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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その52

 テレビの緊急速報ニュースでは、飛行機が落ちたとアナウンサーが繰り返して声高に読み上げていた。

 飛行機の所有者がフランスの富豪であり、フライト時間を早めて飛び立ちを強行したと伝えてくれた。

 日本人が何名か乗っていると教えてくれる。

 これって、臣さんの名前が表に出ないだろうか。

 そう呟いたら、楓伯父さんがテレビ局に、お祖父様が外務省にそれぞれ電話し始めた。

 ついでに、臣さんのスマホが鳴る。

 発信者を見る臣さんは、渋い表情だ。


「事務所からだ」

「安否確認なら、出た方が良くないか」

「だがなぁ」

「「おーくん。にゃいにゃいよ」」


 我が家の双子ちゃんまで、渋い顔をしている。

 また、媛神様の託宣かな。


「おーくん。いじわりゅ、しゅりゅ、ひちょ」

「あい。うしょちゅき、しゃん」


 臣さんのスマホを睨みつけるなぎともえ。

 嘘を吐いた人からの電話と言いたいのかな。

 事務所の社長さんか先輩辺りの電話に、臣さんは慎重だ。

 社長さんには楓伯父さんから一喝が入っているので、先輩だろうな。

 事務所には弁護士の小柴さんが行っている。

 臣さんが朝霧家に保護されている経緯は、説明されているはずだ。


「嫌なら、メールかラインをしてみればいい」

「そうだな。ラインするわ」


 和威さんの提案に乗る臣さんは、着信拒否をしてからラインで無事を伝えた。

 人身御供宜しく、お金で売られた身としては、素直に事務所を信じられない。

 下手したら、政治家公認の人身売買だ。

 お山のお義父さんが知ったら、どうなることやら。

 そう言えば、緒方家にも説明しないといけないのでは?

 東京に住まう篠宮兄弟の身元保証は、緒方家の役割りだ。

 一報入れた方が良くないか。


「パパ、ブリュブリュ、しちぇうよ」

「ん? ありがとう、なぎ。うわっ。緒方の叔父だ」


 あら。

 和威さんのスマホに連絡がきた。

 食事時だったので、マナーモードにしてあった。

 タイミングよいから、臣さんの件に間違いなし。


「はい。和威です」

『和威君! 隆臣君が今何処にいるか、分かるかい?』


 開口一番、緒方の叔父様の大きな声が漏れだしている。

 叔父様も、安否を確かめに必死である。

 臣さんは海外に良く仕事に行くので、ひょっとしたらと掛けてきたと思う。

 まさか、当事者になっているとは、思いもしてなかったとみる。


「あー。ひょんな事から、朝霧社長に保護されて、朝霧邸にいます。本人に代わります」

『保護? 何の意味だい?』

「叔父さん、隆臣です。はい。あー。何て言ったらいいのか、取り敢えず俺は無事です」


 和威さんのスマホは臣さんの手に渡り、緒方の叔父様の声が聞こえなくなった。

 臣さんは、頻りに頭を下げている。


「ご心配かけて、済みません。実は落ちた飛行機には、乗る予定でした。はい。応募した覚えのないコンペに出るように、事務所から指示が有りました。ですが、フランスから迎えが直々に来た辺りで、おかしいと思い、空港で口論になりました。そこで、朝霧社長に出会いまして、仲裁されている間に出張が仕組まれたものだと判明しました。はい。そうです。叔父さんも、ご存知でしたか」


