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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その7

 夕方、お出掛け着に着替えさそうとするのだけど、イヤイヤなもえちゃんは中々着替えてくれない。

 それを見ていたなぎ君も嫌がりましたよ。

 どうしたものやら。

 苦肉な策でパパママが先に着替えてみると、やっとこさお出掛けなのだと理解してくれた。


「おできゃけ。どこぉ」

「パパも、ママも、なぁくんも、いっちょ?」

「そうよ、パパとママとなぎ君ももえちゃんも一緒にいくの。緒方のおじじのお家にお出掛けよ」

「「おうにょ、おじじ?」


 半信半疑な双子ちゃんは、仲良く手を繋いで見上げてきた。

 眉毛がハの字だけど、何が不安なんだろう。

 うーん。

 分からぬ。

 緒方の叔父さんのお家には、越して来て一度遊びには行っている。

 美味しいお菓子とオモチャを貰って、ご機嫌で帰ってきたのを忘れちゃったかな。

 お揃いの服を着せ、もえちゃんの髪を片側だけ編み込む。

 リボンをつければもえちゃんの準備は終わり。

 なぎ君は……。

 和威さんに軽く髪をセットされていた。

 その整髪剤幼児に使用して大丈夫なのか?

 いや、格好良くなってはいるのだけど。

 後で痒みとか出ないといいなぁ。


「ママぁ。なぁくんも、リボン、しゅりゅ」


 もえちゃんと同じリボンを指す息子。

 問題発言に和威さんは項垂れている。

 折角パパがセットしてくれたのに、気に入らなかったらしい。

 パパと同じ髪型だよ。

 気が付いてないな。


「なぎ君の髪の毛はパパと一緒だよ。一緒はいや?」

「うっ⁉ パパちょ、いっちょ?」

「あい。パパといっちょ。もぅたんは、ママちょ、いっちょ」


 リボンを手にパパを見やるなぎ君。

 そうね、もえちゃんはママと一緒だ。

 普段ポニーテールをしている私も、お出掛けなのでおめかししてみた。

 もえちゃんとは色違いなリボンをしている。

 ああ。

 ママともえちゃんがリボンしているから、自分もと言い出したのか。

 なぎ君、それだとパパ一人仲間外れになっちゃうよ。


「なぎ。パパと一緒は嫌か? それだと、パパ一人仲間外れになるから、なぎと一緒が良いなぁ」

「‼ ママ。なぁくん、パパちょ、いっちょ、でいい」


 和威さんのなぎ君の情に訴える作戦は功を奏したみたい。

 パパに抱きついてリボンを手放してくれた。

 破顔一笑した和威さんは、なぎ君の髪型を崩さないよう慎重に頭を撫でている。


「もぅたんも」


 羨ましくなったのか、もえちゃんも突撃した。

 あーあ。

 せっかくおめかししたのに、お転婆は鳴りを潜めてはくれないか。

 和威さんの腕に抱えられてご満悦ななぎともえだ。

 きゃっきゃと笑い声をあげている。


「「ママも、いっちょ」」


 あら、ママもパパに突撃ですか。

 では、いきますか。

 待ち構える和威さんと双子に、腕を広げて抱きついてみた。

 きゃあ。

 背後にベッドがあるのを確認して、結構力一杯で抱きついてみたのに、揺るがない和威さんだ。

 この着痩せする身体が羨ましい。

 旺盛な食欲を見せて、どんなに食べても太らない体質を寄越せと、訴えたい。

 ええい。

 この筋肉め。

 何て頑丈なんだか。

 擽ってやろうかしら。

 流石になぎともえを抱えているから、危ないかな。


「あのなぁ、琴子。口に出てるからな。なぎがまた真似するぞ」

「もう、諦めたの。癖は中々治らないから癖だと思うことにしたのよ」

「……さようか」


 うん。

 兄にも注意されているから、気を付けているのだけど。

 無表情で呟く癖は治ってはくれない。

 真似っこをするなぎ君に加えて、もえちゃんまで真似するのは遠い未来ではないと諦めた。


