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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その16

 母なりに場を盛り上げたいのだろうけど、逆効果だよ。

 話を振った巧君と司君が、話題についていけなくなってるから。

 我が家の双子ちゃんも、ぽかんとしてるから。

 どうしようか。

 突っ込んで良いかな。


「は、母……」

「奏子。貴女の話は、自慢話になっていますよ」

「子供達には、酷だろう」

「あら?」


 朝霧の祖父母が止めてくれた。

 お祖母様は、車椅子での登場である。

 お祖父様が押していた。

 何とも表現しがたい母の失態に、お祖父様が少しお小言モードな様子。

 苦言を呈しようと口を開きかけた矢先に、なぎともえがきづいて声を張り上げた。


「「ばぁば、じぃじ。ひぃばぁば」」


 因みに、武藤の父と母を指してはいない。

 お祖父様達は、お山にいるはずの篠宮のお義父さんとお義母さんと、お義祖母さんを連れていた。

 珍しい。

 お三方が揃ってお山を離れるのは、私と和威さんの結婚式以来である。

 ん?

 でも、三年前だから、珍しくはないのか?

 なぎともえが和威さんの腕から降りて、お義母さん方に突進していく。

 巧君と司君もにこにこ笑顔で、続いていく。


「なぎ君ともえちゃんが、元気で良かったわぁ」

「巧と司もだよ。毎日、元気で学校に行ったり、遊んでいるかい?」

「うん。お祖母ちゃんとお祖父ちゃんも、ひいお祖母ちゃんも元気でいた?」

「ぼくね。この間、学校で作文コンクールに出すの、選ばれたんだぁ」

「あい。なぁくん、げんきよぅ」

「もぅたんも、あしゃ、しゃんたしゃんに、しゃんりんしゃ、もりゃっちゃにょ」


 久しぶりに会うお山の皆様方に、挙って報告していくお子様組。

 収拾がつかなくなっているも、お義母さん方は喜んで聞いてくれている。

 きちんと、目線を合わせてしゃがんでくれていた。

 滅多に上京したりしないお三方だけに、お子様の話は尽きない。

 殊に梨香ちゃんと静馬君も話題に乗っかり、暫く報告会が続いていく。


「何だ。父さん達が、お山を離れるのは珍しいな」

「それだけ、なぎ君ともえちゃんが心配だったのでしょうね」

「雅兄貴も、親父達が上京するのは知らされてなかったのか?」


 此方に、気が付いた雅博さん夫妻も集まってきた。

 朝霧家の身内も、微笑ましく見守っている。

 朝霧家側には、小さな子供がいないからね。

 孫世代は全員が成人しているも、結婚しているのは私と胡桃ちゃんしかいない。

 年長な従兄弟組は、それぞれの親からせっつかれているのに、何処吹く風らしい。

 結婚年齢が若い篠宮家と違い、晩婚の恐れがある我が従兄弟達。

 朝霧家を継ぐだろう楓伯父さんの長男篤従兄さんは婚約したそうだけど、他の従兄弟達に浮いた話は聞かない。

 穂波ちゃんも実家の料亭を継ぐ気漫々で、今は恋人に関わっている暇はないと宣言している。

 胡桃ちゃんの兄二人も、仕事が恋人と嘯いているしなぁ。

 一番華やかな世界にいて、美人さんと出逢いやすい穂波ちゃんの兄さんも、恋人の気配は薄い。

 我が兄は唯我独尊で、いずれは水無瀬家の分家辺りから花嫁さん迎えてそうだから、心配に及ばないけど。

 果たして、篤従兄さん以外の従兄弟達に、幸は訪れるのだろうか。

 穂波ちゃんにも、だ。


「……そういえば、隆臣がいないな」

「康兄貴は、さすがに留守番だろうか」

「篠宮にも、お山にも色々あったからな。媛神様の社の穢れも浄化中だ。お山から離れられないだろう」


 悩んでいたら篠宮兄弟の話も進んでいた。

 まあ、そうだよね。

 篠宮家が管理するお山が崩落して、集落の一部が巻き込まれた。

 普通に、自衛隊が災害派遣されたのだ。

 当主となる康治さんも、支援なりで忙しいだろう。

