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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その15

「なぎー」

「もえー」

「たぁにぃに~」

「さぁにぃに~」


 着替えが終わり会場に入ると、巧君と司君が走りよってきた。

 なぎともえも、にぃにの元へ駆けていく。

 会場には既に、篠宮家の皆さん方が勢揃いしていた。

 静馬君と梨香ちゃんも穏やかな笑みを称えて、寄ってきてくれた。


「なぎ、もえ、退院おめでとう」

「あまり、お見舞いに行けなくて、ごめんね」


 巧君と司君は、其々双子ちゃんを抱き締めて頬擦り。

 嫌がらずに抱き返す双子ちゃんは、ちょっと涙目している。


「「いいにょ。にぃには、ぎゃっきょうぎゃ、ありゅにょ。おべんきょう、ぢゃいじよ」」


 にぃにがお見舞いに来てくれた日は、大興奮して夜には体調を崩してしまっていたから、知ってしまったお義兄さん達は回数を減らしていた。

 毎週末来てくれたお見舞いの頻度がさがると、なぎともえは随分と落胆したものだ。

 ふたりともに身動きが制限されて、寝ているだけは辛かっただろう。

 おなじベッドに寝れないことも、不満に感じていた。

 特に、なぎ君は点滴やら幾つもの管があったものだから、自由に動かない身体で泣くのもしばしばあった。

 医師の先生やら、彩月さんに何度もお話しされて、我慢をさせてしまっていた。

 にぃに達のお見舞いは、よい気分転換になっていたのだ。

 小学生組の巧君や司君は、お友達付き合いもあっただろうし、クラブに入っていたであろうに。

 なぎともえを優先してくれて、有り難いやら、申し訳ないやらで一杯だった。

 それに、手術の際には、献血するとまで言ってくれた。

 年齢的に無理があったのだけど、その心意気は称賛に値する。

 小学生が言える言葉ではないよね。

 お義兄さんやお義姉さんの、教育の賜物である。

 我が家の双子ちゃんにも、見習わせたい。


「なぎ、痩せちゃったね」

「あい。ぎょはん、ちゃべちゃ、いけにゃいにょ、いっぱいにゃにょ」

「なぁくんね。おにきゅや、おしゃきゃにゃ、ちゃべちゃ、めめにゃにょ」

「そっか、お腹を手術したんだもんね。まだ、完全には治ってないんだ。じゃあ、これも駄目かなぁ」

「「なぁに?」」


 司君の手には、ラッピングされた小袋があった。

 見る限りお菓子かと思われるから、クリスマスプレゼントかな。


「今朝、なぎともえに食べて貰うんだと、張り切って作ったクッキーなのだけど。一応、添加物は使用してないが、確認するべきだったな」

「この子達なりに、考えて作ったの。なぎ君ともえちゃんが喜んでくれるかなぁって」


 悠斗お義兄さんと恵美お義姉さんが、教えてくれた。

 あら、巧君と司君の手作りのお菓子かぁ。

 出来れば、私も食べさせてあげたい。

 彩月さんに確認してみよう。


「なぎ君、もえちゃん。にぃにが作ってくれたクッキーだって。ありがとう、しようね」

「「あい。にぃに、あいあちょう」」

「巧、司。ありがとうな。もし、なぎが食べれなくても、叔父さんが代わりに食べるからな」

「うん。でも、なぎだけ仲間外れは嫌だなぁ」

「一口でも、駄目なの?」


 和威さんの助け舟にも、巧君と司君は難色を示した。

 そうだよね。

 なぎだけが仲間外れになっちゃうのだよね。

 私も、なぎと一緒に食べるのはやめておくかな。

 でも、それだともえちゃんが食べようとしなくなるから、難しいか。


「司。一口だけでもは、安易に認めては駄目かな」

「どうして?」

「もしかしたら、その一口でなぎのお腹が痛くなるかもしれない。そうしたら、なぎはまた入院しなくてはならなくなるかもだ。辛く苦しくなるのは、司ではなくなぎだ。そうなったら、司も悪いことしてしまったと、落ち込んでしまうだろう」

