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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その12

 夜の報道番組では、永峰議員の議員辞職がトップで扱われた。

 永峰議員は清廉潔白を表していた議員で、息子の自首を期待して証拠物件を意図して隠していた事実を打ち明けた。

 まさか、汚名を着せた楢橋さんの殺害にまで及ぶとは思ってはおらず、後手後手に回ってしまった己を恥じていた。

 警察には自ら出頭して事情聴取を受け、火事の被害に遭われた無辜の方々にお詫びに行くと締めくくった。

 マスコミに、何故兄弟で事件が起きてしまったのか、楢橋さんに怨恨があったのか詰め寄られると、後日絶対に会見に応じると約束して警察に向かった。

 その時点で、奥様と秘書が既に犯人隠匿、資金提供、警察官僚の買収で任意同行されていた。

 翌朝の新聞格社も大々的に紙面を賑わせていた。

 ある新聞社が、楢橋家が大企業の朝霧家の身内であると報道して、朝早くから朝霧邸にマスコミが取材に来ているらしい。

 警護要員と派遣された警護官によって、内側に入らないよう警戒されているので、無闇に外出しないよう連絡がきた。

 けれど、本日は快気祝いとクリスマスパーティーするのではなかったかな。

 それまで、たむろするマスコミはいなくなるのか心配している。

 しかし、そんなことは知らない篠宮家の双子ちゃんは、リビングのクリスマスツリーの横に置かれた三輪車に狂喜乱舞。


「きゃー」

「しゃんりんしゃ」

「「しゃんちゃしゃん、きちぇくえちゃぁ」」


 足踏みしたり、くるくる回ったり、全身で歓びを表してくれた。

 黄色と水色の二台の三輪車。

 何の飾りもないシンプルな三輪車だが、なぎともえが欲しがった初めての品である。

 スポンサー達は、これでいいのか何度も確認がきたりしていた。

 そこで、サンタに欲しがったのは三輪車だから、各自で其々他に渡したいプレゼントには目を瞑ります。

 ただし、高級品は止めて欲しいとは伝えた。

 今年も、じぃじばぁば以外の身内から沢山のプレゼントが届くだろうな。

 ママパパも、別に用意はしてある。


「「のっちぇ、いい? あしょんぢぇ、いい?」」

「朝御飯を食べてからな」

「「あーい」」


 まだ、パジャマ姿のなぎともえは、今すぐにでも遊びたがった。

 ああ。

 二台にして良かったよ。

 当初は、一台で選んでいたのだよね。

 何気なく、和威さんに黄色と水色で迷っているの、どちらがいいかな。

 メールを送ったら、お怒りの返信がきた。


『あのなぁ。二台買えばいいだろ。スポンサーは沢山いる。なぎともえに一台ずつ強請ればいいだけだ』

『ん? 二台必要かな』

『大馬鹿。三輪車まで、半分は止めろ。なぎともえのことだから順番は素直に待つだろうが、二人同時に遊ばせたい。幸いにして、我が家は困窮どころか裕福だ。琴子の意見は尊重する。しかし、そろそろなぎの、もえのだけの玩具や道具を増やしてやりたい』


