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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その19

 冗談半分で頼ったら、了承された。

 穂高従兄さんがぽかんと口をあける。

 私は、そちらの事情の方が気になった。

 従兄さんもテレビに出てないなぁと、思っていましたよ。

 穂波ちゃんにそれとなく話題を振れば、映画は出てるよと返ってくる。

 律儀に観に行ってるのか、パンフが写メできた。

 そして、お祖父様からDVDが送られてくるのだが。

 なぎともえ用にお子様向けのと一緒に。

 篠宮のお義祖母さんが、何故か穂高従兄さんをお気にいりしてくれているので、従兄さんの出演するDVDは篠宮家に進呈した。

 推理物の小難しいドラマをなぎともえが、お義祖母さんの傍らで視聴していたのには驚いた。

 ほんとに二歳児かい、と思ったほど静かに観ていた。

 時折、内容が分からず、なぁくん、にゃんでと、もえちゃんは言っていたけど。

 振られたなぎ君は、しぃよ、あちょでと嗜めていた。

 それで、観終わると、二人してあれはなあにと説明を求める。

 よく覚えているなぁ。

 観察していたお義母さんと、感心していた。

 集中力が半端なくあったのか、物覚えが良かったのか、当時はどちらかと悩んだものである。

 今にしてみれば、なぎともえは嫌われたくない一心で、常識を得ようとしていたのだろう。

 どうすれば、大人に怒られないようになるか。

 知ろうとしていたのだろう。

 篠宮家の皆様は、禁忌の双子を優しく見守ってくれていたけど、親戚は煩く排除しようとしていた。

 篠宮の為にもえちゃんを養子に出せやら、双子共々母親の私と離縁しろだとか、色々言われたし。

 まあ、面と向かって言ってくる親戚は、お義祖母さんが持ち出した薙刀の一振りで追い出され、康治さんから本家立入り禁止になったけど。

 お義母さんも長年仕えてくれた家人を、退職金上乗せして放逐してしまった。

 迷惑かけて申し訳なくて、実家に帰ることも検討した。

 それは、和威さんやお義父さんに止められた。

 家人になってくれた彩月さんにもやんわり止められて、気付いたら周囲に煩く喚く親戚はいなくなった。

 媛神様の宮司さんからも、双子は禁忌でないからと進んでお宮参りさせてくれたのも、後押しがあった。

 沢山の好意でなぎともえは成長してきた。

 まだ、二歳だけどね。

 前世があるせいで、精神年齢がたかいけどね。

 またまた、話がズレました。


「じい様、何で了承するの。ここは、一喝するところじゃね?」

「あの、自分、先輩の恩恵受けちゃ駄目です。ただでさえ、お情けで仕事貰っているのに」

「いや、友也は実力で仕事貰ってるんだって。馬鹿なことほざいているのは無視しろ」

「ですが、ライダーの主役も先輩の助言があったからと聞いてます」

「いやいや。友也が主役するから、俺にあの役回ってきたのさ。プロデューサーからのお達しだから、これ本当。内定してた俳優が年齢若すぎ、アクション下手すぎってんで交代されたの」