「……はい」

「いい子だ。医者の資格を持つ彩月に、食べていいか聞いてみような」

「はい」


 悠斗さんの説明に、司君は頷いた。

 安心して貰う為に、和威さんは彩月さんに連絡をした。

 同ホテル内の別会場にいた彩月さんは、直ぐ様来てくれた。

 事情を語ると、使用されていた素材を入念に聞き出して、少しだけなら食べても大丈夫だと言ってくれた。

 顔が綻んだ巧君と司君に囲まれて、飲食スペースで仲良くクッキーを食べ始める子供達。

 静馬君と梨香ちゃんも加わり、にこにこ笑顔が溢れるなぎともえ。

 可愛いお子様組が、注目を浴びていた。


「琴子、久しぶり。思ってた以上に、双子ちゃんが元気で安心した」

「穂波ちゃん、ありがとう。それから、先ず篠宮家の皆さんに挨拶しないと、桜伯母さんにお説教だからね」

「あっ、そうだった。失礼しました。朝霧家次女桜の娘の最上穂波です。琴子の従姉妹になります」

「篠宮家三男、篠宮悠斗です。琴子ちゃんの夫和威の兄になります。此方は、妻の恵美です」

「初めまして、恵美と申します」


 穂波ちゃんの無礼に、釘を刺す。

 桜伯母さんは老舗料亭の名を継いだ女将さん。

 礼儀には厳しいのだ。

 その桜伯母さんは、篠宮家の次男雅博さん夫妻と歓談中なのだけど、きっと視界の端で気にしているだろう。

 料亭の仕事は、どうなっているのか。

 答え、本日のホストは朝霧家。

 お祖父様が手を打って、料亭は先代の女将と義姉様が切り盛りしている手筈になっている。

 おまけに、本日のお客様は朝霧家の息が掛かった人達ばかり。

 苦情は朝霧家が受け持つらしい。


「本日は、朝霧の祖父が無理を言って申し訳ありません。御用事が、おありではなかったですか?」

「いえ、我が家は特にクリスマスパーティーなど開いたりはしませんし。息子達も、なぎともえに会えるのは喜んでいました」

「それに、わざわざ衣装まで用意してくださって。逆に、此方がご負担をかけてはいないか、申し訳ないぐらいです」


 やはり、篠宮家の皆さんにも衣装を準備していたか。

 お義兄さんのスーツやお義姉さんのワンピースは、有名ブランドのものだと分かる。

 私には、ワンピースではなくドレスだったけどね。

 藤色のドレスは首元と肩がレース素材で、裾が足首まであり少々歩き辛い。

 ピンヒールまで用意してあったけど、スニーカーに慣れた身には遠慮した。

 双子ちゃんが幼いのも考慮して貰い、ヒールの高さは抑えた。

 穂波ちゃんもドレス姿であったから、私一人浮かないで済んだ。

 何故か、穂波ちゃんを除く朝霧家の女性は和装なのが、作為を感じるが。

 後、雅博さんの奥さんも和装だった。


「負担なぞ、とんでもありません。元々、朝霧家で起きた不祥事が発端の快気祝いです。篠宮家の皆様には、ご不快な思いをあじあわせて心苦しく思っています」

「母。盗み聞きは、良くないと思う」

「何の事かしら。私は、ホストとして周囲に気を配らないとね」


 ほほほ。

 母の登場で、空気が固まる。

 お祖父様とお祖母様は、まだ会場入りしていない。

 だからか、母が張り切っている。


「そんな、朝霧家だけの失態ではないです。朝霧家に乗り込んだ無頼漢は、篠宮家の分家。此方にも、非はあります」

「ですが、朝霧邸には警護の人員がおりました。身内の言葉ひとつで碌に調べもしなかった責任は大きいですわ」


 これは、水掛け論になってしまう。

 和威さんも、黙るしかなくなる。

 招いてしまった胡桃ちゃんは、精神にダメージを負って朝霧家から離れた。

 警護の人員も大半が解雇され、水無瀬家も擁護しなかった。

 私は病院にいたから、後で知らされたけど。

 和威さんは、お祖父様の怒りを身近に見知っていた。

 お祖父様は和威さんの前で、警護の人員を処断したそうな。

 母も兄も側にいて、和威さんに諭した。

 朝霧家の敵になると、どうなるのか。

 椿伯母さんの旦那様の実家も、娘婿の生家だからと許されず潰された。

 和威さんも思うところがあり、相談を受けた。

 篠宮家も断罪されないか。

 緒方家との事業提携が、無くならないか。

 それは、杞憂に終わったから良かった。

 まあ、お祖父様にしたら、可愛い曾孫と縁をきる行為はしないだろうな。

 胡桃ちゃんのことも病気の件がなければ、手放す気はなかっただろうし。

 ドイツで安全に暮らせるように、大使館には便宜を図るように手配していた。

 密かに、ボディガードを雇っているしね。

 胡桃ちゃんが父方の身内と遭遇しないように、気を配っている。

 そんなお祖父様だから、懐に入った身内には甘い。

 和威さんを同席したのも、下手をしたらお前もこうなると言いたかったのではなく、利用したり敵になる輩がいたらこうして対処するからなと提案したかったのだろう。

 空回りしたけど。


「はい。謝罪合戦はそれまでに、してくださいね。今日は、子供達が主役のクリスマスパーティーです。大人が恐縮した姿を見たら、子供達も萎縮してしまいます。皆様、楽しんでくださいませ」


 ホテルの給仕に紛れて、喜代さんが飲み物を配りにきた。

 促されて飲食スペースを見ると、子供達が此方を注視していた。

 なぎともえが気付くと、梨香ちゃんと手を繋いで私達の方に来る。


「「ママ? パパ?」」

「どうした? クッキーは、美味しかったか?」

「あい、おいちきゃっちゃ」

「じゅーちゅも、にょんぢゃにょ」

「オレンジジュースだけど、飲ませて良かったかな」

「梨香、ありがとう。大丈夫だ」


 和威さんがなぎともえを、抱き上げる。

 すかさず、首に抱き付く。

 巧君と司君も、静馬君に連れられ合流する。

 お義姉さんに、私の母と穂波ちゃんに挨拶するように促される。

 緒方家で双子ちゃんがした様に、きちんと名乗り招かれたお礼をする。


「お招きありがとうございます。篠宮巧です」

「ありがとうございます。篠宮司です」

「はい、いらっしゃいませ。琴子の母の武藤奏子です」

「琴子の従姉妹の最上穂波です」

「気付くの遅かったけど。琴ちゃんも、穂波ちゃんも、綺麗な服だね」

「うん。琴ちゃんのお母さんも、お着物綺麗です」


 あら。

 小学生に誉められた。

 そういえば、和威さんは何もいってくれてないな。

 なぎともえが、ママ綺麗ねと言った時に、そうだなしか言ってないぞ。

 むう。

 私は、誉めたぞ。

 パーティーが終わったら、とっちめてやるべきか。

 巧君と司君の紳士振りを、見習って欲しいな。

 そして、母よ。

 いい気になるでない。

 小学生に着物の種類を話しても、分からないだろうに。

 穂波ちゃんが退いてるぞ。

 父は、いずこに。

 兄でも、可。

 喜代さん。

 子供達を母から解放する話題をくださいな。


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