 そんな中でお見舞いに来てくれた。

 代わりにお義祖母さんが、采配を振っていたそうな。

 お義母さんとお義父さんは、旅行先だったしね。

 一週間ほど連絡が遅れていて、慌てて帰国してお土産が宅配で届けられた。

 すぐに、病院に来れない旨の詫び状が添えてあった。

 お山での事情が和威さんで止まっていたから、私は詳しくは知らない。

 しかし、兄の先見で、随分と派手な分家の処断が為されていたのを聞いた。

 なぎともえに暴行を働いた川瀬の身内が、朝霧邸に侵入した輩の分家が追放され、どういった結末に辿り着いたか。

 兄経由で、知った。

 和威さんが語らない以上、私も沈黙している。

 楽しい話では、なかったからね。

 篠宮家も屋体骨が揺らいでしまったから、建て直しに時間がかかりそうだ。

 当主となる康治さんも、おいそれとお山を離れられないのだろうな。

 長年、先代の当主を支えていた生き字引のお義祖母さんが、来てくれただけでも有り難いことだと分かる。


「康治君は隆臣君と、遅れてくるそうだよ」


 あれえ?

 お祖父様が、会話に混ざる。


「お祖父様。篠宮家の皆様を、全員招待されたの?」

「ああ、そうだ。特に、和威君のご実家の方々は、大変なぎともえを心配されていたからなぁ。招待しない訳にはいかないだろう」

「無茶ぶりしてないよね?」

「ん? ああ、親族の御不幸が重なっていたそうだが、決着が着いたと仰っていたぞ」


 案に、影で暗躍して篠宮家を乗っ取る気でいた親族が、追放なり処断されたことを言ってるのかな。

 お祖父様のことだから、なぎともえに手を出されて怒り心頭になり、自分も潰す気で情報収集していたのかも。

 水無瀬家と手を結んで、密かに篠宮家の膿を成敗していたとしてもおかしくはなさそう。

 兄も一枚噛んでいるな。

 だから、篠宮家のその後に詳しかったのだろう。


「もしかして、連絡取り合っていたの?」

「なに、事件を気にしておられてな。康治君は一度、上京されたがの。あの災害によって、すぐ帰宅しなければならない状態だったからな。東京で起きた出来事は、知らせておいた。まあ、緒方家の皆さんも情報収集しておったがな」

「それは、御苦労をおかけしました。地元の役場に勤める友人が教えてくれました。各地方からの災害支援も、朝霧グループが主となり支援頂いたと。ありがとうございます」


 雅博さんが、丁寧に頭を下げられた。

 お祖父様の指示か、楓伯父さんの指示によるものか。

 朝霧グループが、率先して支援物資を送っていたそうだ。

 そのおかげで、お山の集落や麓の市町村は、危機的状態を抜けられた。

 うん。

 当時の私は、なぎともえの怪我で頭が一杯になっていて、篠宮家に支援物資を送る余地がなかったな。

 反省。


「気にする必要はないぞ。篠宮家は、親族だからな。支援するのは当然である」


 鷹揚に構えるお祖父様に対して、篠宮兄弟は困ったような表情をしている。

 朝霧家と篠宮家も旧家であるも、家格の違いはある。

 言っては何だけど、資産も桁違い。

 行き過ぎた施しと、受け止められても仕方がない。

 武藤の祖父が朝霧の祖父に遠慮して、縁を結びたいと思わない気も分からないではない。

 お祖父様自身、富に群がる赤の他人に近い親族は嫌がる癖に、殊にこうして惜しみ無い支援をしたがる。

 朝霧の名に怯まない、財を狙わない相手には特に。

 篠宮家は、お祖父様のお眼鏡に叶ったようである。


「それでも、助けて頂いたのは事実です。末弟の伴侶が孫娘であると言う縁で支援して頂いたのも事実。朝霧様には、感謝しかございません」

「篠宮の分家が起こした暴挙に、怒りがむけられてもおかしくはありませんでした。また、事件が起きた際には側にいたにも関わらず、幼いなぎともえに怪我を負わせてしまいました。幸いにも兄達の輸血と、朝霧家のご縁たる水無瀬家の加護により、なぎは助けられました。父親ながら、不甲斐なく思いました」


