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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その9

 お義兄さん達の暴露に和威さんは項垂れている。

 あらら。

 どうやら痛恨なダメージらしい。

 小さく唸っている。


「兄貴は教えてなかったのか。一時期は康兄貴を父親だと思い込んでたようだったんだが」

「それで、親父は同居している親戚のおじさんだと勘違いしていたんだぞ。お袋が高齢出産だっただけに、産後は入退院を繰り返していたせいもあったんだけどな」

「当時は康兄貴は独身なのに、親戚連中に一児の父親扱いだ。義姉さんの家族に隠し子ではないかと、疑われて婚約破棄寸前までいってなぁ」

「だから、篠宮家ではその話題が禁句になったんだ」


 お義兄さん、その辺で止めてあげてください。

 和威さんが凹んでいますよ。

 叔父様方も苦笑しているので、ご存知とみた。

 知らなかったのは、和威さんだけかな。

 この話題を一番嫌悪していたのは和威さんなだけに、自業自得ではないか。

 お義父さん、お義母さんが可哀想に思う。

 我が家の双子にオバさん呼ばわりされたら、号泣ものだ。


「康兄貴には、後で謝っておく」

「そうしておけ。ならば、本題にはいるか」

「臣兄貴は来ないのか?」

「臣は、仕事の都合で来れないそうだ」


 四男の隆臣さんは欠席ね。

 後でご報告するそうな。

 雅博お義兄さんに促されて窓際の席に着く。

 なぎともえはブランコに乗って、ご機嫌に笑っているのが見える。

 良かった。

 大好きなねぇねとにぃにに囲まれてイヤイヤは問題なさそう。

 問題はこちら側にあるのだった。


「まぁ、いずれは知られると思ったんだがな。緒方の縁戚に当たる取締役が酒の席で口が盛大に滑ってくれたんだ」


 雅博お義兄さんは営業の部長職に就いている。

 接待も多々あるから、その辺りでのお話しかな。


「親会社の本家筋。創業者の血筋だと触れ回ってくれた。こっちはいい迷惑を被ったな。就業時間に愛人志望の粉かけに始まり、親会社栄転の口利き、数え上げたらキリがない」


 愛人志望の辺りで和威さんの表情を伺う。

 まさに、今日不倫願望な女性に家まで押し掛けられた。

 和威さんも思い出したのか、不快な煩わしさを眉間の皺で表している。


「とうとう、仕事に支障をきたしてな。辞表を叩きつけてやった」

「仕事人間な雅兄貴にしては思いきったな」


 子煩悩な篠宮家だけども、仕事にやりがいを見せる質なのもある。

 お山の家では和威さんが、徹夜も辞さずに平然と仕事部屋に籠ったりしている。

 ご飯時には双子を突撃させて、引っ張りだしていた。

 熱中していると時間を忘れて困っている。

 食事は家族でと宣言したのは和威さんなのになぁ。


「ふん。其ぐらい、煩わしかったんだ。勿論、直ぐに破り捨てられたがな。そこで、緒方の叔父が打開策として、子会社の立て直しを懇願されて引き受けた」


 きっと、揉めに揉めた末の打開策なんだろうな。

 雅博さんは若くして部長職に就いていたから、いずれは本社の専務や常務の椅子に座るかなと思っていた。

 緒方家としても、本家筋の優秀な人材を手放す訳がないし。


「そこでだ。子会社の社長は緒方家に取り入る良い機会が出来たと思ったんだろうな。篠宮家の内情を調べられた」

「馬鹿か。良く調べられたな」


 身上書を調べられたのは理解できるけど、なんで和威さんのお見合い話が持ち上がったのか。

 不思議に思う。

 プライバシー保護はどうなっていることやら。


「和威の結婚は、政略的な目論みがあると思われたみたいだな」

「そうだなぁ。琴子さんと和威君の結婚で、確かに朝霧家との付き合いが増えたからなぁ。政略と取られても仕方がない」

「内の工場も、朝霧家がらみの取引先が増えたし」

「俺の会社もそうだ。今までは渋られていた案件が、朝霧家の一言で成立したことが何度かある。当時は、有り難いと思っていたけどなぁ」


 三男の悠斗さんはT大を卒業されたのに、何故か下町の工場に技術者として就職された。

 宝の持ち腐れにはならなかった。

 新技術の特許を編みだしたりしているらしい。

 それにしても、私達の結婚にそんな問題がありましたか。

 薄々はそうなるかな、とは思っていたのは事実だ。

 朝霧の祖父は財界の大物だけに色眼鏡でみる人ではないけど、私の火傷跡を気にして水無瀬家が結婚相手を見繕っていたらしい。

 朝霧家と言うより、水無瀬家の当主様がなにがしか裏で手を回していたのではないかな。

 自分の孫の様に可愛がっていただいていたし。


「それで、なんで俺の釣書が出てきたんだ。静馬と間違われたと言っていたな」

「すまん、釣書は私のミスだな」

「叔父貴?」

「琴子さんには悪いが、和威君がお見合い結婚するとは思わなくてなぁ。釣書は何枚か作製していた。その内の2枚の行方がわからなくなっていたのが、判明した。調べさせたら、内の愚息が持ち出していた」


