その1
遅くなりました。
新章です。
「「ちゃぢゃいまぁ」」
師走も押し迫る12月22日。
なぎ君が一時退院した。
朝霧邸に、元気な双子ちゃんの声が響いた。
もえちゃんは一足早く二週間前に退院していたが、双子揃っての帰宅に朝霧家一同が迎えてくれた。
「「「「お帰りなさいませ」」」」
玄関口に勢揃いする朝霧家の使用人が頭を下げる。
「「うにゃ?」」
普段はキッチンから出てこない料理スタッフや、専属運転手に警護要員の出迎えに双子ちゃんが固まる。
なぎくんは内臓破裂していた為に節食が続き大分痩せてしまった。
身体の動かし方を忘れるぐらいに寝たきりになり、和威さんの腕の中に収まっている。
もえちゃんは外見は元気な様子を見せて、朝霧邸にてワンコとはしゃぎ回っていたが、パパと二人だけになると寂しがり泣いていた。
退院を嫌がり、食べない寝ない、目を離すと外に飛び出すを繰り返していた。
なので、朝霧邸の皆には大変心配をかけていた。
富久さんや喜代さんのお叱りを受けてでも、双子ちゃんの姿を確認したかったのだろうと思われた。
「ほら、なぎ君、もえちゃん。もう一度、ただいまってしてあげて。皆は、元気な双子ちゃんを見たいんだって」
「「あい、ちゃぢゃいまぁ」」
もえちゃんを抱っこして、手を振る真似をしてみた。
すぐに理解して、手を振る。
途端に、出迎えたスタッフに笑顔が漏れた。
双子ちゃんもお返しに笑顔を浮かべて、ただいまを繰り返す。
頃合いを見計らい、喜代さんが解散を告げる。
双子ちゃんに免じて、お小言はなしにしてくれた。
「さあ、ひいおじい様やひいおばあ様もお待ちかねでございますよ」
「「あーい」」
双子と入れ違いにお祖母様は退院している。
お祖父様達が暴走する手綱を握り、煩くなってきた周りを牽制してくれていた。
回復した私に真っ先におしえられたのが、水無瀬家の事情である。
まさか、母が当主の才を持ち、兄と私が対になる巫女だとは思ってもいなかった。
違法改造されたスタンガンを浴びて目を覚ましたら、お祖母様に巫女の手解きされていたのを思い出した。
視えていなかった龍神様が視えて驚いている最中に、なぎともえが次々代の当主と巫女だなんて更に驚いていた。
母が当主とならず、兄が中継ぎの当主となるのを宣言された。
どうやら、水無瀬家本家の血を私達が引き継いでいたようである。
篠宮の祭神たる媛神様も、篠宮の悪習がなぎともえに降りかからないのであれば容認するとまでお言葉をいただいてしまった。
ただ、殊に夢の中で会うのを赦して欲しいと、嘆願されたら赦すほかなかった。
夢の中と言えば、苦笑が漏れた。
だって、怪我の後遺症なのか、やけに眠るなあと思っていたら。
媛神様と龍神様が夢の中で双子を猫可愛がり、眠らせていないでいた。
媛神様なんてもえちゃんを膝に乗せて仙桃を自ら食べさせていたり、龍神様は神水だとなぎ君に飲ませていたり。
絶対に、双子ちゃんの怪我の治りが早いのは、そのせいだと信じている。
甘やかし放題の神様方のお説教をしただなんて、苦笑しかないよ。
だから、夢の中で遊ぶのは土曜日だけに限定して貰った。
夢の中まで疲れて、どうしますか。
項垂れる神様方は渋々と従ってくれたのだけど、なぎともえは不満そうだった。
満足に動かせない身体を持て余しているのは知っている。
幼い子供に我慢させているのは、分かっている。
けど、大怪我を舐めてはいけない。
治ったら、沢山遊ぼう。
煩く言い聞かせて、納得させた。
そのかいもあり、本日退院したのだ。
彩月さんに見守られて、いっぱい遊ぶがよい。
「なぎ君、もえちゃん」
「ひいばぁば、ひいじぃじ、ちゃぢゃいまぁ」
「なぁくん、きゃえっちぇ、きちゃの」
「おお、ひいじぃじに顔を見せてくれな?」
「まぁ、痩せてしまったわねぇ」
新しく作られた奥の間で、祖父母は待っていた。
惨劇があった奥の間は、お祖父様が縁起が悪いので物置にした。
私達の腕の中から降りて、なぎともえはお祖母様達に抱きついていく。
軽々と抱き上げられる。
にこにこ笑顔の双子ちゃんに、祖父母もご満悦だ。
体重の軽さには目を瞑って貰う。
これから、増やしていけばいい。
「ひいじぃじ、ばぁばちょじぃじわ?」
「くぅみたんちょ、ねぇねちょにぃにわ?」
きょろきょろと辺りを見渡す双子に、祖父母はしかめっ面である。
武藤の両親は、ある人に呼び出されて外出している。
滅多にうちと関わらない人だけに、何かあったのかと気を揉んでいる。
胡桃ちゃん一家は、朝霧邸を出ていってしまった。
胡桃ちゃんは不仲な香坂の祖父と両親を取りなそうとして、事件に関与してしまった責任を取ると離婚までしようとしてしまった。
反対した朝霧の祖父母と椿伯母さんに、泣き落しされた旦那さんに子供たちを見捨てるのかと諭されて、旦那さんの新たな赴任先であるドイツに引っ越しをした。
使用人はいらない、親子だけでやっていく。
潔さに感服だ。
だけど、双子ちゃんにとっては、遊び相手の恵梨奈ちゃんと拓磨君がいないのは寂しい。
