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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その14

「おぢぇきゃけ、ぢょきょ、いきゅにょ?」

「びょーいん? もぅたん、いやぁよ」


 ねんねから起きたなぎ君ともえちゃんをチャイルドシートに座らせると、不安な眼差しで見つめられた。

 あら。

 クリスマスパーティーだと話してなかったかな。

 話してないか。

 うん。

 これは、私がいけなかったな。


「病院ではないから、安心しろ。朝霧のひぃじぃじがな、なぎともえが病院から帰ってきたお祝いをしてくれるんだ。クリスマスも兼ねて、ホテルに行くんだ」

「きぅしゅましゅ?」

「ほちぇう?」


 和威さんの説明に、揃って首を傾げる。

 可愛い仕草に、和威さんも笑った。


「なぎ君ともえちゃんは初めて行く場所ね。楽しみに待とうね」

「パパも?」

「ママも?」

「そうよ。パパもママも一緒に行くの」


 もえちゃんの頬を撫でる。

 なぎ君は和威さんが撫でている。

 一緒に行くのが分かると、強張っていた表情が柔らかくなった。

 一人になりたがらない双子ちゃんは、一緒に行くのが分かると途端に笑顔になる。

 お互い顔を見合わせて、楽しみだと口にした。


「しゃんちゃしゃんに、あえうきゃにゃあ」

「きぅしゅましゅは、けーき、ちゃべうにょきゃにゃあ」


 うんうん。

 お祖父様のことだから、サンタさんを用意してくれているだろう。

 それに、何かお子様が楽しめる余興を準備していそうである。

 食事制限しているなぎ君が食べられるケーキは、忘れてはいないよね。

 これ、重要だから。

 もえちゃんだけ食べれると分かっても、なぎ君の分がなかったら泣き出す案件だから。

 主に、もえちゃんが。

 なぎ君はもえちゃんに食べてと言うだろうけど、肝心のもえちゃんが納得しないから。

 今日のクリスマスパーティーには、私はノータッチだ。

 お祖父様と母が采配を振るうパーティーに、不備はないはずと思う。

 車中、ご機嫌で歌を歌ったり、会話を楽しむ双子ちゃんを見守りながら、会場となるホテルに着いた。

 朝霧グループに属するホテルのエントランスには、見覚えがある副支配人が待機していた。

 実は、私の結婚式に使用したホテルでもある。

 和威さん側の緒方家にはビジネスホテルは所有していても、結婚式に使用できるホテルがないので朝霧家が会場を提供した。

 その分費用は篠宮・緒方家が糸目はつけなかったから、なかなかに大規模になってしまったけどね。

 二十代そこそこの若夫婦が主役の披露宴は、両家が結び付いた御披露目でもあったので、私と和威さんの友人よりも親の縁者の方が多数だった羽目になった。

 友人達には最初から謝罪はしておいたけど、やはり後から苦情がきた。

 二次会に呼んで欲しかった。

 誰もがそう言った。

 何でも、友人を通じて朝霧家の孫の私と知り合いになり、ゆくゆくはお祖父様とよしみを得たいお馬鹿さんがいたらしい。

 そう言った人達は招待した訳でもなく、厚顔無恥にも披露宴に入場しようと警備員に摘まみ出された人達で。

 年配の方々には不興をかったそうな。

 そこで、世慣れてない若い者を取り込んで、朝霧家とお近づきになろうと考えたのだろう。

 私と和威さんの友人は、誰も引っ掛からなかったが。

 私達の友人も上流階級の出身だし、そうでない友人も周りがフォローしてくれていた。

 中には就職の件を持ち出して、脅したお馬鹿さんがいた。

 勿論、お祖父様の耳に入り、淘汰されたけど。

 朝霧家の諜報の凄さに、驚いたものである。

 お祖母様の先見もあったであろうが、幾つかの中小企業が朝霧グループに吸収された。

 経営陣が一掃されたら、給料がアップした。

 思わぬ福音に、従業員の皆様は喜んだそうな。

 話がズレた。

 そう言った事柄があり、副支配人のお出迎えにあった。


「本日は当ホテルをご利用くださり、誠にありがとうございます。また、ご子息様、ご令嬢様のご快復お喜び申し上げます」

「こちらこそありがとう、副支配人」

「「ありぎゃちょう、ぎょじゃぁましゅ」」


 車から降りたなぎともえは、私の両側にすがりながらもありがとうを言った。

 初めての場所に萎縮した双子ちゃんは、自由気ままに走り回らない良いお子様である。

 因みに、和威さんは満足した様子で見ていた。

 車はホテル員が駐車場に運転していった。


「これは、お行儀が良いお子様方でございます。お話では、まだ二歳とのこと。お子様方のご立派な姿に感銘を受けました」

「そうなの。ありがとう、ごめんなさいがきちんと言える子達で、私も鼻が高いわ」

「朝霧様がご自慢されるに値するお子様方ですなぁ。おっと、いけません。和んでいる場合ではございませんでした。申し訳ございません。お部屋までご案内致します」


 副支配人はお祖父様の知人であるので、酒の席でも自慢されたかな。

 本来なら総支配人になってもいい人なのに、望んで副に収まっている奇特な人である。

 一礼してから私達を促して、ホテル内に入っていく。


「部屋? 会場ではなくて?」

「はい。椿様のご意向で、お洋服を準備なされたそうです。先ずは、お着替えをなさってくださいませ」


 あー。

 椿伯母さんなら、やりかねないか。

 一応は、普段着ではない礼装にしたのだけど。

 きっと、フォーマルな礼服が用意してあるのだろうな。

 桁外れな金額の。

 身内のクリスマスパーティーにカクテルドレスがあってもおかしくはない。