 ええと。

 和威さんの従兄弟がなんで関わってくるんだろう。

 従兄弟なら和威さんが既婚者だって判っているはずなのになぁ。


「あいつは、同じ末の息子なだけに和威君には、敵愾心を抱いていたらしい。私は比べた気はなかったんだがな。緒方の縁戚に、篠宮家の兄弟と学歴の違いを揶揄されていたようだ」

「お馬鹿な息子よねぇ。任された子会社を引っ掻き回して業績不振にしたのを、挽回する目的を和威さんの結婚で補うとしたのよ」

「俺を人身御供にしようとしたのか」

「そうだ。どうせ、政略結婚をしたのだから夫婦間の仲は良くないだろう。一度したのだから、今回も役にたてとのたまわっていた」


 どういう、理屈だ。

 私達のお見合いは恋愛ありきから始まった。

 お付き合いしていた私が逃げたのが原因で、和威さんが企んだお見合いだった。

 そこには、緒方家と朝霧家の意向はなかったはず。


「まぁ、一応は馬鹿なりに工作はしたみたいだ。和威君の釣書を静馬君だと偽り相手側に渡していたな。発覚すれば困るのは篠宮家の兄弟だとたかをくくっていた」

「安心してね。相手側には謝罪しに行きまして、きっちりと頭を下げさせました。けれど、相手側は納得しなくてね。では、和威さんとお見合いさせろ、と一点ばりよ」

「既婚者だから出来ないと謝罪しても、離婚させてでもお見合いさせろときた」


 何てこともない叔母様の言葉だけど、怒りに満ちているのがわかる。

 緒方家の問題に篠宮家が巻き込まれた感が満載だ。

 隣に座る和威さんから、冷ややかな空気が漂ってくる。

 激怒までには行ってないけど、密やかに怒ってますね。

 私の抑制より、なぎともえがいた方が良かったのではないかな。

 窓の向こう側のなぎともえは、今度は巧君と司君と一緒に滑り台に夢中みたい。

 微笑ましいばかりだ。

 室内は殺伐とした雰囲気だけど。


「無論、相手側には断った。あちらのお嬢さんも乗り気では、なかったしな」


 里見さんとのお付き合いは内緒だったのかしら。

 如何に、上昇思考なご両親でも、一流企業に勤めている里見さんとの仲は認めても良いと思うのだけど。


「なんでも、あちらのお嬢さんも婚約者がいる見たいですよ」

「ええ。何の因果か奏太さんの友人が相手で、今日まさに相談された。悪い冗談で、琴子と離婚間近かと問い質されたぞ」

「琴子ちゃんのお兄さんが、それで関わっていたのか。なるほどなぁ、それは悪かったな」

「あなた。後で武藤さんのお宅に謝罪をしにいきましょうか」

「そうね。朝霧家には、緒方家が直々に行かせてもらいましょう」


 雅博さんの奥さんである佳子お義姉さんが、叔母様と二人で納得されている。

 あのう。

 私の口を挟む隙がない。

 実家の両親なら実害がないので、笑い飛ばすだけだと思う。

 でも、一言言わないと気が済まないのだろうな。


「琴子さん。申し訳ないのだけど、ご実家の都合の良い日を聴いて下さらないかしら」

「あっ、はい。判りました」


 長いものには巻かれます。

 忘れないようにしないとね。

 えっ。

 今すぐですか。

 叔母様方の視線は私に集中している。

 叔父様が叔母様の背後で合掌されている。

 ああ。

 叔母様の中では優先事項なのですね。

 スマホを取り出す私。

 圧力に負けました。

 実家に電話をした。


『もしもし。母? 今時間ある』

『あら、琴子。時間ならたっぷりあるわよ。もしかして、奏太が琴子から連絡があるかもと言っていたから、それかしら?」

『兄の事だから、そうかも』


 あのずる賢い兄の様子だと、ありうるな

 先手を必ずや打ってくる。


『篠宮家絡みでお義兄さん達が、武藤家に訪問したいと仰っているのだけど何時なら空いてそうかな』

『うちは何時でも良いわよ。奏太に週末は空けといてと連絡があったから』

『ふーん。ちょっと待ってお義姉さんが、話したいのだって。代わるね』


 目線で訴えられた。

 注目の中の電話は体力を消耗する。

 早々とお義姉さんにバトンタッチだ。

 社交辞令が、とびかっている。

 お義姉さんから叔母様に、スマホが右から左へ流されてゆく。

 どこまでスマホは旅するかな。

 窓越しの双子は遊びに夢中。

 ママの癒しとはなってくれなさそうだ。

 ちょっとジェラシーを感じちゃうぞ。





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