 電波が弱まったのか、臣さんは窓辺に移動する。

 テーブルに置いて行った、臣さんのスマホの着信音が凄い。

 ひっきり無しに鳴っている。


「パパ。おーくんにょ、もしもし、たきゅしゃん、にゃっちぇうよ」

「はい、もしもし、しにゃいにょ?」


 媛神様と龍神様の神通力を体験したなぎともえは、いつもと変わらない様子で臣さんのスマホが気になっている。

 ママ、少し心配していたのだけど、お腹が一杯になっているからか、へたってはいない。


「おーくんは、パパの電話でもしもししているからね。終わったら、教えてあげようね」

「「あい」」


 頬を撫でてあげると、にぱっと笑う。

 こうして見ると、普通の二歳児なんだけど。

 篠宮の媛神様と水無瀬の龍神様に、守護されている稀有な子供たちなんだろう。

 お祖母様の預言の神通力とは、少し違っているみたいだし。

 将来は、巫子や巫女としての素質を伸ばすべきかなぁ。

 一度、水無瀬の本家に連れて行こうか。

 和威さんと相談しなくちゃあ。


「どうした?」

「うん。なぎ君ともえちゃんの将来について」

「ああ。媛神神社と水無瀬の本家に、お伺いたてて参るか」


 どうやら、和威さんも考えていたらしい。

 そりゃあね。

 可愛い双子ちゃんが異能力を発揮すれば、親として思案するよね。

 人前で披露したら、異質さに迫害されたりしちゃうよね。

 病のお祖母様には、頼れない。

 母にでも、連絡しようかな。

 いや、兄が先かな。


「ママ」

「なあに、もえちゃん」

「もぅたん。わりゅいきょちょ、しちゃ?」


 服の裾を引っ張られた。

 裾を握るもえちゃんの表情は冴えない。

 へにょり眉で、私を見ていた。

 隣では、なぎ君が和威さんを見上げている。

 やばいなぁ。

 周りの空気を察知してしまったのかも。

 特に、もえちゃんは悪意に敏感だ。

 前世の記憶から、やってはいけないことだと判断して、怒られないか震えていた。


「そんなに、震えないの」


 出来るだけ明るく笑う。

 笑って見せろ、私。

 もえちゃんを抱っこして、背中を撫でる。


「もえちゃんは、悪いことをしてないの。お利口さんのことをしたのよ。おーくんが、飛行機に乗らなかったから、緒方の叔父様も、楓伯父さんも、皆良かったって思っているの」