 裏事情が暴露されていく。

 穂高従兄さんによると、主役もストーリーテラー役も内定していた俳優が交代されていたそうな。

 ストーリーテラー役の俳優さんは自分のアクション下手さに、納得して降りたそうだけど。

 主役の俳優さんは、最後まで駄々を捏ねていた。

 事務所も中堅な為に、所属している俳優を、そのテレビ局に主演させない脅しもかけてきた。

 最終的に、主役の俳優さんが不始末起こして、やっと辞退した。

 所属している事務所側にも責任があり、事務所側も黙るはめに。

 これって、偶然かなぁ。

 桜伯母さんが苦虫噛み締めまくっているから、お祖父様が手を回した模様。

 どうやら、穂高従兄さんが知らない場所で、朝霧が暗躍していた。


「いい加減にしなさい。穂高がやらかしたせいで、お父様は動いたのよ」

「って。俺、何をした?」


 桜伯母さんの鉄拳が、穂高従兄さんを見舞う。

 ちょっと、びっくり眼な双子ちゃん。

 物静かならーたんが、頭をはたいたのが珍しいかったようだ。

 同様に、和威さんも驚いていた。

 なぎともえとそっくりな、驚き方をしている。

 こういう所が親子だと認識できた。

 スカイプでおしとやかな桜伯母さんしか知らない双子ちゃんと違い、私は意外と手を出すのが早い桜伯母さんを知っている。

 四姉弟では、断然桜伯母さんのお叱りが多い。

 椿伯母さんも楓伯父さんも、滅多に声をあらげない。

 その代わりに、理屈詰めでお叱りがくる。

 聞き分けるまで正座は、地味に堪えた。

 だからか、桜伯母さんの鉄拳制裁は従兄弟達に評判が良かった。

 制裁されて喜ぶのは、どうかと思った。

 聞いてみたら、理屈詰めは軽く扱われている気がしてならないそうだ。

 鉄拳の方が、怒られていると身に染みる。

 我が家の双子ちゃんとは、正反対な答えに笑えた。

 なぎともえは、パパのごつんこを嫌がる。

 和威さんは鉄拳受けていた立場だから、痛いのを拒絶する心意は分かっている。

 なるだけ、手が出ない叱り方をする。

 なぎともえもごつんこされそうになると、盛大に泣いてごめんなさいをする。

 愛のない暴力に晒されていた前世があるもえちゃんは、特に嫌う。

 暫く、挙動不審で常にこちらを窺うもえちゃんの姿に、叱った和威さんも叱り方が悪かったのかとへこんでいた。

 私も殊更、大好きよ、大切なもえちゃんと抱き締めて愛情を示した。

 和威さんもスキンシップを欠かさず、なぎともえを愛でていた。

 何が言いたいかと言えば、なぎともえの前であまり愛情ある鉄拳は見せないで欲しいなぁ。


「始まりは、胡桃ちゃんの出産祝いね。貴方達、何かあると従兄弟組集合してお買い物するわよね。慣れ親しんだ百貨店だからか、変装しないで歩き回れば真雪ちゃんや穂波との写真を撮られて当たり前じゃないの」

「あれ? 男連中いても?」

「仲良さげに会話してれば、身内だと分かるでしょうけど。遠巻きで眺めている他人には、知ることのない事実よ。ましてや、悪意がある他人は加工して、いかにも二人でデートしていると写真を出版社に売り付けるのもいたの」

「事務所の社長は、なんにも言ってないけど」

「それは、真雪ちゃんのスカウト問題で、各出版社に孫娘の写真が無断で載せたら、問答無用で制裁すると通告していたからよ。ブラックリストに入っている人物が写っていたら、出版社が許否するわ。だけどね、昨今はSNSが流行っているわ。密かに、穂高の噂が独り歩きしていたの」

