その7
すみません。
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二時間後飛び出して行った兄が、三人の男の子を保護した。
小雨が降る寒い中、河川敷の橋の下で身を寄せあって震えていた。
朝霧の警護要員に抱えられて、朝霧邸に保護された男の子達は小学二年生だという。
慌ただしく彩月さんが母屋に呼ばれ、診断の結果は低体温症と軽度の衰弱。
毛布にくるまり、足湯をして暖をとりながら、お腹に優しいうどんを出したら食べてくれた。
見ず知らずの家に連れて来られて警戒していた男の子達の前には、にこにこ笑顔の我が双子ちゃんが仲良くうどんを啜っている。
「おうぢょん、おいしいねぇ」
「あい、おいしいねぇ」
凄まじく空気を読んだなぎともえは、躊躇うお兄ちゃん達をものともせず、あーんよとうどんを口元に運んであげた。
自分達よりも幼い子供にあーんされて、お兄ちゃん達は素直に口を開けた。
暫くして、お腹が空いていたのを思いだし、夢中で食べはじめてくれたのだけど。
保護した兄は、彩月さんと私に男の子達を任せて、何処かに行ってしまった。
何の説明も無しに。
馬鹿兄め。
私も、男の子達も戸惑うわ。
兄の奇行に慣れたつもりだったが、どうしろと。
これだから、自分の中で完結している思考の持ち主は、他者への思いやりに欠けている。
馬鹿兄め。
大事なことなので、二度言ってみた。
「……あのぅ」
「琴子、呟いているからな。そして、怖がらせているからな」
「「ママ、めめよ」」
あら、いつもの癖が。
ごめんなさい。
なぎともえにまで、注意されてしまった。
「ごほん。失礼しました。自己紹介がまだだったね。私は篠宮琴子です。君達を保護したのは兄の武藤奏太」
「篠宮和威。この子達は、息子のなぎと娘のもえだ」
「あい、なぁくんでしゅ」
「もぅたんでしゅ」
和威さんに頭を撫でられて、元気に挨拶するなぎともえ。
人見知りしないでにこにこ笑っている。
対する男の子達は三人顔を見合わせて、へにょり眉でいる。
まあ、訳がわからないよね。
初対面の大人に拉致されたようなものだし。
そりゃあ、警戒するわ。
二歳児の双子ちゃんと対面させて和ませる案も、効果が果たしてあるのだろうか。
「僕は、高崎凌雅です」
「光永昴です」
「楢橋尊、です」
「あのぅ、ここは何処のお宅ですか? 僕達に何の用があるんですか?」
男の子達の中でリーダーなのは、凌雅君かな。
真ん中の尊君を昴君と守っているような位置にいる。
凌雅君はハーフらしく、明るい栗色の髪に蒼い瞳をして、此方を伺っている。
上流階級の子息と思わしき精練された物腰をしていた。
食事の作法も堂にいっていたしね。
「うん。私も朝霧家に関わりがある子が行方知れずで、捜索されているとしか知らされていないのだけどね。因みに、ここは朝霧重蔵の家です」
「重蔵お爺ちゃん!」
「あら、祖父を知っているのかな」
尊君が席を勢いよく立つ。
凌雅君と昴君も肩の力を抜いた。
「すみません。ぼくの祖父、健蔵のお兄さんです」
んん?
その名前に聞き覚えはあるぞ。
確か、料理人になりたくて、朝霧を出ていった方だ。
祖父には妹と弟が一人ずついる。
朝霧を出ていったとはいえ、縁を切った訳ではないから交流は続いていたはず。
まて、火事に見舞われた家とは、弟さんのことなのか。
容疑者にされたのは祖父の甥なのだろうか。
「健蔵さんは、料理人になられて朝霧を出ていかれて、婿養子に入られたと聞いています」
「はい、お祖母ちゃんとひいおじいちゃんのお店を継いでくれました。お父さんも料理人になって、お店を守っていました」
「でも、ある日警察が来て。おじさんを犯人扱いして、お店が開けなくなって、変な電話が来て、怖くなって三人で帰ったら、お店が火事になってました」
「帰る前に、交番に行っても、嘘吐き呼ばわりされて、誰も信じてくれなかった、です」
「だから、三人で逃げたの?」
要領を得ないけど、逃げなければ尊君達も危なかった。
そんな、気がする。
案の定、尊君達は頷いた。
「火事で動けなくなっていた尊を、誰かが引っ張った。気味が悪い表情をして、刃物を持っていました」
「慌ててランドセルを投げて、逃げました。けど、凌雅の家とうちにも変な人がいて、家の中には入れないし、お金もなかったから、気付いたらあそこにいました」
「凌雅が少しお金を持っていて、パンとか分けて食べていました。だけど、寒くてお腹が空いて……」
尊君が涙を溢した。
次第に、安堵で凌雅君も昴君も泣き出し、なぎともえも悲しげに眉を潜めた。
「にぃに。よしよし」
「あい、もうぢゃいようぶよ」
こらこら、テーブルに乗るでない。
行儀が悪いからね。
椅子に座るお兄ちゃん達を慰め出来ないと知恵を付けたなぎともえは、テーブルに乗って側にいき、代わる代わる尊君達を撫でている。
「わりゅいひちょ、ポイポイさえうきゃりゃね」
「しょうよ。ひぃじぃじ、こりゃあ、しちぇくえりゅきゃりゃね」
「その前に、なぎともえが、こらだからな」
「「いやぁ」」
「嫌じゃない。テーブルに乗った悪い子は誰だ」
珍しく和威さんが怒っている。
いつもは、注意するのが私だけに、新鮮である。
