表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
8/180

その8

ブックマーク登録ありがとうございます。


 彩月さんに見送られ自宅から車で30分弱で緒方邸についた。

 もえちゃんがチャイルドシートから抜け出さないか、心配したけどおとなしくしていてくれた。


「お利口さんに出来たわね。偉いぞ」

「はいい~。おりきょう、しゃんで、しゅぅ」

「いや。あれだけ乗せる時に言い聞かせれば、おとなしくなるぞ」


 和威さんとなぎ君に引かれる位に、もえちゃんに言い聞かせたのは訳がある。

 だって。

 お山にいた時には、信号機も巡回のパトカーも数が少なかったのだ。

 抜け出してもお小言で済ませてきた。

 しかし、ここは都会だ。

 もえちゃんのご免なさいでは済ませてくれないのだ。


「良いわね、もえちゃん。いくら、イヤイヤでもチャイルドシートは外しては駄目よ。ママが、激怒(げきおこ)では済まないのよ。パパにも迷惑かけちゃうのよ。お巡りさんに危ないと怒られちゃうのよ」


 涙目になっても延々と言い聞かせた。

 それは、大事に言い聞かせましたよ。

 最近高齢者の運転ミスやら、突発的な自然災害に巻き込まれたらと思うと、熱が入ってしまった。

 娘のもえちゃんまで傷跡を残さなくていいの。

 親になって改めて気付かされた。

 私の火傷跡は自業自得な処も多々あるが、両親にしたら年頃な娘が傷ものにされたのは、一生許せない案件だ。

 今も母がねちねちと、親戚を口撃しているらしい。

 普段おおらかな父も、親戚の集まりには顔を出さないでいる。

 兄情報によれば、水無瀬家の当主様も平謝りする程だそうだ。

 ますます、兄の跡目問題が後進しそうな勢いだ。


「ママぁ。おきょっちゃあ、やぁよ。もぅたん、いいきょ、しちぇうのぅ」

「そうね。もえちゃんは、イヤイヤしなくていい子したね。いい子、いい子」


 髪が乱れないように気をつけて頬ずりしましょう。

 薄くお化粧したから嫌がるかと思ったら、にかっと笑ってくれた。

 抱き上げると首にしがみついてくる。

 いい子にしていたから、誉めてあげないとね。


「パパ、なぁくんも。だっこ」

「いいぞ。ほら、来い」


 車から降りて何をしているのか、緒方家のお手伝いさんが奇妙な顔つきでこちらを伺っている。

 お構い無く。

 只の一家団欒ですから。

 でも、いつまでも駐車場にいたら、緒方の伯母様が表にでてきそうだから、移動しましょうか。

 一度もえちゃんを降ろして、リュックと帽子を被せる。

 なぎ君も和威さんが面倒を見てくれている。

 準備が終わったら、玄関に向かいましょうね。


「いらっしゃいませ」

「お邪魔します」

「旦那様と奥様が、お待ちでございます」

「雅博様と悠斗様もおられます」


 待機していたお手伝いさんが扉を開けてくれた。

 和威さんは慣れっこだけど、未だに私は馴れない。

 祖父宅にもお手伝いさんはいるが、ここまで慇懃ではない。

 いや、広い駐車場で時間を潰していたからかな。

 駐車場には外車が何台か停めてあった。

 次男の雅博さんと三男の悠斗さんが先に着いていた。


「わかった。いつもの部屋なら、先導はいらない」

「畏まりました」


 このやり取りもどうに入っているなぁ。

 三和土の段差に双子ちゃんを座らせて靴を脱がせた。

 いつにないパパの様子に固まっているなぎともえだ。

 私の無表情で呟く癖をこんな風に見ているのか。

 ちょっと感動した。


「ほら、行くぞ。どうした? 静かだな」

「パパの知らない一面を間近で見て固まったのよ」

「何だそれ」


 苦笑混じりで、双子ちゃんを抱き上げる和威さん。

 慌てて首にしがみつくなぎともえ。


「「パパぁ」」

「どうした。いつものパパだぞ」

「「あい。パパだぁ」」


 不安げだったが納得したのか、笑顔を見せてくれた。

 そのまま、応接間に歩き出していく和威さんの後ろをついていく。

 あっ、手土産はお手伝いさんに渡しましたよ。

 彩月さんが用意してくれていた。

 ありがたや。

 暫くしてたどり着いた応接間。

 両手が塞がる和威さんの変わりになぎともえがノックする。


「なぁくん、でしゅ」

「もぅたん、でしゅ」

「「おじゃぁ、しましゅ」」


 ん?