「ママ。ぎゅう、おわり? おできゃけ、しゅりゅ?」

「おじじの、おうち、いきゅにょ」

「そうね。ちょっと早い気もするけど、お出掛けしようかな」

「「おできゃけ。パパちょ、ママちょ、いっちょ。おできゃけ、おできゃけ」


 お着替え前は渋っていたのに、ご機嫌だね。

 もえちゃんのイヤイヤは鳴りを潜めてくれたかな。

 それとも、双子ちゃんの神秘でなぎ君とシンクロしているからかな。


「それじゃあ。お出掛けチェックしましょうね」

「「あい。パパ、おんり」」

「なら、先に降りて車を正面に回しておくからな」

「「あーい。いってらっちゃい、まちぇ」」


 おや。

 チェックが終わったらなぎともえもお出掛けするのよ。

 彩月さんの真似かな。

 頭を勢いよく下げている。

 一回でいいのに何度もしているのを見ると、遊びでやっているね。

 ニコニコ笑顔だ。

 対して和威さんは苦い表情。

 二人ともそれぐらいでやめておこうか。

 頭ぐるぐるになっちゃうよ。


「なぎ君。もえちゃん。まずは何からチェックかな?」

「うーんと。がしゅにょ、もちょしぇん」

「おまど。うんと、おふりょば」


 目線を合わせて問えば、現実的なお言葉。

 やっぱり、よくママの行動をみてるなぁ。

 手を繋いで近くの窓の確認をするなぎともえ。

 小さな手で窓の鍵をチェックしている。


「「ママ、あかにゃい。しまっちぇりゅ」」

「はい。この部屋は確認おわり。次はガス詮ね」

「あーい。がしゅね」

「ちゅぎは、おだいどきょりょ」


 パパの横を通り過ぎてキッチンに突撃していく。

 頼もしい我が子たちである。

 ほんとに2才児かと疑いたくなる時でもある。

 利発なだけではないなぁ。


「どうしたの、和威さん」

「いや。双子が賢こ過ぎだなぁ、と感心していいのか分からん」


 同じことを考えていましたか。

 うん。

 私もそうだと思う。

 イヤイヤ期に入ったかと思えば、ご機嫌な様子を見せてくれるもえちゃんだ。

 フルーツ牛乳以外は我が儘を言い出さない。

 なぎ君は、始終穏やかでのんびりさんだ

 また、あまり物を欲しがらない。

 無ければ無いである物で納得してしまう。

 だからと言って自己主張が無い訳ではない。

 行き過ぎたもえちゃんの行動を幼いながら諌めたり、もえちゃんに見知らぬ人が近付かないようによく周りを見ている。

 親戚の中で双子ちゃんを嫌う人には唸って威嚇したりもする。

 おやつも、もえちゃんが好物なお菓子は分けてあげたり、見事なシスコン振りだ。

 だから、もえちゃんもなぎ君の言う事には滅多に反論しない。

 手を繋いでね、と注意するとなぎ君の手を繋ぐ。

 差し出したママの手は空振りだ。

 こちらも見事なブラコンに育っている。


「「ママ~」」

「はあい。今行くから待っててね」


 振り替えったらママがいなくて、困惑したかな。

 なぎともえの声が響いた。


「まぁ、いいか。家の子は元気に育ってくれればいい。じゃあ、戸締まりまかせた」

「はい。任されました」


 密かに笑い会う私と和威さんである。

 さて、キッチンに行きますか。

 無視すると大号泣がまっている。

 それは、いかんので早く行かなくては。

 待っててね。

 今行くから、泣かないでね。






 双子ちゃんの監修の下、戸締まりを終えてエレベーターに乗り込む。


「おできゃけ、おじじにょ、おうち」

「おじじにょ、おうち」


 お出掛け用の小さなリュックを背に、双子ちゃんははしゃいでいて自作の歌を歌っている。

 イヤイヤしたのが嘘のようだ。

 エレベーターには他の人がいないから、繋いだ手を歌に合わせて振っていた。

 他人がいたら歌どころか人見知り発揮で足にしがみついてくる。

 同乗しているのが彩月さんなので、ニコニコ笑顔だ。

 1階につくと、広いエントランスにでた。

 あれ?