「そうだぞ、なぎ。なぎともえが教えてくれなかったら、危なかったんだぞ。だから、ありがとう、な」

「ぢぇも、ひめきゃみしゃま、パパちょママにしきゃ、いっちゃぢゃめよっちぇ」

「りゅうしゃんも、ないちょっちぇ」

「そうよ。媛神様と龍神様のお声は、ママには聞こえないの。聞こえるのは、なぎ君ともえちゃんだけなの」

「「なぁくんちょ、もぅたんぢゃけ」」


 私と和威さんの腕の中で、反芻する双子ちゃんがいじらしい。

 ママとパパには聞こえていないのが、自分たちの異質を自覚したのだろう。

 涙目で見上げてくる。


「ママわ、もぅたん、きみぎゃ、わりゅい?」

「パパも、なぁくん、いりゃにゃい、しゅりゅ?」

「気味が悪くもないし、いらないはしません。大事なママとパパの宝物です」

「不安がらなくていい。パパもママも、なぎともえは大好きだぞ」


 和威さんとほっぺにちゅうをしていると、注目を浴びていた。

 お祖父様も、楓伯父さんも、臣さんも通話を終えていた。

 あら。

 少し恥ずかしい。


「なぎ。もえ。ひいじぃじも、大好きだぞ。なに、ひいばぁばも、不思議な出来事を起こしよるからな。朝霧家は、絶対に嫌いにならんからな」

「そうだよ。ひいばぁばの預言は、沢山のひとが知っている。なぎともえを苛める人がいたら、雪江のひ孫だと言えばいい。偉い人の大半が、困っていたら助けてくれるよ」

「おーくんも、大好きだぞ。それから、助けてくれてありがとう、な。遅くなって、悪かった」


 なぎともえに向けられる感情は、どれも暖かい。

 そうだよ。

 お祖母様という先達がいる。

 朝霧家は目の当たりにしてきているではないか。

 桜伯母さんも、椿伯母さんも、楓伯父さんも、義母と義妹には優しく接してくれていた。

 甥の兄や姪の私にも、心配りを忘れてはいない。

 従兄弟や従姉妹たちも、疎んじたことはない。

 どころか、水無瀬の血筋だから、不可思議な出来事が起きても、可愛がろうと言ってくれた。

 なぎともえが産まれた日も、盛大に祝ってくれた。

 双子の誕生日でロトくじが当たったからと、全額をなぎともえの服代やら玩具やらに費やしたりした。

 本当に、朝霧家は暖かい。

 和威さんがなぎともえが争う素振りを見せないのは、私の気質にあると言っている。

 けれども、元を辿れば朝霧家に行き着く。

 水無瀬の血筋を受け入れた、伯母や伯父には感謝しかない。

 その、道筋を作ってくれた実母さんには、頭が下がる。

 篠宮家だってそうだ。

 双子を産んで評判が悪い私を、お義母さんやお義姉さんは庇ってくださる。

 お義姉さん自身、子供に恵まれなくて針の筵なのに、優しく見守ってくれる。

 双子ちゃんが産まれてから、疎遠になる親戚が多いのは事実。

 和威さんの兄弟も、なぎともえを大事に扱ってくれる。

 だから、なぎともえは明るく成長してこれた。

 禁忌の双子は、沢山の愛情に包まれている。


「もえちゃん、なぎ君。ママは、二人とも大好きよ」

「パパもだ。大事なパパとママの宝物。誰にもやらないし、何処にもやらないからな」

「「あい。パパちょ、いっちょ。ママちょ、いっちょ。だあいしゅき」」


 もえちゃんが首に手を回して抱き付いてきた。

 なぎ君も和威さんに抱き付いている。

 お祖父様も、楓伯父さんも、愛おしく見守っていてくれる。

 万が一にも、私と和威さんが側にいられなくなったとしても、なぎともえを守ってくれる手は沢山ある。

 兄や母も父を巻き込んで、大切に育ててくれるだろう。

 万が一にであって、私と和威さんも長生きする予定でいる。

 一人前になって、巣立っていく未来を、この目で見るのだ。

 篠宮家は結婚が早いから、巣立ちは早いかもだけど。


「さあさあ、堅いお話は終わりにしてくださいな。なぎ様、もえ様。今日は、食後のデザートがございますよ」

「「でじゃあちょ?」」

「はい。料理長自慢のプリンですよ」


 喜代さんがなぎともえの前に出したのは、フルーツを沢山乗せたプリン・アラ・モードだった。

 食欲魔神のもえちゃんは、目を輝かせてプリンに釘付けである。


「なぁくん」

「あい。もぅたん」

「おいちしょうね」

「ちゃべようね」


 大人組が呆気に取られるくらい、プリンに意識が向いている。

 泣きそうになっていたのに、変わり身が早いことである。


「パパ、おいしゅに、しゅわりゅ」

「分かったから、少し待て」

「ママ、もぅたんも。ちゃべちゃい」

「はい。暴れないの。プリンは逃げないからね」


 腕の中で身を捻る双子ちゃんたち。

 子供椅子に座らせるのも、一苦労した。

 でも、きちんとパパとママを窺い、食べていいのを待つ姿勢を見せている。

 こうしたお行儀の良さは、頭の片隅に残っていた様だ。

 駄目と言おうものなら、号泣されるな。


「はい、どうぞ。ゆっくり食べるのよ」

「「あい。いちゃぢゃきましゅ」」


 ひと口プリンを頬張ると、満面な笑みが零れた。


「「おいちいねぇ」」


 二人顔を見合わせて、にっこり。

 釣られて大人組もにっこり。

 ママは双子ちゃんが笑っている姿に、ほっこりである。

 和威さんも、笑顔でなぎともえの頭を撫でている。

 テレビの電源は、いつの間に消されていた。

 食堂には、双子ちゃんのおいちいねぇが連発していた。

 うん。

 なぎともえの未来に何があろうと、パパとママは味方である。

 再認識した。


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