 お邪魔します、かな。

 それは、玄関で言わないとだよ。

 ノックして名前を言うのはお山にいた頃の名残だ。

 和威さんの仕事部屋に入る時に、いつの間にかしていた。

 お仕事の意味は知らないまでも、邪魔はしていけないと幼いながら、理解していたのだろう。


「はい、どうぞお入りなさい。皆さんお待ちですよ」


 お着物を召した緒方の叔母様が自ら開けて下さった。

 この叔母様は、お見合いの時に顔合わせした方である。


「「おばば、きょんちゃあ」」

「あら、こんにちは。上手に挨拶できたわね」

「お邪魔致します」


 和威さんの叔母様だから、おばばと呼ばせていただいているのだけど、違和感が半端ないなぁ。

 ご本人も喜んでいるから、良いのだけど。

 おじさん、おばさんが上手く言えないから、仕方がないのだろうけど。

 おばば、おじじだとかなりお年を召した感じがする。

 還暦を過ぎておられるが、若々しい叔母様には合わないのだ。


「あなた。なぎ君ともえちゃんですよ」

「おお、やっと来たか。待っていたぞ。早く顔を見せてくれ」

「ほら、なぎ、もえ。おじじにもご挨拶して来い」

「「あい」」


 抱っこから、降ろされた双子ちゃんが上座の叔父様にとことこ近付いていく。

 和威さんのお義兄さん夫妻が見守ってくださるなか、なぎともえは叔父様の前まで行くと身体ごと頭を下げた。


「「おじじ、おみゃねき、あいあちょう、ぎょじゃい、ましゅ」」


 なんですとぅ。

 なんと、こんにちはではなかった。

 これには、びっくり仰天した。

 しかも、きちんと帽子を脱いでだ。

 えぇ。

 私、こんな馬鹿丁寧な行儀教えたつもりなかったけど。

 隣の和威さんもあんぐりと口を開けている。

 えっ。

 犯人は誰ですか。


「おお。丁寧な挨拶、どういたしまして。おじじ、びっくりだあ。誰に教えて貰ったんだい」

「んーと。おやまにょ、じいじぎゃ、しちぇちゃ」


 お義父さんですか。

 物腰が洗練された方だから、双子を連れて囲碁を打ちに行った時かな。


「兄さん」

「「「親父が犯人か」」」


 篠宮兄弟仲良くハモりました。

 叔父様も軽く頭を掻いている。


「「ママぁ。まちぎゃい、ちゃぁ?」」

「全然間違いではないわよ。パパ達はこんにちはするかと思っていたから、びっくりしただけよ」


 慌てて戻ってきたなぎともえの目線に合わせ、頬を撫でる。

 その際には和威さんの足を叩くのも忘れない。

 いつまでも呆けてないで、正気に返りなさいな。

 なぎともえが不安がるでしょうが。

 せっかく、もえちゃんのイヤイヤが鳴りを潜めているのに、爆発したらどうするの。


「「あい。こんちゃあ」」


 半回転してまた頭を下げる。

 お利口さんだね。

 眉はへにょりだけど。

 うん。

 挨拶はそっちの方がいいね。


「失礼しまぁす。うわぁ、なんかシリアスな雰囲気だけど、どうしたの」

「お邪魔します。あら、本当にお父さん達どうしたの」

「「にぃに‼ ねぇね‼」」


 ノックの音と共に応接間に姿を見せたのは、雅博さんとこの静馬君と梨香ちゃん。

 二人の姿にテンションが上がり、静馬君の足に抱き付く我が子達だ。


「うわぁ。なぎ、もえ。にぃに、それだと歩けないぞぅ」

「「にぃに。にぃに、あしょんで」」


 へにょり顔から一転して笑顔満載だ。

 静馬君の足から手を離しては手を繋いで遊びに誘っている。

 緒方邸の庭には、子供達が遊べる遊具があるのだ。

 滑り台にブランコ。