急に消えた胡桃ちゃん一家を探している。
「ばぁばとじぃじは用事が終われば帰ってくるぞ」
「胡桃ちゃんと恵梨奈ちゃんと拓磨君はね。パパと一緒に遠いドイツに引っ越しをしてしまって、いないのよ」
「いにゃい」
「どいちゅ、どきょ?」
「大きな海を越えて、飛行機に乗って、幾つもの国を越えた先よ」
「いちゅ、きゃえっちぇ、くぅにょ?」
「あしちゃ?」
「何時になるのかは、ひいじぃじもしらんのだよ」
なぎともえの質問に困り果てた祖父は、首を振った。
お祖父様、それ双子が泣くからね。
案の定、なぎともえはいない事実を受け止めきれずに、泣き出した。
「「パパぁ~、ママぁ~」」
「うん。急にいなくなって、寂しいな」
「会えなくなってしまったけど、元気に退院したよって、もしもししようね」
「ほら、いつもにこにこの笑顔はどうした」
「「ふえーん」」
なぎともえには何故にいなくなってしまったのか事情は分からないなりにも、自分達の怪我のせいかもと理解しているやもしれない。
家に怖い人がやってきた。
もえちゃんを踏んでいたから、退かそうとした。
もえちゃんは、どうして踏まれたか知らない。
そう、お巡りさんや医者に話していた。
結局、朝霧邸に押し入った川瀬は、もえちゃんを誘拐して売り飛ばそうとしていた罪で起訴された。
なぎともえや私が怪我をしたのは、自分の責任ではない。
当初は、断固として罪を認めてはいないでいた。
けれども、媛神様と龍神様の神罰が降り、余罪を余すことなく喋ったそうだ。
現役の国会議員が黒幕にいて、秘密裏に逮捕されたと教えて貰った。
胡桃ちゃんは罪には問われなかったから、余計に自分を赦せなくて責めてしまった。
新天地で、朝霧の名に頼らずに生きていく。
断言した胡桃ちゃんには悪いけどね。
なぎともえの精神を守る為には、頻繁に連絡をしてあげるから。
嘆いている暇を無くしてあげよう。
「もちもち、しゅう」
「あい、パパ、しゅまほ」
「なぎ、もえ。今は駄目だぞ」
「「にゃんでー」」
泣き止んだら、スマホを要求。
ちゃっかりしている。
けどね、いきなりは駄目。
ドイツと日本の時差は、八時間。
あちらは、まだ真夜中である。
渡されたタオルで顔を拭き、時差を説明する。
「ねんね?」
「そう、ドイツは夜だからねんねしている。なぎも、ねんねしている時に起こされたら嫌だろう」
「もえちゃんも、いやあよって言うでしょ」
「「あい」」
「だから、夜になったらもしもししような」
「「あいっ」」
何とか、納得してくれて良かった。
お利口な双子ちゃんで、何よりである。
「さあ、泣いて喉が渇いたでしょう。お水を飲みましょうね」
「じゅうちゅは、めめ?」
「もぅたん、りんぎょしゃん、にょみちゃい」
「ふふ。ジュースは用意してありますよ。だけど、先ずはお水を飲んで頂戴」
「「あーい」」
お祖母様が水だと主張するのは、水無瀬のご神水かな。
あれ、かなり物議を醸し出したお水なんだけどなぁ。
毎日、薬を飲ませる時に飲ませていたのだけどね。
医学界において、水無瀬のご神水は延命の水やら、不老長寿をもたらす水やらと噂されていたらしい。
こっそりと、盗み出されては、只の水だと文句を言われた。
酷いと、お金を払うから、本物を寄越せと怒鳴られた。
そうした、医師や看護士に入院患者は、人知れずお祖父様と水無瀬のご当主が対処された。
医学博士や学者を連れて、病院に殴り込みにきては、水無瀬のご神水が単なる鉱水だと公表した。
それでも、黙らないクレーマーには、最後通牒をした。
水無瀬のご神水が効果を発揮するには、水無瀬の血を交えなくてはならない。
水無瀬現当主の娘を拐い、血を抜いて死なせる結果に終わった研究を、また始めるのか。
水無瀬家本家を途絶えさせ、辛うじて繋がる水無瀬家を潰す覚悟を持つのか。
ならば、敵対者としてかかってくるがいい。
水無瀬のおじ様は、龍神様の威光をただびとに分かるように視せて、恐怖を植え付けた。
意気消沈したクレーマーを待っていたのは、政府からのお呼びだし。
水無瀬家を潰す意味を、こと細かく話したそうな。
只でさえ、託宣は明るくない未来を語り、気象は荒れている。
本日も小雨が止まない。
晴天の日は数少ない。
これ以上、荒らされてはならない。
病室に総理名義のお見舞いを頂いてしまった。
お返しは、晴天にするのが良い。
兄が言うので、私付きの龍神様に頼んでみたら、見事に晴れました。
ははは。
自分のしたことに笑うしかなかった。
是非、このまま晴天に。
総理大臣以上に、やんごとないお家に頼まれましたよ。
しかし、龍神様もお怒りの薄まる気配がないので、双子ちゃんの退院までは晴天が続かないでいた。
そのうち、外で遊べない不満が龍神様に向かうだろうから、放置しておく。
おとしどころは、双子が退院するまでとは兄も告げている。
明日から、早速にもお伺いがたちそうである。
頑張れ、なぎともえ。
日本の未来は、君達のめめ? にかかっている。
ママも、頑張るぞ。