「おかーさま、因みにどんなでありましょうか」


 胸倉を掴みかけそうな桜伯母さんの説教に、穂高従兄さんが両手をあげた。

 真雪ちゃんのスカウト問題。

 容姿が目立つ真雪ちゃんが町を歩けば、スカウトが寄ってくる。

 本人の了承なく、写真が掲載される。

 これにお怒りになったお祖父様と楓伯父さんが、ある出版社を潰したのは事実である。

 外堀りを埋めて所属させようとした芸能事務所と供に。

 ご愁傷様。


「隠し子がいるとか、恋人が複数いるとか、よ。何故に、穂高が知らないのか、逆に不思議なくらいだわ」

「先輩。ラインもツイッターも、マネージャー任せですからね。普段から、見もしないですし」


 おい、芸能人。

 それは、情報に置いていかれるわ。

 ファン泣かせなこと、しないでよ。


「パパ、りゃいん、ちゅいちゃー、にゃあに?」

「しょうくん、わきゃう?」


 気持ち小声で疑問をぶつける双子ちゃん。

 全然、潜めてなく、周りに聞こえているけどね。


「あー。ラインもツイッターもSNSでな。遠くの人と、文字でお話するツールかな」

「「えしゅえにゅえしゅ、ちゅーりゅ、にゃあに?」」

「おう、困ったな」


 兄がしゃがんで教えるも、また疑問な双子ちゃん。

 根本的に理解してないから、話が通じていない。

 気を効かして静馬君と梨香ちゃんが、実践してくれることに。

 巧君と司君を連れて、然り気無く飲食スペースに誘導していった。

 篠宮の義両親とお義祖母さんも、母が促してついていったので、面倒はお任せした。


「ああ、癒しの双子が行ってしまった」

「なに、黄昏ているの。母の話は終わってません。穂高が知らないだけで、世間様には不確かな情報が流されているのよ。この間も、皆集まって今日のプレゼント買いに百貨店に行ったでしょう。その時の写真が、余所様のSNSにアップされて、出版社がうちの料亭と朝霧家に問い合わせてきたの。何でも、会話も録音されて、穂高が朝霧家の孫だと特定されたそうよ。楓と懇意の出版社が、情報を公開した方がいいと忠告されたわ」

「うわ。友也は知ってたか?」

「先輩が危機感無さすぎです。まあ、先輩が何処か大企業の御曹司だとか、噂されてます」

「俺、友也の噂の火消しに追われて、自分の火消しに間に合ってないのか。んで、じい様が出張るはめにかぁ」

「うむ。穂高達を疎んじていた俳優やら、毒親には楓が対処したからな。じきに、業界から消えるだろう」

「じい様、こわっ。いや、叔父さん、恐いなのか?」

「どちらにせよ。穂高も公言してよいからの。ほれ、二日後に昼の長寿生番組に、出演決定しとるからな」


 お祖父様、手回しが早いです。

 あの、○○の部屋だろうか。

 スケジュール空けさせたのが、丸わかりです。

 ん?

 年末で、まだ収録しているのだろうか。


「じい様、なに、しれっとぶちまけるかなぁ。マネージャーから代役出演依頼されたのを聞いたの、今朝なのに」

「なに、女史には百合子が世話になった。手厳しく相手をしてくれと、言ってある」


 百合子さんとは、お祖父様の前妻さんである。

 お祖母様の親友でもある。

 病床で子供達を託せるのがお祖母様しかいないと訴えられて、後妻になった経緯がある。

 伯母さん方が、兄弟が欲しいと我が儘言わなければ、我が母は存在しない。

 おまけで、水無瀬の継承者も存在しなかった。

 私も、和威さんや可愛い双子ちゃんとも出会わなかった。

 伯母さん方、感謝しきりです。


「うわぁ、やりにくい。絶対にやりにくい」

「それになぁ、気概のある監督とプロデューサーがおってな。穂高と大海君を特番ドラマに主演させたいと、陳情に来たわ。勿論、了承したでの。頑張れよ」

「はあ?」

「はい? 僕もですか?」

「うむ。あの役には、お前達しかおらんそうだ。お前達が演じぬと、特番ドラマ自体を取り止めになると言ったぞ」


 あら、厚待遇だね。

 内容は教えてくれないけど、お祖父様は台本を見ているのだろう。


「穂高と大海君は篠宮のお義祖母様に、詳しく戦時中のお話を窺うのを薦めますよ。あの方は博識であられるから、大海君はたいそう勉強になります」

「ばあ様が言うんじゃ、断れないな。そもそも、台本知らないし、他のキャスト知らないけど。琴子、是非紹介してください」

「あ、の? お願いします?」


 大海君と揃って頭を下げる穂高従兄さん。

 篠宮のお義祖母さんが上京したのは、お祖母様の作為もありそうだ。

 でないと、ちょうどよく紹介できないし。

 うん。

 分かっていたけど、水無瀬の先見が恐ろしくなってきた。

 だからといって、もえちゃんを忌避したりしないけど。

 なぎ君と同様に、可愛い可愛い我が子であるのは、間違いがない。


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