 恐らくだけど、篠宮家の皆さんにも用意しておいてありそう。

 副支配人の案内でVIP専用のエレベータに。

 支配人クラスのカードキーがないと使用できないエレベータは、一般客と区別される様に別室になっている。

 だと言うのに、値踏みする視線があった。


「「パパ~」」


 悪意の気配に敏感ななぎともえが、和威さんの足に抱き付く。

 副支配人の目配せで、ホテルの警備員が視線を遮る位置に移動する。

 無言でなぎともえを抱き上げる和威さん。

 直ぐ様、エレベータが起動して中に入る。


「大変申し訳ございません。只今、当ホテルにて内密な非公式な国家間会談がございます。その随行員が目を光らせておられるようです」

「クリスマスに会談か。外国では、休暇だろうに」


 諸外国ではクリスマスは家族で過ごすのが当たり前な国がある。

 仕事はしないと、宣言する留学生もいた。

 非公式ねぇ。

 マスコミが発表しないから、適当な外国の名が浮かぶ。

 資金援助が目的か、はたまた別な思惑があるのか。

 正直、うちに被害がなければどうでもいいかな。


「此方のお部屋になります」


 エレベータを降りて案内された部屋は、スイートルームだった。

 デラックスが冠するね。

 一体幾ら費用がかけられているのか、お祖父様の本気度が計り知れない。


「お待ちしておりました。琴子お嬢様、お久しぶりでございます」

「日下さん? うわぁ、椿伯母さんも本格的なドレスを用意したんだ」


 部屋にて待ち構えていたのは、椿伯母さんの部下さん。

 椿伯母さんは、朝霧グループの服飾関連の仕事のトップになる。

 取り分け、アパレル系に重きを置く。

 日下さんは服飾のデザイナーであり、メイクアップ技術に優れた人でもある。

 結婚式ではお世話になりました。


「さあ、琴子お嬢様。磨かせて頂きますよ」

「旦那様は、此方のお部屋に。若様と、お嬢様は……」

「「ママっ」」


 スイートルームには、寝室が数室備えてある。

 和威さんとは、別室に連れていかれそうになった。

 慌ててなぎともえが和威さんの腕の中から、手を伸ばす。

 多分、子供達も別室に案内する気でいただろうが、それはいけない。

 不安になるだけである。


「済みませんが。子供達は、琴子と一緒にお願いします」

「配慮が行き届かず、申し訳ありません。三宅さん、お子様方のお洋服を此方に運んで頂戴」

「畏まりました」


 降ろされたなぎともえは、早足で私の足に抱き付く。

 大丈夫だからね。

 ママはどこにもいきません。

 そんなこんなで、お着替えと相成りました。

 別室にて用意された洋服を見て、脱力しかけた。

 下着まで準備されてたよ。

 しかも、ちよっと際どい奴。

 誰得かいな。

 和威さんかな。

 こら、もえちゃん。

 下着で遊ばない。

 布面積がすくないからと、見たことない下着を伸ばさないの。

 容赦ない日下さんに身ぐるみ剥がされて、着せ替え人形に徹する私だ。

 横では、なぎともえも礼服に着せ替えられている。

 双子ちゃんを担当する三宅さんが、怪我の跡に気付いて眉をしかめたものの、プロ意識で押さえて平然とした顔で服を着せていた。

 男の子と女の子と違いはあるが、お揃いと分かる洋服になぎともえは満足している。


「「いっちょ」」


 笑いあって、お揃いの箇所を指差していた。

 なぎ君は一人前に蝶ネクタイしているし、もえちゃんはフリフリなワンピースが似合っている。

 私の準備が長いので、三宅さんが退屈しないように気を配ってくれていた。

 普段はしない凝った化粧は固辞した。

 普段、手を抜いた化粧をしている私である。

 ママ奇麗より、ママじゃないと言われそうなのである。

 日下さんは不満そうであるが、渋々納得してもらった。

 幾分か派手めなアイメイクだけされた。


「本当に、琴子お嬢様は飾りがいがないのですから。胡桃様もおらず、穂波お嬢様だけですわ。私の腕の見せどころに、なってくださるのは」

「穂波ちゃんも、来てるんだ」


 穂波ちゃんは桜伯母さんの長女。

 兄の穂高従兄さん(にいさん)は、仕事が忙しくて来れないのかな。

 双子ちゃんに会わせてあげたいのだけど。

 件の穂高従兄さんは、就いている職業的にあまり私達従妹達に接触が出来ない。

 殊にメールやらが来るが、殆どが桜伯母さん越しになる。

 実の妹にも、中々会えないと言っていた。

 まあ、自分から進んで、朝霧の名を出さない職業に就く選択をしたのだ。

 頑張れとしか、言えない。


「穂波お嬢様は既に会場に入っておりますよ。篠宮家の方々を接待されております」

「あら。私達、遅かったかな」

「知らされてはおりませんでしたか? それは、口が滑りました」


 もしや、サプライズだったかな。

 母が手配して、お山のお義母さんお義父さんを招いてたりして。

 有りそうだ。

 双子ちゃんの入院時は、長男の康治さんが代表してお見舞いに来てくれていた。

 あの時は、篠宮本家も大変な騒動が起きていて、お山から離れてはならない時期だったのに。

 和威さんに聞いたら、川瀬寄りの分家が山津波に呑み込まれて壊滅した。

 本家は無事であったそうだけど、媛神様のお社が穢されたりして当主が上京している場合ではなかったのに。

 迷惑をかけてしまい、恐縮した。

 だけど、お山のばぁばとじぃじに会えるから、なぎともえは大喜びしそうだ。

 母よ。

 ナイスな判断だよ。


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