なぎともえを両脇に抱えて床に降ろし、ごんと軽く頭に拳骨を落とす。
「う~」
「いちゃい」
「ご飯を食べるテーブルに乗った罰だ。慰める為でも、やっては駄目なことをしたんだぞ。もし、落ちたら痛いどころでは済まないからな。また、病院で入院したら、どうする」
和威さんは容赦なく畳み掛ける。
目線をあわせて、危険を教える。
頭を押さえるなぎともえは、今にも泣き出しそうだ。
しかし、病院、入院との言葉に、目を見張った。
尊君達にタオルを差し出す私を見上げる眼差しは、大きく不安に揺れていた。
「パパの言う通りよ。高いテーブルから落ちたら、なぎ君ともえちゃんだと骨が折れちゃうわよ。パパに、ごめんなさいしてね」
「「……あい。パパ、めんしゃい」」
「うん。もうしたら、駄目だからな」
「「あい」」
なぎともえの良い処は、素直に謝罪して反省出来る処だ。
口先だけでなく、本当に駄目だと言われた処は直してくれる。
「「ママも、めんしゃい」」
「はい、お利口さん」
「「にぃにも、めんしゃい」」
「あっ、えっと、僕は怒っていないから」
「うん、ぼくもだよ」
「慰めてくれて、ありがとう。でも、テーブルは危ないからね。気をつけようね」
「「あい」」
泣いていた尊君達にも謝る、良い双子ちゃんにママはほっこりしました。
しっかりとお返事をしたら、照れたのか私と和威さんに抱っこをねだってきたので、抱っこした。
「なぎともえは、どうした? パパとママに甘えておるのか」
「お爺ちゃん!」
丁度良くお祖父様が、兄を連れてきた。
他にも、お客様が何名かいた。
「兄さん、姉さん」
「お父さん」
「昴。心配したんたぞ」
「凌雅もな。親父と大雅兄貴は、海外から飛んで帰ると大騒ぎしていたぞ」
「嘘ではないからね。大雅兄さんは、お義母さんを連れて帰ると連絡があったから」
「お義母さん、マネジャーさんに凌雅のこと騙されていたらしいわ。凄く喧嘩していたのよ」
昴君のお父さんは何日も探していたのだろう。
草臥れたシャツが、着替えもしていないのを物語っている。
昴君を視認するなり、抱きついていた。
凌雅君の身内は国際色豊かなお兄さん、お姉さんである。
赤毛色の背が高い白人男性と、北欧系の銀髪をした男性と、金髪紫眼の白人美少女。
眼の保養になります。
「ほわわ~、おっきにゃ、にぃに」
「おいりょ、きえいねぇ」
しまった。
初めて外国人を見た双子ちゃんの、口を閉じるのが遅かった。
「ん? 可愛い双子ちゃんは、おっきなお兄ちゃんを見るのは初めてかな」
「「あい」」
赤毛のお兄さんが、フレンドリーに話しかけてくれた。
物怖じしないなぎともえは、にっこり笑顔。
「初めまして、凌雅のお兄ちゃんの雷雅だよ。肩車でも、しようか」
「「あい」」
「こら。済みません」
「いえいえ。大抵は初対面で泣かれるので、お兄ちゃん嬉しいな」
そう言って、体格の良い雷雅さんは、なぎともえを両肩に乗せてしまった。
きゃらきゃらと笑う双子ちゃん。
和威さんも背が高い方だけど、軽く二メートルは超えてそうな雷雅さんは気安いノリである。
下に弟妹がいるからかな。
子供の扱いに慣れていた。
「次兄が済みません。三男の空雅です。見た目がああなので、小さな子供には泣かれてへこむのが常でした」
「長女の美月です。雷ちゃんは子供好きなので、懐かれて嬉しがっています。怪我はさせませんので、暫く遊び相手になってください」
高崎家の皆さんは、日本語が達者ですなぁ。
帰国子女か、日本で育っている二世かな。
それにしては、兄妹の血の繋がりに不思議があるけど。
名前も日本風だし。
まあ、他所様の家庭の詮索はよそう。
「雷兄さん、はしゃぎすぎだから。ここは、自宅じゃないから。空兄さん、姉さん。雷兄さんを止めて」
凌雅君の焦った声に見ると、なぎが片手で持ち上げられていた。
もえは高い場所が苦手なので、驚いて雷雅さんの髪を掴んでいた。
そうだよ。
もえは何故に肩車されたかな。
あんなに、高い場所が嫌いだったのに。
雰囲気に流されたか。
「ああ、吃驚したね。雷雅、やりすぎ」
空雅さんに肩から抱きよせられたもえは硬直していた。
ぽんぽん背中を叩かれて、止めていた息を吐き出した。
「ママ~」
「ありゃ」
「雷ちゃん、反省。ごめんね」
美月ちゃんが背伸びして、雷雅さんの頭を叩いた。
なぎは未だに肩の上で、もえが私に手を伸ばすのを見ていた。
さては、何が起きたか把握していないな。
空雅さんから美月ちゃん、私へと抱かれて移動したもえはしがみついてくる。
雷雅さんの、誘いに乗ったのは自分だぞ。
ほっぺをつつくと、指を握りしめられた。
「肩車してって、ねだったのはもえちゃんだよ。雷雅さんは悪くないよ」
「びっきゅり、どん。なぁくん、おしょりゃ、ちょんぢゃ」
「雷雅、何をしているかな。片手で、跳ばさないの。凌雅の時にも散々、大雅兄さんを怒らしただろうが」
成程、片手で持ち上げられていたのではなく、ぽんと跳ばされたのか。
それで、本人は気に入った模様。
流石に、もえはお気に召さず、避難した。
我が家では、高い高いが禁止になっていたから、興奮していたなぎは喜んだ訳だ。
先程まで湿っぽい話をしていたのが、嘘のように思えてきた。
尊君達の涙が引っ込んだのが幸いだよ。