 目から鱗とは、こういうことか。

 大反省である。

 男の子用、女の子用の区別がしてないから、なぎともえはどちらの玩具でも仲良く遊ぶ。

 おままごとした後に、怪獣や汽車や車の玩具を手に取る。

 二人だけの世界にいたから、何事も一緒。

 半分こ。

 お山に同年代や年上のお子様がいない弊害があった。

 対して、ここは都会。

 公園になりいけば、お子様達は数多くいる。

 なぎが女の子の遊びに、もえが男の子の遊びに混ざると異端扱いになってしまいそう。

 子供の苛めは陰湿だ。

 ますます、孤立して二人だけの世界に閉じ籠らせる訳にはいかいない。

 かといって、相性の悪いお友達を早急に作らせる訳にもいかない。

 何とかしないとね。

 朝霧の名に怯まない良いお子達は、いないものかなぁ。


「おはようございます。なぎ様、もえ様。私達、篠宮家の家人一同からのクリスマスプレゼントです」


 朝の挨拶に訪れた彩月さん、峰君、司郎君が、双子ちゃんに小箱を差し出した。


「「あいあちょう。さぁたん、みーくん、ろうくん」」


 きちんとお礼を言える良い双子ちゃんだ。

 パパに開けていいか、目で訴えるのはご愛敬。

 和威さんが頷いて了承すると、床に座り包装紙を豪快に破る。

 おかしいな。

 お山のばぁばに包装紙の開け方習ったはずなのになぁ。

 さては、嬉しくて忘れているな。

 和威さんが苦笑しているが、今日は見逃してあげる気だ。


「きやぁ。うしゃしゃん」

「くましゃんぢやぁ」


 小箱の中味は、子供用のお茶碗やプレート、スプーンとフォークのセットだった。

 可愛くデフォルメされた兎と熊の絵柄を、双子ちゃんは気に入った模様。


「うれちぃ」

「あい。なぁくん、くましゃんぢぇ、ちゃべう」


 二人仲良く私に手渡しして、使ってくださいする。

 じゃあ、朝御飯に使用しましょう。

 家族仲良く洗面所に移動。

 顔と歯磨きを終えたら、ママは朝食の準備。

 なぎともえの着替えは和威さんにお任せ。

 新しい食器を軽く洗剤で洗い、水切りに並べた。

 ご飯は予約してあったので、炊けている。

 なぎ用にスープは母屋の料理長さんから、手間隙かけられた一品が届いている。

 もえと和威さん用にお魚を焼いて、仕込んであったお味噌汁をスープと温めた。

 玉子焼きを無難に焼いて、昨夜の残り物も並べた。

 和威さんのリクエストで本日は和食メニューである。


「「いちゃぢゃきましゅ」」

「「いただきます」」


 暫し、お食事タイム。

 なぎが少し朝食を残したけど、食べれる分だけ食べれればよいので、お叱りはなし。

 苦い薬も文句はいわずに、飲んでくれる。

 一息いれてから、三輪車を庭に出した。

 片付けは彩月さんにお願いする。

 珠洲ちゃんが離れにやって来て、またもやなぎともえにプレゼント。

 何でも、合成着色剤や科学物質がない天然由来の素材に拘った飴が入った瓶をくれた。

 さっそく、ひとつお口にいれて満面な笑みのなぎともえに、珠洲ちゃんも満更でもない様子。


「お庭で三輪車ですか? 鋪装されてはいませんので、危なくないでしょうか」


 三輪車で遊ぶと意気込むなぎともえに、待ったがかかる。

 確かに、凸凹して危ないかな。

 不慣れだから、転んだりするかも。

 意気消沈するなぎともえを見かねて、珠洲ちゃんは代替え案を出す。


「本日は休日ですから、車の出入りが少ないと思われます。駐車場辺りの鋪装されたカーポートでは、どうでしょうか」


 成程と思い、移動して見る。

 珠洲ちゃんが内輪の無線で連絡してくれたので、駐車場には橘さんと西沢さんが待っていてくれた。

 念の為に警護するのだと言われた。

 来客の予定はないけど、突発的な何かが起こるかもしれない。

 まだ、マスコミがうろうろしているそうな。

 表門は締め切ったが、壁を乗り越えて写真や画像を得ようてしている阿呆がいるとのこと。

 防犯システムがしっかり作動しているが、無茶をやらかす不審者を警戒していた。


