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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その53

 何時もよりお昼寝が長いかな。

 居間の小上がりで眠る臣さんと双子ちゃんを見る。

 昼食後に離れに戻った篠宮家一行は、なぎともえが臣さんを誘って昼寝に入った。

 最初は、臣さんがなぎともえがを寝かし付けていたのだけど、双子ちゃんの温もりに臣さんがダウン。

 三人仲良くお昼寝と相成った。


「臣兄貴も徹夜していたからなぁ」

「寝れるなら、寝かしておいてあげましょうか」


 他人の気配があると寝られない臣さんだけど、爆睡している。

 そっとしておいてあげよう。

 くぅん。

 わんこが、せつなく鳴いた。

 なぎともえが母屋から戻り、遊んで貰えると思ったいちは不完全燃焼。

 小上がりには昇らないと躾られているから、頻りに視線をさ迷わせている。


「いち。散歩に行こうか。なぎ様ともえ様は、お昼寝だよ。今日は隆臣様がご一緒だから、静かにな」


 わふ。


 峰くんに誘われて尻尾を振る。

 なぎともえが気になるが、お散歩も大好き。

 司郎君が学校に通い始めてからは、日課のお散歩は峰くんが務めてくれていた。

 殊に、双子ちゃんとお庭を駆け回ることがある。

 が、大半は峰くんがいちを外に連れ出している。

 今日は臣さんがいるから、気を使って外に行くようだ。


「では、行って参ります」

「ご苦労様です」


 ハーネスを付けられたいちは、峰くんに付き従い離れを出ていった。

 彩月さんは午後のお買い物中で、離れには篠宮家のみが残った。

 相変わらず、臣さんのスマホは着信音が鳴り響く。

 マナーにしてあるけど、スマホが震えっぱなしである。

 臣さんによると、事務所の社長さんと先輩からの謝罪メールばかりらしい。

 案の定、楓伯父さんの朝霧家からのお叱りに、戦々恐々した先輩が暴露した。

 パスポートの期限切れは嘘で、お金を積まれて自分の名前で臣さんのデザインを流用した。

 成功すれば、フランスのデザイン事務所を紹介される手筈になっていた。

 それが、朝霧家が介入した為に、明るみになり頓挫した。

 楓伯父さんは殊更吹聴する人ではないけど、弁護士まで派遣して今回の一件をどう跡始末するのか問い質した。

 本当に、どうする気だったんだろう。

 臣さんを人身御供宜しく、フランスの富豪に差し出して、自分達はいい目を見る。

 そう言えば、政治家もいたっけ。

 幸いにも、海に落ちた飛行機は死者は出なかった。

 負傷者多数だったけども。

 富豪の自家用機に政治家が乗っていたのが、ニュースで流された。

 詳しくは楓伯父さんやお祖父様が、情報規制を敷いたので流されなかったけど。

 フランスでの個人美術館建設にまつわる話が、表に出てきていた。

 ジャーナリストの情報は、侮れない。

 フランスの富豪女史が、ある建築デザイナーにご執心だともリークされた。

 臣さんの名前が挙がらなかったのは、僥倖だった。

 流石に、朝霧家を敵にする強者はいなかった。

 建築に関わる人には、有名な話だったらしい。

 知らなかったのは、女史の秋波を受けて流していた臣さん本人。

 女史は、臣さんを手に入れると息巻いていたようである。

 迂闊だなぁ。

 たった数時間で、これだけの情報が集められた。

 ニュースでも、特番が流された。

 何だか、大事になってきましたよ。

 臣さんのスマホは、ひっきり無しに震えている。

 本人は夢の中。

 事情を知らない篠宮家の兄弟は、和威さんにかけてきている。

 まず、手始めにお山の康治お義兄さん。

 緒方家から、臣さんが朝霧家に保護されていると一報が伝えられた。

 どうやら、事務所の社長さんからも居所を探る電話がいった。


『隆臣は、大丈夫なのかな』

「うん。なぎともえと爆睡している」

『そうか。眠れているなら、いい。最近は、仕事で海外を飛びすぎていたからね』


 臣さんは奥様を亡くされてからは、一人暮らし。

 臣さん専属の家人は、臣さんに合わなくて帰されている。

 何でも、女性の家人が奥様気取りで、勘気を被ったとのこと。

 想い出が詰まった部屋を、自分好みに改築しやがった。

 私でも怒るわ。

 以降、臣さんは家人を信用しなくなった。

 家人を返す変わりに、日々のスケジュールは康治さんに伝える約束をしていた。

 今日も、急遽フランスに飛ぶ予定を伝えた矢先の出来事。

 心配しない訳がない。


『隆臣が目覚めたら、お父さんに連絡するように伝えておいてくれないか。心配しているから』

「分かった。必ず伝える」

『隆臣もだけど、和威もお世話になっている朝霧家の皆さんに、宜しく伝えておいて。後日、都合をつけて上京するよ』

「うん。分かった」


 康治さんの前だと、途端におとなしくなる和威さんだ。

 やはり、歳の差は大きい。

 お義父さんと話しているみたい。

 これが、雅博さんだともう少しやんちゃになる。

 お父さんがわりに育ててくれた康治さんには、頭があがらないようだ。

 ん?

