その11
離れに戻り、気分転換にテレビを点けてみた。
本日は、土曜日。
いつもの情報番組はお休みなのは気付いた。
最近リモコン操作を覚えたなぎが、見たい番組を押していく。
残念ながら、相撲や時代劇はやっていない。
「むぅ」
「おしゅもう、にゃいね」
ぷっくり膨れるほっぺに、パパママは笑えてくる。
和威さんと二人で、ほっぺをつついたりしてみた。
「DVDでも観るか?」
和威さんがお子様用DVDを手に取る。
ジ○リやら、ディ○ニーやら、渋い趣味な時代劇が揃っている。
戦隊シリーズやライダーシリーズや、魔法少女シリーズもあるにはあるのだけど、まだ好みではないらしい。
と言うか、変身の意味が分からないようで、なんで最初から変身しないのか疑問がきた。
なんでかなー。
お約束だからは、通じない。
その辺りは、パパに丸投げしてみた。
悩んだ和威さんは、なぎともえが理解できるように説明するも、最終的に悪い人がお家に来ないようにする為に正体を隠しているのだと落ち着いた。
まあ、それでもなぎともえは疑問が解消されてはいないのだけど。
成長すれば、そうなんだと理解してくてるのを期待しよう。
「なぁくん。もぅたん、ちょちょりょ、みちゃい」
「あい。なぁくんも、みう」
本日も安定なジ○リ作品を選ぶもえちゃん。
なぎ君も異論はなし。
喧嘩はしない、良い双子ちゃんである。
双子ちゃんが観たいモノが別にあると、じゃあ今日はこれ、明日はこれにしようと納得するのだ。
お互いに妥協するのが早く、ママの仲裁はいらない。
観終わったら次ぎはこれ、にいかないのは長時間の視聴は一日一回と特に決めた訳ではないのだけど、何故かそうなっていた。
お山のばぁばかひぃばぁばにでも、躾られたかな。
それとも、じっとしているのが苦手なもえちゃの集中力がキレて、二作目は飽きちゃうからかな。
「じゃあ、これな」
「「あい」」
適度にテレビから離れた位置に、お気にいりのクッションを配置する。
いつもは真ん中に、ワンコが寝そべっているが、今日は司郎君が休日だから近場のドッグランがある公園まで散歩に行っている。
ワンコは双子ちゃんが大好きであるも、司郎君とのスキンシップも大好き。
休日は司郎君に甘えまくりなのだ。
なぎともえも本当の飼い主は司郎君と認識しているので、休日は我が儘言わずに別行動していた。
まあ、散歩から帰ってきたら二人と一匹で団子になるのだ。
あまり、代わり映えはしない。
「んん?」
「にゃんか、ぱしゃぱしゃ、しちぇう」
「おめめ、いやぁよ」
旅番組を映し出していたテレビ画面が、いきなり記者会見場を流し始めた。
テロップには、国会議員の息子が逮捕とある。
ああ、あれか。
楢橋家を捲き込んだ事件が進展を見せたのか。
「なぎ、もえ。DVDはちょっと後な」
「そうね。少しだけ、会見を見せてね」
「「? あい」」
クッションに座ろうとしている双子ちゃんを、和威さんと私の膝に乗せる。
なぎともえは不思議そうにするも、おとなしく返事をしてくれた。
ちょっとだけ、我慢してね。
ほっぺを撫でると、にこっと笑ってくれた。
「番組の途中ですが、緊急特別報道をさせて頂きます。つい先程、国会議員永峰邦雄氏の次男永峰幹雄氏が逮捕されました。繰返しお伝え致します。国会議員永峰邦雄氏の次男永峰幹雄氏が逮捕されました。容疑は、兄である長男永峰幸雄氏を轢き逃げした殺人容疑と、その犯人に仕立てあげた一般男性のご家族を殺害、放火した殺人容疑です。伴いまして、第一の事件と第二の事件を警察の発表通りに、誤認逮捕されました一般男性を実名で容疑者と報道をしてしまいました事実を深くお詫び申し上げます」
会見場から報道フロアに画面が切り替わり、原稿を読み上げていたアナウンサーが立ち上って頭を下げる。
楢橋家の名を出さないのは、容疑者ではなくなり無実が明るみに出たからだろう。
お祖父様の意向もあるからかな。
「ここの社の報復局は、轢き逃げ事件は楢橋さんの名を出していたが、火事の事件は名を出さない、放火の疑いがあり無理心中とは言えない、尊君が行方知れずだとも報道をしていた」
「なら、お祖父様の知り合いの方がいるのかも。私と兄が硫酸ぶちまけられた事件も、丁寧に裏取りして報道をしてくれたから」
あの時も騒がれたのだよね。
武藤家は一会社員の家庭だけど、母が朝霧の出だからお祖父様に恨みがある輩の仕業だとか、非がこちらにある様に嘆願する加害者側の言い分を面白そうに報道をされた。
水無瀬のご当主が矢面に立たれて、お家騒動に捲き込んだのは水無瀬家にあると謝罪して、片側の意見しか報道をしない各社を批難した。
それで、沈静化したかと思えば、マスコミの中にはハイエナの如くしつこい人もいた。
入院先にまでやって来て、私から情報を得ようとしていた。
お祖父様と病院から警察に苦情がいき、ある出版社は社ごと潰され、テレビ局はお偉いさんが辞職に追い込まれた。
その事を責めるマスコミには、お祖父様が反論した。
出版社は支援を止めただけ、テレビ局はスポンサーを降りただけ。
朝霧を批難して飯を食うなら、朝霧を敵に回す意味を理解したらいい。
何故に、敵対する輩に金を払わねばならない。
至極ごもっともな意見に、過熱するマスコミは頭が冷えた。
