくれたのが、懐かしい。


「臣叔父さんは、ブロッコリー食べれるようになった?」

「あー。叔父さんは、あれだけは駄目だな。年を取っても食べれない」

「アスパラは食べれるのに、不思議だね」

「そうだよな。叔父さんも不思議だ」

「臣は偏食が多すぎで、子供達の見本にならないだろう」

「「こーくん」」


 隆臣さんの頭をはたくのは、康治さん。

 渋面で隆臣さんの、襟首を掴んだ。


「まずは、朝霧さんにご挨拶しなさい。礼儀知らずに教育した、覚えはない」

「ちょ、まっ、兄貴。首が締まる。今、なぎを抱っこしてるから」

「ん? なぎを落とすなよ」


 慌てた隆臣さんが、抱っこしてるなぎ君を和威さんに差し出す。

 襟首を掴まれていて、降ろせないようである。

 なぎ君を受け取った和威さんは、康治さんの背後に佇む方々に会釈した。

 千尋お義姉さんの姿がないけど、お留守番かしら。

 重鎮の家人の中に、県議員の姿がある。

 自衛隊の災害派遣に謝意をする為、訪問した帰りだろう。

 ついでに、朝霧グループの援助にお礼を言いに来たのかな。


「酷い、兄貴」

「礼儀を欠いたのは、隆臣だ。当主になるなら、相応の態度を身につけろ」


 隆臣さんの抗議に、康治さんは取りつく島もない。

 隆臣さんをひきづって、お祖父様の元に行かれた。


「臣叔父さん。篠宮の後を継ぐんだ」

「お父さんの情報だと、中継ぎの意思があるみたいよ。もしかしたら、静馬になんて考えているのかも」

「てっきり、康伯父さんの後は和叔父さんだと思ってた。和叔父さん、ごめんなさい。勝手な想像だったよね」

「いや、俺もそのつもりでいたんだけどな」


 康治さん夫妻に子供が恵まれないでいたのもあり、歳がふたまわりも離れているからか、自然と和威さんに期待がかかっていた。

 和威さんもその気で、実家に戻っていたしね。

 だけど、周りの反響が許さない状況が産まれてしまった。

 私達に忌まわしい双子が誕生して、反対意見が続出した。

 私となぎともえを貶す意見に、和威さんは人知れず見限り、篠宮を離れる決意をした。

 距離を開ければ静かになるかと、思われた。

 まあ、私側の水無瀬家に纏わる問題が起きてしまったけど。

 和威さんにはなぎともえの将来を見据えて、水無瀬家よりになるのも選択肢が増えてしまった。

 こっそり、お祖父様が暗躍していないのを祈るばかり。

 孫娘の婿だからと、はりきらないとよいのだ。

 父の件でも、釘を刺されたのを思い出して欲しい。

 何にせよ、和威さんも若い。

 なぎともえも二歳だ。

 自分らしく、のひのびと歩んで欲しい。

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