 お砂場まであり、ちょっとした公園みたいだ。


「あー。和叔父さん。遊んできても大丈夫?」

「頼めるか。なら、お願いする」

「うん。事情は後で父さんに聴くから。姉さんはどうするの」

「私も、遊びに加わるわ。難しい話には子供は不向きでしょう。巧、司もおいで。皆で遊びましょう」


 悠斗さんのお子さんは小学生。

 大人に囲まれて居心地悪そうにしているのを、梨香ちゃんは見抜いていた。


「お父さん、いい?」

「いいよ。だけど、お前達より小さななぎともえがいるのを忘れたら駄目だよ。仲良く遊びなさい」

「「はぁい」」


 巧君と司君も加わると静馬君と梨香ちゃんだけでは、手に負えないかな?

 私もそちらに加わるかな。


「あら、子供達なら安心して預けて大丈夫ですよ。内の者がついて置きますから」

「そうだな、琴子さんも話して置かないとなぁ。なにせ、和威を止められるのがいなくなると困る」

「どんな話をする気だよ」

「篠宮家には激怒混じりな話だよ」


 雅博さんが溜め息を吐き出した。

 珍しいなぁ。

 長男の康治さんと雅博さんは歳が近いからか、責任感が強く下の兄弟には弱音をはかない人なのに。

 それだけ、切羽詰まっているのかしら。


「「ママぁ。パパぁ。おしょちょ、いい?」」

「いいぞ。梨香と静馬の言う事はちゃんと聴くんだぞ」

「巧君と司君も一緒に遊んでくれるから、喧嘩は駄目よ」

「「あい。たぁにぃに、さぁにぃに。あしょんで、くぅしゃい」」

「うん。なぎ、もえ。一緒に遊ぼうね」

「リュックは置いて、帽子は被ろうね」

「「あい」」


 リュックを降ろして帽子を片手に、ニコニコ笑顔でお返事だ。

 お出掛け着なんだけどなぁ。

 まぁ、一応着替えはあるからいいとしよう。

 巧君と司君と手を繋いで応接間をでていく。

 にぃにとねぇねだけだけど、不安にならないかママは心配だよ。

 窓際に移動すれば外から伺えるから安心して遊んでくれるか。

 直に笑い声をあげる一団が庭に現れた。

 仲良く駆けっこかな。


「もえが心配だったが、あの様子では大丈夫そうだな」

「そうね。ねぇねとにぃにの威力は凄いわ」

「もえがどうかしたのか?」

「昼に兄貴から電話があったろう」

「ああ。したな」

「その前にもえが珍しく盛大に駄々を捏ねたんだ」

「それは、本当に珍しいなぁ」


 お義兄さんも元気に駆け回るなぎともえしか知らないしね。

 それに、我が儘言わないでニコニコ笑顔の双子だし。


「何だ。イヤイヤ期でも、始まったのか」

「悠兄貴、正解だ」


 流石は育児の先輩。

 イヤイヤの片鱗を見せていないのに見抜かれました。

 緒方、篠宮家の皆さん納得顔をしている。

 なんだろう。


「魔の2才児は伊達じゃないぞ。これから、大変な事態に陥るからな。特に和威は半端なかった。普段はおとなしめだが、気に入らない事があると、梃子でも動かない食べない眠らない」

「お袋や親父が何とか機嫌を取ろうと四苦八苦して、仕舞いには康兄貴が子守りする羽目になっていたんだが、覚えているか? 康兄貴の背中に引っ付いて離れなかったんだぞ」


 お義兄さん達の言葉に絶句な和威さん。

 長男の息子疑惑は和威さんのイヤイヤ期にあったと推測できた。

 うん、自分が蒔いた種だね。

 いやだぁ。

 篠宮家の血筋だともえちゃんのイヤイヤ期は大変そう。

 武藤家はどうだったかな。

 母に確認して見よう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