朝霧がスポンサーを降りただけで、どれだけの二次被害が産まれたか。
あるテレビ局は、統計を出してまで警鐘を鳴らした。
素直に謝れ。
暗に示唆した。
こうして、何とか和解した朝霧家とマスコミ各社。
まさか、楢橋家が朝霧家に関わりがあるとは知らなかっただろうな。
また、お詫び行脚が始まりそうだ。
「パパ、にゃんで、めんしゃい?」
「うん。尊にぃにのパパが、悪いことをした人ですって、テレビが報道をしてしまったんだ。にぃにのパパは悪い人ではないです。テレビが間違っていました。と、謝っているんだよ」
「にぃににょ、パパ。びょーいんよ。おけぎゃよ。にゃんで、わりゅいにょ?」
「うん。怪我をする前に、悪いことをしたと、間違えられたからだ。そして、怪我も自分でしたんだと、言われてしまった」
「「にゃんでー?」」
涙目ななぎともえは、人の悪意を身に染みて体験した記憶がある。
悪い行いをしていないにも関わらず、暴力を振るわれてきたもえちゃんの前世を思い出させてしまったかも。
私の膝に座るもえちゃんが、震えだした。
「どうしてだろうね。原因がどこにあるのかは、これから警察の刑事さんが調べてくれるの」
「けーじしゃん」
「おみゃわりしゃん、じゃにゃいにょ?」
「そうだよ。お巡りさんが捕まえた犯人は、刑事さんが調べてくれるのよ」
厳密には違うけどね。
まだ、今はそう理解してね。
「刑事さんも、お巡りさんも、一括りにすれば警察に所属する人だと覚えればいいさ。悪い人を捕まえて、なぎともえが暮し易い平穏を守ってくれる人だ」
「ぢぇも、ひぃじぃじ、おきょっちぇちゃ」
「うん。守ってくれる人が、悪いことをした人を擁護、庇って違う人を悪いことをしたと捕まえたんだ。それが、にぃにのパパだ。だから、ひぃじぃじは正しいことをしない警察の人を、こらって怒ったんだよ」
「警察の人も、良い人と悪い人がいたの。その悪い人も捕まえられて、にぃにのパパは悪くないですって、テレビの人は皆に教えているのよ」
会見場では、警察の官僚が逮捕に至った流れを語り出した。
捜査を統括する立場の官僚が、買収されて不正に捜査調書を捏造した。
杜撰な目撃証拠と書き加えられた自白調書。
そして、真容疑者への捜査漏洩。
誤認逮捕してからの、執拗な自白教唆。
弁護士を希望した楢橋さんに、必要ないと接見させないでいた罪。
身内からの弁護士要請で発覚した、不当な取調べと待遇。
捏造された調書の不備を指摘されて、誤認逮捕だと裁判所からの通告を受けて釈放されるも謝罪は無し。
それどころか、自宅に連日嫌がらせをされて、通報するも無視した所轄の不手際。
防げたはずの第二の事件も、ろくに捜査せず、現場検証と検死の結果は第三者による犯行だと断定されるも、楢橋さんが行った無理心中だと発表した。
火事現場から、消えた三人の少年達。
家族から捜査願いが出されたのに、受け付けた警察官は陰で破棄した。
冬の季節に放置された少年達が、三日後に身内の手で無事に見つかったことへの言い訳。
語り終えた官僚は席を立つと、深々と頭を下げる。
それは、誰に対する謝罪なのか。
マスコミが、声をあげた。
「勿論、この事件で犯人扱いをしてしまい、尊い命を奪われてしまったご家族への謝罪です。本来ならば、一番に謝罪をしなくてはなりませんが、お身内から先に名誉を回復してくれとご希望がありました。また、被害者加害者の父親となられた永峰議員からも、彼のご家族には罪はない、警察の不正も余すところなく晒してくれと申立てがありました。この度の不始末により、市民の皆様に与えた不信感はいくばかりかと存じます。不正を行い買収された警察官僚と関わった者達、見てみぬ振りをした所轄の署長と警察官は既に逮捕、更迭致しました。昨今は、警察の不手際による案件が多々あります。一層の綱紀粛正、自浄作用に務めて参ります。恐らくですが、近々大規模な人事異動がありますことを、先に発言致します」
何だかなぁ。
これ、朝霧家に対するパフォーマンスでしょ。
楢橋家が朝霧家の親族だから、大事になった。
後ろ楯がない楢橋家だったら、議員の息子が容疑者だと分かった時点で公にはしなかった。
慇懃無礼に話す警察官僚の姿が、如実に語っているよ。
ただの一管理官が警察組織を騙して、逮捕状を請求は出来ないでしょうが。
上司も勝算があるから許可した訳だよね。
それが、覆されたのはお祖父様が出てきたから。
朝霧の名を出されて、焦った警察上層部は犯罪に加担した管理官を切り捨てた。
彼に全ての責任を負わせて、幕引きを図る算段だと思われる。
お祖父様は、絶対に赦すつもりはないだろう。
大規模な人事異動が、警察組織だけで終るとは思えないな。
国会辺りも、揺れそうだ。
朝霧家に関わって国会議員が逮捕されたりするの、何人目になるかな。
大分恨みは買ってそうだけど、朝霧家が破滅する兆しは見えてはいない。
お祖母様の水無瀬家巫女という肩書きが、なにかしら守護の役割を果たしてきた訳だけど。
代替りしたら、朝霧家を見放す輩が出てきたりするのかな。
もしそうなら、私が鉄槌をくだすのか。
それ以前に、兄が排除してそうだが。
なぎともえの代には、穏やかに世代交代できたらいいな。