 和威さん。

 気に病んでいたんだなぁ。

 心情を吐露してくれて、初めて感じた。

 篠宮の親族からは、双子は不吉だと吹き込まれていたし。

 次の当主候補一番だったし。

 私のまえでは、絶対に不安を表さない人だったから、なぎともえの怪我の責任とか内に閉じ込めていたんだなぁ。

 頼りない嫁で、ごめんなさい。


「確かに、篠宮の親族が犯した罪は赦しがたいが。和威君や、篠宮家を責めるのは違うな。朝霧家にも、非がある」

「水無瀬にも、ですよ。守護するべき相手を見誤り、確認を怠り、不審者の侵入を許した。ですから、謝罪は終わりに致しましょう。でないと、なぎともえが泣いてしまいそうですよ」


 お祖母様の言葉に、いつの間にか双子ちゃんが傍らにいたのを気付かされた。

 思ってた以上に近くに、なぎともえはいた。


「「パパぁ~。ママぁ~。にゃんぢぇ、めんしゃい?」」


 巧君と司君に手を繋がれ、不安に揺れている目差しが見上げてくる。

 話題に自分達の名があがったからか、悪いのは自分達だと思ってしまったかな。

 今にも、泣きそうに顔が歪んでいた。


「なぎ君、もえちゃん。パパはごめんなさいではなく、ありがとうございますって、お礼を言っていたのよ」


 咄嗟に慰める言葉に詰まっていたら、穂波ちゃんが助け舟を出してくれた。

 穂波ちゃん、ありがとう。


「おれい?」

「にゃんにょ?」

「……うんとね」


 直球な質問に、穂波ちゃんが黙る。

 なぎともえが怪我した経緯は把握していても、裏側で起きた篠宮家の事情には明るくない。

 目配せされて、私が膝をついた。

 ドレスが汚れようが、気にしないでおく。


「なぎ君ともえちゃんが怪我をした同じ日にね。篠宮のお山の近くで、大きな山津波が起きたの。山津波とはね。なぎ君ともえちゃんが、お砂で遊ぶ時に作る山があるでしょう?」

「「あい」」

「その砂のお山が、お水をかけないと固まらなくて崩れてしまうみたいに、お家や畑が土や岩に押し流されちゃうの」

「しぃにょ、おうち、にゃきゅにゃっちゃうにょ?」

「おやみゃにょ、おうち、にゃいにょ?」

「お山のお家はなくなっていないけど。近くの、親戚のお家はなくなってしまったの」


 どれだけ、理解してくれたかは分からないけど、篠宮のお家が無事だとは分かってくれたかな。

 なぎともえを襲った悪い人のお家が、無くなったとは言えない。

 篠宮の祖父母を振り替える双子ちゃんに、お義母さん方は安心していいと頷いている。


「それでな、お家を無くした親戚に、朝霧のひぃお祖父ちゃんが食べ物や洋服といった物を送ってくれたんだ。それを、ありがとうと言っていたんだ」

「めんしゃい、にゃい。あいあちょう?」

「そうだ」


 和威さんも安心させるために、なぎともえの頬を撫でる。

 巧君と司君も、安堵して表情が緩んできた。

 悠斗さんが、ほっと肩の力を抜いた。

 きっと、巧君と司君には内緒にしていたんだろう。

 お子様に聞かせていい内容ではないしね。

 今日、ばれてしまったけど。

 それは、申し訳ありません。


「じゃあ、朝霧のひぃお祖父ちゃんに、ありがとう言わないとだね」

「「あい。ひぃじぃじ。あいあちょう」」

「「ありがとうございます」」


 静馬君の提案で、にこやかに微笑みお子様組がぺこりと頭を下げる。

 誰もが、和む気配になった。

 素直な良いお子様達である。

 このまま、純粋に真っ直ぐに成長していってね。

 ママは、願うばかり。


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