「「あしょんぢぇ、いい?」」


 大人がぴりぴりしている中、なぎともえが不安そうに見上げた。

 いかん。

 心配させてしまった。


「大丈夫よ。さあ、三輪車に乗ってみようか」

「「あい」」


 なぎは水色、もえは黄色の三輪車に跨がる。

 ぎこちなくペダルを漕ぎ始める。

 体力が落ちているなぎは、あまり上手に乗りこなせてはいない。

 もえはすぐにコツをつかみ、軽快に漕いでいる。

 時折、なぎの身体が後ろにひっくり返って危ない。

 ハラハラしてなぎを見ている私と和威さん。

 完全にもえちゃんを見放してしまっていた。


「和威様、琴子様」


 彩月さんの固い声音に、肩が跳ねた。

 振り返った先に、一人私達を寂しげに見るもえちゃんの姿があった。

 ヤバイ、何てものじゃない。

 大失態だ。

 盛大にやらかした。

 慌てて、もえちゃんの側に走った。


「ママぁ~」

「ごめんね、もえちゃん。ママ、もえちゃんを一人にしちゃった」


 コンクリートに座り込んで、三輪車を降りたもえちゃんを抱き締める。

 くすん、と首にしがみつくもえちゃんが耳元で鼻を啜った。

 小さな身体が震えていた。

 ああ。

 忌まわしい記憶を思いださせたかもしれない。

 なぎ君の体調が万全でないのを言い訳に、差別をしてしまった。

 母親失格だあ。


「もぅたん。いちゃい? いちゃいにょ?」

「どうした? もえ」


 気付いたなぎと和威さんも、側にきた。

 二人は、もえちゃんの寂しい姿を見ていなかった。

 ああ。

 泣けてくる。


「和威様。琴子様も、なぎ様がご心配なのは理解しております。ですが、もえ様をお一人にして、心配りがございませんでしたね」

「あっ。もえ、パパが悪かった。済まん」

「うにゅ? パパちょ、ママ。なぁくんにょ、しょばにいちゃ。もぅたん、ひちょり。ひちょりぢゃあ。もぅたん、めんしゃい~」


 彩月さんの指摘に、愚かな行為を改めて自覚した。

 いかに、彩月さんや峰君達がいたとしても、親は私と和威さん。

 誉めてあげなくてはならなかったのは、私達。

 それなのに、なぎに集中して見てあげていなかった。

 これでは、前世のもえちゃんと同じく、蔑ろにしてしまったのと、代わりがないよ。

 ああ。

 穴があったら入りたい。


「もえちゃん、本当にごめんなさい。ママ、すっごく反省しています。可愛い大切なもえちゃんを、一人にしてごめんなさい」

「ママ、もぅたん。ちょびっと、なぁくん、いいなぁっちぇ、おもっちゃっちゃあ」

「もえちゃんは、悪くないの。それは、我が儘ではないの。もえちゃんの、当然な権利で、言ってもいいの」

「そうだ、もえ。パパもママもなぎを優先してしまった。甘えたい時に、甘えさせてあげてない、パパとママが悪いんだ。もえも見てって、言っても怒られることではないんだ」

「ぢぇも、なぁくん、おけぎゃ、しちぇう。もぅたん、ぎゃまんにゃにょよ」


 我慢の一言に、和威さんと顔を見合せた。

 やはり、我慢させていたよ。

 直接話したことはないけど、雰囲気を読んでさせていたんだろうな。

 なぎが一時退院して、私に甘えてきたのは我慢の反動だったのだ。

 お利口さんだったと、納得してしまっていた自分をお説教したい。


「もえ、我慢しなくていい。もえがして欲しいことを、パパは出来るだけ叶えてあげたい。我慢する前に、パパやママにお話してくれな」

「……もぅたん。なぁくんちょ、はにゃれうにょ、いやぁ。ママぎゃ、いにゃいにょいやぁ」

「うん、分かった」

「なぁくんも、もぅたんちょ、いちゃい」


 年始が過ぎたら、なぎがまた入院するのを敏感に悟っているのか。

 短期の入院で済ませる様に、先生と話し合わねば。

 ママとパパは、頑張るからね。

 もう二度と、もえちゃんを放置しないからね。

 本当にごめんなさい。


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