 和威さんの車に誰かがいる。


「琴子様、安全が確認されるまであちらでお待ちくださいませ」


 緊張感漂う彩月さんの指示に従う。

 私一人ではなく子供達に何事かが起きるのは御免だ。


「「ママぁ、パパ、ぷんぷん、よ」」

「怒ってるの?」

「「あい。いっちょに、いくにょ」」


 ぐいぐい、と手を引っ張るもえちゃんにつられて、扉側に近付く私。

 彩月さんの指示に逆らっているのに、彩月さんは思案している。

 ちらりと常駐の警備員に目配せした。


「「パパ~」」


 エントランスのガラス扉を叩きながら必死に和威さんを呼ぶなぎともえ。

 何か見知らぬ女性と口論していた和威さんは、気付いて破顔した。


「なぎ、もえ。戸締まりのお手伝いはできたか?」

「あい。できちゃ、にょ」

「おわっちゃ、にょ」

「そうか、いい子だな」


 ガラス扉を開けて和威さんがエントランスに入ってくる。

 女性は続こうとしたのだけど、警備員に止められた。


「入居者以外の方はご遠慮ください」

「わたしは篠宮さんに仕事の用が有るのよ。入れなさいな」

「どこが仕事の用だ、単なる食事の誘いだ。迷惑している」

「と、の事です。お帰りください。聞き入れてくださらない場合は不法侵入になりますよ」

「何ですって‼ 私は……」

「通報してくれて構わない。随分家族を侮辱された。名誉毀損で訴えてもいい」

「なっ」

「畏まりました。弁護士に連絡させていただきます」


 私そっちのけで話が進んでいく。

 展開についていけないのだけど。

 彩月さんは早速弁護士に連絡している。

 ええと、仕事の用だと言っていたけと和威さんの同僚かなぁ。

 綺麗にめかしこんでいるとこ見ると、和威さん狙いの女性ですか?

 彼、既婚者ですけど。

 不倫のち略奪狙いかしら。

 いいでしょう。

 受けてたちましょう。


「あなた、こちらの女性は何方です」

「……会社の秘書課の何とか。名前は知らん」

「では、主人にどのようなご用事ですか?」


 おおう。

 普段あなたとか使わないから照れますなぁ。

 笑わないようにしないと。

 あれ?

 何で皆さんひきつった表情してるの。

 不思議だ。


「「パパ、ママ、きょわい」」

「パパ、悪いことしてないのに謝らないといけなくなる笑顔だな」


 なんですと。

 こちらは、夫を誘惑する女性を追い払おうとしているのに。

 恐妻になってやるぞ。


「で、ご用は何だと聞いていますが。見て分かる通りお出掛けするところです。手短にお願いします」

「あっ、あの篠宮さんが担当している部門でミスが見つかりまして、それで、そのぅ……」

「秘書課の貴女と主人とは部署が違うと思いますけど、私の勘違いでした?」

「違われません。失礼しました。お暇させていただきます」


 早口に言い切ると女性は踵を返して、ヒールの音を残して去っていく。

 ふん。

 根性なしめ。

 結婚当初からの嫌がらせはこの比ではなかったぞ。

 和威さんは自覚しているだろうけど、学生時代からよくモテる。

 私の火傷痕を瑕疵にして別れろと脅しをかけられたのも、いい思い出だ。


「「ママ、かっきょ、いい」」


 和威さんの腕の中で拍手してくれるなぎともえ。

 ありがとう。

 ママ頑張ったよ。

 警備員さんが苦笑いしている。

 出番がなくてなによりです。

 彩月さんは良い笑顔で弁護士さんとお話し中。

 彼女が二度と私の前に現れる事は無くなったかな。

 それにしても、彼女どうやって家を突き止めたのだろう。

 秘書課でしょ。

 人事部のセキュリティはどうなっていることやら。


「あー。後で上司に確認しておくから、お怒りは納めてくれ」

「はい? 怒ってないけど」


 また、無表情になっていましたか。

 いかん、いかん。

 人前だ。

 にっこり笑いましょう。

 だから、なぎともえ。

 怖がらないで欲しいな。

 いつものママだよ。


「「ママ。きょわ、かっきょ、いい」」


 ん。

 怖くて格好良いですか。

 まだ臨戦態勢が解けて無かったかな。

 誉めてくれたのよね。

 和威さん。

 何故に顔を反らす。

 今夜お話ししましょうか。


「今日は厄日だ」


 和威さんがぽつりとこぼした。

 お見合い話に、不倫願望な女性出現。

 本当ね。

 お祓いに行ってきたらどうかしら。

 ついでに家内安全を願ってきてちょうだいな。





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