 私のスマホが鳴った。

 兄からだ。

 何の用事かな。


「はい。もしもし?」

『楓伯父さんから聞いた。隆臣さんが、変な事件に巻き込まれたんだって?』

「兄と隆臣さん、面識があったっけ」

『沖縄で仕事の打ち合わせをしていたのは、おれだよ』


 あらら。

 隆臣さん、何も言っていなかった。

 と言うと、朝霧と仕事のお付き合いあったのか。


『妹。残念ながら、水無瀬の仕事だ』

「水無瀬? 兄、何時から水無瀬のお仕事してたの。兄は、朝霧グループの役職持ちではなかったかな」

『水無瀬と朝霧との協同出資で、リゾート開発に着手していたんだよ。言っておくが、隆臣さんは実力でコンペを勝ち抜いたからな』

「そこは、疑ってないよ。兄が、身内だからと色をつける人ではないのは、知ってる」


 兄、そういうのは人一倍嫌がる。

 身内が関わると、議決権放棄するし。

 そっか。

 沖縄で兄と仕事をしていたのか。

 水無瀬家は、旅館やホテル業界で名を馳せている。

 朝霧家もホテルを有しているが、水無瀬には及ばない。

 有名どころの観光地には、水無瀬所有の旅館やホテルがある。

 旅行を計画すると、必ず名があがる。

 おかげで、宿泊先に困ることはない。


『まあ、隆臣さんは琴子の兄だと、気付いてないみたいだったけどな』

「あら、名刺交換したんじゃないの?」

『したけどな。武藤姓に馴染みがないんじゃないかな』

「あー。そっか。有りうるね」


 兄はどちらかと言うと父親似で、私は母親似だ。

 よく見ると似ているかな、と言われるぐらい。

 それに、結婚式にも臣さんは出席出来なかったからなぁ。

 お仕事なので、仕方がない。

 あの日も、海外にいた。

 後日、盛大に謝られた。

 うちの両親は笑って許していたけど、篠宮家は低姿勢で謝罪していた。

 両家の顔合わせにも出れなかった臣さんは、篠宮のお祖母様から勘当まで言い渡された。

 慌てて取りなしましたよ。

 それに、なぎともえが誕生した日には、一番に来てくれた。

 和威さんに次いで、抱っこした人でもある。

 産婦人科に篠宮兄弟勢揃いして、誰が父親なのか密かに悩まれていた。


『んで、隆臣さんはどうしてる? 此方は、隆臣さんに連絡がつかないと喚いている社長がいるんだけどな』

「絶賛、双子ちゃんと爆睡中。起こすの躊躇うのだけど」

『ああ。居場所がわかればいい。なんか、事務所に弁護士の小柴さんを寄越したんだってな』

「うん。楓伯父さんも、お怒りだった。美人局ではないのだけど、お金が絡んでいたらしい」

『みたいだな。水無瀬も、先代の社長とは旧知の仲だったようで、代が変わってからお金に執着するようになったと、嘆いている』

「やな感じ」

『だな。まあ、楓伯父さんが隆臣さんを保護したのを期に、元に戻れば御の字だな。水無瀬側は、隆臣さんのデザインを後押ししている。独立しても、事務所を代わるにしても、隆臣さんの案でいく予定だ。隆臣さんが起きたら、一度水無瀬の代表に電話して欲しいと伝えてくれ』

「分かったけど。篠宮家や緒方家にも連絡しないといけないから、何時になるか分からないよ」

『本日中にくれればいい。代替えの社長では、話にならないからな。宜しく頼む』


 言うだけ言って、電話が切れた。

 あちら側も錯綜しているなぁ。

 それだけ、臣さんをかっているのだろうな。

 和威さんは、まだ電話中だ。

 次の相手は、雅博さんらしい。

 何故か、和威さんが平謝りしていた。

 何かしていたっけ。

 分からん。

 んん?

 ぺちぺちと、叩く音がする。

 小上がりを見ると、起きたなぎともえが臣さんの顔を軽く叩いていた。


「こらこら、何をしているのかな。駄目でしょう」

「「ママぁ。おーくん、おっきにゃにょ」」

「駄目よ、なぎ君もえちゃん。おーくんはねんね中よ」

「「いやぁよ」」


 背後から抱きすくめて、なぎともえを臣さんから離す。

 和威さんほど力がない私でも、引き離せた。

 めっ、と叱ると顔を歪めた。


「おーくんはお疲れさんなのよ。ねんねさせてあげようね」

「ぢぇも、おーくん、うんうん、いっちぇりゅ」

「あい。くりょいにょ、よっちぇ、きちゃう」


 ん。

 腕の中で、臣さんを指すなぎともえ。

 確かに、魘されているみたいだ。

 黒いのは、悪夢を見ているからかな。

 すかさず、緩んだ腕から抜け出して、また臣さんの顔をぺちぺちする。

 眠らせてあげたいが、起こした方がよいのかな。


「……うっ? なぎ? もえ?」

「あい。なぁくんでしゅ」

「もぅたんよ。おーくん、おっきよ」

「きゅりょいにょ、にゃいにゃいよ」

「あー。久し振りに見たなぁ。なぎ、もえ。起こしてくれて、ありがとうな」

「「あいっ」」


 半身を起こした臣さんが、なぎともえの頬を撫でる。

 頭を撫でないのは、もえが嫌がる素振りを見せたからだ。

 撫でられたなぎともえは、頻りに臣さんの身体を払う仕草をしている。

 一生懸命、黒いのを取り除こうとしているのかな。


「「にゃいにゃい。にゃいにゃい。きゅりょいにょ、にゃいにゃいよ」」

「黒いの? 何だろうな」

「う~。わきゃんなにゃい」

「ぢぇも、わりゅいにょよ」


 媛神様のお告げではない。

 自発的に行っているようだ。

 まだ、フランスの女史から狙われているのか、事務所の社長さんや先輩からの妬みが纏わりついているのかな。

 清めのお塩でもいる?

 と、聞いてみたいな。

 一頻り払っていくと満足したのか、むふっと息を吐き出した。


「「ママぁ。やっちゅけちゃ」」

「うん。いい子、いい子」


 誉めて欲しそうだったので、愛でてみた。

 正解だったようで、満面の笑みを見せる。

 次に、パパを探している。

 和威さんは電話中だと知ると、静かに足元に突進して抱きついた。

 こうしてみると、普通の幼児なんだけどなぁ。殊に、不思議ちゃんになるなあ。

 回数も東京に出てからの方が多い。

 お山に戻れば減るかな。

 悩ましい。

 ママは少し、パパと話して教育方針を考え直していかないとならないと思う。


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